34 許せない悪
あらすじ
探索は四十人パーティーで
木工職人育成中
調合師育成中
チンピラが狙ってる
朽ちかけた古い家屋が並ぶスラムの通りを、二人のチンピラが歩く。
「どうするよ」
困った様に声を掛けるのがこの道二十年のベテラン、チンピラのロードベルファー。
「奴のヤサに忍び込んで、素材を証拠として、ボスの所に持ってきゃいんじゃねーの」
自信なさそうに返すのは、同じくベテランチンピラのラインハルト。
彼等はボスに動いて欲しかったが、結果的に自分達が面倒な仕事を押し付けられてしまった。
正直やりたくは無かったが今から戻って、ドーベルンに翻意を求める様な気概など無い以上、山田の事を調べるしか道はなかった。
「溜め込んでんだよな?」
「はぁ俺が知るかよ、おめーに話合わせただけだろ」
「なんだそりゃ、俺のせいかよ」
「お前が話を振るからだろーが」
「溜め込んでなかったらどーすんだよ」
「俺にきくんじゃねーよ」
「・・・」
「・・・」
「まじ、なかったらどーするよ」
「・・・あるだろ、たぶん」
「ある、よな・・・」
「・・・」
こうして二人は、祈るような気持ちで山田のハウスへと足を運ぶのだった。
山田の家は分り易かった。この辺りでは比較的まともな二階建ての一軒家。
そして家の周囲には生活臭、と言っていいのか壊れたタンスや机、気味わるい彫像が山積みにされていた。
近づくと中からは、話し声や笑い声等が家の外まで響いている。
「流石にこの状況じゃ無理だろ」
「無理だな」
留守を期待した二人だが、あまりに大勢の人の気配がして、忍び込んでのミッション成功は不可能と判断した。
どうしようもないので、家の中が無人のなる事を期待し、二人は明日また出直す事にしたのだった。
「いってらっしゃい」
「いってきまーす!」
翌朝、ラネット達留守番組の見送りに、ウルカ達狩組が挨拶を返すと、山田達一行はゾロゾロと樹海へ向けて出発していった。
チンピラはそれを物陰から伺っていたのだが、どうにも結構な数の留守番が居るらしい事が分かった。
しかも家の中は勿論、外でも数人の雑種が、丸太をギコギコと切断し何やら作業を行っている。
二人はお互いの顔を見合わせると、困ったとばかりに眉根を寄せた。
「どうするよ」
「だから忍び込んで証拠を・・・」
「いや無理だろ」
二人が改めて家に視線を向けると、ワイワイガヤガヤ出たり入ったり、ちょっとした工房の様な賑わいを見せる様子がソコにはあった。
これでは忍び込む処か、近づいて家中の様子を探る事も、そもそも隠れているこの物陰から出る事さえ難しい。
「・・・出かけた奴等を追ってみるか」
暫く途方に暮れていた二人だが、ラインハルトがポツリとそう呟いた。
「は、なんで?」
「なんか証拠とか見つかるかもしんねーだろ」
「なんかって?」
「あ、あれだよあれ、あー 溜め込んでる証拠を落としたり、独り言でぽろっと漏らしたり、とか、なんかそんな感じ?」
「・・・なるほど」
良く分からないふんわりした表現だが、他にいい方法も思いつかなかったので、二人は急いで山田達の後を追った。
スラムならまだしも、街中を四十人の行列が移動するのは時間が掛かる為、チンピラ達は山田達に容易に追いつく事が出来た。
尾行を開始して間もなく、山田は一人商業ギルドへ向かったのでロードベルファーが尾行し。
そのまま門前の広場へ向かった雑種達を、ラインハルトが尾行する。
門前の広場には大勢の商人や使用人、待機している傭兵達がそこかしこに屯していた。
そんな場所へ雑種達がやって来ると、一斉に周囲から奇異の視線が集まってくる。
中にはワザと聞こえる様に舌打ちする者や、あからさまに顔を顰めるも者もいるが、雑種達は気にした様子も無く静かに佇んでいた。
そこへ山田が現れると門兵に何やら書類を提示して、雑種共々門を抜けて樹海を目指し消えて行った。
それを見守るラインハルトの下に、ロードベルファーが姿を見せる。
「どうするよ」
「追う・・・か?」
「いや無理だろ。樹海とか二度と行きたくねーんだが」
「あー俺も」
元々傭兵だった二人がこの業界に転職したのは、地道な鍛練に挫折し、魔獣相手に逃げしたのが理由だった。
今更樹海で命を懸ける気概が、二人に有る筈は無いのだ。
「・・・戻って家でも見張るか?」
「・・・そうだな」
結局二人は、山田達の帰宅まで家を見張り続けたが、忍び込んで山田の背信の証拠を手に入れる事は叶わなかった。
そんな調子で数日、家を見張ったり尾行を続けたりと、控え目の内偵を続けていた二人に転機が訪れる。
何時もの様に商業ギルドから出て来る山田を、路地裏の影からロードベルファーが見張って居る。
その肩に突然手が置かれ、驚き振り返った視線の先には数人の傭兵達がいた。
「よぁ、おまえ何してんだよ?」
そう尋ねる傭兵が、逃がさないとばかり肩に掛けた手に力が籠めてくる。
「な、なんだよてめーら」
「それはコッチのセリフだぜ、最近ヤマダの周りをうろついてんよな」
「そんなのてめーには、かんけーねーだろ」
「コソコソ傭兵仲間の周りを嗅ぎ回られちゃー、黙ってられねぇだろ」
周囲の傭兵がチンピラを取り囲むと、腕や肩を拘束し始め動きを封じる。
「くそ!はなせって、俺らに喧嘩売る気か!」
「取り合えず向こうで話そうぜ」
傭兵達は騒ぐチンピラを無視してその身柄を、路地裏の奥へと引き込んでいった。
「―――さっきは悪かったな、少々人目が気になってよ」
声を掛けて来た傭兵、ボルタイルは、ロードベルファーを開放すると、打って変わって友好的に話しかけて来た。
「それはいいけどよぉ、つまりはヤマダに恨みが有るって事なんだよな」
「あぁ、だからお互い協力しよーじゃないか・・・こっちは戦力を」
「俺が情報を・・・か」
「そう言う事だ、そっちは奴に一泡吹かせる為の手引きさえしてくれりゃーいい」
「それで雑種共を何とかしてくれるって事か・・・」
ロードベルファーは暫らく傭兵の言葉を吟味し、ドーベルンに言われた仕事を熟す手段が、他に無い事に考えが至ると。
「いいぜ、協力してやるよ」
「へ、よろしく頼むぜ」
こうして彼はボルタイルの差し出した手を握り、固い握手を交わすと胡散臭い傭兵との取引を、承諾してしまったのだった。
仲間を迎えに駆けだしたロードベルファーの背中を見送ると、傭兵達に嫌らしい笑みが浮かび始める。
「ばかな男だ、これでヤマダが死んでも、スラムの連中の仕業に出来るぜ」
「あのチンピラの計画じゃ、ヤマダの留守を狙って家を荒らすって話だが」
「構やしねーよ、雑種を始末したら帰りを待って、ヤマダもついでにヤッちまえばいい」
「最近Cランクがやられたばかりだしな、だれも変には思わねーだろ」
彼等は最近シャジィルの傘下に入った者達だが、以前山田と揉めた事があり、その際のシャジィルの対応に不満を抱えていた。
「あと金よ、シャジィルのクソが山田に大鹿の角をやった筈だ。その金が有るはずだぜ」
「ほんとあの色ボケ、肉だけ持って来やがった時は切れそうだったぜ」
しかも山田が、シャジィルから色々援助を受けていると彼等は思い込んでいた。
新参者ゆえ傭兵団での現在の待遇の悪さも相まって、二人への不満は溜まりに溜まり、その捌け口を彼等は求めていたのだ。
「これでシャジィルに一泡ふかせられるな」
「てめーの男を殺されたシャジィルが、どんな顔するか楽しみじゃねーか」
「くひひひ、まったくだぜ」
その後も傭兵達は笑いながら二人への不満を口し、下品な会話をしばし楽しんでいた。
門前の広場で待ちぼうけをするラインハルトの下には、ロードベルファーが顔を出していた。
「わりぃな、遅くなった」
「何してたんだよ、アイツ等とっくに出ちまったぞ」
「それより付いて来いよ、いい話があるぜ」
ロードベルファーはラインハルトを伴い路地裏に入ると、先程の出来事を語って聞かせた。
「おい、大丈夫かよ、ボスは派手にすんなって言ってんだぞ」
「ヤルのは傭兵共だぜ、俺等は情報を教えるだけだって」
「それ共犯て事になるんじゃねーか?」
「なるわけねーだろ、実際に動くは傭兵だけよ」
「俺らは何もしねーてか」
「そ、だから俺等は関係ねぇ。事の責任は全て傭兵共に持ってくぜ」
「そう上手くいくかぁ・・・」
「いくって、事が済むまで、遠くから眺めてるだけだぜ」
「そうかぁ・・・」
「そうさ」
「さうだな」
こうして二人は傭兵と組み、山田を襲撃する事になったのだが、それはほんの少しだけ、ド―ベルンの予想を超えていたのだった。
ラインハルトと合流したロードベルファーは、早速傭兵達を山田の家に案内した。
「ヤマダと特に強い三匹の雑種はいねぇ、朝出てくのを見たからな」
「あぁそうかよ」
雑種如きを気にするチンピラを内心鼻で笑うと、ボルタイルは家に向け足を踏み出した。
近づいて行くと、どうやら全員家の中にいるらしく、大勢の話し声などが聞こえて来る。
「中は一人で十分だから、お前らは外で逃げる奴等を始末しろよ」
「おう、了解っと」
「俺、裏に回っとくかな」
仲間がのんびり家を取り囲んでいくの横目に、ボルタイルものんびりした動きで扉を押し開けた。
「よっす、じゃまするぜー」
「ん、なんだお前は?」
「もしかしてーヤマダさんのお友達ー?」
大勢の雑種が動き回る家の中、虎と羊の雑種が首を傾げながら声を上げた。
ボルタイルは二人に笑顔を向けると、友好的な態度で近づいて行く。
「そーそーお友達お友達。だからさぁ―――歓迎しろよ!」
言うが早いか高速で剣を抜き放つと、目を見開くタイアー目掛けてその刃を振り下ろした。
「ダメッ!タイアー!」
シープアが咄嗟に飛び付き動きを阻害するが、振るわれた刃は無常にも肉を切り裂き、血飛沫と共に腕一本を宙に舞いあげた。
「あぁあぁぁぁぁあ!」
血と悲鳴を上げのたうつ体を、即座に家の外に蹴り出すと、シープアは血塗られた剣を握るタイアーを、指を突き付け睨みつけた。
「もー血だらけー、汚れるからー外で切ってよー」
「あぁ!とっさだったから仕方ねーだろ!」
「ぎゃあぁぁあぁ!うで!おでのうでがぁぁぁ!」
「こんなに飛び散ってるー、きっとおこられるんだー」
「お、おこられねーって!ヤ、ヤマダが俺を怒る訳ねーだろ!」
「あぎゃぎゃっ!ちぃぎゃーーーー!」
痛みで転げまわる男を無視して、二人が玄関先でじゃれ合いを始める一方、外で待機していた傭兵達がボルタイルへ駆け寄る。
玄関を入って行ったと思ったら、いきなり大怪我して飛び出してきた仲間に、彼等は大いに慌てた。
「大丈夫か!回復薬だっ早く!」
「この怪我じゃ回復薬では間に合わんぞ!」
「いいから使え!止血くらい出来る!」
数人がかりでボルタイルを押さえると、切断された二の腕に回復薬を振り掛ける。
「ぐぅ!あぁ、あぁぁぁ・・・はぁはぁ」
回復薬の効果で痛みが和らぐと、疲労困憊なボルタイルは地面に仰向けで倒れ込み、虚ろな視線で空を見上げた。
そんな空を映す彼の視界に、自分を覗き込む様に仲間の傭兵の顔が入って来る。
「おい!だいじょうぶか!ちっ、ひでーなこりゃ」
「回復薬じゃ腕とか生えて来ねーのかよ」
そこへ自分の腕を切り飛ばした、虎の雑種の顔が追加で覗き込んで来て、話に加わった。
ボルタイルが朦朧とした意識で、何ぞこれ?と考えて居ると。別の傭兵仲間の顔が覗き込んでくる。
「生える訳ないだろ。でも昔、千切れた指が引っ付いたってのは、聞いた気がするなぁ」
「じゃー切れた腕もってきましょーかー」
そこへ腕を切られる直前に見た、羊の雑種の顔が覗き込む人影に加わった。
ボルタイルは自分を覗き込むメンバーに、違和感を感じるが薄れゆく彼の意識では、それが何なのかを特定する事は出来なかった。
そして気を失いかけた彼は。
「ぐがぁぁぁぁ!」
腕に走った突然の激痛で、意識を強制的に覚醒させられる。
「あがぁぁぁ!な、なにが!」
痛む腕を見ると、切断面にグイグイ切れた腕を押し付ける羊の雑種がいた。
「我慢して下さい!今くっ付けますから」
「指が付くんだ、腕もきっと付く筈だ!」
有ろう事か雑種だけでは無く仲間の傭兵も自分を体を支え、この拷問に協力しているでは無いか。
「がぁ!や、やめぁぁ!」
何を思って腕が付くなど思ったかは兎も角、身体を駆け巡る激痛に耐えられないボルタイルは、通常では考えられない力を発揮した。
凄まじい力で仲間を振り払い、腕を押し付けるシープアを睨みつけると。
「いだいんじゃーっ!」
痛みでブチ切れた感情を乗せ、残った腕でシープアへ殴りかかった。がすかさずクロスカウンターが飛んでくる。
「きゃーーー!」
「ごふっ!」
顔面に拳を受け、ゴロゴロと地面を転がる彼に仲間が駆け寄ると、彼等は信じられないといった目でシープアを睨む。
「なんてことしやがる!コイツは重症なんだぞ!」
「思いやりってもんを知らねーのか!」
「見損なったぜ、シープア!」
口々に非難の声を浴びせられた彼女は、目の前で広げた両手をブンブン振りながら、オロオロと盛大に慌てだした。
「ち、ちがうの、急に来たからびっくりしちゃて―――」
「そんな事が、いい訳になるかよ!」
「みろ!こんなに腫れ上がっちまってよ!」
「マジ鬼畜だぜ!」
「ヤマダに言いつけるからな!」
「そ、そん、な、ぐす、うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
一切の言い訳を許さない彼等の糾弾に、遂に彼女は泣きながら逃げ出してしまった。
そんな心無い鬼畜の背中を見送ったタイアーは、地面に倒れ伏す、ボルタイルの苦しそうな息遣いに気付いた。
先程の騒ぎで彼の腕からは又血が流れ出していたため、タイアーは懐から改良の結果、効果が上がる代わり凄く臭くなってしまった回復薬を取り出す。
「コイツを使え」
「くさっ、なんだコイツは」
「回復薬だ、臭いが効果は保障するぜ」
「・・・すまん」
傭兵達はしばし逡巡したが、大人しくその回復薬を受け取ると、ボルタイルへと処方していく。
「・・・あんた、いいやつだな」
ボルタイルの傍らにしゃがみ込み、手当てをしている傭兵から、そんな言葉が漏れ出した。
「そっちこそ、随分仲間思いじゃないか」
そしてタイアーの口からも、ごく自然にそんな言葉が漏れ出すのだった。
回復薬を使い、ボルタイルの容体が安定すると、不意に傭兵の一人が立ち上がると、手を差し出してくる。
「俺はルクエールってんだ、あんたは?」
「・・・タイアーだ、よろしくな」
二人は男臭い笑みを浮かべながら、互いに力強く手を握った。
「おいおい、一人だけ抜け駆けか。俺はカルサルだ」
「ヘイルパイサル、へイルって呼んでくれ」
「俺はロゥセイベルってんだ、よろしくな」
すると直ぐに他の傭兵達も名を告げ始め、両者は順番に硬い握手を交わしていく。
「どうも俺達は、雑種ってもんを誤解していたらしい」
「こっちもだ、人間にもあんた等みたいな奴がいるとはね」
そう語り合う雑種と人間、両者の瞳には一点の曇りも無く、彼等が本当にお互いを、尊敬しあえる隣人と認めている様子が伺えた。
今ここに尊い犠牲の下、人間と雑種のわだかまりを越えた、尊い絆が生まれたのだった。
そしてこれは、長い歴史に於いて、大きな転機となる、奇跡の瞬間になるかも知れないのだった
そして薄れゆく意識の中、そんな光景を見せつけられたボルタイルは、なにかちがう、と切に思うのだった。
当然ここから落とす。




