60 結局群れちゃう
前回のあらすじ
筋肉さん賞金独り占め希望
商人は頑張って市場操作をするぞ
雑種達は調子に乗って返り討ちにあったの巻
山田と別れた後、Cランク傭兵であるコリー達四人は、残るメンバーのDランク四人と合流し、敵情視察の心持でケモール商会を目指していた。
「会議とか言って、四人だけで美味しい物食ベて来るなんてズルい」
山田から分捕ったオヤツを口に出来なかったDランク四人は、オヤツの残り香をまき散らすコリー達に向け、不機嫌な表情とジト目を注ぐ。
「うまいもの協定違反じゃないかなぁ、それって」
「だって、たまたまオヤツを持ってる人が居たんだから、仕方ないじゃない」
「でも、少しくらい残しても良かったのにぃ」
「いやぁ、アレを残すとか無理だからね・・・ガチ美味かったぁ」
コリーがオヤツの味を思い出し、にへらと口元をにやけさせたると、食いっぱぐれた少女達はぷっくりとほっぺを膨らませ唸る。
「むぅ、ムカつくわぁ。これは制裁対象だよね」
「確かに。ほっぺ齧られても文句言えないよ」
「じゃあたしは耳噛むわ」
「しっぽ頂きます」
「ちょ、ちょっと止めてよ。うひゃひゃくすぐったいって、あひゃひゃひゃ」
周りの通行人から不信な視線しせんを向けられる中、小さなドッグファイトを勃発させながも彼女達は商会を目指す。
八人は同じ故郷で育った同世代の犬族の仲間達。
子供達を纏めて育てる習慣により、姉妹の様に育てられた彼女達は、食糧事情により村を離れて以来、同じパーティーとして常に行動を共にしていた。
そんな関係故の緊張感の無いやり取りに、先頭を歩く一際気の強そうな犬耳の少女、ボルダナは足を止め背後で騒ぐメンバーを振り返る。
「もう、いい加減にしなさい! 私達は偵察に来たんだから、もう少し緊張感を持ちなさいよ!」
彼女は楽しそうに言い争うコリー達に対し、ビシリと人差し指を突き付け声を荒げる。
「美味しい物なら後で食べに行くから、今は仕事に集中してよね! ほら、あれがヤマダのケモール商会よ!」
人差し指が水平に走り新たに指さした先には、行き交う通行人とその隙間から覗く大きな建物の姿。
それはケモール商会が所有する、コンビニ四つ分の広さを誇る町工場的なケモール工房だった。
「へぇー結構大きいんだね、Dランクだから、ちっちゃな商会だと思ってたけど」
「外に居る雑種達は、きっと商会で使ってる使用人ね。あの変な看板が有る建物がお店かしら」
「それでどうするの?お店に行って、そのヤマダって人呼び出しちゃう?」
「でもその人ってやたら強い変態なんでしょ、先ずは様子を見ようよ」
「そうね、行き成り変態とご対面はリスクが高いわ」
「じゃー周囲の観察から始めよっか」
彼女達はフォレストベア二匹分の強さを持つ山田との接触に、僅かながらも身の危険を感じていた。
だが、今このケモール商会にはシャジィルが滞在し、グラファイトやバラフィのパーティーが訪れた事は知っている。
しかも先程、ヒューバットがこの路地へと立ち入る姿も確認していたのだ。
自分達以外のCランク、7パーティの内4つと関わり、傭兵ギルドが特別に会議に招いた謎多き新興商会。
多少の危険を孕んだとて、偵察する必要性は大きく跳ね上がったといえるのだった。
故に気後れする気持を押し殺しつつも、彼女達は工房近くへと足を進め、野外でチョコチョコ動き回る二十人程の雑種達の様子を観察するのだった。
「ん~ぱっと見、変な感じはしないわね」
暫しの観測の後。拍子抜けといった様子のボルダナの言葉通り、楽しそうに作業する雑種達の姿には、不穏な気配などは微塵も見られなった。
「身なりもちゃんとしてるし表情も明るい、虐待されてるって雰囲気は無いかな」
「と言うか、遊んでる子多くない? 猫ちゃんとお昼ねしてる子もいるよ」
他のメンバーも予想外にほんわかした景色に肩透かしを食らっていると、一人、コリーだけが難しい顔で足を止めた。
「どうしたのよコリー」
不意に立ち止まった表情の優れない彼女に、ボルダナが気遣わしげに声を掛けると、彼女は揺れる瞳を向けて小さく呟く。
「どうしよう・・・あの子達全員、私達より強いんだけど」
「え?」
その思わぬ発言に慌てて雑種に視線を戻すと、彼女達はのほほんとした様子で、変わらず思い思いに作業を行っている。
「う、嘘でしょ・・・」
最近なりたてのCランク最弱を自負する身の上とは言え、目の前の如何にも草食感丸出しの雑種達が、自分より強いとは中々納得し難い物がある。
とは言えコリーのスキル、感知の信憑性は今までの経験上、痛い程に理解もしていた。
間抜け顔でぽけっと蝶々を目で追っている小さい子も、涎を垂らしスヤスヤ寝息をたてている子も、先の山田同様、コリーが強いと言ったら間違いなく強い筈なのだ。
「・・・なるほど、あの子達はケモール商会の精鋭ってところね。作業がてら外で警備しているんだわ」
「だらしない顔で爆睡してる子も居るんだけど」
「きっと彼女達は特別に優遇されてるだけで、中では悲惨な状況で扱き使われる子が居るいる可能背が有るわね。これは確認しなくちゃ!」
そう結論付けたボルダナは、「そうかな?」と、首を傾げるコリーを引きずると、内部の様子と探る為、工房へ向けてその足を進めた。
路地と敷地内を隔てる仕切りが無いのを良い事に、工房に面した広場へと足を踏み入れる一行。
だが工房との距離が近づくにつれ、周囲の雑種のからは当然の様に視線が集まって来る事になる。
思わずビクリと肩を震わせ足を止めた一行だが、雑種達は彼女達の頭上の犬耳に目を向け、クンクン鼻を鳴らし臭いを嗅ぐと、僅かに首をかしげ、何事も無かった様に各々の作業に戻っていった。
結局、何の妨害も無く窓際へを辿り付いたコリー達は、思いの外あっさりと、工房内部の様子を覗き見る事に成功したのだった。
「こ、これは!」
恐る恐る中の様子を確認したボルダナだが、その惨状に思わず声を漏らすとその表情を固くした。
そこには百人程の雑種達が詰め込まれ、無理やり働かされている。様にも見えなくも無い光景が広がっていた。
ある一角では、強制動労をさせらた雑種達が、楽しそうに手作業に専念し。
また別の一角では、素材の分別を強いられる雑種達が、手にした素材で物ボケを繰り広げ遊んでいる。
酷い所では、ギブギブ言ってる子を数人がかりでまさぐっては、甲高い笑い声を上げさせている場面さえ目に付くのだった。
「―――って、随分楽しそうじゃない。誰よ扱き使われてるとか言ってた奴は」
「あーなんか居心地良さそう、故郷の村を思い出しちゃうよ」
「確かに。共同作業が村の営みって感じがするね、みんな元気にしてるかなぁ」
窓枠に両手を掛け、顔の上半分だけ突き出して内部を伺っていた犬耳達、そんな彼女達の両肩から緊張と力みが抜け落ちる。
想像を覆す工房内のユルユルな空気に流された彼女達の間に、なんとも楽観的な雰囲気が漂い出した。
「―――あぅ」
そこへ不意に聞こえた小さな呻き声。
何事かと視線を向けたボルダナの目の前で、コリーが貧血でも起こしたようにフラフラと崩れ落ちていく。
「ちょっと!どうしたのよコリー!」
しゃがみ込んだ彼女の肩をボルダナが支えると、涙目になったコリーの瞳が向けられる。
「うぅ・・・フォレストベアが沢山いるぅ」
「え?」
「他の子も大鹿や猪並みだし、ここはきっと魔窟なんだよ・・・」
「あんた一体何言って―――!」
死にそうな声で紡がれるコリーの言葉。なんの事かと首を傾げたボルダナだが、不意にその意味を理解すると、はっとした表情で工房内を振り返った。
真剣な表情で小瓶の中身を凝視する者、両手に持った素材の間で迷った様に視線をさ迷わせる者、魔石を握りしめたままウトウトと船を漕ぐ者。
どうにも牧歌的な雰囲気に包まれた雑種達だが、その実、全員が樹海の大物クラスの実力者。
それ処か、ファレストベア並みの化け物まで混ざって居る現実に気付き、ボルダナの背筋を冷たい汗が流れ落ちる。
「・・・い、いつの間に街中に中層が出来たってのよ」
ボルダナが呻くように呟くと、傍で見守っていた仲間達も不安そうな顔で身を寄せ合って来る。
「なに? ここの子達って、そんなに強い子ばかりなの?」
「ど、どうしよう、一旦出直そうか?」
「で、でも、それって何の解決にならないよね」
「だからって、これ以上踏み込むには、心の準備が・・・」
「なんかお腹も空いて来たし、また明日でいいんじゃない?」
「だから、それだと問題の先送りにしか―――」
「でもこの時間なら食堂空いてるよ―――」
「どこに食べに行く?―――」
「なに食べる?―――」
しゃがみ込み、円陣を組んでゴニョゴニョ話し合う彼女達。
その気持ちが撤退に傾き始めた頃、行き成り背後から誰何の声が掛けられる。
「なに、あんた達? もしかしてヤマダの客?」
「ひゃ! え、あ、あの、私達は・・・」
思わず跳ね上がったコリーが、慌てて振り向いた先には小柄なリスの雑種、リースが小首を傾げて佇んでいた。
「ヤマダは今忙しいから会えないよ、待つ?」
「あぅ、あの、そう言う訳では・・・」
「なら買い物客なの? でもお店はここじゃ無いよ、見て分からない? お店はあっち」
そう言ってリースは、ガヤガヤ買い物客で賑わう、離れた店舗を指差した。
「でも今日は客が多いから結構待つかも、だからきっとお腹すいちゃうよ。そう言えばお腹空いてる? 私は空いてる。けどオヤツはまだなんだよね」
「いや、そ、そろそろ帰ろうかなって・・・え? オヤツって?」
「知ってる? 最近はご飯が無制限じゃ無くなったんだ、三食とおやつしか出ないんだよ」
「は? なんでご飯の話? と言うかそれって十分なんじゃないのかな?」
なんだか嚙み合わない会話に、コリーが目を白黒させて居ると、突如リースの目玉が大きく見開かれる。
「ばかな!おやつが出てるだと!」
正に驚愕といった表情を浮かべ、大げさに驚いて見せた彼女は、コリーの目の前をズンズコ横切ると工房の窓枠に取り付いた。
窓から覗き見る工房内では、ラネットを始めとするお姉さん組の手によって、沢山のテーブルの上にオヤツが満載された大皿が次々と運ばれて行く。
それを飢えた雑種達が目をキラキラさせて見守り、猟の解禁を今か今かと待ち焦がれていた。
「むぅなんでだろ?まだ時間じゃ無いのになぁ・・・まぁいいか」
結局、理由等どうでも良いと切り捨てたリースは、迂回の時間も惜しいとばかりに、小さい手足をチョコチョコ動かし窓枠をよじ登り出した。
「あ。あんた達も早くしないと無くなっちゃうよ」
登頂中、思い出した様に一言そう言い残し、リースは建物内へとその身を投じる。
そのまま近くのテーブルに走り寄ると、大量に盛られたオヤツの山に手を伸ばし、周囲の雑種達と競う様にその山を切り崩し始めた。
その様子をあっけに取られて見ていたコリー達だが、逸早く我に返ったボルダナは、慌てて仲間達を振り返る。
「みんな急いで! 今がチャンスよ!」
不意に訪れた退却の機会。ボルダナの鋭い声に、はっと身を振るわせた仲間も急いで動き始める。
「この隙に撤退するわよ!―――ってなんでアンタは中に入ろうとしてるのよ!」
皆に先駆け、撤退の為に素早くその身を翻したボルダナ。
だがその視界の端に、窓枠に取り付き内部への侵入を試みるコリーのお尻が映り込んだ。
「逃げる方向が違うじゃない! 中に入ってどうする積りよ!」
「え? だって早くしないと、おやつが無くなるって」
「バカなの!そんなもの放っておきなさいよ!」
ボルダナは、きょとんとした顔で振り返ったコリーを怒鳴りつけると、その身を窓枠からひっぺがす。
「この中は魔窟だって言ったのはアンタでしょ!」
「でもこんなイイ匂いがするのに、放っておけないよ!」
無理やり窓枠から引き離され、涙ながらに訴えるコリーの隣を、別の子が窓へ向けて突き進む。
「甘い匂い! これは絶対甘いオヤツに違いない!」
「だから止めなさいっての!」
ボルダナの手が、すかさずその首根っこを掴んで引き戻す。
「あーん放してよぉ、おやつが目の前に有るのにぃ」
「出直すって決めたでしょーが!」
「決めてない決めてない、検討しただけ」
そう言って、更に別の子が窓枠に取りつくと、コリー達を背後に転がしたボルダナの腕が、素早くその身柄を取り押さえる。
「なら今確定、一旦出直すわよ!」
「いやー! 横暴だよー!」
「うるさいわね!いいから帰るわよ! ちょっ、ちょっと待ちなさいってのアンタ達!」
ボルダナはオヤツに釣られて、ホイホイ虎穴に飛び込む仲間を引き留めるべく、その手を必死に振り回す。
しかし悲しいかな彼女の腕は二本、それに対して窓枠をよじ登るコリー達は七人も居るのだ。
「よいしょっと、一番乗りー」
「わたし二番ー」
結局は一人、また一人と取りこぼし、次々と工房内への侵入を許してしまう事になる。
最終的には窓の外で一人、手と膝を大地に突いて項垂れるボルダナと、窓の内側からそれを見下ろすコリー達七人の姿がそこにはあった。
「あ、あんたらねぇ・・・」
「いやーすっごくいい匂いがするのに、これで帰るとか無理だよ」
そんな悪びれ無いコリーに倣い、他の面々も諭す様にボルダナへと声を掛ける。
「元々多少の危険は承知だったでしょ」
「第一ここの子達ってば、私達の事なんて気にしてないみたいだし」
「それに出直して、又ここに来るくらいなら、今行っても変わらないじゃない」
「そうだよ、ヤマダを見極める為に来たのに、ここで逃げてどうするのよ」
「ぐ、それは・・・そうだけど」
口々にそう正論で殴られたボルダナは言葉に詰まる。
確かに仲間達の言ってる事には、納得出来る部分も大いにあった。
近くの何人かの雑種は物珍しそうな視線を向けて来るが、モグモグ動くそのほっぺと、きょっとんとした瞳からは、何の害意も感じられない。
今更ながらの結果論だが、ここに身を脅かす危険など無いのだろう。
―――ただオヤツに負けて意見を翻した仲間達に、どや顔で諭されるこの状況が、感情的にどうにも納得のいかねぇボルダナだった。
うぬぬと一人葛藤を繰り広げて居ると、見兼ねた仲間達が頑固な彼女へ歩み寄る。
「もぅ、ボルダナってば」
そう言って窓枠から差し伸べられる、幾本もの仲間達の手。
「ほら一緒に行こう」
その言葉と共に向けられる、幾つもの仲間の笑顔。
揺れる葛藤と、暫しの逡巡。
ボルダナはムスッとしたした表情で、ニコニコ手を差し伸べるコリー達を睨んでいたが、深いため息と共にその全身から力を抜いた。
どの道自分達は一蓮托生。元よりこのムカつく愛しい家族と、離れて歩む事など出来無いのだと匙を投げた。
「はぁ・・・もう、どうなっても知らないからね!」
そんな諦め顔で伸ばされたボルダナの両手を、幾つもの暖かい掌が包み込むと、小さなその身はあっと言う間に窓の中に飲み込まれて行った。
こうしてオヤツを貪る雑種達の輪の中に、新たに八つの犬耳達が加わったのであった。
構想練ってたらどえらい時間がかかったんやが




