↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/116

37 超高度な心理戦

あらすじ


家が燃えたよ

犯人は身内、よし隠そう

「ヤマダの家が燃えただと!」


 慌てて駆け込んできた部下の報告に、ドーベルンは思わず声を荒げた。


「どうも、そうらしいですね。煙が上がったんで調べたら、ヤマダのねぐらだったみたいで」


「あのチンピラ二人か?! 奴らが火を付けやがったのか!」


「その可能性もありますし、一緒に居た傭兵共かもしれません」


「傭兵! なんで傭兵なんかが出てくんだ!」


「例の二人が荒事用に雇ったらしく、一緒にヤマダのねぐらへ向うのを見た奴がいまして」


「・・・なんであいつ等、こんな時だけ手回しが良いんだよ」


 傭兵が居れば色々手段を選べるが、雇うにはあれで中々に難しかったりする。


 そんなチンピラの予想外の有能さにドーベルンが驚いていると、ドアを開け部下の一人が顔を覗かせた。


「ボス、ヤマダの奴が来ましたぜ」


「・・・そりゃ来るよなぁ」


 出来ればもっと情報が欲しい所ではあった、繋がりを見せない為、今回は監視すら置いて居ない。


 それが裏目に出てチンピラの生死すら不明な状況では、死人に口無しで押し通す事も出来なかった。


 チンピラ共から情報が漏れている事は勿論、下手すれば傭兵を雇って火を放った事まで、自分の指示と思われている可能性すらある。


「まぁ様子を探りながら、上手い事話を持って行くしかねーか」


 ドーベルンは何とかして、今回の件を自分とは関係ない方向で、それこそ可能なら水に流してしまおうと考えて居た。





 山田は事務所へ向かいながら、二つの点に考えを割いていた。


 一つは犯人の隠蔽。状況的に証拠なんて無さそうなので、ひたすら知らぬと誤魔化すつもりだった。


 もう一つは家の補償逃れ。あんなボロ屋に大金を出したくない、というか出せない。彼は今日の稼ぎ意外全部消えてしまったのだから。


「この前のリーダムの件では、相当な額を騙し取られた形になる訳だし、ボロ屋の補償くらい見逃されてもいいだろ。いい筈。」


 そう自分に言い聞かせると山田は今回の件、なんとしても有耶無耶にしてしまおうと考えて居た。





 山田が事務所に着くと、既に事情を察していたドーベルンが、苦笑いで待ち構えていた。


「おう、災難だったな。どっかのバカがやらかしたんだって?」


「えぇ全くです、今回はお騒がせしてすいません、いったい何処の誰の仕業やら」


 二人は犯人に付いてはふんわりした表現を用いて、お互い知らぬ存ぜぬで切り出した。


「跳ねっ返り共は、何処にでもいるもんだ、俺としちゃーやらかした輩には、キツイお仕置きが必要だと思ってるがな」


 ドーベルンは遺憾の意を示し、今回の件を重く受け止め、しっかりと責任を追及する事で誠意を示そうと考えた。


 しかし放火犯が身内だと思っている山田は、何とか犯人捜しを有耶無耶にし、今回の火事は不審火とする事で、卑劣にも責任問題の回避を狙っていた。


「こっちとしては今更ですし、そんな事より今後の対策が大事ですね」


「確かになぁ・・・」


 ドーベルンは責任を追及しないと言う趣旨の山田の返答に、一応の安堵を得る。


 これは今回の件は水に流し、ヤマダが自分達と揉める気が無いという、意思表示に他ならなかった。


 相手が引いたら攻める。そんなごく一般的な常識を持つドーベルンは、山田が弱腰になったと見ると、ここで山田の取り込みにかかる事にした。


「それより随分と溜め込んでるそうじゃねーか、換金しなきゃ上納金が抑えられるってか?」


 敢えて軽い口調で話し、冗談の延長線上の話題として尋ねると、山田も軽い調子で口を開く。


「必要な素材を確保してるだけで、必要経費って奴ですよ」


「ふん、便利な言い訳じゃねーか」


「そっちも良く使ってるんじゃ無いですか?」


「はっ、確かにな」


 短く笑い飛ばしたドーベルンは、身を乗り出すと間近から山田の瞳を覗き込んでくる。


「しかし俺みてーに理解が及ぶ奴ばかりじゃねー。今回の件だって発端はそこよ」


 どこ?と思いはしたものの、空気を読んだ山田は神妙に頷いて、次の言葉を待つ。


「オメー等が良い稼ぎをする中、それを妬む奴は多い。取るに足らねー小物なら尚更な・・・そしてそう言う奴等ほどバカをやらかすもんだ」


 わかるだろ?わかります、と二人で頷き合うと、我が意を得たりとばかりに、ドーベルンはニヤリとその犬の口から鋭い犬歯を覗かせた。


「結論から言うぜ、ウチに入りな、幹部として向かい入れてやる」


 ドーベルンは組織へ勧誘の話を告げ、山田の反応を伺いながら話を続ける。


「当然オメーが今やってる仕事は、こっちでも噛ませて貰うが損はさせねぇ。うちは裏で手広く商いをやっててな、ここだけの話、顧客には貴族様も多い。どんな手管かしんねーが、雑種であれだけ稼げるんだ、こっちで真面な人材を準備すりゃもっと稼げんだろ」


 この提案に山田は慌てた、まさか行政指導を勧告してくるとは思わなかった。


(これってウチの適当な管理体勢を心配して、物申したいって事か?、いやソコまでは知らないだろうし、親切って訳でも無いよな・・・やっぱり今回の件を見逃す代わり、ポストなり利益なり寄越せって事か・・・・・・まぁ無理だけど)


 スキル人間山田の合成の秘密は勿論、雑種主体の山田家で他所様が上手くやっていけるとは思えなかった。


 どうせ雑種なんて使い潰す気マンマンだろうし、変に雑種達に危害を加え、る前に返り討ちで殺されかねない。


 そもそもここまでの付き合いで、ドーベルンの腹黒さは理解済みだったので、御断りの方向で話を進める事にする。


「こっちの情報をどれだけ持ってるか知りませんが今の所、他所と組んで仕事をする積りは有りません」


「はぁ・・・欲張って何でも独り占めすると、碌な事にはなんねーぜ。人の妬みってのは恐ろしいもんだからよ。ん」


「第一ここの人達を使う位なら、ギルドで人を集めた方が良い気がしますけど」


「おいおい粋がるなよ、そんな真面な手段が使えるんなら、何でスラム何かに住んでんだ? 何で雑種なんぞ使ってんだ? どうせ訳有りでギルドの協力なんか得られやしねーんだろ」


 その言葉で険しい表情になった山田を見て、ドーベルンはさらに強気で押しかける。


「ギルド長や商人と揉めたった話は聞いている。それに知ってるか、Cランク傭兵が男色やら幼女趣味なんてお前の悪評を広めてるらしい、随分お仲間に嫌われてるじゃねーか」


 実力が有っても有力者を怒らせる等して、訳有りで街中で生活出来ない者がスラムで隠れ住む事がある。


 一連の言葉で俯き、苦渋の表情を浮かべる山田の様子に、ドーベルンはその見立てが正しいと確信すると、スラムでの保護を条件に引き入れに掛かった。


「ここを追い出されたら居場所がねーんだろ、素直に俺の下につけ、守ってやる」


 山田の思い悩む姿に、ドーベルンは己が勝利を確信した。



 一方山田は心中で、自問自答を行っていた。


(俺は、俺は何故・・・・・・こんなスラムに住んでるんだ?)


 スラムの立地環境は主要施設から遠いし、通勤にも時間が掛かり、地方の田舎の様に色々不便だ。山田は今更ながらに、なんでスラムに住んで居るのか分からなくなった。


(確か・・・初めは金銭的な理由だったな、でも今は結構余裕があるし・・・スラムは情操教育的にも宜しくない。・・・ん、今更スラムに住む意味って無いのでは?)


 こうして山田は、男色や幼女趣味の件は意識的に無視すると、総合的に判断し一つの結論へ辿り付いた。


「えーと、では今日でスラムからは出て行こうかと思います」


 そう言うと今日までの分の上納金を、机に置いていく山田を見て、ドーベルンはそれを鼻で笑い飛ばした。


「やめろって。俺相手にそんな駆け引きなんかが、通用するわきゃねーだろ」


「そう言われても、こっちとしては本気なんですけど。・・・はい、これで丁度です」


 ドーベルンの話を何と無しに聞きながら、銀貨を数え終えると山田はそれをドーベルン前へと差し出す。


「今迄お世話になりました」


 山田がそう言って頭を下げ、席から立ち上がり背を向けると、ドーベルンも慌てて立ち上がった。


「は?、え、おい!ちょっと待て!」


 背中に掛かるドーベルンの言葉を無視して、山田は火事の件の話を蒸し返されない内に、足早に事務所の出口へと向かった。


 しかし扉の両脇に控えた二人の取り巻きが、左右から両肩に手を当ててくると、勝手に帰ろうとする山田を押し止める。


「おい、ボスがまだ話があるってよ」


「良い子だから大人を困らせるな」


 そう言うと警告代わりにギリギリ力を籠めていく。


(あー力尽くでも条件を飲ませる気か・・・最悪放火犯を差し出せって言われそうだな)


 両肩に加わる力を通して彼等の本気を感じると、山田も覚悟を決める事にした。


 放火犯がタイアーかハツカかは知らないが、いざと成れば皆を守る為、ここにいる全員を始末する覚悟を。


 取り敢えずこれは正当防衛! だからこれは合法とばかりに、山田は二人の手首を握るとバイクのアクセルの要領で、二人の腕を捩じり回していく。


「がぁ!ぐぅぅ」


 途端に二人の腕は山田から離れる。彼等は空いた手で捩じられた腕を庇うように押さえたが、両腕を使っても山田の力に抗する事は出来ずにいた。


「俺の用は済んだし、もう話す事は無い」


 言いながらドンドン回していくと、そのまま取り巻きは痛みで膝を付き、捩じられるままに仰け反り返って行く。


 苦痛に叫ぶ仲間を見た周囲の男達が、一斉に剣を抜き放つと怒声を上げ始める。


「てめー!」


「舐めたマネしやがって」


 男達が怒鳴りながら剣を手に駆けつけると、山田は取り巻きを開放しその腰に下げた剣を勝手に拝借した。


「しねっ!」


 言葉と共に振り下ろされた剣に剣を叩き付けると、余りの衝撃に両方の剣が砕け、取り巻きの手首と指が数本折れ曲がる。


 剣を失った山田へ左から切り掛かった男は、剣を握る手を直接殴られると、人差し指から小指までの四本の指を砕かれた。


「ぐ、あぁぁ!」


 指を砕かれた男は叫びを上げ、剣を取り落とす。山田はその剣を空中でキャッチすると、右から切り掛かった男の剣を受け止める。


 その止まった一瞬で、剣を持つ男の手を下から蹴り上げると、剣は天井に突き刺さり男は曲がった腕を抱えて膝を突いた。


 一瞬で五人の男が蹲り、苦痛に喘ぎながら恨みの籠った視線で、山田を見上げる羽目になった。


 ドーベルンを護衛する取り巻きはまだ多くいるのだが、その誰もが剣を構えながらも動く事が出来ずにいた。


 取り敢えず襲ってきたら腕一本。ここのルールを尊重して身を守った山田は、追加の襲撃が無いと見ると、ゆっくりとドーベルンへ振り返る。


「すいませんが、この件に関して引く積りは有りませんから」


 犯人の引き渡しは勿論、家の損害賠償にも応じられません、そんな強い意志を籠めて発言する。


 ドーベルンは苦々しい表情で山田を睨んで居たが、その口が何かを問う事も命じる事も無い。


 周囲の男達も剣こそ構えたままだが、ドーベルンからの指示を待つ様に彼の様子を伺って居るばかりだった。


 もうこれ以上剣は必要無いと感じ、水平に構え手から放すと、床上へ落ちた剣はカランカランと数回跳ねる。


「これ以上用が無いようなら、失礼させて貰います」


 そして山田は一方的にそう告げると、剣を突きつけている男達を無視して、そのまま逃げる様に扉を出て行くのだった





 ドーベルンは扉を見つめながら予想外の事態に顔をしかめていた。山田の力がこれ程とは思わなかった、知っていれば別の手を打てたのだ。


 そこへ取り巻きの男達を纏める、トマーキが頭を掻きながら近づいてくる。


「どうします人を集めますか?」


「何とか出来るか?」


「ちょっと大事になりますが、いけると思いますよ」


 と言いながらも困った様な表情から、被害の大きさが予想できる。


 ならば今の所、勝ったとしてもそこにメリットは無い、そうドーベルンは判断すると首を横に振った。


「まぁ今回はこっちが引いてやる、流石に俺の考えが浅かったぜ・・・しばらくは探って、なにか弱みを掴め。無ければ作れ」


 ドーベルン自身、落ち着いて考えると少々焦り過ぎた感はあった。どうも最近の山田が納める上納金の高騰に当てられ、欲が出たらしい。


 この件に関しては一旦引いて、長期戦の構えを選択すると、ドーベルンは徹底的に山田の情報を集める事にした。


 山田の力を見誤り思わぬ結果となったが、有る意味これは山田の価値が更に増した事にもなるのだ。


「あいつみてーな奴は存外、情によえーもんだ。攻める場所さえ分かっちまえば、後はどうとで転がせるもんよ」



 山田を手駒にするメリットを改めて計算すると、ドーベルンは時間を掛けてじっくりと策を巡らせる事にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。