38 ・・・思ってたのと違う
あらすじ
身内の犯罪を揉み消す
腕一本なら折ってもいいんでしょ
大家と揉めて住むとこ無くなった
乗り切った。山田は身内の放火と賠償問題を、見事に有耶無耶に出来たのだった。
ちょっとだけ暴力を振るった場面もあった気もするが、概ね平和的に事は解決したと言える。
山田は自分に対し、必死にそう言い聞かせながら帰還を果たした。
家に戻ると大勢の雑種が家の焼け跡というか、残骸の中から物資を掘り出している。
山田はさっさと引っ越しの準備に取り掛かるため、簡単に事情を説明する事にした。
「あー済まないが話が拗れて、もうここに住めなくなった」
「なっなんで!」
「うそ!うそですよね!」
軽く告げた山田に、予想以上に強い反応が返って来る。
「なんで、おかしい、おかしいよヤマダ」
青い顔でネコロが縋りついて来ると、伝播するように悲嘆の声が広がって行く。
「おい、嘘だろ!なんでそんな事に!」
「どうしてー!お家ならこんなに一杯有るのにー!」
必死に山田に言い募る者。
「いやだ、いやだよぅ」
泣き崩れてしまう者
「・・・」
呆然と虚空を見つめる者、見せる反応は様々だが、その全ての瞳が絶望に染まっていた。
折角の家が家族が、安心出る群れの存在が失われる事に、雑種達は深い悲しみに囚われ心の安定を失っていた。
今の彼女達に取って、群れを、山田を失う事は死にも等しい苦痛なのであった。
みんなの余りの反応の激しさに、目を白黒させていた群れの長は、嘆き悲しむ彼女達を見て、漸く自分の失敗に気付くと大きな溜息を漏らす。
(そうか、みんなにとってはスラムが故郷になるのか。行き成り故郷から引き離されたら、そりゃな・・・・・・はぁ俺は又やっちまったのか)
故郷に住めなくなった皆の哀しい表情や、しょんぼりと萎れる沢山のケモ耳達がなんとも哀愁を誘う。山田はそんな光景を見て居ると、中々に堪えるものがあった。
山田は今からでも戻って、ドーベルンに頭を下げようかと考えたが、骨や関節を壊された、憎しみの籠った男達の視線を思い出すと、こりゃあかんと首を振る。
(戻ってもロクな事になりそうにない・・・この子達には悪いが、しばらくは市民街で生活する事を我慢して貰おう)
下手にスラムに残っても、彼女達の為に成らないと感じた山田は、今一度、業務命令で皆の行動を強制に指示する事にした。
「あーみんなの気持ちは分かるし、此方の不手際も認めるが、今は謝らないし撤回もしない。ただ今後も俺は、皆の生活の支えとなりたいと思っている」
山田は前回発した、樹海へ強制業務の経験を活かし、あまり難しい事は言わない事にした。
雑種は今後も続く群れの絆を予感し、悲しみを、涙を止めて耳を傾ける。
「ここでの生活は終わてしまったが、皆の人生が終わった訳じゃ無い。俺は可能な限り皆の将来を、暮らしを、幸せを叶えていきたい。だから」
山田は前回の発言や向こうの政治家の演説等を思い出しながら、それっぽい言葉を組み立てていく。
雑種は今後への希望を求め、願うように祈る様に手を組み合わせ、言葉を待った。
「俺と一緒に新しい人生を歩んで欲しい」
山田は言った、言い切った。前回よりも甘く語弊に塗れた、無責任極まりない其の場凌ぎを。
雑種は聞いた、訪れる将来への約束を、山田からの誓いの言葉を。いつの間に笑顔を取り戻した彼女達は、声を揃えて大きく叫ぶ。
「はい!」
大きな肯定の返事が響き渡ると、山田は内心で上手く行ったと胸を撫で下ろし、雑種達は胸を満たし手に手を取って喜んだ。
こうして、又みんなと暮らせる事に安堵した雑種達は、何時もと変わらぬ楽しそうな笑いに包まれる。
結局今回の騒動は、みんなから故郷を奪ったと思い込んだ山田に、更なる責任感が積み重なっただけの、極々小さな問題でしなかった。
今後の生活の保障をすると、急に元気になった雑種達を現金だと思いつつも、分り易くて良いとも思う。
そんな雑種達には家を探して来るから、引っ越しの準備をするよう言いつけると、山田は一人商業ギルドへ向かった。
すでに日は傾きかけているので、先ずは物件の確認を行いダメなら、街の外で野宿でもするつもりだった。
樹海に近寄らず街の近隣なら、夜でも出くわすのは野生の獣や稀に彷徨い出る少数の魔獣程度だ。
以前とは違い、高性能なハンターが何十人も居る山田達にとって、いまさら夜の獣や少数の魔獣を恐れる理由など無かった。
「と、言う訳で物件を紹介して下さい」
「・・・今迄スラムに住んでらしたのですか」
緑の髪を纏めた商業ギルドの職員、ウィンクルと面談し事情を話すと呆れた顔で返された。
彼女は内心、どうりで情報が集まらない訳だと嘆息しながら、困った様に口を開く。
「しかし、この街では土地の使用に関しては、市民権が必要とされています」
「市民権の取得はどうすれば」
「この街では申請すれば何方でも。しかし同時に市民税と移動の制限等が課せられます」
それは良くない、山田が眉間に皺を寄せるとウィンクルが、一つの提案をして来る。
「市民権に不都合が有るのでしたら、代わりにDランクの商人でも、商売をするための物件の賃貸が可能になります。現状のヤマダ様なら、十分Dランクでの活動が可能かと存じますが」
一度は断念したDランク。確かに今なら金銭面で問題は無さだが、山田には納税管理への不安があった。
いぜん渋い顔を続ける山田に、ウィンクルは更に言葉を続ける。
「Dランクなら雇用契約が結べますので、雑種の方々を従業員として雇用なされる事が可能です。従業員と成れば正式に身分証の発行も行えます」
「通行証は要らなくなるんですか?」
「はい、ヤマダ様の発行する従業員証が、身分証と成りますので」
身分証。それはある意味、雑種達が法の庇護下に入る事を意味する。つまり”人”として認められるという事だった。
「ただし管理責任が課せられますので、何か有ればヤマダ様の責任が問われる事になります」
山田は、元より雑種達に何かあれが首を突っ込む積りだし、雑種達にも最終的な責任は持つと言っている。
管理責任など今更であった。
「如何致しましょう、宜しければDランクへの手続きを行わせて頂きますが」
色々面倒な気はするものの、皆の住居と身分証の獲得に必要ならば是非も無いと、山田は首を縦に振った。
「しかし今日中に物件を、と言う事は無理なんでしょうね」
「そうですね・・・もし宜しければ私の方で上に話を通し、物件を先にご利用出来るよう、取り計らってみましょうか」
「宜しいのですか」
「はい、ヤマダ様には高価な素材を度々納品して頂いておりますし、ギルドとしましては、今後もより良い関係を望んで居りますので」
ウィンクルここで、さり気無く山田の手に自らの手を重ねると、濡れた瞳で山田を見上げる。
「当然私個人としましても・・・」
そう意味ありげに囁くと、頬を微妙に染めて見せると、数々の男を篭絡してきた彼女のコンボが炸裂する。
「有難う御座います、ウィンクルさん」
しかし、礼を述べる山田の目に情欲の色は結局見えず、内心でホモ野郎と舌打ちしながらも、ウィンクルは手続きの為一旦席を外したのだった。
「事後登録に物件の即時委譲ね」
そう呟くと商業ギルド長のオステーナは、眼前に流れた邪魔な金髪を指先で耳に掛けると、机上の書類への記入を再開する。
「私の担当する顧客が、急遽物件の引き渡しを希望しておりますので」
ギルド長の執務室へ山田の件について、特例の許可を貰いに来ていたウィンクルは、補足の説明を行った。
「それは分かるのだけど」
そう言葉こそ返したものの、ギルド長は書類仕事を辞める事無く、ウィンクルへ一切の視線を向ける事が無い。
「随分急ね、理由は分かるのかしら」
彼女がチラリと窓の外を見ると、既に夕闇の気配が訪れつつある。こんな時間から物件を求めるとは、なにか訳アリだと言っているようなものだった。
「どうやらスラムから逃れて来たようです」
「・・・そんな顧客の話を、貴方が私にすると言う事は・・・どっち?」
「優良物件の方となります」
「そう、なら好きにしなさい」
そしてオステーナは彼女に理由の一切を問わず、そう一言告げると次の書類へと筆を走らせ始める。
「Dランクなら詳しい報告は必要無いわ、後は貴方の判断で進めてちょうだい」
「では、そのように」
ウィンクルは静かに頭を下げ部屋を後にし、背後で扉が閉まると、瑞々しいその唇がにやりを円弧を描いた。
(ギルド長の許可が出たなら、もはや問題ありませんね)
彼女はコレを千載一遇のチャンスと捉え、自分の権限を最大限、いや、ちょっと超えちゃう位に手を回すと、ギルドを管理する多数の物件の中から優良物件を見繕っていった。当然彼女にとっての、だが。
「此方が今日中に入居可能な物件の一覧です」
ウィンクルのお勧めで編纂された資料が提示されると、山田は早速内容に目を通させて貰う。
場所を示す地名や建物の概要は有るが、全て文字での表記であるため今一ピンと来ない、その上提示されいる金額が完全に予算オーバーであった。
「む、ぅ」
「・・・納金に関しても後日、という事で構わないと受け賜ております。まずはご希望の物件をお選びください」
手持ちの無い山田が呻いていると、ウィンクルから助け船が出され、山田も話が上手過ぎると感じないでも無かったが、今は流れに身を任せる事にした。
「お勧め等があれば、ご紹介頂けませんか」
どうせなら完全に身を任せようと、ウィンクルに物件のお勧めを聞く事した。どのみち山田では、勘で選ぶ程度しか出来ないのだ。
「そうですね・・・ではヤマダ様のご希望を聞いて、幾つか選別する事に致しましょう」
お勧めと言えば全部お勧めなので、山田の意見を下に物件の絞り込みを行う事となった。
「まず全員が住める、居住が必要です」
「どの程度の人数を想定すれば、宜しいでしょうか」
「んー五十人以上は欲しいですね」
山田は今までの生活から、一軒家でも借りれば容易く収まると予想した。
「それは・・・では住居は複数確保した方がよろしいでしょう」
ウィンクルは、最低でも三軒程度は必要だと計算し、効率の良い運用を提案した。
「複数の物件を借りるのですか」
「立地の問題も有りますが、結果的にはその方が経済的になります」
「そうですか。では、そうさせて下さい」
「出来れば、日曜大工などが出来る程度の広さは欲しいですね」
山田は留守番組が、楽しく工作できるスペースを求め。
「日曜?大工、そうなると大きめの建物が候補と成りますね」
ウィンクルは、五十人規模の工房が稼働できるエリアを思い描く。
「火事対策として安全に火を使える場所が有ると、有り難いですね」
山田は、身内に潜む二人の放火犯の顔を思い浮かべ、災害対策に余念がない。
「鍛冶対策ですか、そうですね・・・幾つかそう言った施設を併せ持つ物件も御座います」
ウィンクルは、鍛冶に必要な施設を備えた、大掛かりな工房を念頭に、一つの物件を選び出した。
「ヤマダ様、ご希望の条件に沿う物件はこの一つとなりますが、所在がスラム街の近くとなっております」
「別に構いません、スラムで無いのでしたら」
「すみません訂正致します、半分スラム街です」
「半分?」
「表向きは市民街ですが、スラム関係の被害が酷いので放棄された物件です。治安が悪い為、利用者も限定されてしまい、店舗としての価値は極めて低くなっています」
登記上は市民街、しかし現状はスラム街。だから半分スラム街と言う訳だった。
だが元々スラム街に住んでいた山田にすれば、半分市民街なら治安はいい方である。
ベアーネ達が通りすがりのチンピラに襲われ、”身ぐるみを剥ぐ”事も無いだろう。
早速山田は、手続きを進めるようお願いした。
「正規の手続きだと時間が掛かってしまいますので、一旦私の名義で書類を通しておきまが、宜しいでしょうか」
「例の物件を直ぐに利用出来ると言うやつですか」
「ひとまず私の名前が有れば、直ぐに書類が通りますし。いずれ細かい手続きや、徴税関係のお手伝いもさせて頂けると思います」
「そうして頂けると有難いですね、その方向でお願いします」
詳しい事が分からなかった山田は、これ幸いと面倒な仕事を色々任せたい思いから、ウィンクルの意見を採用した。
そんな山田の了承を得た彼女は、内心で計画の成功にほくそ笑む。
(これで物件の支払い義務はヤマダですが、その権利自体は私の物となりました。先ずは従属化の第一歩と言った所ですね)
思った以上に使えそうな山田へ、この段階で首輪を付けられた僥倖にウィンクルは感謝していた。
もっとも雑種達が自立出来る迄の、無償の支援を目的とする山田に取っては、最終的な権利など左程重要な要素では無い。
もしこの段階で事実を知ったとしても、手続きや財務処理をしくれるのなら有り難いと、喜んでただの出資者に甘んじていただろう。
結局これは勝者も敗者も存在などしない、平和な取引でしかなかった。
ウィンクルが案内に付けてくれたギルド職員は、速やかに山田を件の物件へと導いた。
そこに建っていたのは、コンビニ四個分は有りそうな大きな元工房。しかも庭まで有る。
わざわざ別に住居を借りずとも、ここだけで百人でも二百人で暮らせそうな規模があった。
「デカすぎるわぁ」
山田は時間が無いからと、現物を見ずに行う買い物がいかに危険かを、今更ながらに身に染みて感じていた。
「ここなら人気が少なく、大きな音も出し放題なので本格的な工房を作ったみたいですね。もっとも人気の無さが災いし、治安が悪すぎた様ですが」
ギルド職員の言葉から読み取るに、土地や人件費が安いからと、情勢不安な国に工場を作る様なもので、結局は事業撤退の憂き目をみる事になったらしい。
「こちらが住居になります」
そう職員が言う通り、隣接する土地には三軒の二階建て住宅が有り、スラムの家より大きく小奇麗な景観をしていた。
「住居の方が三軒で六十人は住め間取りらしいです」
(・・・ウチの子達なら一軒に百人は余裕やで)
「あちらの工房は一部、鍛冶用の炉を備えた鍛冶場と成っているそうです」
(・・・要らんのよ、それ)
「では、私はこれで失礼しますが、支払いの方は後日、忘れずにお願いしますとの事です」
職員はそう言うとさっさと退場し、場にちょっとした町工場と社員寮を呆然と眺める山田だけが残された。
暮れ行く夕暮れを背に、ただ一人佇む男の胸中には。
―――明日からお父さん、お仕事頑張らなきゃ―――
ただそんな思いだけが漂っているのだった。
つまり届いた商品が違う感じ。




