36 か弱い娘と護身術
あらすじ
傭兵が来た死んだ
チンピラが空き巣中
タイアー達が玄関先で傭兵をボコっている頃、忍び込んだチンピラ達は、数々の戦利品をバックへ積み込むと、それを背中に担ぎ上げた。
「おい、こんだけ有れば十分だろ、ずらかろうぜ」
「へへへ、これならボスにも話が通せる筈だ」
「ボス・・・か」
ラインハルトの言葉に対し、ロードベルファーは浮かない顔を向けて来る。
「なぁ・・・これを持って街を出ねぇか」
「お、おまえ、何言ってんだよ、ばかじゃねえのか!」
「じゃーボスに話を通してどうなる、分け前なんてたかが知れてるし、どうせ直ぐに貧しい暮らしに戻るだけだぜ」
「いや、そうだがよ・・・」
思わず黙り込んんだ二人の間に、神妙な空気が流れると、ゆっくりとロードベルファーが口を開いた。
「・・・故郷にお袋を置いて来たんだ」
「おまえ・・・」
「貧しい村でよぉ、ロクに働き口もありゃしねぇ。ここに来たのだって、お袋に楽をさせてぇからだったんだよ・・・なのにおれは」
「・・・」
「今さら戻ったって手遅れかもしれねーけどよ、おれは・・・」
ロードベルファーが俯いたまま、物悲しそうにしていると、今度はラインハルトが語り出した。
「・・・俺の家は大地主の小作人でよ、働いても働いてもってやつだ。末っ子だった俺は、それが嫌で飛び出しちまったんだが・・・大金持って家族をビックリさせんのも悪かねぇな」
「ラインハルト・・・」
「元々向いてねーんだよ、俺ら。だからこれは、いい機会なのかも知れねー」
「・・・そうだな、これからは真っ当に生きてみるのもいいかもな」
澄んだ瞳で語り合う彼等の表情には、若い頃の様な清々しさがあった。
そしてそんな二人に、壁際に置かれた箪笥と箪笥の隙間、そこへスッポリと入り込み、膝を抱えていじけて居たシープアが気付いたのだった。
「ぐす、おじさん達だれー、それ私達の物だよー」
「なっ!だれだ!」
ラインハルトは声の主を探し、箪笥の陰から顔を覗かせている雑種に気づくと、腰のナイフを引き抜く。
「残ってる奴がいたのか。見られた以上・・・」
険しい表情でナイフを構えた彼の手を、ロードベルファーの手が押し止め、驚いて見返してくる彼に、静かに首を振って見せた。
「俺達はもう、こう言う事はしない・・・そうだろ」
「・・・ふ、そうか、そうだったな」
二人は爽やかな笑みで笑いあうと、シープアへと向き直る
「静かにしてりゃ何もしねーから、な」
「うー、それはいいけどー」
結局二人が誰だか分からないシープアは、さっきの傭兵と同じで山田の友達なのかと首を傾げた。
「お、ここにも居るじゃねーか」
そこへズカズカと足を踏み鳴らし、タイアーがやって来る。
「なによーまだ私を責める気ー」
シープアは涙目で身構えると、タイアーは頭を掻きながら笑い出した。
「わははは、いやー悪い悪い。あいつ等ヤマダのダチっては嘘だったわ、だから殺して来た」
「えーなら冤罪じゃないー、ひどいよタイアー」
シープアはぷっくりと頬を膨らませ一通り抗議した後、二人のチンピラへ視線を向けた。
「じゃーこの人達はー?」
「どーせあいつ等の仲間だろぅ、ぶっころそーぜ」
スラリと剣を抜き、言い放つタイアーに、焦ったラインハルトは、咄嗟にシープアへ駆け寄っていく。
「くそ、しかたねー」
そのままシープアの首に腕を回すと、ナイフを突きつけ彼女を人質に取った。
「すまねー大人しくしててくれ、ぜってー怪我なんかさせねぇからよ」
申し訳無さそうにそう囁く声を無視し、シープアはぶつぶつを独り言を呟いていた。
「えーとたしかー、手首で・・・襟元っと・・・」
そしてラインハルトのナイフを持つ腕の、手首と襟元を掴むと。
「えい」
「どわっ!」
掛け声と共に、ラインハルトの腕を巻き込みながらシープアが身体全体で回転する。
すると巻き込まれラインハルトの身体も腕を基点に回転し、気付けば彼は腕返しで床に転がされてた。
「いつつっ、一体何が・・・ん?」
ラインハルトは頭を振りながら膝立ちになると、違和感を感じ右手へ視線を向ける。
するとそこには、二回転程捩じれた自らの腕が、力なくぶら下がっていた。
「ぎゃあぁぁぁー」
「これはー私みたいなか弱い女の子でもー身を守れる護身術なのー。ヤマダから習ったよー」
どや顔で胸を張り、シープアが得意げに言い放つと、ラインハルトは慌てて手を振って来る。
「いぐぐっ!ま、参った、降参するから助けてくれ!」
シープアは、膝を付き痛がるそんなラインハルトの頭を両手で挟み込むと、ニッコリとほほ笑む。
「ヤマダがさー言ってたんだー」
「へ? な、なんて?」
「次からはーーー殺していいって。へやっ!」
ごきん!
変な掛け声と共にシープアが腕を回すと、硬質な何かが砕ける音と共に、ラインハルトの首がぐるんと半回転し背後を向いた。
「あ、がっ、がふ・・・」
「は?ライン、ハルト」
背中を向けたまま、こちらを向いた相棒と目が合うと、ロードベルファーは呆然と彼の名を呟いた。
そして相棒の方は二、三度痙攣すると、目を見開いたままどさりと倒れ込んで、動かなくなってしまった。
「そんな・・・なんで・・・」
「これならー血が出ないから、いいよねー」
シープアはそのまま、天を見上げ俯せで倒れ伏すラインハルト見つめ、呆然と呟くロードベルファーへ近づいて行く。
「あー先ずは殺さないで、生け捕りにしては?」
ラネットがそう提案すると、タイアーも賛同した。
「そう言やそうだな、今一コイツらの目的分かんねーし、色々聞き出すか」
そう言うと武器をしまい、素手でにじり寄る。
「じゃー次は関節技だねー」
シープアもじりじりと近づいて来る。
床で目を見開くラインハルトと、ニタニタとした笑みで近よる、二匹の雑種を見ていたロードベルファーは、突然大声を張り上げた。
「うおーーーーーー!」
そのまま半狂乱になり、その辺の物を手当たり次第に手に取ると、二人に向かって投げだした。
「くっ来るんじゃねー!おれに近寄るなー!」
「ちっ往生際が悪りーな」
「もー道具が壊れちゃうでしょー」
確認もせず掴んでは投げを投を繰り返す彼の手が、チロチロと炎を点す調合用の小さなコンロを握り振りかぶった時、その火に腕が炙られた。
「わちぃい!」
熱さで思わず取り落としたコンロはそのまま落下し、背中に担いだ戦利品をかき集めたバックへと落下していく。
落下したコンロは内包する燃料を垂れ流すと、バックの中を炎で満たした。
「うおわ!ひ、火が」
ロードベルファーが熱さから背後のバッグ放り投げると、中から沢山の燃えた魔石が零れ出してくる。
魔石は調合時に混ぜると効能が増し、鍛冶で用いると金属を強化する、そして炎に投じると火勢は勢いを増す。
僅かの時間とはいえ、コンロの火に焼かれた魔石は、チロチロと炎を上げる小さな火の玉となって、周囲に転がった。
床にばら撒かれたチロチロ燃える魔石は、瞬く間に周囲を焦がし炎を生み出していく。
「消せ!火と魔石を消すんだ!」
雑種達は、燃えた床をダンダンと蹴り、火を消していく。
「俺の金が!宝が!」
ロードベルファーもまた、バッグの火をバシバシ叩いて消火していく。
水を掛け消化を行うが者も居るが、圧倒的に水量が足りない。
「私、水組んで来る!」
「来るー!」
直ぐに数人の雑種が水を汲みに家を飛び出し、残った者は火を叩き消し、赤熱する魔石の排除を行っていく。
踏んでも消えない魔石の熱に業を煮やしたタイアーは、真っ赤に焼けたその魔石を手に取った。
ジュゥゥゥ
「ぐっ!」
握った魔石はタイアーの皮膚を焼き肉を焼き、不快な音と臭いを発して盛大に抗議してくる。
しかし走る激痛に構わず、その魔石を窓から外へ放り出すと、彼女は次の魔石へ手を伸ばすのだった。
雑種達は引火した炎や、床を焼いている魔石の処理を優先して、火の消えたバッグやチンピラ如きに構う者は居なかった。
ロードベルファーは周囲の雑種が、もはや自分に興味を持っていないと悟ると、ゆっくりとバッグを肩へ担ぎ上げる。
「すまんラインハルト」
床で目を見開いている相棒に一言詫びると、今だ煙で燻るバッグを持って玄関へ向け駆けだした。
当然、雑種達は逃げる男に気付いたが、消化を優先し邪魔する者は居なかった。故にロードベルファーは、この窮地からの脱出を確信する。
(待っててくれ、おふくろ! おれ、今度こそやり直してみせるから!)
しかし走る振動でバッグの中が攪拌されると、燻る熱は適切な酸素を得て再度息を吹き返し、盛大な炎と成って燃えだす事となる。
「くそ!またかよ!」
ロードベルファーは、もう少しで外という所で再度燃えだしたバッグを慌てて床に下ろし、炎を叩き消そうとバッグへ衝撃を与えた瞬間それは起こった。
バッグの奥で寝る、フォレストベアの特大魔石の発火が。
ズドォゥン!
空気が破裂する様な音と共に、赤々とした火炎がバッグから生まれ、四方へその手を伸ばすと、ロードベルファーごと玄関全体が炎で満たされた。
「ふせろ!」
その声で雑種達は一斉に地に伏せ、一瞬だけ燃え広がった爆炎をやり過ごす。
頭上を炎が過ぎ去り、みんなが顔を上げて爆心地を確認すると、そこには炭化した人型と轟々と延焼を続ける玄関が見えた。
雑種達は余りの惨状に、思わず呆然と燃える炎を見続ける。いち早く我に返ったタイアーは、ギリリと歯を噛み鳴らすと、大声で吠えた。
「消せっ!家をっ俺達の家を守るんだっ!」
大声で叫び剣を抜いたタイアーが、必死の形相で炎へ向け駆けだすと、意識を引き戻した残りの雑種達も後に続く。
雑種達は炎を叩き消し、壁を壊して延焼を防ぎ、届いた僅かな水を使って懸命に消化を続ける。
こうして事態は、ドーベルンの予想を大きく超えて推移して行くのだった。
帰還中、立ち上る黒煙を見付けるや逸早く駆け付けた山田は、留守番をしていた雑種達が誰一人欠けていない事を確認し、ほっと胸を撫で下ろした。
もっとも家は、火事の所為で無残な有様になってしまっていたが。
実の所、火事が原因と言うより、延焼を防ぐ為に多くの壁が壊された所為で、倒壊してしまったという方が近い。
しかしそれにより周囲への延焼は防ぐ事が出来ていた。
山田はそんな家の前で立ち尽くす、煤だらけの雑種達に駆け寄った。
「どうした、何があったんだ」
「ヤマダ・・・すまねぇ。俺の所為だ」
「う・・・ぐす、うぅぅ」
項垂れ泣き崩れる雑種達の様子から、山田は直ぐに事態を把握すると取り敢えず、わかったわかっただいじょぶだいじょぶ、と皆を落ち付かせていく。
(これは・・・タイアーの炎のスキルか、ハツカのミスで家を燃やしてしまったパターンか。でも詳しい話は後回し、今は皆の怪我の手当てが先だな)
皆は消化活動か破壊活動の際に負った火傷や、擦り傷などが無数に有り酷い有様だった。
手持ちの回復薬を配って行くと、タイアーの手の火傷が目に止まる。
「なんだこの手は」
「夢中だったからよぉ」
特にタイアーの掌の火傷は酷く、見てる山田の背筋がなにかムズムズする程だった。
(コイツ、炎のスキルでも暴走させやがったな)
溜め息を付くと、真面に物も持てない彼女には、山田が直接掌へと回復薬を処方する事にした。
「痛くてもどうしようも無いから我慢してくれ」
「構いやしねーからうっつつつ」
セリフの途中、掌に走る痛みで呻くタイアーを無視してて治療を続けると、次第に掌が滑らかな皮膚で覆われて行く。
「もう少しだから我慢しろよ」
「う、んん・・・ん」
ゆっくりゆっくり回復薬を付けた指先で掌を撫で続けると、遂に瑞々しい皮膚が戻り、掌に少女らしい柔らかさが取り戻された。
「よし直ったな、後は自分でやってくれ」
「ま、まだ直ってねーよ。い、痛てーから、もう少し、続けてくれ」
山田は終わりだと告げ回復薬を差し出すが、タイアーが掌を差し出し治療を頼むので、山田は首を傾げならも治療を再開した。
「う、うぅ、ん・・・あんぅ」
指先で触れる都度に呻き声を漏らすタイアーに、思ったよ傷が酷いと思った山田が、更に優しく掌をなぞると、タイアーの呻き声は何故か益々熱を増していく。
そんな不思議な治療も、雑種最速のネコロの到着で終了となる。
「ふぅ、やっと着いた」
「丁度いい、ネコロ。タイアーの治療を頼む」
そう言うと山田は、ネコロに回復薬を手渡すと、他の雑種の様子を調べに行ってしまう。
「・・・お楽しみの所申し訳ない」
「べっべつにそんなんじゃねーよ」
ネコロがそう小さく囁くと、タイアーも囁くような音量で返し、赤い顔を明後日の方へ向けたのだった
その後ウルカ達も到着し、皆の治療も完了すると山田は改めて皆を見渡す。
「取り合えず、みんな無事で良かった」
「でも、家が無くなっちまった・・・」
どこまでも元気の無い声で呟くタイアーの頭を、ガシガシとかき回す。
「有るだろ、そこに」
山田が隣の家を指差すと、皆の視線が隣の家に向かい、意味が分からないと首を傾げてみせる。
「あっちにも有るし、そっちにも有る」
更に周囲の家を、次々と指し示して行くと、最後に皆に向き直る。
「家なんて幾らでも有る、だから気にするな」
「・・・じゃ皆一緒に、またここで暮らせるんですか?」
ラネットの縋るような声に、大きく頷いて見せると雑種達の顔に笑顔が戻った。
「よ、よかった、よかったよー」
「また一緒にいられるんだ」
口々に喜び合う皆を見つめ、この場は大丈夫だと判断した山田は、責任者として出るべき所へ出頭する事にした。
「じゃ俺はちょっとドーベルンの所に行ってくるから」
そう言うと何としてもウチの子を庇って、尚且つ火災による弁償問題を回避しなくてはと決意する。
この時の山田の気持は、子供が補導され警察署に呼び出された親の心境だったという。




