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19 規格外の雑種達

なんか説明回みたいになった。

 山田一行とその護衛の一団、計十六人は仲良く樹海へ向かって足を進めていた。


 予定では二手に分かれて広範囲を周る予定だったが、監視されている関係上単独行動は難しい。


 そもそもこの余計な同行者が、何処まで信用出来るかも分から無い状況で、二手に分かれるの不安要素が多すぎる為、仕方無く何時もの様に狩をする事にしたのだ。


 そんな信用ならない集団は、山田達の背後を追従しながら、世間話をする様に山田の事をこき下ろしてくる。



「わざわざ、樹海に来る意味が有るのかね?」


「どうせ素材を誰かから受け取るのだろう、樹海の外で済ませばいいものを」


「まぁいいじゃないですか、彼なりの涙ぐましい努力なのですから。大目に見るとしましょう」


「どうせ我々の目は欺けないだろうがね」


 そう言うと背広集団は面白そうに笑いを上げると、更なる見解でもって山田への侮蔑を続けていく。




「アイツ等嫌い」


「無視しすればいい」


 ウルカが憤慨し、ネコロは無関心を貫いている。


 背後から、死ねばいいのにと言う暗い呟きが聞こえた気がしたが、振り返るとそこにはニコニコ笑顔のベアーネしか居無いので、きっと空耳だったのだ。



 シャジィルが含みの有る笑顔で寄ってくると、山田を見下している連中へそっと視線を送る。


「随分はしゃいじゃってると思わないかい」


「なんですあれ?」


 山田が視線だけで後方を示すと、シャジィルが肩を竦めて口を開く。


「我らが傭兵ギルド、そこの幹部の御曹司様達さ。この件で箔を付けようって魂胆で、名乗り出たらしい」


「付くんですか、こんなんで?」


「予定では付くらしいね。なんでもアンタは商業ギルドと結託して、傭兵ギルドへの経済的な介入を狙ってるらしいよ」


「なんか凄い大事ですね」


「他には他領の貴族か大店の意思を受け、領の運営そのものへ打撃を与えるという話も聞いたねぇ」


「俺には荷が重いと思いますけど」


「くくく。まぁそんな感じで、あんたを締め上げりゃ背後の連中への、借りなり弱みなりを握れるって考えてんのさ、ギルドは」


 何だそりゃと山田が呆れた表情を作って居ると、ここで一行は木々が生い茂る樹海の境界へと辿り着いた。



 足を止め樹海を見据える山田に、寄り添うようにシャジィルが近づくと囁くように語り掛けてくる。


「実際問題、1、2万が限度のEランクが、20万なんて稼いじまったら裏の有る無し関係無く、調査くらいは入るだろう?」


「はぁ、そんなもんですか」


「あぁそんなもんさ。実際にあたしもあんたには裏が有ると思っているよ」


 そう言って覗き込ん来るシャジィルの瞳には、真剣な色合いが滲んでいる。



「しかもあっさり商業ギルドに加入までしちまった。知ってるかい、アレって結構難しいんだよ」


 どうやったんだと肩をくっつけ聞いて来るを牛女を、グイっと押しやると山田は投げやりに声を上げた。


「よく分かりませんが、もう勝手に狩を始めさせて貰ってもいいですかね?」


「あたし達の事は気にしないで、好きにすればいい。こっちはこっちで好きにするからさ」


 追及を諦めた彼女は肩を竦めると、後方へと向かって歩いて行った。


 その背中と背後に控えるにやけた集団を一度視界にに収ると、面倒臭い気分を溜息と共に吐き出し、山田は樹海へと乗り込んで行ったのだった。





 樹海に入ると早速ハイエナ4匹と遭遇し、山田からのGOサインを受けたウルカが、剣を片手にハイエナへ向け突っ込んで行く。


 その行為自体は何時もの事だが、今日は居合わせた観客からのリアクションが付随する。



「おい!何をさせる気だ!」


 山田が雑種を囮に使うような人間で無いと思い込んでいたシャジィルは、突然の事態に驚くと、山田へ向かって怒鳴り付ける。


 しかし怒鳴られた当の山田は、キョトンとした表情でシャジィルを見返し、残り二人も不思議そうに彼女へ目を向けるばかりだった。その状況を理解していない様な彼等の反応に舌打ちを残すと、彼女の視線はウルカへ戻る。



 思いの外高速で走るウルカはハイエナ達に接敵すると、正面から同時に飛びかかって来た二匹を、横なぎの一振りで屠る。直後に噛みついて来る一匹へ、切り返しの刃がギリギリ間に合いその胸を刺し貫いた。既に眼前まで迫った最後の牙を、身を捻り半身で避けると、引き抜いた剣を通り過ぎるハイエナの背中に叩きつける。ここで全てのハイエナは沈黙したのだった。



「ヤマダ勝ったよ!」


 喜びの声を上げるウルカと、それを平然と見守る仲間達の様子からは、この光景がごく当たり前の日常で有る事が伺える。


 しかし彼等にとっての、その有り触れた筈の光景は、シャジィルには異様で非常識な世界に見えた。



「うそ・・・だろ・・・」


 嬉しそうに駆けつけたウルカの頭を撫でる山田の姿を見つめ、シャジィルの口からは呆然とした呟きが漏れる。


 雑種がハイエナを、それも複数のハイエナを一瞬で屠るなど、彼女の人生と常識には今までは有り得ない出来事だったのだ。



「ははは・・・まいったねこりゃ」


 乾いた笑いしか出ない心境で背後を振り返ると、同じく驚愕の表情で固まっている坊ちゃん達が目に付く。彼等はシャジィル以上の驚きと、更にそれを上回る程の焦りによって、その顔を歪めていた。


 その心情を推し量った彼女は皮肉気に口を歪めると、ぽつりと一言呟くを落とす。



 ―――ご愁傷様と。





 今回の山田への査察は、その異様な額の換金額によって決定された。



 Cランクなら四人で組めば一日に400万稼せぐ事もある、なら一人で100万稼げるかと言うとそうでもない。


 一人では樹海での長時間の作業や、大物との戦闘は厳しいものが有り、Cランクといえども、一人で安定して稼げるのは精々が20万程度であろう。


 そして山田はその20万を、Eランクという身の丈で稼いで見せたのだ。ギルドの山田への頑なな迄の不信も全てはここから来ている。



 そもそも樹海では人数がとても重要な要素であり、戦闘は勿論のこと、それ以上に探索警戒休憩といった通常作業に於いてこそ、人数は必要とされ交代無しの一人行動でその全てを熟すのは、極めて困難と言わざるを得なかった。


 実際には山田は三人の雑種を連れているが、荷物を持つしか出来ない雑種の事を、ギルドは人数に数えていない。それは非常時に於いてメンバーが態勢を整える為に必要な数瞬を稼げ無い、役立たずだからだ。


 傭兵の疲労軽減と手元の確保、あとは非常時の囮以外の利用価値を、誰も雑種に求めては居なかったのだ。故に山田達は外部からの認識上、たった一人のパーティーとして見られたていた。




 しかしその前提が今崩れた。


 一人きりだと思っていたパーティーが、突然四人パーティーに変わってしまった。


 山田を吊るし上げ、背後関係を洗う事で栄達を夢想していた者達にとって、それは実に都合の悪い現実なのである。


 そんな不都合な事態に陥った背広組は、顔色も悪く語り合っている。



「な、なんだあの雑種は・・・」


「見たかあの動き、雑種の速さではないぞ」


「まさかホントに不正など無いのか」


「ばかな、20万エンドルだぞ。あの雑種が居たとて、稼げるものか」


「当然だ、今の成果にしても精々が5千エンドル程度だろうよ」


「大丈夫だ、絶対不正は有る。無くては成らないのだ」



 山田に不正が無かったとしても、本来ならなんら問題ない。面倒が無い分、ギルドとしては有難いくらいだった。


 しかし彼等は違う、確実に不正が有ると見越し、本来決まっていたメンバーを親のコネを使ってまで押し退け、強引に今回の査察に加わったのだ。


 これで不正など無かったとなれば、自身の間抜けさを晒した挙句に、ギルド内で嘲笑と嘲りに晒される事にも成り兼ねない。


 そして幹部の身内としてヌクヌク育った彼等のプライドは、その様な事態に耐えられるようには設計されていなかったのである。



 彼等には、どうしても山田が不正をしていた事実が必要だった。





「次はネコロだな」


 ウルカから剣を受け取ると、ネコロからムフンと鼻息が一つ飛び出し、二日ぶりの狩への気合の程が伺える。



「もしかして真面な武器が足りない無いのかい」


 そこへ武器を手渡す様子を見ていたシャジィルが口を挟んで来た。雑種が木の棒を持っているのを見て、どうせ戦わないから適当に手にしているだけだと思っていたが、今の戦闘を見て考えを改める。


 目の前の雑種達は立派な傭兵だ、ちゃんとした武器さえ有れば、十分な働きが期待できると。



「棍棒は立派な武器だぞ」


 なぜか棍棒を擁護する山田の抗議へ溜息を返すと、シャジィルは背後の部下へ向き直り指示を出す。


「はぁ・・・おいお前達、武器を貸してやりな」


「いや、しかし・・・」


「コレも護衛の一環だよ、ごちゃごちゃ言わずにささっとしな」



 傭兵達は渋ったが、シャジィルに言われ腰の剣を雑種達に手渡すと、代わりに渡された棍棒を手に持ち、お互いに顔を見合わせる。


「おれ棍棒なんて初めて持っちゃったぜ」


「むかし爺ちゃんちで見た事があるぞ」


「・・・なぁここにこびりついてる赤黒固まりって泥だよな、泥にきまってるよな」



 そして剣を手にした三人は、初めて皆で剣を持ったのが嬉しいのか、楽しそうな笑顔ではしゃいでいる。


「ウルカのが一番大きい」


「いや私のが大きくて硬い」


「でもヤマダさんのと比べると、細くて小さいですね」




 そんな喜ぶ三人を見つめ苦笑を漏らす山田と、戸惑う三人へ呆れた様な溜息を漏らすシャジィル。


「いいのか、護衛に差し支えるんじゃないのか」


「かまわないよ、あたし一人居ればこの辺で危険なんてないさ、それに―――」


(―――あの三人の雑種の方が、腕が立ちそうなんて言っちゃ流石にかわいそうか)


 度量もデカい彼女は後ろで、この部分って顔に見えねぇ? と棍棒の観察に余念が無い部下への配慮も忘れない。




 しかしそんな彼等に、勢い込んで物申す者が現れる。


「まて!それは認められん!」


「なんだってんだい」


 勢い良く声を荒げる背広の男に、シャジィルは面倒臭そうな振り返ると、溜息交じりに聞き返した。


「その武器だ! 以前まで木の棒で戦っていたのだろう、ここで条件を変える事は認めん!」


「まったくみみっちいねぇ。これはアレだよアレ、あーうー、そうつまりヤマダ達は前から全員剣で戦ってたんだよ」




「「「は?」」」


 シャジィルの下手過ぎるウソに、山田を含めた数人から間の抜けた声が返った。


「昨日偶々三人に剣が折れてちまって、今日は代わりに木の棒を持ち歩いてるだけなのさ」


「ばかな!信じられるかそんな事!」


「でっち上げに決まっている!」


「まじ何言ってるんですかシャジィルさん?」


 やはり山田を含めた数人から非難が飛ぶが彼女は気にしない、そのまま何事も無い様に口を開く。


「だからあたしが剣を貸した所で、問題は一切無いって事さ」


「誰も信じんぞそんな嘘は!」


「嘘ならもう少し上手つくんだな!」


「いくらなんでも雑すぎません?」



「で、嘘だったとして、あんた等はそれをどうやって証明すんだい?」


 そして山田本人の抗議にもお構いなく、彼女は余裕の笑みさえ浮かべ、きっぱりとそう言い放った。


 それは正しく子供が行う「証拠は?何時何分何秒?」だった。


 この開き直りには、流石の背広も二の句が継げなくなってしまのだった。




「あの獣め、堂々と開き直りやがって」


「まぁいい、何人で剣を持とうが、結局狩れる数に大差は有るまい」


「確かに。成果の多寡は、見つける魔獣の数に依存するからな」


 どの道あの雑種の強さなら、一人で戦おうが三人戦おうが結果は同じだという事に気が付き、何より証拠何て出しようが無いという事で、背広組は渋々だが引き下がることにしたのだった。



 ―――しかし彼等は知らなかった、山田と言う人間の持つ欲深さとせこさを。





 全員が剣を装備出来るなんて、次は何時になる事やら。そう考えた山田に欲が生まれて来る、このチャンスをもっと生かせと何かが囁く。


(折角貸してくれるってんなら、最大限に活用しないと勿体無いよな・・・いけるか?いけるんじゃないか?護衛もいるしいざと成れば逃げればいいし。って言うか行かないと損だな、うんきっと損だ)


 危険とか監視とか、思いがけないレンタルの所為で全てが消え去り、一日しかないこのチャンスから少しでも益を得ようと、山田は貪欲に行動する事にした。




「おーい、次はこっちにいくぞー」


 そして欲に負けた山田の声が三人を導き、それに釣られて背後の傭兵達もぞろぞろと付き従う。



 表層の奥。更にその奥。中層へと至る道を。

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