55 上客?
前回のあらすじ
ケモール商会、驚愕のザル運営の実態
杜撰な管理と採算の取れない経営
日替わり技術者の気まぐれ調薬
代表取締役、山田の責任問題は!?
「ベルトッシュが死んだ?」
通りを歩くヒューバットは、情報を集めていたガルガイムにベルトッシュの死を聞かされ目を見開いた。
「昨日の今日だぞ、間違い無いのか」
「あぁ・・・ギルドからの情報に魔物が馬車を襲ったって話があっただろう。どうもそれがベル商会の馬車だったらしい」
ここでガルガイムは身を屈めると、小さな声で耳打ちをして来る。
「買い出し中に、旅支度をしたベル商会の連中を見つけた。ベルトッシュの俺達への対応について探りを入れたんだが・・・どうも誰かに命を狙われてたらしく、慌てて街から逃げ出したそうだ」
「だれかねぇ、一人しか思い浮かばねーがな」
「連中、一度は街を出ようしたらしいが、門兵に事の次第を聴いて取りやめたそうだ。その際ベル商会の関係者って事で、色々話を聴けたらしいが、街道には壊れた馬車と多少の金貨、それにベルトッシュの首が落ちてたらしい」
「は、いい加減んな仕事だぜ。賊の仕業に見せかけた積りだろうが、賊なら金貨一つ残さねぇし、魔獣共の仕業なら、ベル商会に相応しい財貨が散らばってるだろ」
「物取りに見せかけた暗殺・・・・・・しかし、ヤマダや雑種が街を出た様子は無いぞ。事件はかなり早朝だったからな、人の出入りは目立つ」
「出た奴は居なくとも、出てた奴はいるだろう。」
ヒューバットの謎かけの様な言葉、ガルガイムは首を捻るが直ぐに直ぐに答えに辿り着く。
「まさかシャジィルか!」
「会議で聞いたが、馬車の第一発見者はあいつだよ。何故か忠告を振り切って街道を進んだ馬車が、魔物に襲われたってな」
「・・・シャジィルは、ベル商会の襲撃からヤマダを守っていた筈だな」
「ベルトッシュの話しではそうだ。だから俺が一芝居・・・まぁ事実になっちまったが、ニセ依頼の代行で樹海へ遠ざけたんだが」
「そのシャジィルが第一発見者ってのは、少し出来過ぎじゃないのか」
「・・・だよな」
難しい顔のガルガイムの表情に、自然とヒューバットの声も重くなる。
――詰らない禍根を残す積りは無い――
不意に脳裏に山田の言葉が蘇えり、ヒューバットはごくりと喉を鳴らした。
(なるほど、これは確かに禍根なんざ残らねぇわな)
一連の情報と山田の態度を線で結び、分かりやすい結論へ達した彼は内心で唸る。
死亡率の高い傭兵と違い、商人の死は問題になりやすい、Dランクの山田の暗殺でさえそれなりのリスクは覚悟していた。
それがCランク商人ともなれば、確実に商業ギルドがその調査に乗り出すだろう。
が、その上で山田はベルトッシュを始末した、恐らく即断、そう思わせる程、事の推移が速い。
しかし考えが浅いとは思わない、ここまで手際のいい男が、今後の展望を見越して居ない訳が無い。
商業ギルドとの間に確執を抱える事を、山田は恐れて居ないのだろう。
しかも今朝の会議室で見た、ギルド長が山田へ向ける疑惑の視線からして、Cランク傭兵の殺害に山田が掛かってる事は容易に予想がつく。
あの男はその上で会議に出席し、何食わぬ顔で口上を述べて居た。
ギルド長の一言で、あの場のCランク全員が敵に回りかねない状況で、なんら臆する事無く。
商業・傭兵両ギルドを向こうに回し、平気でいられるその姿勢に、ヒューバットの背に改めて冷たい汗が流れ落ちる。
もし山田が考えの足りない粗忽もので無いなら、その背景には何らかの根拠がある。ギルドを恐れないだけの根拠が。
そう考えるヒューバットが思い浮かべるのは、昨夜の宴会。そしてそこに居合わせた数多くの雑種達。
Cランクの自分達を容易く制圧するあの力量が、もしあの場の全雑種に当て嵌まる事なら―――根拠としては十分に過ぎる。
給仕をするあの時の雑種達を思い返しすと、今も腹部に鈍痛が走る。
あの時もし、山田の盃を受け取らなければ、自分達がどうなって居たか。
ギルド相手にすら一顧だにしない男が、一介にの傭兵相手に何処まで譲歩を見せてくれるのか。
答えは、山田に絡む死体の数々が、如実に表しいると言えるだろう。
(・・・ボルタイルの奴は、それで消されちまったってとこか・・・こりゃ、ヤマダのヤバさを測り違えちまったな)
改めて今回の依頼の危うさと、生き残った自分達の幸運を実感すると、ぽつりとこぼす。
「結局は、全ては丸く収まったってとこかねぇ」
「・・・随分ヤマダにとって、都合のいい状況ではあるがな」
「まったくだ。ホント”偶然”ってのは恐ろしいね」
冗談めかしておどけて見せるも、ガルガイムが神妙な表情を顔を崩す事は無かった。
「これからケモール商会に行くんだろ、くれぐれも油断だけはするなよ。・・・まぁ、無意味かも知れないがな」
「ガルガイム・・・」
その心配する声に、ヒューバットは小さく微笑むと、その無骨な肩にそっと手を乗せる。
「何言ってんだ・・・お前も来るんだよ」
当然だとばかりにそう言い放なつと、ガルガイムの表情が今度こそ驚愕へと変わった。
「は、なんで俺も行くんだよ、二人も要らないだろう!」
「ふざけんなよ! あんなヤべェ所に俺に一人行かせる気か、それでも仲間かよ!」
「貴様こそ仲間なら巻き込むな! 逝くなら一人で逝ってこい!」
「逝けっつったか今!こうなりゃぜってーテメーも道連れにしたやんよ!」
「なんて見苦しい真似を―――!」
「うっせーんだよ―――!」
喧々諤々。逃がさないと掴み掛るヒューバットを、離れろと押し退けるガルガイム。
朝の通りで道行く人々の視線に晒されながら、二人の醜い争いは暫し続く事となった。
「――いやねぇ、朝っぱらから酔っ払いかしら」
通りに響く怒鳴り声に眉を顰めながら、連れ立って通りを歩く女性の一団がある。
先頭を歩くのは会議に参加した、Cランク傭兵のバラフィ。
いかにも面倒だと表情で主張し歩くその隣を、妹のローズが宥める様に付き従っている。
「もーおねーちゃん。いい加減仏頂面は止めてよ、みんなも困ってるじゃない」
そう言って背後を振り返ると、十人程の女性がワイワイ楽しそうに談笑しながら付いて来る。
「・・・みんな楽しそうだけど」
「あははは」
バラフィの指摘にローズは乾いた笑いを漏らすと、取り繕う様に笑顔を浮かべた。
「まぁ折角の買い物なんだし、久しぶりに楽しもうよ」
「ちっぽけな店の胡散臭い商品なんて見てもねぇ、貴方達だけで行けばいいじゃない」
「流石にお姉ちゃんの紹介が無いとそのヤマダって人も、私達が依頼を受けたパーティーだって分からないでしょ」
「はぁ面倒臭いわね、どうせ行っても面白い物なんてないと思うけど」
「それもまた一興ってね、みんなで冷やかすだけでも楽しいじゃない」
そんな、買い物なんてどうでも良い言わんばかりのローズの物言いに、またも溜息が零れる。
結果より過程を楽しむのも構わないが、付き合わされる自分の身にもなって欲しい。
そう思いながらも、笑顔の妹と背後に連なるメンバーの笑い声を聞き、苦笑を浮かべたバラフィの足が鈍る事は無かった。
そんな一行は、やけに人通りの多い路地を進み、治安が悪いと噂の一角に店を構えるケモール商会へと辿り着く。
「なんか随分と人が多いわね、それに何あの看板の絵は?」
「あーなんだろう? 獣人の顔の絵かな」
二人が見上げる先、勝手に家屋を取り付けられた店舗の看板は、ディフォルメされた雑種の顔が描けれている。
発想は勿論、山田から出ている。動物園をマネた集客戦略の一環だが、この世界の住人にその効果は今一つであった。
結局彼女達も看板からなんの感慨も得ぬまま、メンバーを伴い店舗へと足を踏み入れていく。
店内は勝手に改造した明り取りの小窓から、外光がふんだんに取り入れられており店内を明るく照らしている。
多くの客がそこかしこに並べられた見本を眺めては、複数の受付が並ぶカウンターへと向かい商品を注文していた。
バラフィ達は棚やテーブルに陳列された、数々の見本を物珍し気に見やりながら、客の隙間を縫い空いている受付へと足を進める。
「私はCランク傭兵のバラフィ。ヤマダに用があるんだけど今は居るのかしら」
「えぇとバラフィさんですね、ちょっと待っててください」
受付はそのまま奥にある階段から二階に上がっていく。暫くすると、当の山田が階段を下りてやって来る。
「これはバラフィさん、どうしたんですか一体。何か御用でも?」
「貴方が商品とやらを見せてくれるって言ったんでしょ」
「あぁその件ですか。では工房へ案内しますので、そこで商品をお見せします」
先導する山田に付いて、バラフィがその後を歩こうとすると、妹のローズが突然山田に取り付いた。
「ちょっと! ここに書いて在る事に付いて聞きたいんだけど」
店内に置かれた見本と、その説明が書かれた紙を突き付け、彼女はまるで怒ったように問い詰めて来る。
「美肌効果って何、お肌がキレイになるって事?!」
「えっと、はい。そうだと思いますけど」
「思うってなによ! その辺ハッキリさせないとダメじゃない。大事な所でしょ!」
ローズは美容液片手に山田の襟元に掴み掛ると、ぐいっと引き寄せ間近で顔を突き合わせる。
「良く見ると貴方・・・傭兵の癖に肌がキレイね。もしかして使ってるの? ねぇどうなの、隠さないで言ちゃってよ」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。取り合えず場所を変えますので、詳しい話はそこで」
今時の高校生の肌に嫉妬したローズに、ギリギリと締め上げられる山田。
好奇の視線を向けて来る、その他の客へ配慮し場所を移したいが、締め上げるローズが中々おれない。
そこに同じく周囲の視線を気にするバラフィが、妹の行動を嗜めに掛かる。
「やめなさいローズ、恥ずかしいわね。少しは周りの目を気にしなさい」
「う・・・わ、わかったってるわよ。ちょっと気になっただけじゃない」
鼻息荒く山田を問い詰めて居た彼女も、姉からの制止を受けると渋々その手を離し引き下がる。
「でもちゃんと説明はして貰うから、逃げないでよね」
「はぁ逃げませんから、どうかこちらへ」
一連の騒ぎに嫌な予感も覚えつつも、介抱された山田は改めて一行を工房へと案内していくのだった。




