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46 傭兵達の汚い策略

あらすじ


百名様終了のお知らせ

ご恩返しだひゃっほい

妹狐は性長期

「ゴロツキが多かった?」


 夕食の場で山田は、雑種達から本日のゴロツキ以上発生の報告を受けていた。


「二十人位だったかな」


「もっと居なかった?」


「そんなもんじゃなかったっけ?」


 雑種達が口々にそう報告すると、山田の眉間に皺が寄る。


「二十人以上か・・・確かにちょっと多いな」


 山田は総勢二十人以上と考え頭を悩ませたが、実際はそれぞれが二十人以上と遭遇し、総勢は百人近かった。


「それだと今の三十人規模の見回りじゃ心許ないか?」


 ゴロツキ二十人に対して雑種三十人では、万が一にも雑種達に被害が出る可能性を心配して、山田の脳裏に不安がよぎる。


「だねー、もう少し居た方が安心ちゃ安心なんだよね」


 そう答えたヒョウミルの脳裏には、広い区画に分散した場合も考えて、ゴロツキ百人に対して雑種三十人では、バラバラに逃げられた場合取り逃がす懸念があった。


 二人して頭を捻ると、山田は安全策を取る事にした。


「じゃ治安対策組を倍にするか、狩は今の戦力だと得物不足だからな」


「いいんじゃない、それだけ居れば万が一もないっしょ」


 こうして二人はウンウン頷き合うと、山田は雑種達の身の安全を確信し、ヒョウミルは確実な敵の殲滅を確信した。




 本来なら治安の良い区画に於いても、数名の衛兵が定期的に巡回する程度なのだが、呼ばれ無ければ衛兵など寄り付かない寂れたこの路地裏の区画に、六十名による巡回がこうして決定された。


 しかも山田としては、地域貢献の一環として補導員を巡回させる程度の気持ちであったが、結果として派遣された戦力は、まるで治安維持軍である。


 カツアゲや引っ手繰りを、戦車で追い回す様な弾圧が日々行われる事となり、数日もしない内に治安が悪い筈のケモール商会の周辺地域は、日本並みの秩序を得る事になったのだった。




 安全になった区画全般では、ご近所の主婦が通りで世間話に興じている。


「そう言えば最近この辺りも出歩き易くなったわね」


「ガラの悪い男達もめっきり見なくなったし」


「この前兎の子が追い払てるのを見たわ」


「ウチの旦那も一度助けられたって」


 雑種達が路地と言う路地を練り歩き、念入りに治安維持に努めた結果、ゴロツキ等の不穏分子は奥様方の前から、その姿を消すに至った。


「初めはケモール商会の子達が来た時は心配だっんだけど」


「今じゃ見かけると安心するし、衛兵よりずっと親しみやすいし」


「ほんと、みんないい子達で良かったわぁ」


 ご近所のおばさん達は暮らしの向上も相まって、雑種達の移住を好意を持って受け入れていた。



 近所に住む大工のおっさん達も、雑種に対しての認識を変えつつある。


「ここも人通りが増えたよな」


「近道に便利だからな。安全で道がキレイとなりゃ、皆使うだろ」


「ちょくちょく雑種達が掃除して回ってるからな」


「ヤマダんトコの子だろ、町内清掃とか言って纏めて片付けてたからな」


 路地裏とは思えない、整然とした周囲の様子に感心しながら、数人の男達が通りを進む。


「そう言やこの前、ウチの坊主が熱出した時、使てくれって治療薬貰ったな」


「ウチは材料費だけで、ドアの修理して貰ったわ」


「もう雑種が居る暮らしが、当たり前になって来たな」


「なんつーか、初めは人間の顔に獣の耳とか気持ち悪かったんだがよ、今では慣れちまって違和感ねーわ」


「慣れたと言うか、最近リースちゃんが可愛く見えるんだがよぉ。・・・俺ヤバいか?」


 顔をしかめながら零した男の言葉に沈黙が流れ、ぽつりと隣の男が呟いた。


「・・・いや、わかる」


「・・・俺も雑種の子達見るの、最近楽しみなんだわ」


「・・・ウチの嫁が、兎の子捕まえて頭撫でてたが羨ましかったぜ」


 一人のカミングアウトを皮切りに、周囲の男達も控えめながらも同調を示して、ケモ耳に対する歩み寄りを打ち明けていく。


 こうして雑種達の頑張りにより、周辺地域の治安向上と、ケモ耳文化の浸透は着実に進んでいるのだった。







「商品の拡充か」


「リースが最近お客さんが増えて品不足だから、買えなかった客が肩を落として帰るって」


 食後に調合担当、鼠の雑種ハツカが、気弱な表情を更に弱々しく陰らせながら、山田へと相談していた。


 治安の向上と清潔な順路、商品の口コミも広がり、ケモール商会への来客は日に日に増えている。


 それこそ品切れで、何も買えずに手ぶらで引き返す客が出る程に。


「折角来てくれたのに、しょんぼりした顔で帰るお客さんが可哀そうで・・・」


 申し訳無さそうな顔をする、ハツカの頭を撫で回しながら山田は何か対策を考える。


「でも食料品は余り増やしたく無いな、薬と違い屋台の人達が困るだろ」


「ならお薬を増やすのはどう、ヤマダの言った通りカビを素材にしたら治療薬も出来たんだし」


 そういって差し出したのが、小瓶に入った灰色の液体だった。


 治療薬は主に病気などを直す系のお薬で、怪我を直す回復薬と違い、傭兵ギルドでも割引されて無い貴重品となる。


 それは山田がネットで聞きかじった知識を駆使して、色々な素材を研究させた結果、ハツカが生み出した数ある作品の内の一つだった。


「有効期限は一時間しか無いんだけど、効果は十分だったよ」


「一時間・・・それって売れないんじゃ無いか?」


「リースがお試し品は喜ばれたって。病人が出て直ぐ使う分には問題無いし」


「なる程、医者の代わりになるのか」


「医者に掛かれない市民は多いから、売れると思うけど」


「元々客にならない患者なら、医者からクレームも来ないし、何より病人優先だな」


 医者は怖いが病人を見捨てるのは忍びないので、売り出す事にした。


「他にも洗剤や消臭剤、日焼け止めに虫除けとかも有るの」


「よし売ろう」


 続いて出た、余りにも庶民向けな品揃えに、山田は即答で許可を出す。


 利権や犯罪に絡みそうにない安心感がそこにはあった。


「改良した回復薬なんだけど・・・」


「それは無し」


 山田のネット知識を使って度重なる改良を行った回復薬は、有効期限五分の欠点と引き換えに、回復効果を大きく向上させた。


 魔獣で試したところ、いわゆる即死以外ならセーフ薬だったのだ。



「これ売っちゃうと貴族辺りに目を付けられ、ハツカを手に入れようと大騒ぎになる。まぁ貴族に仕えたいってなら別だけど」


「絶対イヤ!」


 ハツカはこの群れから離れるなんて、死んでもお断りだと強く否定する。


「だよなぁ」


 貴族のお抱えとか、死ぬ程めんど臭いだろうと、山田もウンウン同意を示す。


(やっぱこれだけの技術が有るなら独立して、ハツカも自分でお店出したいよなぁ)


 などと山田が考えて居ると部屋の扉が開き、ひょっこりとリースが顔を出して来た。


「売り出す商品の中に、コレも入れたいんだけどどうかな」


 そう言ってテーブルに上に木箱を置くと、中には数々の玩具達が詰め込まれている。


「庭先で遊んでると、近所の子が羨ましそうに見てるんだよね」


 中から剣玉を取り出すとコンコン弾きながら、リースが苦笑しながら漏らす。


「練習用の樹海の木じゃ無くて、ちゃんとした木で作ったら売り物になるんじゃないかな」


「よし売ろう」


 余りにも牧歌的な製品に、山田の即答も冴える。


「いっそ練習用の玩具は、お試し用にオマケで配ってもいいな」


「おーいいね、絶対喜んでもらえるよ」


 リースが笑顔で応えると、ハツカが思いついた様に手を上げる。


「なら鉛筆とクレヨンもお試しで出したいの、どの位の需要になるか見てみたいし」


「よし出そう」


 もう庶民的な品は全部放出してしまおうと、山田は適当に考え次々と商品を販路に乗せてしまった。


 こうしてケモール商会では、薬品・食料に続き、日用品・玩具・文具も商品に加わり、ドンドン良く分からない店舗へとなっていくのだった。







「ようヤマダ、久しぶりじゃないか」


「シャジィルか」


 すっかり人通りの増えた路地を、狩を終えた山田が家に向かて歩いていると、牛族の大女が声を掛けて来た。


 一緒に居たウルカは直ぐに気付いて、笑顔を浮かべるとシャジィルへ駆け寄って行く。


「シャジィル、久しぶり!」


「おう、相変わらずおチビちゃんは元気そうだな」


 そう言ってガシガシ、ウルカの頭を撫でる。


「シャジィルも相変わらずデカい!」


 デカい声でセクハラしながら、両手でタプタプ大きさを確認するウルカ。


 わははは笑いながら挨拶する二人から視線を逸らし、山田は我関せずと家路に急ぐと、その背後からシャジィルが肩を組んできた。


「しかし水臭いねぇ、ドーベルンの所を出たならなんで連絡くれないのさ」


(こうなるからだろーが)


「まぁこれからは、毎晩会いに行ってやれるねぇ」


「夕方には閉店だから」


「あんたも分からない奴だね、仕事が終わってから始まる営みも有るだろぅ」


 そう言ってグイグイと、無意味におっぺーを押し付けて来る牛女の顔を片手で押し返す。


「最近ちょっと忙しくて、会えなかったのに冷たいね」


 強引に引き離された彼女は、言葉でそう言いながらもその顔には余裕が見えた。


 今回彼女は山田を脅す為の情報を持ち、躊躇なくそれを使って、山田をその毒牙に掛ける積りなのだ。


(くくく、そう言ってられるのも今の内さ、直ぐにあたしの物にしたやるよ)


 内心で舌なめずりをしつつ、山田を嵌める為の策を弄していく。


「実は傭兵ギルド長からの依頼でさ、ちょっと厄介な調査をしてたのさ・・・なんだと思う」


 シャジィルは楽しそうに、勿体ぶる様に、意味ありげな笑顔と共に山田へと視線を浴びせる。


「以前スラムで、Cランク傭兵の死体が見つかったのは知ってるだろう」


「・・・そんな噂は聞いた気がするな」


 山田はリーダムの件だと当たりを付け、曖昧な返事をすると、シャジィルは一段声を下げると、殊更ゆっくりと囁いた。


「先日、またCランクの傭兵パーティーが消えたんだよ、しかもあんた等が引っ越した日に、さ」


 シャジィルは意味ありげな笑みを浮かべると、どうだと言わんばかりに山田の回答を待つ。


「なんだそれは、もしかして俺達に関係するのか?」


 しかし予想に反して返って来たのは、淡白な反応でシャジィルは思わず虚をつかれる事になった。


「あれ、えーと、あんた等の仕業なんだろ? それ」


「なに俺達の所為にしてんだよ、お前どんな調査したんだ」


 余りにも自然体で、白い目で見下して来る山田を前に、シャジィルも自身の思い違いを疑う。


 この件をネタにして、脅迫の一つでも出来ないかと考えていただけに落胆も大きかった。


「おっかしいねぇ、状況的にあんた等が一番怪しいだけど、どーなってんだい?」


「俺が知る訳ないだろ」


「んーでも火事場の後も有ったしねぇ」


 おかしいなと首を捻っていたシャジィルから出た、火事の単語で山田の肩がぴくんと跳ねた。


(え!、火事?!)


 ”今更ウチの子放火事件”の話しが出るとは思わず、山田は動揺をその身に現し、シャジィルを押し退ける力が緩んだ。


「な、なんで火事とかの話しが? Cランク傭兵の話しだろ」


 シャジィルは山田の動揺と緩んだ腕の力に勝機を見ると、離れた距離をまた縮め、再び身体を密着させ始める。


「あの火事現場って山田の家だったんだろ?」


「あーどうかな、ちょっと記憶に無いかもしれないな」


 そんな山田の反応で、再度手応えを感じたシャジィルは、山田の考えを大凡推測する事が出来た。


(なるほど、火事でCランク傭兵の痕跡は全部消した積りだったのかい。甘いねぇ、あそこで殺した痕跡、バッチリ残ってたのさぁ)


 山田の急所を見つけたシャジィルは、嫌らしい笑顔で彼の尻を撫で回すと、山田を仕留める策を紡いでいく。


「そうかい、現場を調べたら色々分かった事もあったんだがねぇ」


「へー。ち、因みに何が分かったんだ?」


「なんだと思う」


 ワザと焦らしなら答えをはぐらかすと、山田の肩や首元を撫で回しながら反応を待つ。


「火事の、原因とか?」


「それも分かったけど、他にも、な」


 ここでシャジィルは耳を舐める程に口を近づけると、脅しねネタを突き付け完全な脅迫を行う。


「大丈夫、あたしの言う通りにすりゃ、あの件は誰にも言わないよ」


「あ、あの件て?」


「あんた等が・・・・・・Cランクをヤッちまった事だよ」


 実は既に傭兵ギルド長へは状況を報告済みで、山田犯人説もギルド長の言葉なのだが、シャジィルはその事実を隠し山田を脅した。


「ちょっと一晩付き合ってくれれば、あんたも、あんたの雑種もみんな無事でいられるからさ」


「シャジィル、お前・・・」


 そのまま、驚きの表情で見つめる山田の顔を持ち上げると、手付け代わりにその唇を奪う為に顔を寄せて行く。


「抵抗すんじゃないよ、家族が大事ならねぇ」


 そしていざ唇が触れ合おうと言う間際に、山田はシャジィルの顔面に手を当てると。


「全然取り越し苦労じゃねーか」


 言葉と共にその米神を強く握りこんだ。


「いたたた!いたいって、やめておくれよ!あだだ、痛いから、ホント痛いから!また兜が合わなくなっちゃうって!」


「縮む分には平気だろ、もう少し頑張れ」


「あがががあ!な、なんで脅しが効かないのさ!狡いじゃないか!がががが!」


 さっきまで上手くいっていた脅しが、急に効果を無くし狼狽えるシャジィルは、痛む頭を使って原因を考えた。


 しかし結局は誤解や、放火犯の真相に辿り付ける訳も無く、本気で泣き出してウルカの仲裁が入るまで、延々と痛みに悶える事になる。



 こうしてシャジィルの卑劣な企みは潰える事になり、一人の男の貞操が守られた。


 因みに周りの雑種達は、色気も恥じらいも無い二人の掛け合いを、男同士のじゃれ合いの様な感覚で見ていたので、色んな意味で平和な時間であった。







「ゴロツキ共の姿が見えない? ケモール商会周辺に行ったのであろう?」


「それが、誰も報酬を受け取りに来ないのです」


 数日経っても一人として姿を見せないゴロツキを訝しみ、番頭であるオルスタイナーは商会長のベルトッシュへ報告をあげた。


「そろそろ前金が尽きる頃、依頼が上手く行っても行かずとも、奴らが金をせびりに来ないのは不自然です」


「・・・まさか、全滅でもしたか? いやあり得ん。ならより良い条件で寝返ったと言う事はあるまいな」


 ベルトッシュの言葉に、オルスタイナーも分からないと首を横に振るしかなかった。


「状況を探りたいのですが、迂闊に探りを入れも良いのかと思いまして」


「ならん、ゴロツキ共が動いてる状況でケモール商と接触すれば、後々の証拠とされかねん。」


 前回の件も有り、下手に出向いてこれ以上不利な印象を、衛兵共に与えるのは避けたかった。


「しかしゴロツキの動きは調べねばなるまいな・・・遠目にでも見てみるか」


 それでも状況を確認する必要性を感じたにベルトッシュは、馬車を使っての偵察を行う事にした。




 オルスタイナーを伴い、まずは表通りからケモール商へと続く路地を観察する。


 そこから徐々に馬車を進めて行くが、どうにも様子がおかしかった。


「どう言う事だ、ゴロツキの姿が一人も見えんでは無いか」


「こ、こんな筈は・・・」


 見る限り治安が悪化している様には見えず、以前より人通りが多く路地の活気が増していた。


 その後もくゴロツキを探して少しずつ路地を進と、とうとうケモール商会の工房が見える所まで来てしまった。


「オルスタイナー! 治安の悪化処か、これでは表通りと変わらんではないか!」


「しかし、私は確かに大勢のゴロツキを差し向けたんですよ」


「だったらこの有様をどう説明するのだ!」


 そう言い放ち、忌々し気に通りを眺めるベルトッシュの目に、ケモール商会へ戻る山田の姿と、その肩を抱く牛族の女が映った。


 二人は肩を寄せ合い、何やら話し合いながら仲良く建物の中へ消えていく。


「あれは!Cランク傭兵のシャジィル!」


 街で有名な実力者である彼女の事は、当然ベルトッシュも知っており、目の前の出来事に対して思わず叫びを上げてしまう。


 まるで男女の関係を感じさせる親密さで連れ添う二人を見て、ベルトッシュの脳裏で幾つもの事象が、一つの結論へと結びついた。


「そう言う事か!奴め、初めからCランク傭兵で商会を守って居たのだな!」


 ギリギリと奥歯を噛み締めながら、山田との面会の様子を思い出す。


「あの自信も挑発の言葉も、儂に手を出させる為の罠か!」


 まんまと嵌められたと気付いたベルトッシュの中で、次々と怒りと罵倒が浮かんで来る。


「クソ!薄汚い傭兵め、小賢しい策を弄しおって!なんと言う浅ましさよ!」


 しかし残った冷静な部分が、これ以上はココにいる事の危険性を訴えると、ベルトッシュは直ぐにベル商会へと馬車を走らせた。




 ドガン!


 商会にある執務室で、壁を蹴りつけたベルトッシュは、怒りの余り声を出して笑った。


「くくく、いいだろう、そっちが傭兵を使うならこっちにも考えが有るわい!」


 傭兵はもろ刃の剣だ。ゴロツキ共と違い信頼と発言力が有る彼等は、簡単に切り捨てて終わりとはいかない。


 事が露見すれば傭兵の自白は、大きな証拠として扱われ、一蓮托生となり兼ねないのだ。


「貴様のその首、直接狙わせて貰うぞ!オルスタイナー、傭兵へ繋ぎを取れ!」


 しかしベルトッシュその危険を承知で指示を出した。


「ま、待ってください、危険が大きすぎます。もう少し様子を見た方が」


 傭兵を使う事の危うさを危惧し、オルスタイナーが再考を求めるが、ベルトッシュはそれを一喝する。


「バカ者が!ゴロツキとは言え、百人からの人間を早々皆殺しになどできぬわ、相当数があ奴等に下ったとみて間違いあるまい」


「しかし、例えそいつ等が何を喋ったとしても、証拠としては成り立たないのでは」


「その為のシャジィルよ、Cランクが間に入ればゴロツキの証言も、一考の価値がでよう」


 更にベルトッシュは商人同士の寄り合いで、シャジィルについての噂も聞き込んでいた。


「あ奴はここ暫く何やら調査していたと言う話じゃ、今日の様子に見るにヤマダに手を貸しているのは確実じゃろう」


「ま、まさか、此方を訴える算段を」


「このタイミングでの接触だ・・・最悪を考えねばなるまい」


 ベルトッシュは額に汗を浮かべながら、自分が追い詰められたいる感覚を味わっていた。


 もし多くのゴロツキが向うに下り、Cランクのシャジィルがその影響力を行使すれば、山田が商業ギルドへの訴えを起こした場合、ベル商会への厳しい追及が予想される。


 潔白ならなんら問題ないが、今のベル商会は色々と後ろ暗い点が多い。


 チラリと目の前のオルスタイナーへ視線を向け、この男が自分に何処まで義理を果たすかも不安がある。


 いざとなれば自分を見捨てて、己の保身に走る姿が目に浮かぶ。


 衛兵がベル商会へ持つ不信も、調べられないとも限らない。


 前番頭のケルストも死んだ訳では無いのだ、見つけ出されれば、とち狂って何を言い出すか分かったものじゃない。


「・・・奴が事を起こす前にヤらねば、儂の方が危ない」


 今更ながらに逼迫した状況に気付いたベルトッシュは、冷たい汗が背筋を流れるのを感じていた。







「私へ名指しで依頼される仕事は、大抵二種類に分類されるのですが・・・今回はどっちでしょうね」


 ベル商会の執務室に招かれたCランク傭兵、ヒューバットはその狡賢そうな相貌へ微かな笑みを浮かべると、探るような質問を投げ掛けた。


「ケモール商会の商会長ヤマダを殺害し、施設を焼き払って貰いたい」


 それに返すベルトッシュの言葉は、一切の迂遠さを排した潔さがあった。


 良くある言質を気にした曖昧な表現では無く、保身を考えない明確な犯罪の依頼。


 行き成り切り込んで来た言葉に、ヒューバットは驚きに目を見張ると、表情を改め本音で語り出す。


「どうせなら、押し込んだ方がいいんじゃないですか。中の奴らを皆殺しにして、お宝を頂いちまいましょう」


「いや、事件は不味い、あくまで事故に見せかけて欲しい。ただ・・・ヤマダには確実に死んで貰いたい」


「事故死に見せかけろって事ですか、なら盗みは諦めましょう。しかし放火はリスクが高いんですがね」


 ヒューバットは放火以外の手を勧めるが、施設に有るだろう告発の証拠をも消したいベルトッシュは放火に拘った。


「その分の金は払う。奴を始末し、施設ごと灰にしてくれ」


 尚もそう要求してくるベルトッシュの意思の固さを感じ、ヒューバット一つ嘆息を漏らして頷いた。


「ふぅ、わかりました。この件は我々にお任せて下さい」


「相手はあのシャジィルだが、大丈夫なんだな」


「なぁに、アイツみたいな強いだけの女なんて、物の数じゃありません。まぁ見てて下さいよ」


 ニヤリと笑う表情には実績と経験からなる、絶対的な自信が感じられた。





 ヒューバットが執務室を出ると、通路でパーティーメンバーの一人が、不機嫌そうに腕を組んで待っていた


 いかにも無骨そうな男、ガルガイムは身に纏う鎧同様、重苦しさを感じさせる声色で話しかけた。


「シャジィルを相手にする積りか」


「盗み聞きは良くないよな、ガルガイムくん」


「同じCランクでも、いささか荷が重いぞ」


 からかう口調も台詞も慣れた様に流し、ガルガイムが再度質問を繰り返すと、ヒューバットの顔に嫌らしい笑みが浮かぶ。


「くくく、シャジィルみたいな奴は、まんま俺のカモじゃねーか」


「何時もの手段を使う積りか・・・俺は余り好きじゃ無いんだがな」


「まったく、また下らないプライドの話しか。傭兵の仕事は結果が全て、勝てばいいのよ勝てば」


 そう言って懐から小さな小瓶を取り出すと、ちゃぽんと中の透明な液体を揺らして見せた。


「ちっ、好きにしろ」


 ガルガイムはそう吐き捨てると無骨な鎧を鳴らし、足早に商会を出て行く。


「まったく、あおいねぇ」


 その後ろ姿を愉快そうに眺めながらも、ヒューバットの思考は既に、事故を演出する為の段取りへと取り掛かっていた。

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