14 三人の蛮族
次の日、樹海に入った山田は適当な枝を伐採し、持ち手をナイフで削ると一本の名刀を作り出した。
「今日はこの粉砕バットで戦ってもらう」
「おおーーー」
三人は山田の掲げる不細工なバットを目を輝かせて見上げ、バットを手渡されると楽しそうに振り回しはしゃぐ。
昨日は一本の剣を使い回していたので、効率が悪かったが今日は全員が棍棒を担いだ、蛮族スタイルである。
攻撃力が下がった分は手数で補い、技術の要らない棍棒の扱いやすさと上がった能力値で、昨日より効率的に回せる事を期待している。
早速探索をしていると、お馴染みのハイエナ達に出くわした、数は5匹。
山田は素早く四匹を切り捨て、残る一匹を木の枝で地面に押さえつけると、そこへ三人の蛮族が襲い掛かり、ハイエナへ三本のバットが振り下ろされると、ハイエナはそれだけで昇天した。
(長い事、騎士達と剣で訓練したいた所為で棍棒を見下していたが、十分強いな棍棒)
スタート時の装備が恵まれていた所為で、発想がセレブになっていたらしい。
狩った獲物の前で、棍棒を掲げてうほうほ喜んでいる三人を促し、次の獲物を探して歩き出す。
結果として棍棒は実に役に立った、単体の殺傷力が低く何度も壊れたが、数の暴力と高い生産性(山田ががんばる)でそれを押し潰す。
もっともこれは、非常時に山田のフォローがある事が前提であり、だからこそ信頼性の低い棍棒でも安心して運用出来たと言える。
強い傭兵を非常時の備えに使うという、採算度外視の山田達ならではの戦略である。
この日の効率は良かった。
昨日までは、魔獣を見つけ山田が一匹を残し切り捨てる、雑種の一人に武器を渡し山田がフォローしながら何とか倒す。
倒しきるまでに掛かる時間もそうだが、一回の遭遇で一匹しか三人に回せ無い事で、かなりの無駄が生じていた。
しかし今は、山田が三人に向かって一匹だけ蹴り飛ばし、魔獣が態勢を整える前に三人掛りでボコる。残りは山田が牽制し三人がボコり終わったら又一匹蹴り飛ばす。
三人掛りならハイエナを楽に倒せるように成った事で、このサイクルが完成し遭遇した魔獣を全て三人の養分に回せる様になると、前日に比べ大きな成果が上がる事になった。
この日は三人とも、十回以上の合成強化を行い、その結果一対一でもハイエナを降せるようになっていた。
ウルカ
レベル1
身体 24 → 60
敏捷 21 → 55
魔力 10 → 30
べアーネ
レベル1
身体 37 → 104
敏捷 20 → 50
魔力 18 → 41
ネコロ
レベル1
身体 28 → 56
敏捷 37 → 101
魔力 15 → 38
前日以上の成果を上げ、三人も前日以上に喜んでいる。その喜びのまま山田へ向き直ると、またもや質問が飛び出した。
「ヤマダ、ウルカはどの位強い?」
「え、ああ・・・・・・・・・・・・昨日より強いよ」
どの位と言われたも良く分からない山田は、苦し紛れにお茶を濁す。
「やったー、ウルカ昨日より強い!」
単純なウルカは、強いという言葉だけで喜んでくれたが、ネコロはジト目で見つめて来て、それをベアーネが苦笑して見守っている。
気まずい思いの中、なにか三人の成長の指針となる目安を見つけなくてはと思う山田だった。
「大漁でした」
「ヤマダさん、・・・」
受付で伝票を提出すると、ルビアが呆れたような声を出した。
前日以上の成果を上げたのは素材の採取も同様で、レベル1と雑種に有るまじきその量に、ルビアは困り顔である。
「余りあからさまにしないよう、言ったじゃないですか!」
「いや、これって全部自分達で集めた物ですけど」
「・・・・・・・・・」
暫く此方を睨んでいたかと思えば、その視線が雑種達に向く。
「そちらの雑種さん達、そんなに優秀なんですか?」
「今日も殆どこの子達が狩ってますよ」
「レベルは幾つなんですか?」
「え、教えませんけど」
素直に喋ろうとするウルカを抑え、山田が答える。
「なんでですか!」
吠えるルビア。
「それは此方のセリフです、傭兵でも無いのに教える義理は有りませんよ。それとも、この子達を登録してくれるんですか」
「う、それは・・・」
むぅと頬を膨らませて居たルビアが、それならと声を荒げる。
「せめてもう少し誤魔化す努力をして下さいよ、これじゃ監査が入った時、めんどくさい事になるじゃないですか!」
「いや、どうしろと?」
「数回に分けるとか、臨時メンバーを水増しするとか、色々あると思います」
「そうですね、次からは何か考えてみます」
適当に答える山田。
「次から・・・今からやって欲しいんですけど・・・」
尚も愚痴るルビアを促し、換金を済ませる。
11万エンドルが、山田の今日の稼ぎだった。そんな山田の耳に嘲笑の声が聞こえる。
「おいおい、11万だとよ」
「雑種まで使って必死だねー」
「哀れで見てらんねぇよ」
最近、受付から出口へ向かう間に、ギルドに居合わせている傭兵から視線を感じる様になったきていた。
特に問題も無いので無視していたのだが、その日はそんな傭兵からの物理的な接触があった。
「まてよ、おい」
声と共に数人の傭兵が山田達の前を遮る様に立ちふさがり、楽しそうにニヤ付きながら話しかけて来る。
「大変だなEランクは、雑種なんて使ってでも必死に稼がなきゃなんねーんだから。なんならウチに居れてやろうか」
「まにあってます」
山田は一言で断り、傍らを通り抜けようとするも、傭兵達は身体をずらして通り道を塞いでくる。
「おいおい、俺は先輩としてアドバイスしてやってんだぜ」
「はぁ、有難うございます」
「色々教えるから、俺達のパーティーに入れてやるよ」
「もうメンバー居ますので」
「ばーか、雑種なんか頼ってる様じゃ、まともな傭兵には成れねーんだよ」
「そうですか」
「そもそも雑種なんて気味わりーし、ザコ過ぎて使いもんになんねーだろ」
「お前よりはマシです」
「・・・は?」
(あ、適当に答えてたら、つい)
面倒臭そうに返事をしていた山田の口から、ポロリと失言が漏れると傭兵達の顔色が変わった。
「いまなんつった」
「まさか自分が一端の傭兵の積りじゃねーだろうな」
「本当の傭兵ってのを教えてやろうか」
傭兵達は怒りの表情で山田に迫り、その手が腰の獲物に伸びている。
(・・・正当防衛って此処でもあるよな)
怒れる傭兵達を見て、折角の機会なので先に手を出させる事で、被害者を気取りつつ更には鑑定もさせて貰おうと山田が考えて居ると。
「よしな! ここで無駄な揉め事を起こすんじゃないよ」
傭兵達の背後から大きな牛族の女が現れ、絡んで来た傭兵を嗜める。
「し、しかしこいつ等が」
「はいはい、そう言うのはいいから。ウチに入ったんなら、あたしの指示に従ってもらうよ」
女は口々に山田を非難する傭兵の言葉を切り捨てるが、収まりの付かない男達は尚も食い下がる。
「それは分かってるが、こいつ等は俺達をバカにしたんだぞ、ケジメくらい付けさせてもいいだろ」
「あんた等が絡んだだけじゃないか、下らない言い掛かりを付けてんじゃ無いよ」
「俺達が悪いってのか。俺らはDランクで、そいつは雑種を連れてるようなEランクなんだぞ」
「ランクが上だから偉いってんなら、Cランクのあたしに大人しく従いな」
男達の言うランクが上だから偉い理論は、この業界では其れなりに支持がある。しかしそれを持ち出すなら、目の前のCランクである牛族の女に反発している時点で、彼等の言い分が子供染みた我儘である事を示してもいた。
「そうじゃねーだろ、こーゆー時に仲間を優先できねーんじゃ、誰もついていけねーよ」
「こっちは如何してもって言うから、食うに困ったあんた等を拾ってやったんだ。別に気に食わないってんなら、今すぐ抜けて貰ってもいいんだよ」
「ち、ちがう、誰もそんな事いってないって、俺が言いたいのは口の利き方ってもんが」
「いいからもう下がりな、優しく口を使ってやるのは、これが最後だよ」
「わ、わかったよ。あんたに従う」
予想外な話の流れに焦った男達は、その言葉を聞くと慌ててその場を後にする。
しかしその目が恨みがましく山田を睨みつけて居た事に気付き、山田はめんどくさい起こりそうな予感がするのだった。
そして強引に男達を下げた牛族の女は、山田へと視線と向けるとそのまま歩み寄ってくる。
目の前に立った牛族の女は、身長が山田より頭一つデカく、さらに一部がとても大きい。
腕や背中、下半身が毛に覆われており、頭の横からニョッキリ角が生えているが、基本的にキレイなお姉さんだった。そして大きい。
その大きい牛族の女は、更にグイグイと近づいて来ると、息が掛かる程の距離まで詰め寄り、間近から山田を見下ろしてくる。
「すまないね、うちはガラが悪いのが多くてさ」
彼女は肩越しに親指でクイッと背後を指し示す。見ると奥のテーブルに先程の傭兵以外にも、数名のガラの悪そうな傭兵が控えていのが見えた。
取り敢えず面倒事が去ったとのならばと、山田は此方も詫びてさっさとお家へ帰る事にする。
「いえ、此方こそ失礼をしてしまい、すいませんでした」
「あたしはシャジィル、あいつ等を仕切ってる」
「山田と言います、宜しく願いします」
此方からも挨拶を返すと、シャジィルが手を伸ばして握手を求めて来るので、此方からも手を差し出す。
「こちらこそっと」
シャジィルは言葉と共に、此方の手をガッチリと握り込んでしまった。親指ごと五本の指をまとめて。
(・・・握手じゃないし)
「でも雑種を食い潰して傭兵気取りなんざ、子供のお遊びにしても目障りに過ぎるねぇ」
シャジィルの手にギリギリ音が鳴る程、力が込められ始めると周囲の傭兵に、いやらしい笑みが浮かぶ。
手に掛かる圧力が高まって来るが、こんな握り方じゃ山田に出来るは無いので、言い訳でもするかと口を開いた。
「ギルドが登録してくれないので臨時扱いですが、私としてはこの子達は正式なパーティーメンバーの積りです」
「は、雑種が正式にメンバー? 人間様の言葉とは思えないね」
「私としては、獣族が雑種へ偏見を持っている事が意外ですが」
「へぇ、獣族は雑種と同類だって? そう言いたいのかい、あんたは」
侮辱されたと感じたシャジィルは、山田の顔を苦痛に歪めようと、更なる圧力で締め付けて来るが、能力差により山田の顔か苦痛に歪む事は無かった。
平静を崩さない山田にムキになって力を籠めるが、シャジィルの思惑に反し目の前の人間の表情を変える事は無い。
「貴方たち獣族が人間と共に生きられるなら、より近い雑種と共に生きられない理由は無い。そう思っただけです」
ちょっとカッコ悪いが両手を使うかとシャジィル悩み始めた頃、力みに震える牛耳に山田のそんな言葉が届いた。
その言葉を聞いたシャジィルは、ぎゅっぎゅっとその手を握りこんだまま、しばし無言で山田を睨みつける。
それは彼女に取って予想外の言葉であり、その真意を測りかねる言葉であり、人間を父に持つ彼女の心情に響くに値する意味を内包していた。
視線を下ろすと三人の小さな雑種達は、目の前の人間を心配そうに見つめており、両者の間にしっかりとした絆を感じさせる。
始め見時は碌な装備もさて居ない様子から、使い捨て然とした印象を受けたが、間近で彼らを見るとその実態は家族のようでもあった。
程なくしてシャジィルの顔に笑顔が戻ると 山田の手に掛かる圧力も消え失せた。
「なるほど、取り敢えず只者じゃない事は分かった。雑種に関してもあたしの勘違いらしい」
悪い悪いと山田の肩に手を置き笑う姿に、申し訳なさそうな気配は微塵もない。
「うちのバカが迷惑かけたからね、なんか困った事があればあたしのトコに来な。相談くらいは乗ってやるよ」
迷惑はあんたもなんだがと思う山田を他所に、シャジィルは身を屈めウルカ達に向き直る。
「そっちのちっこいガキ共も、なんかあれば言ってきな」
「わかったおっきいおっぱい」
山田が故意に意識から消していた事柄に、ウルカが容易く触れる。
日本人としては公の場でその様な発言をすると、社会的に終り兼ねない事を知っている山田に緊張が走る。
「あはははは。じゃあ、またな」
しかしシャジィルは特に気にした様子も無くギルドを出た行った。
しかし山田は色々と気にした。挨拶とセクハラの違いを知らないウルカに、将来への不安をひしひし感じるのだ。
(もしかして、この子達の情操教育って俺の責任の範疇に入るんじゃ?・・・)
今後の責任問題に於いて、更なる課題が増えた事に頭を悩ます山田だが、そこに性教育が加わる悪夢を、彼はまだ知らなかった。
牛ならデカいに決まってる。




