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56 折れそうなココロ

前回のあらすじ


ベルトッシュは死んだ、何故か山田の所為

来店した傭兵は、何故かクレーマー臭がする


 バラフィ達を案内したのは、工房内に設置された沢山のテーブルと百を超える椅子が積まれた一角。


 食堂、兼待機所、兼一時資材置き場、兼応接場である。たまに卓球大会の会場にもなる。


 二十人は座れる長テーブルの一辺に、彼女達へ着席を促すと、その対面に山田・ハツカ・リースが並んで座る。


 始めバラフィ達は、体面に座ったハツカ達や、工房に溢れる雑種達に目を丸くしていたが、お茶と提供予定の商品をテーブルに並べる頃には、落ち着いた様子で山田達の話しに耳を傾けていた。



「では、改めて今回提供する商品の説明からさせて貰います」


「まってよ、さっきの美容液が無いじゃない!」


 しかし早速説明を始めようとする山田を、ローズの容赦のない叱責が遮る。


 テーブルに乗せられた品々の中に、先程の美容液が見当たらず、彼女からはムクムクと不満が溢れ出す。


「あれが一番大事な商品でしょ! 速く持って来なさいよ!」


「えーあの美容液は提供の対象外ですので。あくまで提供するのは、依頼で使用する商品となります」


 流石山田も、討伐支給品の目録に美容液など加え、ギルド長のボドウィンから大目玉を喰らう積りは無かった。


「なんでよ、提供品に加えてもいいじゃない! 殴るわよ!」


 しかし目の前の客は納得がいかない様で、遂には暴力すらも匂わせ始める。


 流石にどうしたものかと悩む山田だが、ここで対面の岸から助け舟を出す者が現れた。


「ローズ、いい加減にしなさい」


 何処までも強引なローズをバラフィが止めてくれると、山田もようやくほっと胸を撫で下ろす事が出来た。


「先ずは依頼の打ち合わせが先よ、美容液に付いてはその後になさい・・・その時は私も一緒に締め上げてあげるから」


 続く彼女の言葉を聞いた山田は、一瞬ぶるりと身震いすると、腹の奥に重い気苦労の塊が生まれる気配を感じる。


「・・・では説明を始めさせて貰います」


 しかしこういった事に、諦め慣れしてきた山田は努めて平静を装うと、極めて淡々と説明を始めるのだった。





「―――それにしても見慣れない容器ね、何が何なのか分からないじゃない」


 しばらく説明を続けていると、バラフィが普段目にする容器と一線を画するその意匠に、幾分不満そうな声を零す。


「他の商会と同じ形にすればいいじゃない」


「既存の商品をマネて訴えられても困るので、容器の意匠等は差別化を行っております」


 念の為、登録関係の権利を警戒し、既存の製品を真似ない見た目したのだが、その説明にバラフィは訳が分からないと首を捻る。


「訴えられる? 誰に?」


「・・・気にしないで下さい。それより製品の説明の方をさせて貰います」


 やっぱそんな法律無かったかと思いつつ、テーブルに並べられた最後の製品を手に取って見せる。


「ではこの魔力回復薬の説明ですが」


「は? 魔力回復薬?」


 ん?と首を捻ったバラフィに山田も、なにか?と首を捻り返すと、ローズが胡散臭そうな声を挟み込んでくる。


「ねぇ?なにそれ、ふざけてるの?」


 そのままバラフィとローズ、姉妹は揃って山田へと白い眼を向けて来る。



 何かおかしい。そう思い至った山田は、僅かに椅子をズラすとクルっと二人に背へ向むける。


 そして同じく椅子をズラしたハツカを引き寄せると、頬を寄せ合いごにょごにょと内緒話を始めた。



(どう言う事だ、これ魔力回復薬だよな。俺間違えたか?)


(いえ、あってますよ、私が今朝がた作った物ですから)


(にしてはあの二人、俺を見る目が何やら侮蔑的なんだが)


(あーもしかして超回復薬みたいに、既存に無い商品なのかもしれませんね)



 ハツカの言葉に、はっと山田は肩を振るわせると、その可能性に思い至る。


 特に市場調査なんてしてない彼は、どういった物が出回り、どういった物が希少品とされるか把握していない。


 流石に怪我が超回復する、超回復薬の様な物は出回って無いだろうと予想が付いたが、魔力回復薬位は普通に有ると思っていた。


 少なくともゲームでは有った。


 日本で学んだ異世界知識を元に、適当に好き勝手製品開発したツケがここに来て出てきたのだ。



 これはメンドクサイ事になる、そう感じた山田は取り繕った笑顔で二人に向き直る。


「すみません、言い間違えです。これはただの回復薬で―「貸して!」―あ」


 山田の言葉を遮り、ローズは素早く魔力回復薬を奪い取ると、一人屋外へと飛び出しいく。


「・・・・・・」


 隠蔽しようとした矢先に、物証を押さえられた山田は、走り去るその背中を黙って見て居る事しか出来なかった。




「・・・で、魔力回復薬とか言う訳の分からない薬は、何処から出て来たのよ」


 同じく無言でその背中を見送ったバラフィは、何事も無かったか様に山田に向き直ると、冷たい声で問い詰める。


「魔力を持った品に似たようなのが有るけど、薬として売られてるなんて初耳ね。騙されて仕入れたのか、分かってて売ってるのか、どっちなの」


「えぇと、一応ここにある製品は、全て自家製となってまして・・・まぁ色々試してる内に出来たみたいです」


 現物を盗られた以上、隠蔽を諦めた山田がそう説明すると、バラフィの眉間に皺が寄り始める。



「自家製・・・ここで作っていると言うの」


 そう呟きながら、周囲に視線を走らせ工房内を見渡す。


 仕切りに遮られた部分は分からないが、見える範囲だけでも大勢の雑種が何やら作業を行っている。


 その一角に、見知った素材を用いて、調合の真似事に耽る大勢の女の子達の姿が見えた。


「どう見ても本職には見えないわね。まさか素人に見様見真似で”お薬”でも作らせているのかしら」


 彼女も調合の現場は知っている、熟練の技術者が神経を尖らせ、長年培った経験と勘で薬剤を仕上げていく。


 間違っても年端も行かない女の子達が、きゃぴきゃぴ言いながら作る様なものでは無い。


 素材自体はそれなりの物を使っている様だが、あれでは所詮出来上がるのは、質の悪い粗悪品でしかないだろう。



「はぁ、度し難いわね」


 バラフィは大きな溜息一つ零すと、軽蔑を含んだ視線を山田へ向ける。


「素人の市民相手に粗悪品を売って、よくもここま増長出来たものね。悪いことは言わないわ、傭兵相手に痛い目を見る前に身を引きなさい」


 ケモール商会の実態に当たりを付けた彼女は、汚い物でも見る様な視線でそう言い放つ。


 そもそもスキルに縁の無い雑種達には、魔力の回復効果等、検証のしようすらない。ましてや新薬の開発等なおさら不可能である。


 結局ケモール商会とは、たまに湧いては消えて行く、詐偽紛いの薬売りだと言う事になのだろう。



「安いと聞いて居たけど当然ね、こんな粗悪品を扱ってるなら心苦しくてお金なんか貰えないもの。そうでしょ詐欺師さん」


 何処までも馬鹿にしたその物言いに、流石にリースがムッと口をへの字に曲げる。


「むーなんだか良く分からないけど、ヤマダを悪く言わないでよね」


「あら、子供には難しい話だったかしら。魔力回復薬なんて紛い物を売り付けるのはイケない事なの、だからソコの嘘つきさんを悪く言ってもいいのよ」


「ヤマダは嘘つきじゃない。考えが足りなかったり、食への理解が乏しいけど、嘘つきなんかじゃない! ちょっとおかしいだけだもん!」


 リースが真心からそう叫ぶと、バラフィと山田の眉間に皺が寄る。


「そうです!そもそも魔力回復薬はヤマダさんの教えで、私が作ったんです。バカにするのは止めて下さい!」


 そこへ、カッとなったハツカも加わり、そうバラフィに食い掛るが、我に返った彼女は直ぐにリースの背後に身を隠す。


「ヤ、ヤマダの話は、始めはちょっと頭が弱いのかなって思ったけど、で、でも、いい結果に繋がる事もあるんですから」


 恐る恐る、必死にそう言い放ったその言葉に、バラフィと山田は更に眉根の皺を深くした。



 何も知らない子供を、自分の都合のいい様に教育している山田に対して、バラフィの中ではコレ以上無い位に不快感が募っていく。


「貴方みたいな子供まで丸め込んで・・・雑種をいいように利用してるって話はホントみたいね」


 雑種を集め、弱い立場の彼女達を都合のいい道具に仕立て上げて居る。そう理解したバラフィは自分を責めるハツカ達にすら、哀れさを感じずには居られなかった。


 彼女は席を立つと、これ以上は見てられないとばかりに雑種達から目を逸らし、テーブルに付く仲間達を振り返る。


「最低な気分だわ。貴方達もここでの買い物は止めておきなさい、どんな効果が出るか分かったモノじゃないわ」


 見ると共に話を聞いて居たメーンバー達も不愉快そうな表情を浮かべ、中には明らかな憎悪を山田へ向ける者も居た。


「折角のギルドからの提案だけど、ケモール商会からの支給はお断りさせて頂くわ」


「ご、ご理解頂けず残念です」


 突然ぶつけられた敵味方からの誹謗に対し、商人の、何より日本人の意地で愛想笑いを浮かべ、山田はなんとか体裁を保つ。


「あら、理解なら出来たわよ。あなたが子供を食い物にするクズだって事はね」


 しかし続く言葉で山田は机に突っ伏してしまう。


 自分の甲斐性の所為で、ケモール商会がなんかブラックっぽい自覚がある山田にとって、それは中々にキツイお言葉であった。


(い、痛い所を・・・し、しかし、最低限の衣食住は賄えてる、はず)


 ぐっと堪え自分を励ますも、それは逆説的に最低限の環境で子供も達を働かせている、確固たる証明でもあった。


 現在の商会の生活環境は、日本なら業務停止を飛び越えて、色んな動労違反及び虐待で山田被告の逮捕は確実である。



 周囲を見渡し、頑張って働く雑種達を見て思う。自分と比べてどうだろう?


 今の彼女達の姿に、日本での自分の生活を重ね合わせると、山田は思わず目頭を押さえずにはいられない。


(ふ、不憫すぎる。俺がネットやゲーム三昧だったのに比べ、こいつ等は仕事と探索の日々。しかも保護者がポンコツとか・・・俺ならとっくに見限ってるんですけど)


 改めてケモール商会の現状を振り返った山田は、己の不甲斐の無さと罪深さに悶々と頭を抱える事になった。



 そしてそんな山田を心配して、ハツカとリースがその頭を撫で癒すほどに、山田の中の罪悪感はいやまし、それを見つめるバラフィ達の視線は暗く冷たくなっていくのだった。

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