13 我儘言わない子供達
準備を整えた山田達は樹海の中で獲物を探し出し、レベル上げに勤しんでいた。
「よし、ウルカ来い」
「うりゃーーー!」
遭遇したハイエナ三匹の内、山田は二匹を切り捨てその場に剣を落とすと、先が二股に分かれた大きな木の枝でハイエナを押さえつける、そこへウルカが剣を振るって参戦。
山田が動きを封じたハイエナを、ウルカがチクチク攻撃する、かつての騎士達と行った山田のレベル上げと同じスタイルだ。
「はぁはぁ、やった!ヤマダ、倒した!」
上質な剣を使っても尚、ようやくハイエナを倒したウルカは嬉しそうに声を上げ、そこに他の二人も加わると、三人仲良くきゃいきゃい喜び合っている。
そんなウルカを褒めながら、山田はステータスの確認を促す。
「ヤマダすごい!、レベルが3になってる!」
「おーすごいすごい」
興奮した声ではしゃぐウルカの頭をよしよし撫でながら、鑑定強化タイム。
ウルカ
レベル3 → 1
身体 11 → 13
敏捷 14
魔力 7
今回の戦闘で山田は、動きを止めるためにハイエナへダメージを与えたが、止めを刺したウルカもそれなりに経験は得られてる。
効率が良いとは言えないが、真面な武器が一つしかない現状で安全に戦えるのだから、今はこれで良いと考えていた。
ちなみに現在の装備は
山田 木の枝
ウルカ 騎士の剣
べアーネ 岩
ネコロ 鞄
となっており、防具の類は一切ない。
ウルカの番は終わったので剣を受け取ると、残り二人へ視線を移す。ベアーネもネコロも、早く自分も試したいとソワソワして居るのが良く分かった。
「さて次は誰から行くか」
さっとネコロの手を上がる、べアーネの手も一瞬上がりかけたが直ぐに下ろされていた。
(ほんとべアーネはええ子やな)
べアーネの頭をなでなでしながら、ネコロに剣を手渡すと鼻息も荒く、早速獲物を探して徘徊を始めてしまのだった。
―――その後も狩は順調に進み、ウルカとべアーネが四回、ネコロは三回の合成強化を行った。
ウルカ
レベル1
身体 24
敏捷 21
魔力 10
べアーネ
レベル1
身体 37
敏捷 20
魔力 18
ネコロ
レベル1
身体 28
敏捷 37
魔力 15
日はまだ高いが以上の結果を持って、本日の強化は終了とする。
帰り道、自分達は強くなった?なったんか? と聞いて来る三人にレベル10だったネコロのステータスを参考として、全員の強さがレベル13以上はあると伝えると凄く喜んでいて居た。しかし自分の場合と比較すると、彼女達はかなりレベルが上がりにくく、雑種の成長率の悪さを実感する結果にもなった。
(俺の場合と比べレベルの上がり方が半分以下って所か、せめて装備が整えばもう少し効率化出来るんだが・・・)
三人に剣を持たせて攻撃させれば、更に早く止めを刺せるし、山田の補助無しで勝てる様になれば、一気に効率も上がる筈であったが無い袖は振れない。
(今日の換金したお金で、少し店でも回るか)
手に入るお金に期待を託すと、四人は連れ立って街への帰路についた。
街の入り口付近にある傭兵ギルドの集積所で、今日の成果の査定を済ませると、受け取った伝票をもってギルドへ向かう。
相変わらず人の少ないギルド内で今日は三つの受付が動いている、山田は何時もの受付嬢の元に向かうと伝票を渡す。
「換金をお願いします」
「えーと、これは全部ヤマダさんのパーティーの成果なんですか?」
通行証と共に受け取った伝票に目を通した受付嬢は、暫し沈黙すると不審そうな声を出した。
「ヤマダさん、届け出の無い第三者から成果物を受け取っての換金が、禁止されてる事は知ってますよね」
(しらんがな)
規約の説明されて無いやんと思いつつも、山田としては要らんペナルティーなんて御免なので、事情の説明を行う。
「と、取り合えず、その成果物は全部うち成果ですが」
「ホントですかー、レベル1の山田さんと雑種さんだけでは難しいと思うんですけどー」
受付は物凄い疑わし気な視線を投げかけて、山田の言い分を信用せず、二人の間ではしばらく、ウソだウソだホントホントの応酬が続いたが最終的に受付が折れた。
「・・・わかりました。でも余り度が過ぎると、調査が入るかも知れませんのでご注意くださいね」
全然わかってくれて無い気がしたが、取り合えず換金は無事に終了した。
山田達のこの日の稼ぎは6万エンドル、昨日の三倍の額である。
「装備を整えよう」
気を良くした山田は、早速そう言うと三人を連れて通りへ繰り出し、品揃え良さそうな店を選ぶと店内に足を運んだ。
「おーかっけー」
「ふむふむ、これは良い物だ」
店内に入ると早速ウルカやネコロが、ピカピカの部分鎧を前にしてはしゃいでいる。
「すごい、おおきいです」
ベアーネに至っては、全身鎧を見上げ目をキラキラさせていた。
(ベアーネさん、それ絶対買えないからね・・・)
店内を楽しそうに見て回る、そんな三人を山田が微笑ましくも困った様に眺めて居ると、店の奥から店主らしき男がやってくる。
「お客さん、雑種を店内に入れないで下さいよ」
「・・・しかし、実際に使う者が居ないと選ぶのに不便じゃないですか」
「ちょっと待ってくれ、使うのはソコの雑種共か?」
「そうだけど何か問題でも」
その言葉で途端に店長が顔を不快そうに歪める。
「冗談じゃない。うちの商品を雑種なんかに使われたら、看板に傷が付いちまう」
「は、意味わからん」
店長がふざけんな的な視線を投げかけ、山田がなによそれ的な視線で見返すと、店長は表の看板を指示した。
「そこの看板が見えねーのか、ウチはブランド工房の直売店だぞ」
その偉そうな口振りに山田も負けすに言い返す。
「ブランド工房とか知りませんがなにか」
「なに!ブランド工房を知らないとか、何処の田舎もんだ。・・・おまえランクは?」
山田の言葉で何かを察したらしい店長が、バカにした様な声色で山田に投げかける。
「Eです」
「出て行け貧乏人が、ココにお前が手に出来る防具は無いわい」
「金なら6万ある」
金なら有るとばかりに堂々と告げる山田を、店長が鼻で笑い飛ばす。
「ウチは最低でも150万からだぞ」
山田は逃げ出した。
「この分じゃ真面な防具は難しいな」
三人を連れて店から出て来た山田は、店長云々より防具のそのものの値段に頭を悩ませていた。
「ごめんねヤマダ、あたい防具要らないから」
「私も欲しくありません」
「じゃま」
悩める山田を目にした三人から、子供ながらに申し訳無さそうな声が掛けられる。
手作りで何とか防具を作って装備して居た三人が。店内であんなに嬉しそうに鎧を見ていた三人が。この期に及んでそんな事と言って来る。
(・・・物分かり良すぎて不憫になってくるな)
山田は自分の甲斐性の無さの所為で、三人にこんな思いをさせてしまい、申し訳無く思うと同時にお金の大切さを痛感した。
悶々とお金の事を考える山田の脳裏に、商会ギルドの存在が浮かぶと、金策の為にも一度訪ねる必要が有りそうだと思い至る。
さっそく商会ギルドへ向かうと決めた山田に、三人には付いて来たがったが先程の件もある、可哀そうだが難しい話をするからと三人には、広場で買い食いでもして待ってて貰う事にした。
基本お金は山田が一括して預かっているが、三人もお小遣い的にお金を持たされているので、彼女達は目を輝かせて屋台に向かって駆けていった。
街の中心、領主館を挟んで傭兵ギルドの反対側の立地に、商会ギルドは在った。
傭兵ギルドに比べ窓が多く開放的な印象で、中に入ると銀行の様な作りになっており、沢山の椅子が並びその奥に複数の受付が有る。
空いている受付に向かい登録したい旨を伝えると、27と書かれた受付札を渡されたので、適当な椅子に座り待つ事にする。
「27番のお客様、会議室にご案内いたします」
しばらくすると受付から女性が現れ案内を告げる、山田はその女性に従い個室に通されると女性が挨拶を始めた。
「初めまして、わたくし商会ギルド職員のウィンクルと申します。どうぞよろしくお願いします」
「あ、山田といいます。こちらこそよろしくお願いします」
お互い頭を下げ、促されるまま席に着く。
「本日は当ギルドへのご登録をご希望との事ですが、詳しい説明は必要でしょうか」
当然聞く事にして、山田は規約の説明やシステムに付いて説明を受けた。
説明を聞き山田が把握した情報としては、登録するとEランクのギルド証の発行に伴い、依頼の発注受注、商業に関する相談、ギルドを通しての売買が可能となるらしい。
商業権の申請をすると、登録料、年会費、税金の納付義務と引き換えに、Dランクへの昇格と商業権が得られる。
商業ギルドへの貢献が認められれば、Cランクへの昇進と議決権が得られ、ギルドでの会議に出席が認められる。
A、Bランクは、規模や発言力の多寡、更にはコネや家柄の世界、下手すると国家規模の話になってくるので山田とは縁の無い世界であった。
山田は商業権に興味を引かれた、これが有ればギルドを通さず一般市民相手に商売が出来る。
つまりいけ好かない商人を通さず、直接防具職人と取引が可能になる。
しかし年会費と税金、この辺りがネックになった、税金に無縁だった山田にその辺りを上手く熟せる自信は無かった。
もっとも素材を買い取って貰えるだけでも有難い話なので、登録だけはする事にする。
「審査の上、登録の可否は三日後に確定致します。その際は1万エンドルの登録料が必要に成る事を合わせてご理解下さい」
(え?、三日も待つのか)
山田が書いた申請書を受け取ると、ウィンクルが予想外な言葉を発した。
「情報の精査に必要なお時間とご理解下さい」
その動揺を読み取ったのか、何時もの事なのかウィンクルは事務的に言葉を発した。
そんな傭兵ギルドと何もかも違う対応に、山田の額に焦りの汗が浮かぶ。
(書類の内容とか調べるのか! 出身地に江戸って書いたのは不味いか? いや年齢35は無理があったかも、しかし社会的信用を得るにはその位あった方が―――まて、前歴にコンビニ商会勤務って書いてしまった、これはバレる登記を調べられたら、そんな商会は無いって確実にバレる! くそ、傭兵ギルドはあんな適当だったのに!)
傭兵ギルドがアレだったので、その場凌ぎに適当にそれっぽく書いた事を今更ながらに焦りだす。
「いかがなさいましたか?」
「・・・いえ。では三日後にまた伺わせて頂きます」
山田は内心の動揺を隠しつつ、ビジネススマイルで返すと席を立つ。
「またのご利用をお待ちしております」
深々お辞儀をするウィンクルに見送られ、こらあかんかもしらんと思いつつも平静を装い、山田は商会ギルドを後にした。
(・・・・・・・・・・・・まぁなる様になるか)
―――見上げた空は今日も青かった。
空の青さを堪能した山田は、広場の三人の下に帰る前に武具店のを見て回る事にする。
先程と違い、雑貨屋といった雰囲気の、敷居の低そうな店を選んで入る。
「店長、一番安い武器はどれですか」
「そこに纏めてあるナイフが、一つ1万エンドルだよ」
(高いな、それに幾ら何でも小さすぎる、突進する猪でも刺したら手首がどうかなりそうだ)
使えない武器なぞ意味が無い、ここは全員分は諦めてもう少しマシな武器を一つ購入しようと、手頃な剣を手にする。
「これは?」
「そいつは50万だな」
そっと剣を元の位置に戻す。
そんな山田に何かを察したの、たしなめる様に店長が口を開く。
「あんた駆け出しかい? 悪い事は言わねえ、無理せずどっかのパーティーでも頼りな」
「いや、パーティーはもう入ってるんですけど、仲間の武器を集めてるんです」
「おっとそうなのか。―――ん? ちょっとその腰のもん見せてくれよ」
興味深そうな店主の声に応え、腰の剣を鞘ごとカウンターに置いた。
「ほーこいつは・・・どうだ、200万出すから譲ってくれないか。代わりの武器としてさっきの剣も付けるぞ」
「いや、コイツは俺のお気に入りだから」
「む・・・そうか、残念だがしょーがねぇな。武器ってのは相性が一番だからな」
今日一日木の枝で戦った山田なわけだが、ヤバイ相手が出た時のため、戦闘力を落とす行為は避けたかった。
「しっかし良い剣じゃないか。俺の若い時は、駆け出しは皆棍棒だったんだがねぇ。時代ってやつかい」
「棍棒あるんですか」
「いやいや昔の話さ、今時棍棒なんてゴロツキだって使わねぇよ」
「そうか昔は棍棒の時代だったのか。・・・このナイフ下さい」
「いや、昔も棍棒の時代とか無いからな。戦闘中壊れたりするから評判はすこぶる―――って聞いてるか?」
店長の声を右から左、山田は上の空でナイフを一本だけ購入すると、店を出て広場に向かう、この時山田の頭には武器なら棍棒作ればいいじゃない、と言う実に浅い考えで一杯だった。
「お腹が一杯になったら直ぐ寝るとか・・・」
山田が棍棒棍棒言いながら広場に戻ると、待ち草臥れたのか三人はベンチの上で折り重なるようにして居眠りをしていた。仕方が無いので頭を撫でる
装備に関しては一応当面の見通しは立てた、というか色々諦めて、お金を貯めてから改めて検討する事になった。
(商業権を得れば、職人と直接取引出来るかも知れないし、割高になるだろうがギルドに依頼を出す事で、装備を整えるのもいいかもしれない。しかし当面は・・・棍棒だ)
取り合えず明日はこの子達を蛮族にすべく、山田は棍棒を量産する事を決意したのだった。
そして三人が起きるまで頭を撫で続けたのだった。




