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47 山田は1のダメージを受けた

あらすじ


ベルトッシュより山田暗殺の依頼を受け

裏の仕事に通じた傭兵ヒューバットは

シャジィルを排し山田の命を狙う

 表通りから外れた人気の少ない街の一角。


 そこに有る宿屋一階の食堂で、包帯などの手当ての後が目立つ、一見すると怪我人の集団がテーブルを囲んでいた。


 その中の一人ヒューバットは苦笑を浮かべ、隣で座るごつい鎧姿の男へと視線を向ける。


「いい加減そのシケた面はやめろよ、既にシャジィルは呼び出している、後は策に嵌めて退場させるだけだ」


「シケた顔などしてない」


 鎧を軋ませたガルガイムは、シケ顔でそう言うと表情を変える事無く嘆息して見せた。


 やれやれとヒューバットが肩を竦めて居ると、仲間の一人が立ち上がり口を開く。


「来たぞ」


 視線を向けるその先、宿の入り口に大きな牛族の女が立っている。


 ヒューバットは急ぎ駆け寄ると、小さく頭を下げて迎え入れた。


「これはシャジィルさん、態々すみませんね」


「構わないさ、どの道スラムへ戻るついでだからね。しかし一体何の用なんだい」


「ちょっと・・・相談したい事がありましてね」


 そう言いつつ二階の個室へとシャジィルを先導していくと、彼女が包帯を指差してくる。


「その怪我に関係あるのかい?」


 至る所に巻いた包帯を見ながらそう指摘され、ヒューバットは苦笑いを浮かべなら扉の前で立ち止まる。


「詳しい話は中で」


 ヒューバットがそう言って個室の扉を開けると、シャジィルが入室しその後をガルガイムが続く。


「暫く誰も入れるなよ」


 言葉と共に他の仲間を外の見張りに残すと、最後にヒューバットが部屋に入り扉が閉ざされた。


 ヒューバットが懐から小さな小瓶を取り出すと、中の透明な液体が光を反射してキラリと光る。


 それを握り込んだ手の中へそっと隠すと、無遠慮にドカリと椅子に腰かけたシャジィルへと向き直る。


「さて聞かせてくれよ、あたしをここへ呼んだ訳を」


 何処か楽しそうなシャジィルがそう問い掛けると、二人はちらりと視線を合わせ、息を合わせて両膝を突いた。


「頼む!シャジィル、いやシャジィル様!俺達を助けてくれ!」


「助けてくれ!」


 ヒューバットが土下座で頭を下げると、それに倣い鎧を鳴らしガルガイムも平伏する。


「は? ちょ!おい、やめろって!」


 慌ててシャジィルが止めに掛かるが、ヒューバットは構わず口上を続けた。


「これが情けない事だとは百も承知だ、だが俺達じゃもうどうしようもねーんだ!」


 そう言って顔を上げたヒューバットの目には、キラリと光る涙の粒が輝いていた。



 それからヒューバットは語って聞かせた、ベル商会からギルドを通さず魔獣の調査を頼まれた事。


 失敗しメンバーが負傷した事、あとに引けない男の意地と背負った責任、仲間達の無念さを。


 最後に自分の不甲斐無さを、拭う程に溢れる涙と共に吐き出して、大の男が強く深くその頭を下げる。



「お願いだ!怪我をして動けない俺達に代わり、樹海で魔獣の調査をして下さい!」


「して下さい!」


 ヒューバットの後に、ガルガイムも最後に一言告げると、二人は地面に額を擦り付けると、ピタリとその動きを止めた。


 本来情けなさや卑しさを感じさせる土下座だが、そこにはそんな下賎な空気は一遍も無く、何処か高潔な気品さえ感じさせた。


 それは切実な思いと真摯な嘆願を感じさせる、とても言葉では言い表せない心に響く熱い衝動を伴っており。


 そしてシャジィルという女性は、その思いを無下に出来る人柄をしてはいなかった。


「あーわかった!わったから、いい加減頭を上げな! でないとこの話は無しだよ」


 照れた様に頭を掻きながら彼女が叫ぶと、ヒューバットの頭が勢い良く跳ね上がる。


「あぁ、ありがとう。ありが、とう」


 そうして顔を上げたヒューバットの頬を、輝く涙が流れて行くのだった。





「くくく、ちょれーもんだぜ。これで奴は数日は街を留守にするって訳だ」


 シャジィルが去った個室で、さっき迄の低姿勢をかなぐり捨てたヒューバットが、酷薄そうな笑みで口を歪めてせせら笑って居る。


「うぅ、もう二度とやりたくない」


 その隣ではガルガイムが膝に付いた埃を叩き落としながら、何時もの事ながらのリーダーの卑屈っぷりと自らの行いに、肩を落として落ち込んでいた。


 そんな相方の事など気にせずに個室を出たヒューバットは、外に居た仲間達をドヤで見渡す。


「シャジィルは片付いた! 残ったのは雑種とEランクのカスだけだ、一気に決めるぜ!」


 言葉だけ聞けばカッコ良いヒューバットは、肩で風を切りながらケモール商会へ向けて足を踏み出す。


 背後からその仲間達が不敵な笑みを浮かべ、ザッザッと足音も高く追従する。



 こうしてシャジィルは、ヒューバットの捏造した偽の依頼を果たす為、メンバーを率いて魔獣の調査へと赴き。


 護衛を失い丸裸となった山田の下へヒューバット達、七人の刺客が襲い掛かるのだった。







 しかし襲撃の決行は大分遅れた。


「なぁここって結構、治安悪かったよな」


「そうだな」


「殆ど表通りと変わらないんだが」


 そう言葉を交わすヒューバット達が居るのは、ケモール商会の工房を見通せる裏路地の一つ。


 そして見渡すは工房周辺の活気に満ちた、賑わいの有る通りの様子だった。



「おじさん邪魔」


「おっと悪い」


 この身を潜める裏路地にしても、さっきから雑種の集団が荷物を持って行き交っており、今も道を開けたヒューバット等の横を、兎の集団が通り抜けて行く。


 当然ケモール商会に面した、もう少し大きな通りは頻繁に人の往来が有り、買い物に来た者、近道に活用してる者、様々な利用者が見受けられる。


「・・・俺はもっとこう、人気のない侘しい工房を想像してたんだが」


「俺もだ、これじゃ表通りで刃物を振り回すのと変わらんぞ」


 半分スラムの辺鄙な土地なら、昼間に襲撃しても構わんだろうと赴いてみた彼等の思惑は見事に外れた。


 流石にこの状況じゃ何も出来ないと、大の男七人は困った様に眉根を寄せて、路地の陰からケモール商会の様子を伺う事にした。




「腹減って来たな」


「確かに小腹が空いたな」


「ふもふもっふ」


「おいっ、一人だけなに食ってんだよ」


「むぐむぐ、ん。食いたいなら、お前等もケモール商会で買って来いよ」


「え、お前今から襲う店で買い物したの?」


「それって心情的にどうなんよ」


「言われてみると・・・ちょと微妙かも」




「あ、もよおして来た」


「ケモール商会の中に便所が有ったぞ」


「は?なんで?」


「サービスの一環だとよ」


「・・・やべぇなケモール商会」




 そんな、うめぇやべぇ言いながら監視を続ける彼の様子は、巡回をする雑種達の目にもちょくちょく触れていた。


 しかし気味の悪いだけの無害な集団だったので放置されている。一度山田に相談したら。


「おいおい、ストーカーかよ。いや、純粋なケモ耳ファンかも知れないな」


 そう呟き露骨に顔を顰めていた。


 ケモ耳が浸透すれば、いずれこの手の輩が出て来るとは予想していた山田だが、何の対策も考えては居ない。


 そもそも、ファンとストーカーの線引きは難しい。色々悩んだすえ出された指示は「実害が無いなら様子見」だった。



 こうして食品を口に、うめぇうめぇ言いながら店舗を見詰める彼等の様子は。


 雑種達に、きめぇきめぇ言われながら見張られる事になったのだった。




 そんな事に気付く事も無く、ヒューバット達は周囲の様子を観察しつつ、ケモール商会の明かりが消えるのを待った。


 日が暮れて客足が遠のき、追加で買った夕飯を食べ、日付が変わり、またお腹が鳴り始める頃、闇に浮かぶ商店の明かり眺めながら、彼等は悟った。


 ―――明かりずっと消えないじゃん、と。




「なるほど、護衛のシャジィルが消えて、怖くて夜も眠れ無いって訳か」


 山田が最近導入した、24時間経営に馴染みのないヒューバットは、灯火の消えないケモール商会をそう評するとゆっくりと立ち上がる。


 寝静まった所を襲いたかったが、既に通りに人の気配は絶えている、事を起こすには問題の無い状況と言えた。


「くくく、ここは一つ、また俺の特技を使って乗り込んでみるかね」


 そう言うと懐から取り出した、赤い液体の入った小瓶を見て、ニヤリと唇を吊り上げ。


 そして同じくそれを見たガルガイムは嫌そうに、ムスッと唇を歪めた。





「すまない、助けてくれ!」


「え?」


 夜番の雑種達は突然、大声で入店して来た男に驚きの視線を向けた。


「そこで通り魔に襲われた!頼む、手を貸してくれ!」


 そう叫ぶ鎧の男は、血に塗れた一人の男に肩を貸しながら店内を進み、その男をテーブルの上に横にした。


「手持ちの回復薬が無いんだ、有れば譲って欲しい!」


 鎧が鳴る程に腰を曲げてお願いされた雑種は、急いで回復薬を彼に差し出す。


「はい、どうぞ!」


「恩に着る。さぁ、ヒューバット飲むんだ」


 直ぐに鎧の男は受け取った回復薬を、テーブルで苦し気な呼吸を繰り返す男の口へ流し込んだ。


「うぅ・・・う!くっさ!ごほごほ!」


 納豆を素材にして、液状化と長期保存に成功した回復薬を口にした男が息を吹き返す。


「ごほほ!ぐえ、えほん!ごほんごほん!ぐ、ぐさい」


 そのまま何度も咳き込み苦し気に喘ぐ。その様子に鎧の男は額に冷や汗を流しながら、雑種へと向き直る。


「ホントにこれは回復薬なのだろうか・・・」


「はい、ウチのとっておきです」


 そう満面の笑顔で応えると、鎧はそうかと呟き、咳き込む男肩を抱いて耳打ちを始めた。


(大丈夫か・・・無理は・・・)


(一体・・・何を・・・飲ませ・・・)


(回復・・・言って・・・)


(うそ・・・だろ)


(出直す・・・)


(いや・・・時間が・・・)


 しばし二人でゴニョゴニョとやっていたが、鎧男の顔が雑種の店員に向き直った。


「と、兎に角助かった。協力に感謝する」


「いいえ、いいんですよー」


 再度頭を下げる鎧男に、雑種が照れたようにはにかむと、鎧男は真剣な表情で口を開いた。


「不躾だが、商会長殿にお会いできないだろうか、お礼と通り魔に付いて話しておきたい事がある」



「伺いますよ」


 その返事は、階段を下る山田の口から発せられた。


「私が商会長の山田です、通り魔に付いて付いてお聞かせください」


 階下の騒ぎに気づき、階段を下りてきた山田は、その実焦っていた。


(通り魔だと。やばい、一体誰の仕業だ)


 脳裏に、いま見回りに出ている子達の情報を思い浮かべつつ、売り場に来た二人の男に近づいて行く。


「犯人の姿は見たのですか」


「あ、あぁ、先ずはお礼を言わせ―「お気になさらず、で、犯人の特徴は?」―――う、うむ」


 お礼なんでどうでもいい、とばかりに山田が先を急かすと、鎧は僅かに口籠り、テーブルで苦しそうにしている男を振り返った。


「実は犯人を見たのは、コイツだけなんだ」


 そう言われて山田が視線を向けると、血に汚れた男がフラフラと上体を起こし山田へ向き直る。


「う、うぅ・・・」


 しかし男は何かを喋ろと口を動かすも、結局口から呻きを漏らすと、不意にその体が傾きだした。


「おっと危ない」


 山田は咄嗟に腕を伸ばして男の肩を抱きかかえると、その上体を支える。


「大丈夫か」


 そう声を掛けると、もたれ掛った男は口をパクパク動かし、何かを伝えようとしてくる。


 山田が抱き寄せる様にして、更に顔を近づけると、辛うじて男の声を拾う事が出来た。


「通り魔は・・・俺だよ」


 言い終わると同時に、ドンと腹部に衝撃が走る。


 驚いた山田が男の体を離し、腹部へ視線を向けると、男が手に持ったナイフを山田の腹部に突き立てていた。


 ズドン!


 次の瞬間、男は傍らの雑種に殴られ壁に叩きつけらえると、別の雑種に腹を蹴られて血を吐き出した。


「ストップ、ストップ。やり過ぎ良くない」


 そのまま剣を振り上げて止めを刺そうとする雑種を止めると、周囲の子達へも静止を促す。


 隣にいた大鎧の男は、背後から蹴り倒され、地面にめり込み程に踏みまくられて血を吐いている。


 店の外に控えて居たらしい数人の男達も、折られたり切られたり貫かれたりで、凄惨な地獄絵図を作っていた。


「はいはい、無力化は出来たので、手は止めるように」


 取り敢えず危険も無さそうなので、これ以上の暴力を中断させると、雑種達の不満そうな視線が集まる。


「でもコイツ、ヤマダを刺したよ?」


「あー大怪我すると混乱して暴れる患者も居るから、行き成り皆殺しは良くないかな」


 ご機嫌が斜めな様子の子達の頭を、宥める様に撫でつつ言い聞かせる。


 そして改めて倒れ伏す男達を見ると、全員が虫の息であった。


「やばいなぁ、悪いけどハツカに起きて貰って。これは、超回復薬使わないと死人が出るわ」


 ナイフで突かれた、虫刺されの様な痕をポリポリ掻きながら、死人が出たらどう誤魔化そうかと、山田は頭を悩ませた。

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