18 無慈悲なる誤解
そして今日も間に合わない。
山田が寝苦しさから目を覚ますと、身体の上にベアーネが乗っている。そのさらに上にウルカが乗り、ベアーネの寝顔が苦悶の表情を作っている。
ウルカを右側に下ろし、ベアーネを左側に下ろして解放されると、ようやく起き上がる事が出来た。外は既に明かるく、昨日同様台所からは朝食の準備をする音が聞こえる。
「うにぅぅぅ」
ごそごそ動く足元のウルカから寝言が聞こえると、何かを探すようにその手が彷徨う。その指先がベアーネに触れると、ウルカはもぞもぞと彼女に近づき、ギュッと抱き着いてしまった。
ベアーネの方も寝返りを打ちウルカと向き合うと、消えた温もりを探す様にその手を伸ばし、最終的に二人は抱き合いながら寝息を立て始めるのだった。
眼下にそんな光景を見せられた山田は、すかさず二人の傍にしゃがみ込むと、その両の頭を蹂躙すべく欲望に塗れたその薄汚い掌を差し伸べる。
「寝る子に触れるな」
背後からのドスの利いた声と共に、背中に食い込むネコロの爪で、山田の動きがビタリ!と止まる。
「・・・お前の力では俺を傷つける事はできん」
一拍の間を作ると、男は振り返る事もせず、突き放す様にいい放つ。
「男の背中は女の爪には勝てない様に出来ている」
冷めた声は、下らぬとばかりに男の言葉を切り捨てると、その意思は指先へ走り、爪はより強より深く男を責めた。
背中に熱い反意を受けて、男はゆるりと首を巡らせると背後を見据える。
「―――えと、起きないと思うんだけど。ダメ?」
「ダメ。特にベアーネは寝不足だから」
山田の背中を指先でぐりぐりしながら、起きるだろがとネコロが半眼で見据えて来る。むふんと鼻から抜ける空気の勢いからしてその意思は固そうである。
「はぁ仕方ない、今日は諦めるか」
ネコロのそんな熱意を感じとり、山田が残念そうに立ち上がるとその眼前に、にゅっとネコロの頭部が現れる。
「ん、どうした」
「寝る子に触れるな」
「それはわかったって」
そんな山田の反応に、じれったいとばかりにネコロの頭が山田の体に押し付けられる。
「寝る子に。触れるな。」
念を押す様であり、何かを訴える様なその声。ド鈍い山田がようやくネコロの言葉の裏側に気づき、その頭を撫でる始めると彼女の尻尾もようやく、クネクネと機嫌良さそうに揺れ出した。
その風景は台所から顔を出したラネットが、朝食を告げるまで続き、何の変哲も無い何時もの朝がはじまった。
美味しそうにもぐもぐ朝食を取る雑種達、幸せそうなウルカに、無表情で尻尾を揺らすネコロ。ベアーネとラネットの様子も伺うが、特におかしな様子は見られない。
如何やら昨日の変異は、解消されたのだろうと胸を撫で下ろすが、元凶たる男がその理由に気付いていない以上、再発は約束されたようなものだった。
食後は家に残る雑種達に、掃除と留守番をお願いすると、お金を稼ぐ為に山田達四人はギルドへ向かう。
食料もそうだが、昨日は色々買い込んだ所為で、残る資金は小銭が何枚かと言う有様、今日は何としても樹海でのお仕事が必要であった。
取り合えず敷居の低い傭兵ギルドへ三人を連れて行き、許可証を出して貰うと樹海へ向かった。
今日も剣と棍棒を片手に、元気よく森を駆け回るウルカ達には、もはや山田なんてものは不要の存在でしかない。
樹海の表層にはハイエナ以外の魔獣も居たが、数も種類も関係ないとばかりに三人は狩りまくっていく。
しかし戦闘自体が容易くなると、魔獣の数が問題になってくる。いかに戦闘がスムーズに進んでも、一日に遭遇できる魔獣の上限数は決まっているのだから。
昼食後。適度な運動とお腹一杯に食事をした三人は、山田の足を枕にスピスピとお昼寝中。そんな三人の頭を朝の仕返しとばかりに撫でながら、山田はステータスの確認を行っていた。
ウルカ
レベル 1
身体 118 → 153
敏捷 131 → 160
魔力 51 → 62
べアーネ
レベル 1
身体 201 → 255
敏捷 82 → 91
魔力 63 → 75
ネコロ
レベル 1
身体 82 → 91
敏捷 177 → 224
魔力 55 → 70
山田公二
レベル 1
身体 1183
敏捷 1251
魔力 274
三人の能力値は順調に伸びてはいるが、自身のステータスと比較すると、どうしても現状の数値に不安を覚える。
(早く一人前にするには、なにか手を考えないとな・・・)
何時かではなく、出来るだけ早く三人を一人前にしたい山田は、何か良い案は無いかと思案する。
そして考えた末に出た答えが、数がダメなら質で勝負であった。樹海は奥に行けば行くほど、強い魔獣が現れる。
それは同じ表層だけに限っても同じ事で、外周部に近い浅い部分と、中層に近い深い部分では、魔獣の数も質も大きく変わって来る。
その事実を知っているなら取るべき手段は一つだった。
その後お昼寝が終わると山田一行は、より良い獲物を探しに樹海の奥へ向かって移動を始めた。
樹海の表層である事は変わりないが、より深い地帯を歩き回ると早速魔獣と遭遇する。
そいつは枝伝いに飛び跳ねながら、此方に向かって近づいて来る猿の集団だった。
猿はギーギー言いながら、頭上の木々をあっちへ行ったりこっちに来たり、山田達の注意をかき乱す様にちょこまかと動く。
樹上の猿は六匹と数こそ多くは無いが、流石に内に秘めた強さは分からない、中層に近いこの辺りとなると、ハイエナ等と同列に考えるのは危険にすぎる。
先ずは山田が戦おうと考え先頭に立つが、猿は樹上で此方の隙を伺い降りて来る様子が無い。
如何したものかと思っていると、ベアーネが足元の石を拾い上げた。
「えい」
「ギギッ!」
ベアーネは拾った石をサルに向け投げつけると見事に命中し、猿は悶絶しながら落ちてくる。
「キ・・・ギィ・・・」
頭から地面に落ちた猿は、四人の目の前で血の泡を吹いて痙攣していたかと思うと、そのまま静かに息絶えてしまった。
四人が暫く、その安らかな死に顔を眺めていると、山田がポツリと呟いた。
「・・・よし、石を投げよう」
山田が頭上を警戒する中、三人が足元の石を、拾っては投げ拾っては投げ、猿達を攻撃する。
最初の一投以降、警戒した猿には中々当たらなかったが、少しずつその数を減らし、残った一頭がキレて飛び掛かって来たのを、ネコロがあっさり切り捨てて戦闘は終わった。
「ヤマダだるい」
(ネコロの言う通り面倒で効率が悪い、猿が来たら俺も一緒に石を投げて速攻で終わらせよう。)
猿はダメだと心に刻むと、美味しい獲物を求めて四人は更に足を進めた。
その後も何度か戦闘するが、表層の浅い所での戦闘に比べ、深い所の戦闘は効率的に宜しくない。
主な原因は、見慣れない魔獣との戦闘と装備の不備だ。ちょっと皮の厚い魔獣が出ると、棍棒では威力が分散してしまい途端に効果は大きく落ちる。結果として剣を持つ一人以外の棍棒組は、二軍落ちに成ってしまった。
棍棒が許されるのハイエナまでだったのだ。
結局この日は勉強と割り切ってそのまま戦闘を続け、何時もよりちょっとだけいい素材を手に入れる。
最後に工作教室用に多めに木材を準備すると、まだ空の明るいうちに四人は街への帰路についた。
その日は素材の半分を商業ギルドの集積所に卸し、残りを傭兵ギルドの集積所へ卸す。その後三人に広場で買い食いさせると、一人伝票を持って商業ギルドへ向かう。
ギルドでは金だけ受け取って帰る積りが、行き成り会議室に案内されると、ほどなくしてウィンクルが姿を現した。
「申し訳ありませんヤマダ様、初の取引となりますので、少しお話を伺わせて頂きたいと思いまして」
「それは構いませんが、どういった件でしょう」
「今回初めて商業ギルドの査定受けられた訳ですが、何か気に成った点や、ご要望などは御座いますでしょうか」
「特にこれといって有りませんね」
「左様でございますか」
ウィンクルは山田の無難な返事に笑顔で答えるが、正直な所そんん話はどうでも良かった。彼女の目的は山田の情報で、ここからが本命とばかりに、チクリチクリと探りを入れていく。
「そう言えは素材に関してですが、卸された品の中に木猿や穴蛇等の魔石が含まれて居りますが、少し深い所へ行かれたのでしょうか?」
「えぇ表層を少しばかり奥へ」
「しかしヤマダ様のパーティーは、ヤマダ様以外傭兵は居らず、後は三人の雑種を同行させてるだけだった筈。いささか無理が過ぎるのでは」
「あくまで活動は表層内に止めましたので、左程の危険は有りませんよ」
「この時期の木猿は毛が赤く変色し、群れを作って凶暴になると聞いたのですが、危険は無かったのですか?」
「赤ですか、私が見たのは黄色い毛並みでしたが? 種類の違いですかね」
「あら、ではわたくしの勘違いかも知れませんね。申し訳ありません」
「稀に、フォレストベアの目撃情報なども入ってい―――
「フォレ?あぁ、あのクマですか。走って逃げれば―――
「まぁではヤマダ様の故郷には―――
「そうです、魔獣を見たのは―――
「猫派犬派―――
「戦争だね―――
「―――
「―――
単純な質問からひっかけや心理観察を得て、ウィンクルが彼から得た情報を整理し纏める。
―――平民では無い、学が有り視点が高い。貴族では無い、下々へ理解が深い高潔さも傲慢も見えない。軍人では無い、思考が温い意思が緩い。密偵、違う。ギルド長と対立。その力量。何故目立つ。他国の。この時期に。一人で。フォレストベアと相対した。隠してる。犯罪者。商業。雑種。何処から。金が目的。犬。猫。―――。―――。
入手したその数々の情報を頭で組み立て、ついに彼女は一つの結論を導き出した。
(間違い有りません、彼は――――――――――――――――――変態です!)
どこをどう通り、何と何をひっ付けたのか全く分からないが、彼女は山田をそう結論付けた。
(しかも私の身体を使った視線誘導に、全く反応が有りませんでした。つまりホモ寄りの変態です!)
そう結論付けてしまった。
実際の所は、色々考えたが意味不明過ぎたので、女の身体に興味がなさそうと言う一点だけで、変態認定されたのかも知れない。しかもホモ寄り。
余りと言えば余りにもな誤解だがそれは、答えは実は異世界人でした、と言うオチを知らないが故の悲劇なのかもしれなかった。
「―――さん、ウィンクルさん」
「! 申し訳ありません、つい考え事を」
愕然とした様子で黙り込んだウィンクルへ向けた、山田の呼び掛けに遅れる事数瞬、ウィンクルは思考の底から慌てて戻る。
「それで、もうそろそろ私も予定がありまして」
「すみません長々と、ヤマダ様のご意見はとても参考になりましたわ」
その内心を完璧に隠し、全く心の籠っていない感謝と笑顔を返すと、彼女は深々と頭を下げた。
「本日はご協力、真に有難う御座いました。またのお越しをお待ちしております」
そう見送るウィンクルに背中を向け、商業ギルドを後にした山田は、三人を回収すると傭兵ギルドへ足を向けた。
「分かってくれたんですね、ヤマダさん!」
「え」
ギルドで伝票を差し出すと、ルビアが意味不明な事を叫び出す。
「まだちょっと高いですけど、今更ですし」
その言葉でようやく山田は換金額の事を思い出し、そう言う意味かと納得すると、笑顔で差し出された金を受け取った。
「今後は余り高額には成らないと思います」
「はい、やっぱり悪い事は良くないですから」
やはり微妙に人を蔑んでくるルビアの笑顔を背に、傭兵ギルドを立ち去ると本日の成果を比較する。
商業ギルド12万エンドル
傭兵ギルド9万エンドル
傭兵ギルドはしょっぱかった、しかし同時にポーション等の販売価格が安い。というか商業ギルドが高い。
色々考えて見たが、山田は結局どっちも活用する方向で、進める事にした。
21万の大金を使い、大量の食料と追加の工具を買い込むと、わが家へと帰る。
すると朝は十一人だった雑種達が、当然のように増えて十四人になって待って居た。
「う、うう、すみません、でも・・・でも・・・」
「いいからいいから」
山田としては半ば予想していた展開であった、そのための食料も大量に買い込んだのだ。
何時もの様に食事を取り、皆が思い思いにまったりして居ると、ラネットがトレイ代わりの木板を持ってきた。
「あの、これ。出来上がった笛です」
木板の上には、掃除も一段落したので作ったと言う工作品が並べられており、試しに山田が吹いてみると、ぴー、ぴーとしっかり音が出る。
使えるモノだけ集めて見たと言う事だが、見た目の不格好さに反し、笛としての機能はしっかり備わっていた。
「上手く出来てるじゃない、これなら実際に使っても問題ないな」
「でも数日で壊れちゃうんですよね・・・ちょっと悲しいです」
始めたばかりで作る楽しさと、作り上げた物への愛着も相まって、折角作った物が直ぐに消えて無くなる事への寂寥感に、ラネットは表情を暗くする。
山田にもその気持ちが分かるだけに、少しだけでも気が楽になるよ言葉を掛ける事にした。
「大丈夫、悲しいのは最初の内だけよ。・・・その内作り飽きて、自分の作品とゴミの区別もつかない様になるから」
「・・・それってどんな精神状態なんです、怖いんですけど」
そんな頭がおかしくなるまで作るんですかと、ラネットはドン引いて青くなる。
正確には、そのうち作品をゴミみたいに雑に扱う日が来るとか、需要割れでゴミと同価値になり作品に価値を見出せ無くなる、とか言いたかったのだが、まぁ同じような事だろうと山田は考えていた。
「それより今は、どんどん笛を作る事を考えてくれ。あとどんなに失敗してもいいから、改良や工夫も頼む」
「それって笛だけで良いんですか? 他にも何か作った方が、色々勉強になりそうですけど」
「確かに・・・そういえばこの家って机も無いよな」
床に直接置かれた木板を見やり、ご飯も床置きで食べにくかったなと思い出す。
「よしちゃぶ台も作ろう」
「ちゃぶ?」
「小さい机だ。椅子を使わず使える、足の短いやつ」
良く考えたら、笛職人とか育成しても、ピンポイント過ぎて食っていける気がしない。
山田はどうせなら、ワールドワイドを狙っていこうと、工作物を家具全般に広げる事にした。
直ぐに劣化するなら毎日作ればいい、そもそも完成品はオマケに過ぎない、大事なのは作る過程そのもので、この子達が一人前の職人として、手に職を持てればそれでいいのだ。
当面は使えない製品を作り続ける事になるが、掛かる経費は食費だけなので何とかなる。人件費の安さは雑種の数少ない強みだろう。
そして結果的には、一端の職人としての技量さえ身に着けば、独立さえも夢では無い。
ただそれでも雇ってくれる所は今の所無いので、将来的には山田が工場なりを作って、働ける環境を提供する必要があるかもしれない。
更に雑種作の製品に需要が無い場合、最悪は山田が全部買い取り、さらに使い道が無いので全部捨てる。赤字とそういう次元では無い、自転車操業も真っ青の狂気的な未来もありえた。
しかし山田は、例えそんな未来が来ても構わないと思っていた。
(ロクな娯楽も通販も無い、こんな世界じゃ金の使い道なんて特に思いつかない。ならば偽善を嗜むのもいいかもしれない)
物理的な贅沢に期待など出来無い世界なら、せめて心の贅沢くらいは得てやろうと山田は思うのだった。
何時もの様に目を覚まし、朝食を取ると、山田は昨夜の笛を手に取った。
これさえ有れば、音に依る通信システムを利用して、広範囲の探索が可能となる。具体的に言えば、笛を持って二手に分かれる作戦。
山田と三人組に分かれ、三人組が獲物と遭遇すると笛を吹き山田が飛んでくる。山田が獲物と遭遇すると、お互いに笛を吹き合い合流し、三人組が獲物を倒す。
理論上は探索中の範囲が倍になるが、実際に上手く行くかは分からない。分からないから、取り敢えずやってみる事にしたのだった。
―――だがその予定は、傭兵ギルドの受付にて頓挫する事になった。
「今日はヤマダさんに依頼があります」
「え、依頼ですか?」
「はい、ギルドから直接、ヤマダさんにお願いしたい依頼があるんです」
「でも、私Eランクですよ」
ギルドの不文律、Eランクに依頼なんてとんでもない、が有るはずだが。
「依頼主がギルドなので、なんとでも誤魔化せますよ」
(・・・ぶっちゃけて来たな)
結局ギルドの最上位不文律、ギルドの強権が一番強い、を発動しEランクの山田に対し、強引に依頼を課せる事にしたようだ。
山田の呆れた様な表情も気にせず、ルビアは一枚の書類を差し出してくる。
「此方で用意した傭兵に護衛される依頼です。はい署名してください!」
「・・・? 傭兵を護衛する依頼ですか」
碌な説明も無く、行き成り取り署名を促す発言は合えず無視して、気になる点を聞き返す。
「もう、ちゃんと聞いて下さいよ。ヤマダさんが。傭兵に。護衛される。依頼なんです。さぁ署名して下さい」
「嫌です、お断りします」
要点を一言一言区切って説明してくれたルビアに、きっぱりと拒絶を示す。内容が余りに意味不明すぎて、碌でも無い気配しかしない。
「えー受けて下さい、ギルド長からの指名依頼ですよ。なんでも面倒になる前に白黒つけるそうです」
「なんでまた、以前はどうでもいいみたいにな事を言ってましたが」
山田の発言を聞くと、待ってましたと言わんばかりに、ルビアの顔にニッコリ満面の笑みが浮ぶ。
「商業ギルド登録おめでとうございます」
「え・・・あぁ、有難う御座います」
ん? どうした行き成り、と山田が首をひねって居ると。
「傭兵ギルドに席を置きながら、商業ギルドに登録しちゃうなんて。ホントおめでとうございます!」
(・・・なんだかルビアさんののオデコに、青筋が見える気がする)
「その、なんかすみません」
「いいんですよ、商業ギルドに擦り寄ろうが! 傭兵ギルドを足蹴にしようが! ヤマダさんの自由なんですから!」
「・・・・・・・・・」
「傭兵ギルドを見限っての商業ギルドへのご登録。ホントに、ホントにおめでとうございます!」
「・・・依頼の説明をお願いします」
「わぁ、受けて頂けるんですか! 商業ギルドに寝返ったヤマダさんにそう言って頂けて、私感激ですぅ!」
(おいおい、もしかしてギルド同士って仲悪いのか、聞いてないぞそんなの)
来なきゃ良かった、山田はそう思いながらも書類を受け取り、大人しく説明を受けるのであった。
「―――つまり、ヤマダさんの納品物に、商会ギルドの介入が在るかどうか、その辺りが焦点ですね。表立っては調査出来ないので、護衛依頼に託けて探らせようって事です」
言うなれば別件調査ですね、と建前を保つ気も無くぶっちゃけるルビアの説明を聞き流す。
(・・・完全に信用されとらんがな)
「スラムや他所の傭兵経由なら、まぁ、規模に依ってはって所ですね。これもヤマダさんが、杜撰な横流しをしちゃうからですよ。観念して全部吐いちゃえば話は早いのに」
「全部合法品ですよ」
「ではそれを証明してください」
そう言うとルビアは背伸びをし、ロビーの一角に向かって手を振り叫んだ。
「シャジィルさーーーーん」
その声に呼ばれ、何時かの大きい牛の人が席から立ち上がると、たゆんたゆん言わせながら此方へ向かってやって来る。
「よう、調子いいみたいじゃ無いか」
美人なお姉さんの顔から、乱暴な言葉とニヤニヤとした挑発的な視線が飛んで来た。
「調子がいいなら、こんな事になってませんよ」
「ははははは、ギルド長に目を付けられる程調子がいいて事だろ。実際Eランクの稼ぎじゃ無いしね」
「それで、貴方達が護衛の?」
シャジィルとそのあとに続く団体さんを流し見ならが尋ねる。
「そ、今回はあたし等、十二人がアンタ等の護衛として付いて行く事になる」
「多くない?」
「護衛はあたしを含め四人さ、残りはギルドがねじ込んだ臨時メンバーだよ」
そこでシャジィルは山田の肩に腕を回すと、その頭をグイっと胸元に抱え込みコッソリと囁いて来る。
「八人はアンタ等の不正を暴くためのギルド職員さ。商業ギルドに素材を大量に流した事は既にバレてる、精々尻尾を掴まれないよう気を付けなよ」
バレる何も、あかんのかい?と思いつつ、ルビアのあの態度はその所為かと当たりを付ける。
チラリと顔の側面に弾力を感じながら、明らかに傭兵には見えないスーツ姿の集団に目を向けると、目が合った彼等が口を開く。
「今日はよろしく頼むよヤマダ殿、なんでも随分小銭を稼いでるそうじゃないか」
「まったく小銭欲しさに、随分派手に踊るものですな」
「いやぁ実に滑稽、いいですねぇ恥を知らないと人生が楽しそうで」
「おいおい、同じギルド所属の仲間にその言い草は無いだろう。もっとも今日限りだろうがね」
彼等は口々に嘲笑の言葉を浴びせつつ、愉快そうに長々と語り合っている。
シャジィルの脇からズポットと顔を引き抜くと、ニヤニヤしながら此方を見下してくる彼等を視界から消す。
全ては誤解なのだから、掴まれる尻尾なんてないが、今日の予定がこれで崩れた事を悟り、山田は深いため息を漏らすのだった。




