'PARTS' 2 常識外の魔法
「どっ、どういうことぉぉぉぉぉっ!?」
少しして、硬直から復活した妖精が坂下に詰め寄る。
「大した魔力を感じなかったし、そもそも詠唱してないし!! なのに、この威力の魔法って、何がどうなってこうなってるの!?」
「お、落ち着け。ここまでして、お前に何も隠すつもりなんてないから」
「落ち着けるわけないでしょ!? こんな魔法、見たことも聞いたことないよ!? お兄さん何者なの!?」
「何者って言われると困るけど、魔法に関しては推測できるぞ」
「す、推測?」
「ああ。さっき見せてくれた詠唱してから使った魔法だけどな、アレ、魔力効率が極端に悪いんだよ」
坂下の言葉に、絶句する妖精。反論したいが、この結果を見せられては何も言えないのだ。
「だから、使われた魔力が極少の魔法に威力が負けてる。まぁ、2回目に使った魔法はそれなりに魔力を使うけど、詠唱して使った魔法、面倒くさいから詠唱魔法とでも呼ぶけど、まぁ、そっち程じゃない」
「・・・有り得ないよ・・これ、スッゴいことだよ!? もしかして、もっと強い魔法も使えたりする!?」
「ああ。発動までに時間は掛かるけど、もっと強力な魔法はいくらでもある。っつーか、さっきの魔法は連射してこその魔法だからな。魔弾1つ当たりの威力は大したことないんだ」
「大したことあったよ!? スッゴく遠くまで地面が抉れてたからね!? こんな魔法、どこで教えてもらったの!?」
「教えてもらったっつーか、作った?」
「・・・はい?」
坂下の言葉に、ポカンとなってしまう妖精。
ーーこりゃ、'PARTS'を組み上げて使う魔法はほとんど普及してないんだな。妖精の口振りからすると、詠唱魔法がスタンダードって考えた方が良さそうだーー
そう思いながらも、妖精への説明の為に言葉を続ける坂下。
「'PARTS'の話はしたろ? それを組み上げることで、自分の望む魔法が作れるんだよ。んで、【魔弾】は速射性と魔力効率を最優先にして作った魔法。まぁ、近接職対策用だな」
「・・どうしよ。言ってることは分かるのに、全然意味が分かんない。あたし、魔法に長けた妖精族なのにぃ~」
涙目になってしまう妖精に、慌てる坂下。
妖精は、体のサイズそのものも小さく、全長20cmくらいしかないが、容姿そのものも小さい女の子だ。サイズが小さいせいで、余計に幼く見えていることを加味しても、精々小学校の高学年程度の見た目年齢である。
そんな妖精に半泣きになられてしまうと、坂下は焦ってしまう。半泣きの理由が、自分が使ったこの世界においては常識外らしい魔法だから余計に。
「あ、あ~、使ったことがないと分かんないんじゃねぇかな? 誰だって新しいものは初めてなわけだし、初めてのものは分かんなくても当然だろ?」
「そうだけどぉ~・・」
「使ってみるかって言いたいトコではあるんだけど、'PARTS'は個人認証されてる筈だしな・・いや、その辺の法則はどうなってんだろ? トレード機能なんかないだろうし、個人の魔力に特有の波長とかがあってロックされてるだけなら・・」
「お、お兄さん?」
急にブツブツと一人言を始めた坂下に、妖精はドン引きした表情でスス~っと飛んで距離を空ける。
「あ、あぁ、すまんすまん。試しにこの魔法を使ってもらえないかと思って、方法がないかと考えてたんだ」
「え!? あたしにもその魔法使えるの!?」
「いや、正直、よく分からん。妖精は'PARTS'を知らないんだろ? っつーか、持ってないよな?」
坂下の言葉に、ガックリと肩を落とす妖精。
「知らないし、持ってないよぅ。見たことも聞いたこともない魔法だもん~」
「そう言ってたもんなぁ・・」
坂下もそう言って首をひねる。
ーー女神様はこの世界を'MAGICIANS ONLINE'と酷似した世界だって言ってた。実際に、妖精の姿とか好奇心旺盛な性格、魔法に長けた種族だってのはゲームの設定と同じだ。でも、ゲーム内に詠唱魔法なんてモノは存在してなかった。
つまり、似てるけど、違う所もある。じゃあ、トレード機能は? 現実で考えるなら、普通に物を交換するのと同じことだよな。むしろ、そこはゲーム内の方が不正防止とかでややこしいシステムを使ってそうだから、現実の方がシンプルなんじゃないのか?ーー
そう考えて、実証実験の為の提案を口にする為に口を開く坂下。
「なぁ、妖精。試しに、'PARTS BOOK'に触ってみてくれないか?」
「ほぇ? 触ってもいいの?」
「ああ。まぁ、単なる思い付きだから、上手くいくかどうか分からんけど」
「・・・触った途端に、あたしの体、ボンッとかなったりしないよね?」
「いや、流石に、んな物騒な代物だったら、俺も持ってるのヤダよ。怖かったら無理強いはしないけど」
「ん~っん~~っ」
クルクルと目の前を上下左右に飛び回る妖精。その様子を、なんとなく微笑ましい心持ちで見守る坂下。
ーーなんつーか、本物はなかなかに愛嬌があって可愛いもんだな。こうやって見てると、やっぱりゲームとは全然違うって思うなぁーー
そんなことを思っていると、妖精が目の前にピタリと停まった。
「ちょっと怖いけど、触ってみたい! あんな魔法が使えたら、メチャクチャ自慢できるもんっ!」
決意に溢れた表情でそんなことを言う妖精に、思わず苦笑が洩れてしまう坂下。
「了解。まぁ、ダメ元なんだ。あんまり期待するなよ」
「うんっ。あ、そう言えば、お兄さんの名前は? あたし、ケティアセヌスっ。ケティって呼んでっ」
「そういや、自己紹介がまだだったか。俺はさか・・いや、タカだ。タカでいい」
「タカね。うんっ。変な名前っ」
「ドやかましいわっ! ハタキ落とすぞっ!」
〈元の世界での名前を捨てることで、完全にこの世界の住人になろうと考え、この世界に酷似した'MAGICIANS ONLINE'で名乗っていた名前を本名として名乗った〉という坂下の気持ちは、当然ながら、ケティには伝わらない。結果として、ネーミングセンスの無さだけが表に出てしまい、こういう反応となったのだ。
坂下、改め、タカも自分の考えと気持ちが伝わらないであろうことは承知の上での自己紹介なので、口にした言葉の内容程には怒ったりしていない。半分以上はノリだ。
そんなタカの心情が伝わっているのか、ケティもタカの言葉に驚くでもなく、面白そうに笑ったままだ。
「にししっ。期待通りのリアクション、どーもっ! じゃあ触るね?」
「おう」
'PARTS BOOK'を差し出し、ケティがそれに触れると、淡い光が'PARTS BOOK'から漏れ出す。
「え? え?」
「おぉ・・トレード機能はこんな感じになってんのか。っーか、この感じ、交換じゃなくて、俺から'PARTS'をあげるってのもできそうだな」
「な、何? この感覚。魔力回路が繋がってる?」
「'PARTS'が何か分かるか?」
「う、うん。これ、凄い。1つだけだと意味がないけど、1つ1つが魔力の塊になってる。ううん、塊じゃなくて、概念? コレが火で、コッチは水。あ、形の概念もある。っていうか、コレ、物凄い数だよ!?」
「だなぁ。改めて確認してみたら、元々俺が持ってた数より多いんだよ。サービスなのかね?」
「サービス? 誰からの?」
「ん~・・女神様から?」
「ぷっ。あはははははっ。タカってば冗談がうま~いっ。確かに、これだけの魔力概念を持ってて、妖精であるあたしも知ら、な・・い・・・」
爆笑しながら言っていたケティだが、言いながら、徐々にその笑顔が固まっていく。それから、ギギィっと音がしそうな動きでタカの方に顔と体を向き直らせる。'PARTS BOOK'に触れたまま。
「・・・んと、じょ、冗談だよ、ね? なんか、全然冗談に思えなくなっちゃったんだけど。凄い魔法を普通に使うし、こんな魔力概念を凄い数持ってるし、そもそも、魔力概念なんてあるのなんか知らなかったし・・で、でも、流石に、女神様からっていうのは・・・」
混乱の上に混乱が3つか4つくらいは重なっていそうな様子のケティの言葉に、タカはただ苦笑を洩らすしかない。
「ち、ちなみに、タカの言う女神様って、どんな格好の女神様?」
「え~とだな・・ゆるふわウェーブの金髪を腰くらいまで伸ばした物凄く優しそうなお姉さんって感じだったぞ。'慈愛'って言葉があそこまでハマる笑顔してる人は見たことないな。いや、人じゃなくて女神様だけど。目は、碧眼ってのか? 綺麗な碧色してた。あと、スゲェ巨乳」
タカの言葉に、ワナワナと震え出すケティ。
「な、何か持ってた?」
「あぁ、そういや、女神様自身よりも長い杖を持ってた。先っぽになんか複雑な形した輪っかを何重にも「本物だぁぁぁぁぁっ!?」おぉっ!?」
タカの言葉を遮って、突然叫ぶケティにビクゥッとなってしまうタカ。
「それっ! 本物の女神様だよ!? 女神セレスタイン様だよ!? 最高神様だよ!? なんで!? 妖精族でも精霊族でも普通会えないよ!? それなのに、サービスってどういうこと!?」
小さい体で、タカの襟首を掴んで全力で揺さぶろうとするケティ。当然、サイズが違い過ぎるので、タカは微動だにしないが、ケティの言葉には冷や汗が出てきてしまう。
ーーさ、最高神っすか。すっげぇ大物から招待受けたのな、俺。いやまぁ、'私の世界'とか言ってたし、全然おかしくはないんだろうけど・・・ど、どこまでが女神様本人(本神?)だったんだろ? 'MAGICIANS ONLINE'の小ネタに、チュートリアルの女神に軽いセクハラかましたら、優しく叱ってくれるとかってのがあって、やってみたら、余りにも癒されるモンだから、もう数え切れないくらいに繰り返してたんだけど・・・ーー
というように、冷や汗の理由は至極くだらないものだったのだが、謝罪の意味を含めて、改めて女神様の希望を全力で叶えようと心に誓うタカ。こうして招待を受けてこの世界にやってきたことだし、'PARTS'のサービスもしてくれていることから、激怒していることはないだろうとは思うが、それでも神罰は勘弁願いたいのである。
ただ、それは無用な心配だったりする。何せ、'MAGICIANS ONLINE'はR18指定のゲームではなかったので、セクハラと言っても精々が手を握ったり肩に手を回す程度のもの。しかも、女神自身がゲーム内に降りてきていたのは、'MAGICIANS ONLINE'が閑散期も末期になってからで、それもそう頻度は高くなかったのだ。
さらに、仮初めとは言え、自分の世界と酷似した世界を愛してくれて、自分との決まりきった会話ですら楽しんでいたタカが相手であれば、女神は喜ばしくすら感じていたのだから。無論、そんなことはタカが知る由もないのだが。
それから、タカからの説明で、ケティはなんとか落ち着きを取り戻した。と言うか、もう驚き疲れたのだ。タカから明かされた、タカの素性やここにいる経緯は言葉にならない衝撃だったし、'MAGICIANS ONLINE'というゲームに関しては、その概念すらもほとんど理解できなかったので、色々と諦めたとも言える。
「あのね? タカ。この話、絶対に迂闊にしちゃダメだよ? 頭おかしい人になっちゃうからね? っていうか、人種族も妖精族も精霊族も、セレスタイン様を信仰してるし敬愛してるから、こんな話したら、絶対に'不敬だーっ'って捕まって牢屋行きになって、処刑されちゃうからね?」
「ん。ケティのリアクションで察しはついたから、本気で気を付ける。っつーか、ケティはよく信じたな? 我ながら、荒唐無稽な話だと思うのに」
タカの言葉に、ケティは苦笑いを洩らす。
「だって、タカってば詠唱は知らないし、その癖して妖精族よりも強い魔法を詠唱ナシでサラッと使っちゃうし。それに、この'PARTS BOOK'、だっけ? これの中身なんて、完全に常識外。セレスタイン様の姿の話だって、物凄く正確なんだもん。人種族の崇めてるセレスタイン様の肖像なんて、全然、まったく、これっぽっちも似てないのに」
「ケティも女神様に会ったことあるのか?」
「会ったっていうか、見ただけ。100年くらいに1回だけ、あたし達の住む森に祝福を授けに降臨してくださるんだって長老が言ってたんだけど、森の中をフラフラお散歩してたら、たまたまね。ビックリしたよぉ? 聞いてたセレスタイン様の姿そのまんまだったし、何よりスッゴいオーラ?みたいなの纏ってて、もう疑う気も起きなかったもん」
「へぇ。偶然女神様を目撃して、今度は女神様に連れてきてもらった異世界人にたまたま会ったわけか。ケティは女神様に縁でもあるんじゃないのか?」
「そんな畏れ多いこと言わないでよ!? そっ、それより! これ、どうやったらいいの!?」
顔を赤くしながら、強引に話を戻すケティ。どう見ても照れ隠しである。崇拝する女神と縁深いかもと言われると、そんな筈はないと思いつつも、やはり嬉しいらしい。そこにはツッコミを入れないのが優しさだろうと、タカも戻された話に乗ることにする。
「とりあえず、大量に被ってる'PARTS'があるから、それを渡すよ。渡した順に組み上げれば、魔法を発動できる」
「う、うん。お願い」
タカの言葉に、ゴクリと喉を鳴らして緊張した様子で首肯するケティ。タカは'PARTS BOOK'に意識を向ける。
ーー不思議だな。やり方が自然と分かる。これが昔読んだラノベとかにあったスキルの扱い方が分かるって感覚なのかもなーー
そんなことを思いながら、ケティに2つの'PARTS'を譲り渡す意思を'PARTS BOOK'に伝える。
「ふにゃぁっ!?」
奇妙な声を上げて、体をビクンッと震わせるケティ。
「ど、どした? 大丈夫か?」
「へ、平気平気。ちょっと、その、き、気持ちよかっただけ・・」
真っ赤になりながら、タカの方を見ようとしないケティ。魔力回路を繋いで、'PARTS'の受け渡しには快感が伴うらしい。
これは、単純な魔力の譲渡の際にも起こる現象で、ケティも同族同士で魔力回路を繋いで行った経験はある。しかし、'PARTS'の受け渡しには単純な魔力のそれとは感覚が違っており、予想外の快感に驚いて声を上げてしまったのだ。その違いは、例えるなら、マッサージの快感と性的な快感の違いという表現が近い。当然だが、'MAGICIANS ONLINE'ではそういったことは全くない。これも、ゲームとの差異と言えるものだろう。
しかし、そんなことをまるで知らない男がここにいる。痛いとか辛いとかでなければ、特に問題はなかろうと判断してしまった。
「んじゃ、2つ目がコレな」
「あっ!? ちょっ、待っひぅぅっ!!」
快感の波が去っていないところに、先程と同等の波が一気に襲ってきて体を仰け反らせてしまうケティ。完全に脱力してしまい、落下を始める。
「ぅおいっ!?」
咄嗟に空いている手を出して、落下するケティを地面に落ちる前に掴むことに成功するタカ。しかし、その刺激は今のケティには強過ぎたようで、声をなくしてビクンビクンと体を痙攣させてしまう。
「ちょっ、マジで大丈夫か?」
何がどうなっているのか分からず、心配そうに手の中のケティを覗き込む。
ピクピクと震えて、顔を紅潮させる姿はかなりの色気が溢れているのだが、如何せん、タカとはサイズの違いが大き過ぎて、そういう風には捉えられない。オタクであるタカだが、物理的に小さい子にまで欲情するような特殊な性癖は持っていないのだ。
なので、純粋に心配してケティの様子を覗き込んでいるのだが、ケティ本人にしてみれば、羞恥心が限界を突破してしまう状況だ。その上、タカが単純に心配してくれているのは、落ちていく自分を受け止めてくれたときの優しい力加減でも分かってしまった。それだけに、怒るに怒れない。その結果、羞恥に悶えて小さい体をさらに小さく縮こまらせて顔を隠してしまうことしかできなくなってしまう。
「ら、らいじょ、ぶ・・は、はじゅかしいから、見にゃい、でぇ」
呂律が怪しいケティの言葉に、怪訝な表情を浮かべるタカだが、とりあえず意識はしっかりしているようだからと、ケティの言葉に素直に従うことにして、視線をケティから外して、周囲に注意を向ける。
ーー結構派手なことしてたのに、エンカウントしないんだな・・'MAGICIANS ONLINE'には魔物とか魔獣が徘徊しまくってたのに。そこもゲームとの差異、か? いや、結論を出すには早いか。'MAGICIANS ONLINE'の草原フィールドもエンカウント率は低かったし、ケティが使った魔法の種類から考えても何かしらの戦闘の要素はある筈だ。完全に平和な世界なら、魔法を見せるってなっても攻撃魔法って選択は安易には出てこないだろうしーー
そう考えて、ケティが復活するまでの時間、タカは周囲への警戒に集中することにした。
余談だが、ケティは後日、真剣に自分の魅力について考え込んだらしい。
確かに、タカとの体のサイズは違い過ぎて、そういった行為は不可能ではあるが、それでも、自分の恥ずかしい姿と反応を目にしたタカの反応が皆無だった為だ。無論、タカをそういった対象としては物理的に考えられないので、タカにそういう目で見てほしいわけでは決してないのだが、乙女としては複雑な心境だったという。
彼女の名誉の為に言っておくと、ケティのそのときの姿は、特殊な性癖を持たない者でも、思わず目を逸らしてしまう程には色気に溢れていたのは間違いない。'MAGICIANS ONLINE'に20歳からの15年強を捧げて、それだけに情熱のすべてを注いできたタカは、表面上に現れている以上に、この世界にきたことでテンションが上がっていて、いろんな感覚がおかしくなっていただけだということを述べておこう。




