'PARTS' 6 提案と告白
「さて、本題だ。お前ら、俺を雇う気はないか?」
「・・つまり、戦力が落ちてる俺達が街に着くまで、同行してやるってことか? 報酬は?」
「正直、メチャクチャありがたいんだけど、俺達、あんまり金なんてないぞ?」
「そうだよなぁ。今回の依頼は完全に失敗だし」
「そっすね~。タカみたいに強い人が護衛するってなったら、ボク達じゃ護衛料払える気がしないっす。負けてくれるっすか?」
渋い顔で言うカイト少年に続いて、肩を落としながら言うダイン、レジィと、期待感全開で言うウィシィ。
「バカ!! いきなり負けてくれとか言えるか!! もう既に助けてもらってんだぞ!!」
「こんなにいい毛皮のマントまでもらってしまってますしね・・」
「ん。体で払う?」
「そっ、そういうこと!?」
「させるか!! そんなこと、絶対に俺が「ストップストップ」」
ミリエラの言葉に、シェリーが顔を赤くして、カイト少年が激昂し始めたところで、タカは言葉を遮る。
「んな報酬求めるとか、俺はどんだけ外道なんだよ」
「んじゃ、やっぱり負けてくれるっすか?」
「・・お前に言われると、なんか無報酬でもいいかなぁとか思っちまいそうで怖いから、ちょっと黙ろうか?」
「ほんとっすか!? それならバンバン喋るっすよ!!」
「むぅ。やっぱり男の子が「止めろ」違うの?」
「断固否定する。で、だ。俺が欲しい報酬は、情報と知識の2つだ」
タカの言葉に、少年少女達は揃って首を傾げる。
「メッチャ強くて、いろんな感じにおっかないタカが欲しい情報とか、ボク達が持ってるとも思えないっすよ?」
「ウィシィ。お前、なんかいきなり遠慮なくなったなぁ・・まぁ、いい。実は、俺は最近ここに来たばかりでな。この辺の地理も街の情報も、ついでに、この辺りの魔物や魔獣の知識もない。ぶっちゃけた話をすりゃ、この国での生活に関する常識も持ってない。だから、お前らを街まで送る間に、色々教えてほしいんだよ。金稼ぎの方法とか宿の取り方とか、そういう当たり前のことをな」
詳細は伏せたままで、事実を口にするタカ。
実際に、タカはこの世界に来たばかりで、この世界の常識を始めとして、あらゆる知識と情報がない。ドロップアイテムは、とりあえずは金になるだろうと拾っておいたものの、どこに売ればいいかも分からず、拠点を宿にするにしても、どういう手続きが必要なのかも不明。当然、頼りにできる者もいない。'MAGICIANS ONLINE'に酷似しているという点で、ある程度はなんとかなるかもしれないとは考えてはいたが、やはり知らないということは、無用なトラブルの引き金になりかねないとも考えていた。
なので、この少年少女達を放っておくのは寝覚めが悪いという気持ちもあり、どうせなら、情報源として利用することを思い付いたのである。駆けつけたときには考えてもいなかったが、結果としては恩を売った状況であるというのも、自分にとって有利な点だと考えてのことだ。命を救われて、帰りの安全を確保してくれるという相手に、嘘を教えたり適当なことを言ったりはしないだろうから。
「・・それだけでいいのか? 条件としちゃ、俺達にとって都合が良すぎて気味がワリィくらいだ。言っとくが、ミリエラの冗談を真に受けてんなら」
「だーかーらぁ、俺はそこまで外道じゃないっての。第一、そういうのが目的なら、わざわざ交渉する意味があると思うか? 魔法を1発ブチかませば、お前ら全員数秒もありゃ雑草の肥料だぞ?」
タカの言葉に、グッと拳を握り締め、悔しそうな表情を浮かべて目を逸らすカイト少年。
「それに、お前らにとっては簡単な条件なんだろうけど、何も知らない俺にとっては、常識とか基本的な街での生活の知識とかは死活問題になりかねない重要な情報だぞ? 特に、金儲けの手段なんかは。下手すりゃ、騙されて身ぐるみ剥がされた挙げ句に行き倒れだ。自慢にもならんが、本気で物を知らんぞ? 俺は」
自信満々に自分の無知を語るタカに、何人かが堪えきれなくなったように噴き出してしまう。
「あははははっ。そんなに自信たっぷりに何も知らないなんて言う人、初めて見た~っ」
「なんつーか、タカさんって馬鹿正直な感じだなぁ」
「無知は恥じることじゃない。無知のままで知ろうとしない、学ぼうとしないことが恥なんだ、ってのが持論でな。教えを乞おうとするなら、自分が何を知らないのか、何を分かってないのかを素直に認めなきゃ始まらんだろ?」
「・・・確かに。それはタカさんの言う通りだと思います」
「ん。知ったかぶり程意味のないものはない」
「・・・なんだろ。タカって、なんかカッコイイな」
「俺達とそんなに歳は変わらねぇよなぁ? なんかスッゲェ大人って感じだけど」
「は? 歳が変わらないって、お前ら一体いくつだよ?」
「1番年上はカイトで、17っす。んで、ミリエラとルグが1番年下の15っすよ。ちなみに、ボクは16っす!」
「・・・俺の半分程度の歳じゃねぇか」
「「「「は?」」」」
「・・何言ってやがる。そのツラで40手前だとか言うつもりか?」
タカの言葉に、全員が一斉に間の抜けた声を出し、訝しげな顔でカイト少年が指摘の言葉を口にする。その言葉に、タカは首を傾げる。
ーーどういうことだ? 俺は間違っても若く見られるような顔じゃない筈・・・いや、待てよ? 'MAGICIANS ONLINE'では、標準の年齢設定が15歳だったよな? んで、ゲーム内の設定時間じゃ、女神様に呼ばれる呼び名を最高ランクに上げるまでメインクエストを進めるのに掛かる時間は5年だった筈。んで、メインクエストの進行具合によって、アバターの年齢も加算されていってた。俺はとっくに最高ランクの呼び名に到達してたけど、そこからアバターの年齢が変わるなんてことはなかった、よな・・・つまり、まさか・・・ーー
「【反射防壁】」
嫌な予感と共に、物理・魔法の両攻撃を反射する魔法を発動させるタカ。しかし、その目的は、鏡面のような魔法のエフェクトそのもの。
そして、その予感は的中する。
ーー若返ってるぅぅぅぅっ!? 見た目、20代前半の頃の俺そのまんまじゃねぇか!? アバターの見た目ならともかく、本来の俺の姿で若返ってるって、これもサービスですか!? 女神様!? できれば、そういうのは前以て教えといてほしかったです!! この見た目で40手前みたいな発言してたら、少年じゃなくても不審に思うわ!!ーー
「・・・誰が見た目年齢の話してる。精神年齢の話だっつーの。気になる女の子のことになるとすぐに冷静さを無くすよーなガキが、俺の半分も成熟してるつもりか?」
「な゛っっっっ!?」
「はははははっ。確かに、カイトはシェリー達のことになると、すぐにムキになるもんなぁ」
「そーだなぁ。そこは否定できねーよなー」
「おっ、お前らぁぁぁぁぁっ!!」
からかってくる仲間の言葉に、真っ赤になって怒鳴り声をあげるカイト少年。
「ほれ、そーゆートコだってんだよ。サラッと流すくらいの度量を見せろ」
「ぐっ・・・」
歯を食い縛って、俯くカイト少年。その肩はプルプルと震えている。
ーー許せ、少年。咄嗟に誤魔化す手段が他に浮かばんかったんだーー
胸中でカイト少年に詫びながらも、フォローは入れるつもりがないタカ。大概酷い話である。
「んで? 話がちょいと逸れたけど、この条件飲むか? それとも、自分達だけで街に戻るか?」
「ん。迷う理由も悩む理由もない」
「そっすね~。タカがいなくても、運が良かったら街には帰れるかもしれないっすけど、ボクはもうちょっとタカといたいっす」
「まぁ、心強いのは間違いないし、条件は破格だしな」
「というか、ウィシィは妙にタカさんに懐いたな? 俺も同行してもらうのは賛成だけど」
「タカはなんか兄ちゃんみたいっすから。なんか、傍にいるとホッとするっす」
「まぁ、それは分からなくもないよ。俺もタカは頼りになると思う。実際に、ウソみたいに強いし」
「レジィに同じく」
「あたしも、タカに一緒にきてもらえたら安心かなぁ」
「ん。同意。できれば、このままパーティーに入って、ずっと一緒にいてほしい」
「ミリエラはなんだか、タカさんを凄く気に入ってませんか?」
「ん。一目惚れ」
「「「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
タカを含む全員の驚きの声が重なる。カイト少年は面白いくらいに動揺して、1人だけ立ち上がっていたりする。
「え? ちょ、待っ、え? マジで? ミリエラ?」
「マジでか!? だから、なんか珍しいくらいにグイグイいってんのか!?」
「タカさんがウィシィを構ってたら、妙に食い付くと思ったけど・・」
「いや、待て。ミリエラ。おっさんをからかうな。そういうこと言われたことないから、反応に困る。いや、マジで」
「え? タカって、恋人とかいないの?」
「いねぇよいたこともねぇよ分かりきったこと聞くんじゃねぇよ泣くぞコラ」
「うわ・・・凄くマジだ。嘘みたい」
「ん。見る目がない連中に感謝。だから、一緒に来てほしい。できれば、皆とも別れたくない」
「俺、俺達と別れてでもタカと行くつもりなのか!?」
「そうしたくないから、お願いしてる。あの街から皆で一緒に出て、ここまで来た。家族も同然。だけど、タカも離したくない」
詰め寄って激しく問い掛けるも、ミリエラに淡々と返答されてしまい、カイト少年は四つん這いになって項垂れてしまう。
「ん"~。ボクもミリエラとお別れになるのは嫌っす。それに、タカもいてくれたら、ボクは嬉しいっす。というか、お別れ言われたら、間違いなく泣くっすよ?」
「・・・なぁ? タカさんよ? この2人がこう言ってることだし、とりあえずは、街に着くまで考えてみてくれないか?」
「そ、そうだな。急展開過ぎて、ビックリしまくってるけど、頼りになるアニキが一緒に来てくれたら安心だし、俺は歓迎するぜ?」
「いや、だから、考えてもらおうってんだよ。この人の実力と俺達とじゃ、明らかに吊り合ってない。決定権は、タカさんにあるだろ?」
「あ、そっか。それもそうだよな」
「んで、先に聞いとくけど、タカさんがパーティーに加入してくれるかもしれないってことに反対の奴はいるか?」
「はんたっ!?」
カイト少年がバッと起き上がって、何事か叫ぶように訴えようとしたが、言い切る前に、レジィとルグの2人がカイト少年を抑え込んで、口を塞ぐ。
「よーしよし。カイトは冷静になるまで黙ってような」
「気の毒だとは思うけど、ここは感情的になっていいところじゃないよ。ミリエラがいなくなっちゃうかもしれないんだ」
レジィとルグが暴れるカイトを、代わる代わる諭し始める。
「・・なんつーか、見事な連携だな。少年はよくあんな感じに感情的になって暴走するのか? ダイン」
「ああ。だから、レジィとルグの2人が止めて、そのときの交渉役とか仕切り役は俺がやってる」
「ふぅん。ダインは参謀、もしくはサブリーダー的な感じか。んで、少年がカリスマ的なモンで皆を引っ張ってってる、と」
タカの言葉に、目を丸くするダイン。
「・・意外だな。こういう場面を見られると、ほとんどの人は俺がリーダーをすればいいとか言ってくるのに」
「リーダーって役割には、どうしても当人の素質が影響してくるからなぁ。ダインじゃアイツのフォローはできても、代わりはできないってトコだろ?」
ダインはその言葉に苦笑を洩らす。
「お見通しってわけだ。こりゃ、精神的に半分しか成長してないって言われても仕方ないのかもなぁ。アンタ、大人過ぎるよ。これまでに会った大人達の誰よりも」
ダインの苦笑混じりの言葉に、苦笑いを返すタカ。
ーー実年齢はもうすぐ36だからなぁ。見た目とのギャップで、そりゃ余計に大人に感じるんだろーさ。詐欺みたいなモンだけど、勘弁してくれーー
そんなことを思っていると、不意に背中に柔らかい感触が伝わってきて、それと同時に腕が首に巻き付いてくる。
「をぅ?」
「タカ。ダインの言う通り、街に着くまで本気で考えてほしい。私も、それまでに覚悟をきっちりと決める」
「ミ、ミリエラ・・ハァ・・分かったよ。でも、明るくなってからガッカリしてくれんなよ? 流石に傷付くからな? せめて、顔には出すなよ?」
「ん? それは、容姿に自信がないという意味?」
「それだけじゃねぇよ。寝て起きたら、冷静にもなるだろうからな。俺はお前みたいに、利発でやたらと可愛らしい女の子に好かれるような大層な人間じゃないんだから」
タカがそう言うと、ミリエラのタカに抱きつく腕にギュッと力が入る。
「私は感情を表現するのが苦手。可愛らしいとか言われたことがない。それは殺し文句。口説いてくれてる?」
「アホ。見たまま、感じたまんま言っただけだ。こんなので殺し文句とか言ってたら、クソみたいな男に騙されるぞ? 自分の魅力はちゃんと理解しとけ」
そう言われて、ますます抱きつく力が強くなり、タカの肩に顔を埋めてしまうミリエラ。
タカには本気で口説いているつもりはない。というか、口説くという発想が皆無なのだ。
何せ、ミリエラはとてつもなく可愛い女の子だ。タカとの実年齢差は大きいが、それでも、タカが突然の告白に動揺して意識する程に整った容姿をしているのだ。肩口よりも少し伸ばした深く濃い紫の髪、パッチリした髪と同じ色の瞳、薄い唇。それらが見事なバランスで調和しており、日本のトップアイドルが裸足で逃げ出すレベルである。また、やや幼さが残っているが、日本のような温い環境で育った同年齢の女子とは大きく違う大人びた雰囲気は、容易に子ども扱いすることを躊躇わせる。まだ女性的な膨らみが大きく不足しているが、年齢的に考えれば、そう気になる程のものでもない。
そんな子に、自分のような、アラフォーの仕事以外は引き籠っていたオタクが想いを寄せられるなど、吊り橋効果的な何かか、もしくは暗闇がもたらした勘違いしか有り得ない、と普通に思っている。なので、口説くとかそういう以前の話なのだ。
女性経験の無さを拗らせ過ぎた男の、末期的な悲しい感覚である。
それ故に、こうして抱きつかれているのも、襲われかけた恐怖を紛らわせていると考える。なので、自分の動揺などは置いておいて、ミリエラの頭を撫でたりが普通にできてしまう。余所から見れば、女慣れした女誑しにしか見えないだろうが。
誤解というものは、こうやって生まれていくのかもしれない。




