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'PARTS' 5 本題に入る前の準備

「ふわぁぁ・・凄いっすね~。もうどこを怪我してたのか、全然分からないっすよ」

「そんな軽い反応で済ませられるレベルじゃないだろ!? こんな人数の怪我をこんな短い時間で、しかも、また詠唱ナシで魔法使ってたんだぞ!?」


狼人族の少年の単純な感心の言葉に、カイト少年は苛立ち紛れに怒鳴りつける。


「なんで怒ってるっすか? カイト。この人、怪我を治してくれたっすよ?」

「だからっ!! その手段がおかしいってんだよ!! もうお前は黙ってろ!! バカなんだから!!」


さらに怒鳴られて、不満そうに口をつぐむ狼人族の少年。そこに、タカのデコピンがカイト少年の額に炸裂した。空気を破裂させたような派手な音を立てて。


「ぬぐぅぁっ!?」


ワケの分からない悲鳴を上げて、踞るカイト少年。


「ったく・・少年。状況を冷静に判断して口を開けよ? さっきまでの状況を打開して、治療をしたのは誰だ? んで、それをした相手との実力差を考えろ。俺は別に構わんが、今の言い方はせっかく助けてくれた相手を敵に回しかねないぞ? そうなったときに、少年は皆を助けられるか?」

「ぐ・・・」


悔しげに目を逸らすカイト少年に、目を細めるタカ。


「ん。そこで考えナシに、やれる!とか言われなくてよかったよ。泣くまで全力のデコピン食らわせて、現実を直視させる手間が省けた」

「「「「よかったって、そこが!?」」」」


タカの無慈悲な言葉に、少年少女達のツッコミが見事に揃う。


「いや、だって、現実を見れない、夢見がちな若者の目を現実に向けさせるのは年長者の務めだろ? あと、バカガキには手加減とか優しさは不要だと思ってるし。そこのワンコみたいなアホ可愛いのは別として」

「だから、ワンコ言うなっす!! 狼人族っすよ!? 狼っすよ!? ついでに、ボクはウィシィっす!! あと、助けてくれてありがとっす!!」


ウィシィの言葉に、ハッと気付いたようにして、口々に礼の言葉と自己紹介を述べていく少年少女達。カイト少年はブスッとした顔で頬杖をついてそっぽを向いているが、ボソッと礼を口にした。素直ではないが、悪い子ではないようである。


「どーいたしまして。んで、女の子達の格好が格好だ。何とかしてやりたいんだけど、予備の服とか持ってたりしないのか?」

「そんな余裕、誰にもない。私達はまだ駆け出し」


ミリエラの返答に、やっぱりかと嘆息するタカ。



ーーさて、どうしたもんか。このまま放っていくのも寝覚めが悪い。武器を壊されたのかなくしたのか、鞘だけ腰にぶら下げてる奴が大半。女子3人は鎧どころか、服すらないから、何かあったらマトモに動けんだろうからなぁーー



「・・・ねぇ? 今気付いたんだけど・・・これって、グリーンウルフの毛皮、じゃない?」

「・・確かに。売られてた毛皮のマントに、手触りがそっくり」

「ま、まさかぁ・・・耐刃、耐魔、耐冷の付いた、超高級品ですよ? 1つ、5000レーベするんですよ? 私達全員の1ヶ月分の生活費がこれ1枚で賄えてしまうんですよ? そんな物を、こんな無造作に・・・」

「ご、5000レーベっすか!? それだけあったら、おもいっきり肉食べてもオッケーっすよね!?」

「けっ。有り得るかっての。そもそも、グリーンウルフはランクBの魔物だぞ?」

「で、でも、お兄さん、物凄く強くて格好よかったよ? もしかしたら、凄く高ランクの冒険者なのかも・・」

「カッコッッッッ・・・・ぜっっっっっったいに無いね!!! そうだとしたら、装備が貧相過ぎだし、冒険者にしちゃ、荷物が少な過ぎる!!」


シェリーの言葉に、と言うか、言葉の一部分に強烈な拒否反応が出てしまい、全否定の構えに入るカイト少年。だが、事実のみを口にして、敵対するようなことを口にしない辺りに、彼の性根の素直さが出ているとも取れる。本人は断固否定するだろうが。




ザワザワと騒ぐ少年少女達を尻目に、少しの間黙考していたタカは不意にパンパンと手を叩く。


「お前ら、ちょい注目」


タカの言葉に、全員が口を閉じて顔を向ける。カイト少年は腕を組んでそっぽを向いているが、そこはスルーして話を始めることにするタカ。


「まずは、俺の自己紹介をしとこうか。お前らの名前は教えてもらったしな。俺はタカ。まぁ、流れ者の根無し草だ。さっきも見せた通り、ちょいと特殊な魔法を使うけど、詳細は秘密。手札は伏せとくもんだろ? んで、やたらと気にしてるその毛皮のことは気にすんな。群れを狩ったときに腐るほど落ちたから、まだ十何枚かある。欲しけりゃやるよ。っつーか、シェリー、ミリエラ、アンの3人はもらっとけ。素っ裸で進むワケにもいかんだろ」


タカの言葉に、真っ赤になるシェリーとアン。ミリエラも少しだけ赤くなってしまう。


「まぁ、それだけじゃ心許ないだろうから、移動を始める前にもうちょっと何とかしてやる。んで、ここからが本題だ。おい、不貞腐れてるそこのリーダー。ここからはちゃんと聞けよ」

「・・・んだよ。なんで俺がリーダーだって思うんだ?」

「全員の目が何かってーと、お前を見てるからだよ。それとも、違うのか?」

「ちっ。そうだよっ! 文句あっか!!」

「ハァ。そう噛みつくなよ、少年。おっさん相手に嫉妬するこたないだろーに」

「だっ!? 誰が嫉妬なんか!!!」

「あ~悪かった。謝る。だから、話聞け。聞かないんなら、聞く気になるまで精神的に追い詰めるぞ」

「「「「怖っ!?」」」」


タカのサラリと言った台詞に、ドン引きする少年少女達。


「ククク。俺も同じ男だからな。どーゆーつつかれ方が嫌で腹立つかは、よぉっく分かってる。近い未来の黒歴史にされたくなかったら、素直に話を聞いとけ」

「「「タチ悪ぃっ!? 最悪だ!?」」」


今度はカイト少年以外の少年達のドン引き2倍なツッコミが入る。


「へ、へっ。ど、どういうつつき方をするってんだよ」


若干腰が引けながらも、強気な姿勢を保とうとするカイト少年。



吃り気味なのにツッコミを入れてはいけない。



そんなカイト少年に、ニッコリと満面の笑みを浮かべて、タカの視線がシェリー、ミリエラ、アンの3人の方へと向く。


「ゴホンッ。〈シェリー、ミリエラ、アン。くそ、くそ「うぉぁぁぁぁっ!?」〉おっと」


情けない自分を思い返させるワンシーンの台詞を再現し始めるタカに、思わず飛び掛かるカイト少年だったが、サラリと躱されて、足を引っ掛けられて転がされ、関節を極められて背中を向けて踏みつけられてしまう。


「まぁまぁ。そう焦るなよ。格好よかったぞ? なかなかあそこまで吠えられん」

「テッ、テメェェェェッッ!!」

「ほう? まだそんな口を叩けるか? んじゃ、心配して駆け寄った「すんませんっしたぁぁぁぁっ!!」」


タカの更なる直近の過去の再現を遮って、ヤケクソ気味の謝罪の叫びが響く。


「俺が悪かった!! 大人しくちゃんと話聞くから勘弁してくれぇぇぇぇっ!!」

「ん。よろしい」


関節技を解いて、カイト少年の背中から降りるタカ。


「な? 素直が1番だろ?」


爽やかな笑顔で、ド外道なことを言うタカ。


「カイト、ダメージおっきいみたいだねぇ?」

「何をそんなにショックを受けているんでしょうか? 私達を気遣ってくれていただけですよね?」

「ん。別に恥ずかしがる必要ない。結局はタカが助けてくれたけど」


不思議そうに言うシェリーとアンの言葉に続いて、ミリエラの最後の一言に打ちのめされて、カイト少年は瀕死である。精神的に。



ーーこの人に逆らうのは絶対に止めとこう!!ーー



タカの情け容赦無いカイト少年への仕打ちと、カイト少年の打ち拉がれた姿を見ていた他の少年達は、そんなことを強く思っていたりする。



思わぬ方向からの追い打ちに、ちょっと可哀想なことしたかなぁとかタカが思ったのは些細なことだ。結局はフォローなしで話を進められるのだから。



「さて、リーダーの同意を得たトコで、改めて本題に入りたい。ただ、ここはちょっと焦げ臭いし、周りに死体がゴロゴロしてて、正直落ち着かん。っつーか、ぶっちゃけた話、今は周りの火がほとんど消えてて暗いからいいけど、明るい中でグロい死体なんか見たら、吐く自信がある。頭が消し飛んでたり、胴体に風穴空いてたりするのとか見たくない。だから、ちょいと移動してからってことでどうだ?」

「タカさんも死体は無理なんですか? 慣れなきゃいけないことかと思ってました」

「ん゛~・・・躊躇して自分が死ぬよりかは慣れた方がいいんだろうけど、何とも思わなくなるのもどうかとは思うぞ? 特に、人の死体なんて見ないで済むに越したことはないんだからな。まぁ、甘い考えなのかもしれないから、そこは俺個人の感覚だ。だから、移動するのは俺がここで話を続けるのが嫌だからってのが理由だよ。仲間の遺体があるんなら、そいつは連れてってやってもいいけど、殺られた奴はいるか?」

「あ、いいえ。幸い、と言っては不謹慎ですけど、奇襲の魔法で焼かれたのは別パーティーの人達とかだけなので、別に構わないです。仲がよかったとも言えませんでしたし」

「そりゃよかった。お前らの身内が死んでたら、助けられなかったことを後悔するトコだ。こうして話をしちまった相手だからな、お前らは」

「ありがと。タカは優しい」

「おっかないっすけどね~」

「ウィシィ、うるせー。ミリエラは素直でよろしい。ってことで、ちょっとだけ移動するからついてこいよ~」

「「「「はいっ!!」」」







それから、十数分程移動した所で、一同腰を下ろすことになった。自然とタカを中心としたような配置になっている。


「さて、じゃあ、本題だ。まず、現状、怪我は治ってるけど、リーダーの少年とレジィ、ダインの3人以外は武器を失ってる。さっきの盗賊っぽいクソ共は全滅させたから、応援が来たりとかってことはないだろうけど、魔物とかに襲われる可能性はある。ここまでは間違いないか?」

「ん。その通り。付け加えるなら、私とシェリー、アンは服もないから、間違いなく動きが鈍る。流石に、明るくなってきたら、この状態は恥ずかしい」

「月明かりの中でも十分に恥ずかしいよぅ」

「ですねぇ・・」

「まぁ、そこは後で何とかしてやっから。っつーか、先にやるか。落ち着かないだろうし」


そう言って、収納空間からまた毛皮を複数取り出すタカ。


「さっきも思ったっすけど、どこから出してるっすか?」

「ん? 四次元ポ○ット」

「ほぇ?」

「まぁ、通じんネタだわな。気にすんな。大人の男はエロいこと以外にも色々秘密があるもんだ」

「エロい秘密もあるんすか!?」

「男なら当然だろ。エロ本の1冊や2冊、荷物の中に隠してるだろ? なぁ? リーダー」

「ねぇよ!? 脈絡なく巻き込むなよ!!」

「ははは。さて、初めての試みだから、ちと集中させてくれ」


目の前に毛皮を積んで、'PARTS BOOK'に意識を向けるタカ。



ーー使う'PARTS'は、《結合》《復元》《融合》辺りでいけるか? 装備作成の魔法なんか、'MAGICIANS ONLINE'にはなかったからなぁ。あ、《形状変化》はあった方がいいな。キーワードは、とーー



「【結合作成(コンビニゥグパータム):外套(クローク)】」


新たに生まれたキーワードが紡がれると、タカの胸の高さに光の玉が生まれ、そこに積み上げられた毛皮の中から4つだけが吸い寄せられるように浮かび上がる。


「「「おぉ・・・」」」「「「ふわぁ・・・」」」


その様子に、少年少女達の口から感嘆の声が洩れる。


吸い寄せられた毛皮が光の玉に飲み込まれ、そのままゆっくりと光の玉が消えていくと、そこには体をすっぽりと包み込めるくらいの大きさの毛皮のマントができていた。


「す、凄いっす!! こんな魔法、見たことないっす!!」

「よし。意外に上手くいったな」


地面に落ちた毛皮のマントを拾い上げて、手触りを確認しながら言うタカ。テンションが一気に上がったウィシィに比べて、他の少年少女達は呆然としたまま言葉もない状態だ。



ーーん~・・これも大概有り得ない魔法っぽいな。ってことは、やっぱり詠唱魔法は大したことができるワケでもない、と。まぁ、詠唱魔法独特の利点もあるかもしれないから、油断はしないとうにしないとなーー



「ちょっと触ってもいいっすか?」

「ん? おう。ほれ」


目を輝かせて両手を差し出してくるウィシィに、毛皮のマントを渡してやる。


「ふぉぉぉぉ~・・メッチャ気持ちいいっす。手触りサイコーっす。ボクの尻尾以上っす。羨ましいっす~」


マントを手で触った後に、マントに頬擦りしながら言うウィシィ。それから、物凄く名残惜しそうにマントを返してきた。


そんなウィシィに苦笑を溢しながら、同じ魔法でさらに3()()マントを作り出すタカ。それを、まずは毛皮で何とか体を隠している3人の少女に渡す。


「あ、ありがと」

「ありがとうございます」

「感謝する。本当に凄い。ウィシィが言ってたけど、私もこんな魔法見たことも聞いたこともない」

「うわ、ホントにふかふかサラサラですっごく気持ちいいよ、これ」

「継ぎ目の感触・・・ありませんね・・もうなんだが驚き疲れましたよ」

「おう。いっそ慣れちまえ」

「いえいえいえいえ。無理ですからね? これに慣れるとか、絶対に無理ですからね?」

「タカさんといると慣れさせられそう・・」

「これからもいっしょにいてくれるなら、私達としては心強い」

「まぁ、その話はまた後でな。とりあえずは、今を何とかしなきゃならないだろ?」

「そっすね~。魔物の群れに囲まれたりしたら、武器もないっすからヤバそうっすし」

「まぁ、その話が本題なんだけど、とりあえず、ほれ」


最後の毛皮のマントを、シェリー達の傍に座るウィシィの頭に乗せるようにして被せる。


「わぷっ」


被せられたマントを取って、それからキョトンとタカを見上げるウィシィ。


「特別だ。お前にもやるよ」

「いいんすか!? やっほ~いっ!! タカ、大好きっす~っっ!!」


歓声と共に飛び上がって、タカに抱きつくウィシィ。その頭をワシャワシャと撫でてやる。


「あんなに物欲しそうにされちゃな。別に元手はかかってねぇし。その代わり、大事にしろよ?」

「するっす! 宝物にするっす!!」


ピコピコと耳を揺らし、腰に巻いていた尻尾を全力で振り乱すウィシィ。その様子を見て、タカの頬も緩んでしまう。


「むぅ。タカは可愛い男の子が好き?」

「止めろ。俺は健全に綺麗な女の子が好きだ。アホなこと言ってっと、剥くぞ。ミリエラ」

「ドンとこい」

「ミリエラ!? 馬鹿なこと言うな!!」


無表情のままで、薄い胸を張って言うミリエラに、カイト少年の必死な声が上がる。


「はいはい。とりあえず、ウィシィは離れて座れ。んで、いい加減本題に入るぞ」

「はいっす」

「むぅ。流された」

「ミ、ミリエラ。冗談だよね? そうだよね?」


若干焦った感じにシェリーが言うが、ミリエラはチラリと視線を送るだけで何も言わない。放置していると、カオスな状態になりそうだと、タカは流れをブッた切って話を始めることにする。



ーー表情が乏しいからよく分からんけど、なんか、懐かれた? 昔っから癖のある奴には懐かれることが多かったもんなぁ。あと、ウィシィみたいなアホ可愛い奴とかからもーー



そんなことを思いながら。

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