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15 集まる獣達

 ギルドで三人の子供達の情操教育という悩み事が発生したが、無事軍資金を手に入れた山田達。


 その足で晩飯と明日の朝食を購入すると、スラムの家への帰路についたのだが、その道すがら瓦礫を漁っている四人の雑種を見かける事になる。



 ベアーネの足が止まり、複雑な表情でその姿を見つめていたと思うと、山田を振り返ると申し訳なさそうに口を開く。


「ヤマダさん、あの子達にお掃除のお手伝いして貰うのは・・・ダメですか」


「飯でも食わせたら、喜んでやるハズ」


 ベアーネが唐突に掃除の話を持ち出すと、ネコロも被せてそう提案してきた。



(・・・・・・ようはあの子達に、ご飯を上げたいって事か)


 二人の期待するような視線を受、山田も快く了承したい気持ちはある。日本人としても、お腹お空かせた子供達をほおっておく事に、良心の呵責を覚えるも事実だ。


 しかしウルカ達三人への責任を考えると、ここで無計画に扶養家族をふやしても大丈夫なのか心配になるのだ。


 募金、ましてや犬猫を拾うのとは訳が違うのだ、山田はそこで発生する責任やらなんちゃらに付いて頭を悩ませる。



 瓦礫を漁る四人に視線を向けると、見た目が小中学生のグループに一人だけ山田と同じ位の子が居た。


 頭からウサギの耳が飛び出しており、瓦礫を漁る本体とは独立して居るように、ぴょこぴょこと動いては周囲の音を拾い警戒している。


 その耳が山田達を捉えピタリと止まると、ウサギの子の頭がくるりと向き直り、その赤い視線が此方を捉えた。


 山田達を認めたウサギの子は、慌てて周囲にいた小さな三人の子供達を自分の背後に匿うと、じっと此方の動きと伺っている。



(ご飯を上げるのは簡単だけど・・・・・・どうするよ山田)


 三人への責任を考え迂闊に手を出せない、しかしお腹を空かせた四人の子供達にもご飯を上げたい。


 その責任感と良心の呵責に挟まれ、二進も三進も行かなくなった山田は、自分自身に問いかけるも、答えは出ない



 ―――否、答えは出ていた。


 日本人としての良識的に、こんな状況で子供を見捨てるなんて事が出来筈もなく、結局はこの場凌ぎで有ろうと、ご飯を上げる以外の選択など無いのである。


 やる事は決まっているが、山田の踏ん切りが付かないだけなのだ。そしてそんな優柔不断な所も日本人らしいと言えた。



 そんな、どうすっかなーと悩む山田を尻目に、ウルカはトコトコと四人に近づいて行くと、そのまま楽しそうに話し込みだした。


 既にウルカは山田なら拒否しないとの考えの下、どんどん掃除とご飯の話を進めてしまう。今更ながらにその様子に気づいた山田は、安堵のため息を漏らした。


(・・・これでは今更ダメとは言えない。だから仕方ないこれは仕方ない)


 そう自分に言い聞かせると、山田は仕方なくベアーネ達の提案を受け入れる事にした。


 ―――ウルカの行動を黙認した事実には見ない振りをして。




 四人の雑種の中で、一番年上はウサギの雑種でラネットと名乗り、三人の小さな子達のお姉さん的な立場であるらしい。


 そんな彼女は、仕事に対して何度も感謝を示しすと、なんでもしますと言いきっているが、掃除さえして貰えればそれで良かった。


 その後改めて、四人の雑種には掃除をして貰う事、対価としてご飯を三食提供する事で話が付いた。


 といっても既に夕方、今日の所は手付としてご飯を持たせると、明日の朝又来る様に言い含め帰宅することになった。





 山田達は食事を済ますと、かたまって就寝時。そんな中、山田は今後についての考えを巡らせていた。


 三人への責任どころか、明日からさらに四人のバイトがやって来る。掃除が終わればハイサヨナラとは感情的に難しいので、長い付き合いになりそうだ。


 そのあたりも色々考え、こんな調子でいいのかと思い悩むも段々疲れて来ると、既に決まった事だし今日は偶々だよなと、前向きに考えると今日はゆっくり眠る事にするのだった。


(まぁ、四人増える位なんとかなるだろ。これ以上増えるとか早々有るはずないしな・・・)



 ――――――彼のフラグは分かりやすかった。





 夜の帳が消え空に日の光が満ち始めると、壁の亀裂から差し込む光でラネットは目覚ました。


 昨夜はキチンと食事を取ったため、何時もと違い爽快な目覚めだ。


 勝手に住み着いているボロボロの空き家、その一室で共に寝起きする三人の仲間達を揺り起こす。



「ほらほら、ちゃんと目を覚まして。昨日約束した傭兵さんの所に行くわよ」


「昨日のご飯の人!」


 欠伸をしながら眠そうにしていた子達が、その言葉で急に元気になる。それほど昨夜の出来事が強く印象に残っていたのだ。


 ラネット自身、昨夜の事はそうそう忘れる事の出来ない出来事として記憶に残っている。



 又来る約束をしただけで、ご飯を渡された時は何の事だか意味が分からなかった、仕事をしても約束のご飯をくれない人が居る中、その傭兵さんは前払いでご飯をくれたのだ。


 しかも四人分だと思って渡されたご飯は一人分で、全員に同じだけのご飯を配ってくれたのだ。


 何時もは小さなパンを拾っては、四人で分けあって何とか生きて来たのだが、その日は全員で泣きながらお腹一杯ご飯を食べた。


 本当は半分ほど残して置く予定だったが、食べ始めると余りの美味しさに、手が止まらず気付くと全員が完食していた程だ。



「またご飯が食べられるんでしょ」


「ちゃんとお仕事したらね」


 嬉しそうに傭兵の家へ向かう中、三人にはしっかりと仕事の事も言い聞かせる。


「あの傭兵さんと一緒に、雑種の子がいたから悪い人でな無い筈よ。昨日ほどは貰えないでしょうけど、キチンをお仕事すれば、またご飯を貰えると思うわ」


 掃除何て直ぐに終ってしまうだろうけど、ここで頑張れば何か別の仕事を貰えるかもしれない。


 ラネットこの幸運に感謝しつつ、今後に繋げる為にも一生懸命頑張る意気込みを新たにした。



 ―――おなかすいた



 その時、高性能なウサ耳が微かに声を拾う、弱々しい子供の声を。


 すぐさま三人を待たせると、ウサ耳を駆使し周囲の探索を行う、すると崩れそうな空き家の中に雑種の姿を見つけた。


 それは疲れたように身を寄せあう、四人の雑種の子達だった。





 早朝、ノックされる音に気づいた山田がドアを開けると、玄関先に屯する雑種達の姿があった、その数八人。昨日お願いしていたのは四人だった筈が、倍に増えている。


 何事かと見ていると、集団の中から昨日話したウサギの雑種、ラネットが申し訳無さそうに進み出てくる。


「その、困ってる子が居て、つい・・・・・・お仕事は何人までいいですか?」



(・・・さて、どうするか)


 山田は悩む、八人に増えた雑種を前にして、首を捻るとうんうん悩む。昨日の今日で食い扶持が三人から十一人への増加である、流石に増えすぎ感が有り過ぎた。


 いやー無理じゃない?とか考えて、難しい顔をしていると、ウルカが間近から見上げて来る。


「どうしたのヤマダ、ご飯上げないの?」


「うーん、数が多いからなぁ」


「でも困ってる」


「分かるけど・・・」


「・・・難しい?」


「どうだろ、分からんと言った方だ正解だな」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 それから暫し無言で見つめあうが、不意にウルカは八人の雑種へと視線と向けると、悲しそうに呟いた。


「こまってる、だから助けたい。・・・でも、ヤマダが困るなら・・・・・・見捨てる」



 そのウルカの言葉、表情を見た山田は飛んでも無い失敗に気づいた。


 感情の板挟みになって居たのは彼だけで無い、ウルカもまた雑種を助けたい気持ちと、ヤマダを困らせたく無い気持ちの板挟みに苦しみ。


 ―――今、雑種を見捨てる決断をさせてしまった。 主に山田の所為で。



(・・・・・・・・・・・・あーやちゃたなぁ)


 自分でさえ板挟みに悩んだ際、自分では答えを出せなかったのだ、それなのにまだ子供のウルカに辛い決断を強いてしまった。


 そしてその決断を言い訳に、山田は気兼ねなく雑種達への支援を行えるのだ。


(なんか先日も今日も、この子に背中を押して貰ってばかりな気がしてきたんだけど・・・)


 そう考えると、保護者を気取ってた自分が情け無くなってくる。



「・・・どうした?ヤマダ」


 そしてこの期に及んでもまだ、ウルカは落ち込む山田を案じて声を掛けてくれた。


「なんでそんな悲しそうなの、ウルカの所為か?」


 悲しそうに見上げるその瞳に、涙の揺らめきを認めた山田は、良心へ致命的ダメージを受けてしまった。



 今にも泣きそうなウルカを前に、「泣く子は抱っこ」「お子さんを抱き締めてあげて下さい」


 そんな雑な情報を思い出した山田は、取り敢えずウルカをギュッと抱き締める。



「ウルカは強いな」


「うん、でもヤマダの方がつよい」


 突然抱き着いてきた山田の奇行も、ウルカは大人しく受け入れて、そっと抱き返してくる。


 山田はその温もりに癒されつつ、どっちが大人やねんと苦笑を漏らすと、ウルカに問いかける。



「助けたいんだよな」


「うん、でも・・・」


「あー言い方間違えた。助けたいんだ。俺が」


「ヤマダ・・・」


「だから・・・皆も手を貸してくれ」



「うん」


「何時でもお手伝いします」


「私もいるから」



 ウルカの温もりに加え、背中に感じる二つの温もりからも答えが返って来る。


 ならば問題は無いとばかりに意気込む山田。もともと問題は彼の心の葛藤でしかないのだが、その当たりにはあえて触れずに前へ進む。


 それでもせめて、これ以上この子達には心労を掛けまいと、覚悟を決める。


(スラムに雑種が何十人いるのか知らないが、・・・ようは全員養えばいいって事だろう)


 またも浅い発想の下、取り合えずの答えを山田は導きだした。



 暫し三人の温もりで良心を癒すと、出来るかどうかは置いとくとして、先ずはその方針で進むと意を決して振り返る。


 そこには興味津々で此方を伺っている、八人分のケモ耳達が居た。


 ラネットが顔を赤くしながら耳をビシッと此方へ向けており、周囲の子からはちゅーか?ちゅーするか?と言う声まで聞こえて来る。


 その様子に、よし問題ないと咳払いをし、山田が口を開いた。


「みんな雇いますので、まずはご飯を食べてください。あとちゅーはしません」




 ご飯の言葉で歓声を上げた雑種達へご飯を配り、ヤマダちゅーするか?と尋ねるウルカの口をパンで塞ぐと。


 初対面時の様な汚物を見る目のネコロと、無表情のベアーネを連れて、山田は今日のお仕事へと出かけて行くのだった。





 家に八人のバイトとご飯を残し、ギルドで通行証を貰った山田達は、何時もの様に樹海へ繰り出している。


 出くわしたハイエナの群れに三人が突っ込むと、連携しながらハイエナを駆除していく。


 山田はいざという時の備えとして後方で控え、ハラハラしながら見守る仕事に就いていた。


 初めは手間取る所も在ったが、数を熟すうちにスムーズに駆除出来るようになっていく。


 これなら保険は不要だと判断し、山田が腰に下げた剣を三人に渡すと交代で振るって貰う事にした。



 剣を持ったウルカは、早速嬉しそうに得物を探してうろつきだすと、ハイエナの群れを見つけ出す。


 しかし三人は何を思ったか、剣を持ったウルカは、一人でハイエナの群れに突っ込んでいってしまう。


 今まで通り三人で挑むと思っていた山田が不意を突かれ、止めるかどうか迷っている間に、ハイエナ達は全滅していた。



 大きな運動エネルギーが必要な棍棒と違い、刃の付いた剣の殺傷は段違いであった。


 ハイエナとの相性も良く、小さく柔らかい獲物相手に対して、今となっては棍棒三つより剣一つの方が強かったのだ。



「これは、棍棒が廃れる訳だ・・・」


 山田の呟きを他所に、ウルカから剣を受け取ったネコロが、早速獲物を求め徘徊しだし、その後を二人が楽しそうに付いて行く。


 その逞し過ぎる様子に山田は、責任から解放される日は結構早そうだと、甘すぎる愚考をすると素材を漁りつつも三人の後を着いて行くのだった。





「今日はこの位にするか」


 もはや完全に三人の養分になり下がったハイエナの群れを狩り終た三人、その頭を撫で回し本日最後の合成を行った結果。



 ウルカ

 レベル 1


 身体 60 → 118

 敏捷 55 → 131

 魔力 30 →  51



 べアーネ

 レベル 1


 身体 104 → 201

 敏捷 50 → 82

 魔力 41 → 63



 ネコロ

 レベル 1


 身体 56 → 82

 敏捷 101 → 177

 魔力 38 → 55



 一度に入る経験が増えた所為で、戦闘終了時のレベルが3~6まで上がり、合成強化の効率自体は落ちている。


 本来ならレベルが1上がる毎に細かく合成した方が良いが、流石に面倒なのでそこは妥協する。


 しかしそれを踏まえた上でも、三人のレベリング効率は初日に比べて、格段に上昇してるのは間違いなかった。



 山田は事前に鑑定したハイエナのステータスを参考に、三人の正確な強さを割り出せないか試みる。



 ハイエナ

 レベル 15


 身体 43

 敏捷 52

 魔力 38



(なるほど、三人は・・・・・・ハイエナより強い)


 結局出たのは、そんな頭の悪い言葉だった。



 ちなみに魔獣へ鑑定が出来る事は、今朝偶然ハイエナの頭に触れた時に分かった。


 鑑定が出来るという事は、合成が出来るという事。


 魔獣のステータスを合成で低下させる事が出来れば、かなり強力な切り札に成ると考えたが、合成と鑑定のスキル同時使用時の集中と時間が曲者で、普通にド頭勝ち割った方が速いという結論に至ったので、それは封印となった。



(しかし三人の実力はどの程度なのだろうか? 動きを見る限り、比沢さんより明らかに強そうだけど。・・・一度他の傭兵のステータスとか調べられないか)


 依頼でも出そうか悩むが、頭なでなでさせて下さい、そんな依頼出す方も受ける方も、どっかおかしい。


 いっその事、夜のお店にでも行こかと頭を悩ませながら、山田はギルドへ換金に向かった。





 換金額15万エンドル。


「ヤマダさーん」


「がんばりました。この子達が」


 ルビアが半泣きで叫ぶが、山田は特に気にせず答える。


 対策を講じなかった事は申し訳ない気もするが、それはそれこれはこれである。


 そもそも問題があるのはギルド側の方で、自分は何も悪くない、と合成の事を隠してる事実を棚に上げる山田だった。



「頑張らせないで下さいよ、Eランクの換金で15万なんて、絶対目立ちます。せめて半分にして下さいよー」


 半泣きで訴え、納品を減らせと強請るルビア。


 理由は分かる、不正を疑わせる伝票を残したく無いのだろう。しかし山田としても妥協できない、家に帰れば腹を空かせた子供が八人・・・・・・最低八人居るのだ。


「うう、せめてヤマダさんやその子達が高レベルなら・・・」


 ルビアはちらりと山田の傍らに控える、三人の雑種に目を向ける。


「あたいつよいよ!」


「レベルは幾つですか?」


「それは言えません」


 口を開いたウルカを抑え、山田がすかさず口を挟む。


「いいじゃないですかー、レベルさえ高ければそれで解決なんですからー!」




 山田の黙秘権に、ルビアが盛大に抗議して居ると、のしのしと男がギルド内へ入って来て大声を張り上げた。


「さわぐな!」


 ハゲた山賊がそこにいた。


「あ、ギルド長」


 ギルド長だった。



 首から上は、人を殺してきた帰りだと言われても納得な強面だが、よく見ると首から下はキチンとワイシャツを着ており、一端の文化人を気取っている。


 そんな彼は山田達の所までズカズカ歩いてくると、ルビアに鋭い視線を向ける。


「出先から帰ってみれば、何を騒いでいる」


「いえ、大した事じゃないんです。こっちの方で処理し―――


「言え」


 ガッシリ頭を鷲掴みにされ、至近距離で睨まれると、渋々ルビアは口を割った。


 低レベルのEランク一人の成果としては、在り得ない量の納品が発生し、結果として申請された書類の内容に相応しくない額の支払いが計上される事になっている。



「なるほど、書類に残すと目立つな・・・よし俺の名前で処理しとけ」


「え、いいんですか」


「ま、いいだろ。Eランクなんて半分部外者みたいなもんだしな。第一この程度の額で一々人手を割けるかよ」


 ギルド長がそう支持を出すと、ルビアはほっとした様な表情で、書類を処理していく。


 丸く収まりそうな気配に、山田が胸を撫で下ろしていると、ギルド長の視線が山田に刺さる。


「聞いての通りだが、変な勘違いはするなよ。目に余れば背後関係も調査するし、ギルドの印象も悪くなる。その辺を考えて今後は動くんだな」


 そう言い含めると彼は、二階への階段を上っていった。


(・・・え? 結局どうなったんだ?)


 なんの説明も無いので「長預かり。肩の荷が下りた」と呟きながら、ほんわかした表情で脱力しているルビアに説明を求める。



「つまり私は解放されたんです!」


「・・・はぁ」


「あ、ヤマダさんに関してはギルド長次第ですね。今後目に余ると見れば、ヤマダさんに素材を流してる方々も只では済まないでしょう。これ、一応脱税になるんで結構ヤバイですよ?」


 ビシッと指を突き付けてくるルビアに曖昧に頷くと、神妙な表情で顔を寄せて来る。


「ヤマダさん、大変な身の上なのは理解してますが、素人が犯罪なんかしても、身を亡ぼすだけですよ。お困りなら相談には乗りますから、いつでも言ってくださいね」


「あ、有難う御座います」


(好意は嬉しいけど・・・全部ソッチの勘違いなんだけど?)


 その後山田は、同情的な視線と15万を受け取り、傭兵ギルドを後にした。







「呆れましたね、殆ど出鱈目じゃないですか」


 商業ギルドの一室で、ウィンクルは山田が商会ギルドへ提出した書類を片手に呟いた。


 視線の先の机には、傭兵ギルドが持つ山田の資料が何故か置かれており、彼女はそれらにも目を通している。


「こんな申請、本来なら却下する所ですが・・・さて、どうしましょうか」



 山田の申請書は人を舐めていた、出身や経歴はどれも該当無しで、商種や資本についても的外れな記載だ、最低限の商業経験すらないのが伺える。


 なにより、明らかに自分より年下の彼が、年齢に35と書いた時には、こめかみがひくつくのを感じた程だ。


 その時は絶対落とすと決めて居たが、傭兵ギルドからの資料を見るとその考えが揺らいだ。


 不審な点が有れば落とす、当然の判断で今までだってそうして来た、しかし山田には不審な点が多すぎたのだ。



 これと言った後ろ盾が無い筈なのに、今日の傭兵ギルドへの納品量だけ見ても、一人で15万エンドルは納めている。


 それは十分にDランクに相当、現状の推移からすればそれ以上、Cランク以上の可能性すら有りうる。


「最低でもDランクの実力、又は何らかの供給原が在る。しかもギルドには明かせないような・・・・・・」


 更に彼は傭兵ギルド長とも揉めたらしい・・・つまり、傭兵ギルドと隔意の有る傭兵。


「使いようによっては、便利な人材に成りそうですね」




 実の所、商業ギルドと傭兵ギルドは仲が悪い、犬猿の仲である。


 素材の大きな供給源である傭兵を管理し、物流を牛耳ろうとする傭兵ギルド。


 金でその道理を捻じ曲げ、素材や傭兵の運用にまで影響力を及ぼす商会ギルド。


 両者は様々な分野、様々な場面で利権を争い互いを出し抜こうと、良く無い意味で切磋琢磨していた。



 そんな関係上、相手ギルドに対する手札と成り得る人材は、出来るだけ確保したい所だった。


 受付という名の面接を行った際も、非凡な印象を受け、礼儀や受け答え、言葉に混ぜた計算事にもしっかりと付いて来ており、明らかに高度な教育を受けた人間である事が伺える。


 貴族の子弟という可能性を考えると、領主との繋がりすらも見えて来るほどだ。


 さらにその実力がCランクに及ぶ可能性が有るのなら、多少の無理をしてでも商業ギルドで抱えたかった。



「そうですね・・・暫く飼って見る事に致しましょう。不要なら消えて貰えばいいのですし」


 ウィンクルは様々な要因を勘案し結論を出すと、書類に許可印を押し提出する事にする。


 これで明日には、山田と言う商人が誕生する事に成ったのであった。




「しかし年齢の件だけは見過ごせませんね」


 ウィンクルは不快気に呟くと、しなやかな指が筆を踊らせ、山田の申請書に些細な、しかし人によっては星より重い修正が加えられたのだった。

才能でも努力でも如何ともし難い壁、それは年齢。


老いも若きもそれで苦しむ。

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