'PARTS' 3 別れと再会の約束
ケティが復活するまでの時間、結局は敵とのエンカウントはなく、タカの警戒は取り越し苦労に終わった。それにホッとしているのだから、タカに文句はないだろうが。
「よっしっ! じゃあ、魔法使ってみよーっ!!」
恥ずかしさを吹っ切るかのように、高いテンションで拳を高々と掲げるケティ。
「'PARTS'の組み方は分かるか?」
「なんとなく。ちょっと難しいけど・・・あれ? 噛み合わない?」
「最初に渡した方を基に組み立ててるか? それを軸にするような感覚だぞ」
「えっと、《炎》の概念が最初にもらった方だよね?」
「ああ。んで、それを軸にして《矢》と組み合わせる」
「ん~・・あ、できた! そっか、軸にしてから合わせるトコも調節しなきゃなんだ」
「あぁ、そっか。組み合わせられる部分ってある程度決まってたっけか。その辺はもう当たり前になってた。すまん」
「ううん。これ、説明が難しいと思うもん。じゃあ、いっくよーっ! 【炎の矢】!!」
ケティがキーワードを口にすると、目の前に炎が生まれて、それが矢になり、前方へと放たれる。背の高い草の先端が灰になり、進路上をかなりの距離に渡って焦がしていく。
「うわぁ・・すご・・・ほとんど魔力使ってないのに」
「いや、かなり魔力注いだだろ? 《魔力効率変換》と《連射》を組み込むだけでも、対集団の戦略級殲滅魔法になるんじゃないのか?」
「でも、【灼熱の業火】の1000分の1くらいしか魔力使ってないのに、コレだもん。魔力効率が悪いって言われるのも納得だよ」
「まぁ、実感してくれて何より。でも、大した数の'PARTS'が持てないのがネックだよなぁ。この魔法は状況とか相手に応じて、'PARTS'を自由に組み換えれるのが1番面白いトコなのに」
「あたしじゃあんまり数を持てないの?」
「いや、正確な言い方をすると、持ってても'PARTS'を維持できないと思う、かな。'PARTS'は'PARTS BOOK'に保存しとかないと、一定時間で消えてたから」
「ぅえっ!? 消えちゃうの!? もったいない!!」
「多分、だけど。この世界で'PARTS'がどういう代物なのか、正確なトコが分からんし。でも、'MAGICIANS ONLINE'じゃそうなってたから」
「むぅ~・・そのまじしゃんずなんとかっていうのがよく分かんないんだけど、とにかく、タカのいた世界だと'PARTS BOOK'に入れてない'PARTS'はなくなっちゃってたってこと?」
「ん、まぁ、そんな感じ」
「じゃあ、'PARTS'を持ってた人は皆'PARTS BOOK'を持ってたの?」
「ん? ・・・いや、多分、持ってなかった、と思う。そこまで細かい設定なんてなかったしな・・」
「うぅ~。もし、消えちゃったらもったいないなぁ。このまま'PARTS'を持っていけたら、長老達に見せて'PARTS'も作ってもらえるかもしれないけど・・」
「マジか? それ」
「多分、だけど。長老達は妖精族の中で1番長生きしてて、1番物知りだから、'PARTS'を見せれば作り方も考えてくれると思うの」
「なるほど。なら、'PARTS BOOK'を見せりゃ、複製も可能かもしれない、か?」
「え? あ、うん。複製なら簡単だと思うよ? いろんなマジックアイテムを複製してるし。でも、タカ。'PARTS BOOK'何冊も持ってるの?」
「ゲームなら1冊しか持てないし、入手先なんかもなかったけど、ゲームじゃアイテムの複製なんてできる奴いなかったし、本を1冊しか持てないなんて、現実じゃ考えにくいし・・・確か、コレが出てきたときは、とにかく'PARTS BOOK'がほしいって考えてたら、この辺に穴が空いて」
そこまで言ったとき、空間に黒い穴が開いた。
「マジか!?」
タカの驚きの声と共に、1冊の本が落ちてきた。それを慌ててキャッチするタカ。
「え? え?」
目を白黒させるケティを放置して、タカはその本をパラパラと捲って中身を確認し始める。と、中からメモ用紙のような紙切れがヒラリと落ちる。
「ん? なんだ?」
紙切れを拾い上げて中身を見たタカは、そのまま完全に硬直した。その様子に、混乱しかけていたケティは怪訝な顔をして、肩に乗ってタカが広げる紙切れを覗き込み、同様に硬直した。
[タカへ。
あなたが'PARTS BOOK'と呼ぶ、この本の正式名称は'魔の叡智収集体'といいます。でも、私も'PARTS BOOK'という呼び名の方が素敵だと思いますので、今後も'PARTS BOOK'と呼んでくださいね。
あなたが何かを為そうとする際には'PARTS BOOK'が複数必要になる場合もあるでしょう。この2冊目の'PARTS BOOK'を欲したのが、そういった理由である可能性を考えて、その手段を伝えておきます。
妖精族と精霊族の両者と仲良くなってください。あの子達が力を合わせれば、劣化版にはなってしまいますが、'PARTS BOOK'を複製することも可能な筈です。オリジナルの'PARTS BOOK'は神器ですので、劣化版になってしまうことだけは許してくださいね。あと、複製を頼む際には、申し訳ないのですが、正式名称をあの子達に伝えてください。複製の際には、そのオリジナルの真名を知っている必要がありますので。
追伸:私の手を握ったり肩を抱いてくれた回数だけ、オリジナルの'PARTS BOOK'を収納空間に入れてあります。他にも、'MAGICIANS ONLINE'での初期所持品と同じ物だけは収納空間に用意することができましたので、役立ててください。あなたが手に入れた物全てを用意してあげられなくてごめんなさい。
どうか、あなたが私の世界に新しい風を吹かせてくれますように。
セレスタインより]
女神からの直筆の手紙である。固まってしまうのも無理はないだろう。最も、固まっている理由はそれだけでもないのだが。
「・・・ぱ、'PARTS BOOK'って神器だったのか。ただの'PARTS'収納アイテムだと思ってた・・っつーか、俺がセクハラしたのって、やっぱり女神様本人!? なんでその数だけサービス追加してくれてんの!? 女神様、懐深すぎませんか!? 怒ってるとかじゃないっぽくて、物凄く安心しましたけど!! 聞こえてるかどうか分かりませんが、とにかく、マジで申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!!」
硬直から復活したタカは、最後に女神への謝罪の言葉を空に叫んで土下座した。
「ハッ!? セレスタイン様からの直筆の手紙とか'PARTS BOOK'が神器だとか、色々ツッコミどころ満載だけど、それより何よりっ!! セレスタイン様の手を握ったりとか肩に手を回したりとかって本気でホントに何考えてんのぉぉぉぉっ!?」
「ちゃうねん!! まさかホンマに女神様やなんて思てへんかってん!!」
土下座したタカの頭に全力の蹴りを食らわせまくるケティに、動揺の余りに怪しい関西弁で弁解するタカ。
「セレスタイン様が怒ってないみたいだから許すけど、今度会うことあったら、絶対に土下座して謝りなさいよ!?」
「言われなくても、地面に穴が空く勢いで土下座するわい!! 女神様にセクハラしてたとか、いくら無宗教の俺でも恐れ多い上に罪悪感が半端ないっての!!」
一頻り怒鳴り合って、お互いに地面で四つん這いになって肩で息を切らす状態になってしまう。女神の手紙とその内容は、相当の衝撃だったらしい。当然と言えば、当然のことだが。
それから、少しして息が整った2人は起き上がって向かい合う。
「・・とにかく、'PARTS BOOK'のオリジナルが何冊あるのかは聞かないことにしとく。首を切って晒したくなりそーな気がするから」
「そうしといてくれ。ぶっちゃけ、ちょっと真剣に死んでお詫びしようかと思ったくらいだし。知らなかったとはいえ、罪悪感が・・・」
「ハァ。まぁ、セレスタイン様のお手紙の内容じゃ、怒ってないどころか、喜んでるみたいに見えるけどね」
「心が広過ぎるよなぁ・・それがまた罪悪感を掻き立てるんだけど・・・まぁ、とにかく、この'PARTS BOOK'はやるよ。中身は空っぽみたいだし」
「ふぇっ!?」
差し出されたもう1冊の'PARTS BOOK'に、思わず身を引くケティ。それに構わず言葉を続けるタカ。
「ケティにはちょっとデカいけど、これがあれば'PARTS'は確実に保管しとけるしな」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 神器だよ!? これ、神器なんだよ!? そんなに簡単にあげちゃっていいの!?」
「流石に、誰でも彼でもってわけにゃいかんだろーさ。使い方次第じゃ、とんでもない悪さだってできちまうだろうし」
「だったら!」
「でも、ケティなら大丈夫だろ。女神様のこと、おもいっきり崇拝してるみたいだし、女神様直々に用意してくれた物だってのも知ってる。それを悪用する気になんかなるか?」
タカの言葉に、残像が生まれそうな勢いで首を横に振るケティ。
「だろ?」
「で、でも、こんなに凄いもの、ただ貰っちゃうだけなんて・・'PARTS'も貰ってるのに・・・」
「いや、当然、対価は要求するぞ?」
「あたしにセクハラしたら、妖精族全員でぶっ飛ばすからね?」
「するか!」
ジト目になって言うケティに、間髪入れずにツッコミを入れるタカ。
「ったく。そうじゃなくて、ケティの方でも'PARTS'を見つけたら確保しといてほしいんだよ」
「へ? 'PARTS'って、タカが持ってる分だけじゃないの?」
「その可能性もなくはないけどな。でも、多分、他にもある。女神様がわざわざ複製のことを教えてくれたのはなんでだと思う?」
「あ! タカ以外の人でも'PARTS'を保管できるように!!」
「そーゆーこった。まぁ、'MAGICIANS ONLINE'では妖精族が'PARTS'関連のクエストに絡んでたのに、ケティが知らないってことから考えると、どこで手に入れられるのかはサッパリ分からんけどな」
「でも、偶然手に入るかもしんないよねっ。今までは'PARTS'のこと知らなかったから、スルーしちゃってたってことも有り得るしっ」
「そうだな。だから、ケティが見つけた'PARTS'のことを教えてほしい。どこで手に入れたのかとか、誰から手に入れたのかとか、まぁ、そういうのをな。んで、それが俺の知らない'PARTS'だったら、可能なら俺も手に入れる」
「へ? あたしが手に入れたのをあげたらいいんじゃないの?」
「アホ。被ってるんならともかく、そうでない'PARTS'を人に譲ったりなんか絶対にすんなよ。最低でも、自分が欲しい'PARTS'とトレードしろ。相手がその'PARTS'を欲しがってたら、徹底的に足下見てやれ。レア'PARTS'、特に、入手困難な'PARTS'だっりしたら、1つの'PARTS'と4個か5個の'PARTS'と交換できたりもするんだ。いいか? トレードの際には、自分の利益を徹底して求めろ。甘さを見せたら、こっちが舐められて損するだけだからな」
タカの言葉に、完全にドン引きした顔で距離を取っているケティ。
「な、何かあったの? そのとれーどとかいうので。言ってることが真っ黒だよ?」
「ふ、ふふふ。初心者っぽいから、ちょ~っと初回サービスでトレードに応じてやったら、次からクッソ巫山戯た条件でトレードを求めてきやがって・・・しかも、それを断ったら、掲示板であることないこと・・・あのクソボケのせいで、半年も強制ソロだったんだ・・ククク。代わりに、フィールドで会う度にソイツのパーティーごとPKしてやりまくったけどな。超高難易度の'PARTS'クエストをクリアした直後に狩ってやったときの、あの泣きそうなツラ、正に〈ざまぁっ!!〉って感じだったなぁ・・くそ、途中でゲームから逃げやがって」
闇より深い黒のオーラが幻視できるかのような口調と表情でブツブツと一人言を始めるタカ。
ーー言ってることの意味がちょいちょい分かんないけど、酷い目に遭ったっぽいなぁ。のほほんとして、なんかユル~い感じだったのに、かなり怖い。やり返しは徹底するみたいだし。でも、それなのに、会ったばっかりのあたしに、'PARTS'も'PARTS BOOK'までもくれたりするんだね。対価は要求するなんて言っといて、言ってることは情報をくれってだけとか、タカってホントにバカ。仕方ないから、頑張ってタカの見たことない'PARTS'探してあげよっかな? で、いくつか手に入れて、今回のお礼してやろっか。まぁ、上手くいけば、だけどネッーー
「よしよし。落ち着いて落ち着いて~」
ケティの小さな手で頭を撫でられる感触で、ハッと我に返るタカ。それから、気まずそうに苦笑いを浮かべる。
「ワリィ。ちょっとトラウマが疼いちまった」
「うん。気を付けよーね? 街の中でやっちゃったら、憲兵が来ちゃうかもしんないよ?」
「うす。気を付けます」
「うんっ。じゃあ、'PARTS BOOK'と'PARTS'の対価は、あたしが見つけた'PARTS'の情報ってことでいいの?」
「あと、できれば、妖精族の偉い人に俺の話を軽くしといてくれ。いつか、精霊族と繋ぎが取れたら、複製のこと、頼みたいからな」
「おっけー。異世界人だとかセレスタイン様に招かれたとか、その辺は伏せとくね。仲良くなるどころか、顔見せた瞬間に攻撃魔法の嵐になっちゃうから」
「そこまでか」
「そこまでだよ」
ケティの即答に、思わず項垂れるタカ。
「宗教はやっぱり怖ぇなぁ・・まぁ、この世界にはホントに女神様がいるんだから仕方ないか。分かった。それで頼む」
「うん。あ、この後はどうするの? 流石に、長老の許可ナシで妖精族の村までは連れてってあげられないんだけど」
「分かってる。妖精族は体が小さい分、魔法が十分に使えない子どもの内は危険だからって他の種族に近寄らせないようにしてんだろ?」
「うわ、詳しいね。それも'げーむ'の中の話であったの?」
「おう。だから、とりあえず、活動拠点にできるような大きめの街を探すよ。多少遠くても、移動用の魔法があるから余裕だろうしな」
「へぇ~。移動用の魔法なんてのもあるんだ。'PARTS'って便利だね~。あたしもいっぱい'PARTS'見つけなきゃ。あ、でも、大丈夫? この辺って街からも街道からも離れてるから、魔物とか魔獣がいっぱいいるよ?」
「そうなのか? これだけ喋ってても全然出てこないから、てっきりこの辺にはあんまりいないのかと思ってたんだけど」
「そりゃ、あたしが一緒にいるんだもん。よっぽど強い魔物とか魔獣以外は、妖精族とか精霊族を避けるもんだよ? あたし達の方がずっと強いんだから」
「・・・なるほど。あの魔力量だもんな。並の魔物とかじゃ歯が立たないから、本能的に避けるわけか」
「そっ。でも、離れちゃったら、タカはきっと襲われちゃうよ? 街の近くまで一緒に行こっか?」
「ありがとう。でも、大丈夫だ。'PARTS'は大量。魔法の組み立ても支障なくできる。ステータスがどうなってるのか分からんけど、少なくとも雑魚にやられたりはしないよ」
「ん~・・ま、それもそっか。魔弾の魔法の発動とか凄く速かったし、魔弾そのものも全然見えなかったくらいに速いんだし」
「俺の手札はそれだけじゃないしな」
「うん。あ、でも、危ないのは魔物とかだけじゃないからね? 盗賊とかだっているんだから。あ、あと、街に入ってからも気を付けなきゃダメだよ? 特に、この国の女神教は怖いらしいから、変なこと言っちゃったら、1発でアウトだからね?」
ケティの注意を促す言葉に、苦笑が洩れてしまうタカ。
心配してくれているのは嬉しい反面、ケティの見た目年齢が10代前半ということもあり、そんなに自分は危なっかしく見えるのかと複雑な心持ちになったのだ。
しかし、自分はこの世界に来たばかりで、'MAGICIANS ONLINE'との差異すべてを把握できたわけでもないのだからと、ケティの言葉通りに気を引き締めることにする。自分よりも若い者に注意を促されても、素直に受け止めることができるのはタカの数少ない長所の1つだ。
「分かった。十分に気を付けるよ。んで、拠点が決まったら連絡したいんだけど、そっちには何か手段あるか?」
「んっと・・あ、これ、あげる」
そう言って、腕輪を外してタカに差し出す。タカの指にならはめられそうなサイズだ。
「これもマジックアイテムなのよ? こっちの腕輪と対になってて、魔力を通すと離れてても話ができるっていう面白いのなの」
「へぇ」
受け取って、掌に置き、アイテム鑑定の為の'PARTS'を組み上げる。
「【鑑定】・・・おぉっ!? なんだ、コレ!? 魔法を永続的に物質に付与!? 聞いたことないぞ、んな代物!! くぅ~っ!! やっぱり色々知らんことが多そうだな!!」
「うわぁ・・アイテムを調べる魔法まであるんだ。何でもありだねぇ・・・」
テンションが上がるタカを、生暖かい目で見つめながら呆れたように言うケティ。
「おっと、いかん。またテンションがおかしくなってた。いいのか? こんなレアそうなのを」
「うん。元々、悪戯にしか使ってなかったしね~」
「・・・まさか、適当なトコに置いといて、誰かが通りかかったらいきなり声出してビックリさせたりとか?」
「当ったり~っ。にしし。すぐにそれを思い付くってことは、タカも結構悪戯好きだね~?」
「否定はせん。でも、まぁ、ありがたく借りとくよ」
「ん~・・・じゃあ、いつか、あたしがタカとずっと一緒にいられるようになるまで貸しとくね」
「そりゃ、ますますありがたい。それなら、どっちにしてもケティと話をするのには困りそうもないからな」
「うんっ」
「んじゃ、ほれ。'PARTS BOOK'」
「ありがと~」
あらためて差し出された'PARTS BOOK'を両手で受け取ると、一瞬にしてケティにとってちょうどいいサイズに縮む2冊目の'PARTS BOOK'。それを見て、ポカンとなるタカとケティケティ。
「「流石、神器だな」だねぇ」
期せずしてハモった2人は顔を見合わせてから、声を上げて笑う。
そして、近い内の再会を約束して、2人は別れた。ケティは妖精族の村へ、タカは人種族の住む街を目指して。




