三年生-13
私はところどころ言葉を選ばない節がある。
変に回りくど言い方をして自分の気持ちが伝わらないより、多少相手を傷つけても自分の心からの言葉を伝えたいと思っているからだ。
私と同じようにみんなが勘が良いわけでもない。
だからこそ真意がわからないようなことをするのは好きじゃない。
未来予知じゃないから信憑性もないし、確かな証拠があるわけでもない。
フランメが泣いた理由もはっきりわかる。
残酷なことを言っているのも承知している。
私もできれば思い違いだと思いたい。
だけど、私が一番知っている。
自分が感じたものは絶対に間違えないということを。
とにかく今は彼女に謝らなくてはいけない。
からかって言ったわけでもないしあんな顔をさせたくて言ったわけでもない。
もっと言葉を選べばよかった。ちゃんとして証拠を掴んでから言えばよかった。
廊下を走ってもどこに繋がっているかわからない。
家の構造を全て把握しているわけじゃないから迷ってしまったのだろうか。
「うわっ」
走っていたら何かにつまずいた。頭からずっこけると同時に、私の視界は青に染まった。
転落死ってこんな感じなんだ。
「ーーいったあ!!」
「きゃあっ!」
よかった生きてる。
生垣のおかげで何とか助かった。けれど身体中が痛い。
見上げると廊下の窓が開いていた。私はそこから転んだ拍子に外へ落ちたらしい。誰だよ開けてたの。開けたら閉めるって親に教わるだろうが。
数秒遅れてスコーンと私の頭に何かが落ちて来た。
何だこれ、手帳?
綺麗に装丁されている手帳だ。けれどカピカピに乾いた泥がついてる。相当前から汚れていたに違いない。
ペラペラめくるとこれは日記だということがわかった。ーーただし、とんでもなく恥ずかしい内容だ。これを赤の他人に見られるなんて思っていないだろうなぁ。
書いた人絶対厨二病。
一番最近の日付は二ヶ月前である。
『民は、我が慈悲深きーーに涙するが良い。我が支配を拒むあの黒き奈落に、今こそ常闇の眠り姫を解き放つ。それは風に乗り、不届き者を蝕むだろう。すべては我が手の中にーーのだから。ーー月ーー日、実行。』
ところどころ汚れで読めないが、これだけでもう痛い。
恥ずかしっ。
裏表紙にお店の名前が刺繍されていた。泥汚れに負けず金色の糸が輝いている。
「黄金蝶の刺繍屋……?」
貴族しか入れない高級文具店じゃないか。一番安い紙でも金貨五枚するとか。
何でここにこんなものが? ていうかこんな高級品を踏んづけたのがバレた暁には私の首が飛ぶのでは。少なくとも私は貴族の私物を踏んだのだから。
嫌だ死因が手帳を踏んだことによる処刑とか間抜けすぎる。絶対バレたくないこんなの。
とりあえず手帳をポケットに仕舞い込んだ。
ーーそういえば誰かの叫び声が聞こえたような。
声の聞こえた右側に首を回すと、目を真っ赤に腫らしたフランメがいた。
……手帳隠したの見られた。じゃないじゃない、今はそんなことではなくて。
「ふ、フランメ。あの、その……」
おかしい。探している間にあんなにかけたい言葉が浮かんでいたのに、本人を目の前にすると何も出てこない。
恋愛小説で読んだ主人公みたいだ。
「フランメの将来の夢って、何!?」
フランメが目を瞬かせる。私もひどいことを言ったと思うなら謝れば良いのに、何でこんな話題を振ったんだ。
「…‥……私の将来の夢は、この鉱山を受け継ぐこと。魔法学校でいっぱい勉強して、ここにいるみんなを守りたいの」
涙を拭って、わたしの擦り傷だらけの手を取る。
思ったより傷まみれだな。生垣に突っ込んだ時に枝とかで切ったんだ。
フランメが私の傷を治してくれた。いつもリナとゲイルの傷を治してばかりだから、自分の傷を誰かに治してもらったのは初めてかもしれない。
あたたかい治癒魔法だった。
「何で窓から落ちてくるのよ。びっくりしたじゃない」
「いや、私も落ちるつもりじゃなかったんだけど……」
「あなたもリナたちと同じくらい馬鹿よね」
「は?」
「……ごめんね」
握られた手をそっとさすられる。
「ひどいこと言って、ごめんなさい」
「……私もごめん」
先を越されてしまった。
「ーーえいっ」
下を向いていると、泥団子を投げつけられた。
フランメを見ると笑っている。
「あはは! やっとあんたに実技で勝ったわ」
「ーーこんなの、実技じゃないわよ!」
私も仕返しとばかりに泥を掬って投げつけた。
「あー! お気に入りの服なのにやったわね!」
「そんな服を着て生垣にいるのが悪いのよ」
「うるさい!」
今度は火を纏わせた泥団子を投げてきた。流石に燃えるって。
「ねえ! 私のこと名前で呼んでよ!」
「え?」
「あんたじゃなくて、リリーって」
フランメが手を止め、私の目を見つめる。
私も真っ直ぐに見つめ返した。
「……り、」
「うん」
「り、リリー」
私の名前を呼んでくれた彼女の顔は炎のように赤らんでいた。
初めてちゃんと目が合った気がする。
「フランメ、あなたってすごく可愛いのね!」
「はあ!? 何言ってんのよ!」
「だって名前呼ぶだけで照れてるんだもの」
「そんなわけないじゃない!」
「嘘つき〜」
また泥団子を投げられたので、今度は避けてやった。
避けないでよ! とフランメから怒号が飛ぶ。
ーーねぇ、フランメ。知らないでしょ。
私はリナみたいに素直な可愛い性格じゃないから、二人とすぐに仲良くなったリナが羨ましいと思っていたことを。
そしてそんな優しいリナを二人に取られたような気がして、モヤモヤしていたこともね。




