35 変更だらけの行動計画
あらすじ
探索は四十人パーティーで
木工職人育成中
調合師育成中
ヤマダの友達?
戦いの中で生まれる友情
流血で始まった出会い、しかし目の前の非道に共に対峙し退け、言葉を交わし名前を交わし、遂には固い握手を交わすタイアーと傭兵達。
シープアと言う悪を通して手を取り合た二つの種族は今、新しい世界、新しい秩序を築き始めたのだった。
その光景は離れた所から高みの見物を決め込んでいた二人のチンピラ、ロードベルファーとラインハルトにも確認出来た。
「なぁあいつ等って何してんだ?」
「よく見えねーが・・・揉めてる様には見えねぇよな」
詳しい事は分からないが、まるで世間話でもしている雰囲気があった。
「なぁ今の内に家の中に忍び込めねーか」
「は? 何言ってんだよ、あぶねーだろ」
「でもよぉ、あの調子じゃ予定通り行かねーぞ」
その言葉でラインハルトも良く観察してみると、雑種と傭兵は朗らかな様子で対面しており、このままでは計画の遂行は難しいように見える。
「あいつ等ひよってんのかもしんねーな」
「もう騒動は期待できねーが、あいつ等に注意が向いてるのは確かだ」
「・・・確かに、取り敢えず中を覗く位なら出来そうだな」
二人は荒事が起きないのならと、家に近づいて様子を探る事にした。
玄関前に集まっている人だかりから、死角になる様に家の壁に取り付き、そっと様子を伺う。
「あいつ等マジで何してんだ」
「完全に仲良しじゃねーか」
傭兵達は一匹の雑種と気さくに話し合い、それを十人程の雑種がチンピラと同じ様に、首を傾げながら眺めている。
最早あれはダメだと諦めた二人は、こそりこそりと窓枠の下まで辿り付く。
ロードベルファーが窓から慎重に中を覗くと、雑種は全員玄関先に集まり、家の中には一人も残っていなかった。
チャンスと見た二人は、そっと室内に侵入すると手早く周囲を物色し始める。
「おい、これって高そうじゃねーか」
早速ラインハルトが半分に成った大鹿の角を手に、ロードベルファーに見せて来る。
「でもそれだけじゃ弱いかもな」
二人には物の価値は良く分からなかったが、半分まで減った角では聊かインパクトに欠けていた。
もう少し何か無いかと探す二人は、木箱にかかった布を取り払った。
「おい、魔石が大量にあるぞ」
「でけぇ、こんなの初めて見たぜ」
それは魔石を纏めた箱で、中にはフォレストベアを始め、数多くの魔石がひしめいていた。
「い、入れろ、全部入れろ」
「分かってるって、こんなの取るしかないだろ」
興奮した二人は更に周囲の箱の布を取ると、手当たり次第に覗き込んでいく」
「草が有るが高いのか分かんねーな」
「薬みてーだな・・・くさっ」
「これは牙か?角?」
「お、おい、銀貨がこんなにあんぞ」
「いいから貰っとけ貰っとけ」
こうして二人は、夢中で素材をバックに詰め込んでいくのだった。
歴史的な種族間交流は、玄関先での雑談へと続いていた。
「はぁ!こんな家に五十人も押し込められてるのかよ!」
ルクエールはタイアーから聞いた劣悪な生活環境に、思わず驚きの声を上げた」
「俺んちの実家ってこんな感じだけど、十五人で結構きちきちだったぜ」
「いくら雑種でも、こりゃ酷過ぎる」
「可哀想に、まるで家畜じゃねーかよ」
他の三人も雑種達の境遇に、同情の念を隠せずにいた。
ルクエールは腕を組んで眉間に皺を寄せていたが、決意を固めた表情でタイアーに向き直る
「よし!俺らに任せろ。全員助けて出して自由にしてやる」
「助ける? 自由?」
タイアーはその言葉に首を傾げた。
以前なら兎も角、山田に救われてからこちら、人生を謳歌している自分達の何を助け、何から解放すると言うのか。
彼女が不審気な視線で見ている事にも気づかず、傭兵達は口々に雑種への救済を約束する。
「ヤマダの事なら心配するな、俺等は奴をぶっ殺しに来たんだ」
「アイツをヤッたら、すぐにあんた等を解放してやるから安心しろよ」
「なんなら、手足をへし折った後に、あんたにあのクソの首を刎ねさせてやるよ」
そして白い歯をキラリと輝かせ、はははと笑う彼等の耳に異音が届く。
ガシュッ!
ルクエールは胸元から響いた音に目を向けると、そこには自身の胸から飛び出る、鋭い剣先が見えた。
「え?・・・・・・ごはっ」
込み上げる血と痛みに震え、肩越しに背後へ視線を向けると、冷たい瞳をしたタイアーが見上げていた。
「雑種嫌いなヤマダのダチかと思ったら・・・・・・敵かよてめぇ」
言葉と共に剣を勢いよく引き抜くと、ルクエールは胸と背中から勢いよく血を飛び散らせ、どさりと両膝を地面に付けた。
吹き出す血をで抑えながら、何かを訴えるような目で仲間を見たかと思うと、ぱくぱくと数回口を開閉し地面に倒れ込むと、それっきり動かなくなった。
こうして種族間で芽生えた尊い絆は、数分でその幕を下ろす事になった。
元々ボルタイルが吐いた、山田の友達と言う嘘から発生した関係だ、ばれればこんなものであろう。
「おい、うそだろルクエール!」
「くそっ!やりやがったな!」
「なんだってんだ行き成り!血迷いやがって!」
残った三人の傭兵は悪態を付きながら武器を構え、タイアーを取り囲む。
「なんでこんな事をすんだよ!俺らはお前らを助けよーて言ってんだぞ」
「どうでもいーんだよそん事は、ヤマダの敵はゆるさねぇ、それだけだ」
タイアーが傭兵の言葉に、剣の血を振り払いながらそう答えると、傭兵達から怒気が溢れ出した。
「忠犬の積りか!自分がどんだけ冷遇されてんのかも分んねーのか」
「所詮は雑種!獣とかわんねーぜ!」
「くそが!もう死んじまえよ!」
彼等はそのまま、雄叫びと共に切りかかって行った。
タイアーは俊敏に囲みを抜け回避するが、先頭を駆けるカルサルの槍が突き出され、その身を襲う。
剣を使い槍を防ぐが、槍は連続で繰り出され、足を止めての防御を余儀なくされる。
「雑種にしては早いが!」
「足が止まった」
「囲むぞ!」
三人の傭兵はタイアーは包囲しようとするが、彼等はココがアウェイで有る事を完全に忘れていた。
左から回り込もうとしたヘイルパイサルに、横合いから突然槍が突き出される。
「ちっ、あっぶねーな!」
すんでの所で避けた彼の前に、馬の雑種が立ち塞がると、楽しそうな声が響いた。
「お前は私が相手をしてやる」
三姉妹の長女サラフは、言葉と共に全鉄製の槍の穂先を傭兵へ振り下ろし、剣でそれを受けた傭兵が、その衝撃の重さに驚愕の声を漏らす。
「ざ、雑種の力じゃねーぞ」
「いやいや所詮雑種の力だよ、ヤマダに比べたら雑魚もいいところさ」
「ぜってー殺す」
遠回しに、自分を貶められた気分になったヘイルパイサルは、目の前の雑種の心臓を抉り出してやる事にした。
「そして貴方の相手は私です」
そう言うと次女のウィマーナは、右から回り込んだロゥセイベルの進路を塞いだ。
「くそ、邪魔してんじゃねー!」
全力で振るった剣が、槍の柄で止められ石突側を引く様にして流されると、代わりに突き出された穂先が頬を掠める。
直ぐに流された剣を戻し、切り返そうとした彼の側面から、更に別の槍が突き出される。
「もう一人だと!」
身を捩り距離を取った彼の眼前には、二人の雑種が槍を構えて立っていた。
「な、なんで俺だけ二人!」
「私まだ小さいから、ウィマーナおねーちゃんのお手伝いなの」
思わずロゥセイベルの口からでた愚痴に、一回り小さい三女のポニーから答えが返る。
「あと貴方だけ相手が多い訳じゃありませんから」
ウィマーナの言葉で周囲を見渡すと、十人程の雑種が槍を持って周囲を取り囲んで居た。
「き、汚ねーぞ!こんな大勢で来やがって!」
「どっちかと言うと、少数で来た貴方達に、非は有ると思いますけど」
「うぷぷぷー、うけるー」
傭兵は逆切れを次女に正論で返えされ、三女が煽りをいれてくると、怒りと羞恥でギリギリと歯を噛み鳴らすのだった。
タイアーへ次々と槍を繰り出すカルサルは、思い通りいかない戦闘にイライラしていた。
初めは三対一だった戦いが、いつの間にか一対一に成っている。
戦闘自体も一見すると彼が押して、タイアーは防戦一方に見えるが、その実、攻撃の全ては丁寧に防がれ、彼は手詰まりの状態だった。
雑種如きに梃子摺り苛立つ彼の脳裏に、特に強い三匹、そんなチンピラの言葉が蘇る。
(あいつ等、見落としてやがったな。・・・最悪あと二匹、こんな奴がいんのかよ)
とっとと目の前の雑種を下し、仲間と合流したいと考える彼に、タイアーの声がかかる。
「レベル上げに丁度よかったんだが、もー上がんねーし・・・終わらすわ」
「あ、なに言ってんだよ。終わらすとしたら俺のほうだっつーの」
下らん雑種の挑発と切り捨てて、カルサルが適当に返すと、タイアーが大きく後方へ飛び掌を向けた。
「そんな間合いで何する積りだよ」
そんなカルサルの胡散臭そうな声に、タイアーの表情がいやらしく歪んだ。
「取って置きだよ、俺のな」
その瞬間向けらた掌の前に、赤い光が纏わり付き絡み合い、やがて真紅の炎を作り出した。
「な、なんでだよ!雑種、だろ!なんでスキルなんて持ってんだよ!」
カルサルが慌てふためき、唾を飛ばしながら喚き散らすと、タイアーの顔が鼻孔膨らませたドヤ顔になる。
「いやー貰っちゃたんだよねー、ホント俺ってばヤマダに愛されちゃてっからさー、はーまいっちゃうねほんと」
「ばかか!貰うとかあるかよ!騙されてんだよおめーわ!」
「へぇ、じゃー試してやるぜ、俺が騙されてるかどーか、てめーに身体でな」
「やめ、やめろよ!卑怯だぞそんなの!」
「んじゃ、骨も残らず消し飛びなっ!」
言葉と共に高速で放たれた炎弾は、一瞬でカルサルの顔に着弾すると、頭部ごと火炎の渦で包み込んだ。
「ぎゃあぁぁああ!あつ、あちちちちあつー!」
カルサルは手が焼けるのも構わず、頭を掻きむしりながら、悲鳴を上げて地面を転がり回る。
「あづー!あづあづあぁぁぁ!」
転がり回る。
「あちちちちあちーー!」
「うるさい」
そして最後は苛立ったタイアーに、ぶっすっと頭を刺さされて息絶えた。
「あーやっぱ火力足んねーな、ヤマダに魔力重点で上げさせるか?いや筋肉も大事だしなー。うーん」
有用な力だが、今一扱いにくい炎のスキルに、あーでもないこーでもないと、今日も彼女は頭を悩ませるのだった。
「私はね、ヤマダに敏捷を重点的に上げて貰っているのさ」
「は?何言ってんのおめー」
「まぁ色々足りないお前にも、分かるように説明してやるなら」
サラフの槍が、今度は突きで飛んで来る。
ヘイルパイサルはそれを剣で弾いて防ぎ、距離を詰めるべく足を踏み出しかけたが、既に次の突きが迫っていた。
「ちっうぜー」
舌打ちと共に弾く、次が来ている、弾く、弾く、弾いて進みたいが、槍は常に彼を狙っていた。
次第に弾く位置が体に近寄り、何時しか槍先が彼の身体と傷つけ始める。
「この様にお前如きの速さでは、私に攻撃する機会すら得られないと言う事さ」
「こんな!ばかな!」
次々に放たれる突きはどんどん彼の身体を突き崩し、その身を鮮血で染めて行く。
そして遂にその槍先は、瞳では捕らえらない速度に達すると、彼の口から苦し紛れの叫びを引き出した。
「い、いい気になってんじゃねー!」
「悪いがそれは無理だ」
言葉と共に本気で放たれた突きは、するりとヘイルパイサルの剣の防御をすり抜けて、彼が気付く間も無くその心臓を刺し貫いた。
「ヤマダの敵を殺すんだ、いい気分になるに決まってるだろう」
ズシャッと心臓から槍を引き抜くと、その傷穴からどぷどぷと赤いをまき散らし、ヘイルパイサルは目を見開いたまま地面と倒れて行く。
サラフは最早相手に興味は無いとばかりに視線を外すと、血で濡れた穂先を陽の光に掲げて見せる。
「いいな、やはり血塗られた槍先は美しい・・・ヤマダ、いつか君の槍も私の血で染めてみせよう」
うっとりとした表情でウヒウヒ言っているサラフは、止める妹が居ない事が災いし、全ての戦闘が終わるまで恍惚に浸かり続けていた。
「おかしいだろ!比率がよー!」
ロゥセイベルは叫んだ、心の底から叫んだ。さらに追加で叫ぶ。
「なんで俺んとこだけ、こんなにいんだよぉぉぉぉ!」
彼の叫びも致し方ない、何故なら他の傭兵の相手が一人なのに対し、彼の下には十人の雑種が群がって居たのだ。そりゃ叫ぶ。
全方位を槍に囲まれた彼は、既に死に体であった。
始めは雑種程度の囲み、直ぐに抜け出せると思っていたが、一人一人が侮れない実力を持ち、抜群の連携を見せている。
瞬く間にロゥセイベルは傷だらけになり、最早剣さえ真面に構える事が出来ずにいた。
「ふざけんなよ!なんなんだよいったい!」
「うふふふ、だっておにーさん人気者なんだもん」
ポニーが可笑しそうに笑いながら答える。
「な、なんだよそりゃ、人気あんなら見逃せよ!なぁ!」
「それは無理ですね、貴方・・・随分愉快な事を言ってましたから」
ウィマーナは不愉快そうに眉根を寄せて答える。
「は?愉快?いったいなにがっ!ぎゃあああ」
言葉の途中で背後から振るわれた槍で、腕を折られたロゥセイベルが絶叫を上げしゃがみ込む。
そして槍を振るった雑種は、ぷんすか頬を膨らませ憤慨していた。
「言ってた言ってた、手を折っちゃうんだって」
「あ、あたしも聞いたよー」
「あと、ヤマダをクソだって言ってた」
周囲の雑種もぶーぶー言いながら、頬を膨らませている。
「それから、足も折っちゃうんだってさ」
「じゃー足もだね」
「そーだね、足もだよね」
一人の雑種が槍を振り上げ近づいてくる、とロゥセイベルは悲鳴を上げて後ずさる。
「ま、まってくれ!違う、さっきのはちがうかあぎゃぁああああ!」
無常にも振るわれた槍が骨を砕き、再度絶叫が上がる。
のた打ち回り、ゴロゴロ地面を転がる彼の頭が、ガツンと誰かの足で踏み付けられて止まった。
「あぁ、ぐぅう」
ギリギリと顔面を地面に押し付けられ、呻くロゥセイベルにウィマーナの声が落とされる。
「確か、クソの首を刎ねさせてくれるって言ってましたね」
「遠慮なく切らせて貰うね、クソ野郎」
聞こえたポニーの声に寒気を感じた彼が、辛うじて見上げる事の出来た視界に映った物は、薪割り用の分厚い大鉈を振り上げる、笑みを浮かべた少女の姿。
「あぁやめぁてはぁああ」
呻く様に懇願する彼へ返された返事は、空気を切り裂く鋭い音と首に走る冷たい痛みだった。
「結局なんだったんだろうね、この人達」
「ヤマダさんを殺すって言ったけど・・・無理よね、弱すぎるもの」
こうして傭兵達の目的は、本人達にも分からない程迷走した挙句、人知れず闇に葬られたのだった。
傭兵三人の戦闘は同時進行です。
お互いに絡みが無いのはその所為です。
作者の技量を疑ってはいけません。




