三年生-12
翌日、アンドレさんの部屋には数名の騎士が事情聴取にやって来た。
私たちも事件の第一発見者ということで部屋に入り大きなソファに一列で座って気配を殺している。
話を盗み聞きすると第四小隊の隊長とその部下たちが来ているようだった。
「鉱山内を記憶探知することは可能ですが?」
「はい、犯人が捕まるならなんでもしてください」
「もし心当たりのある人物がいたら教えてください」
第四隊長は金髪の女性だった。
騎士としては女性は珍しいが、そこで隊長を張っているなんて余計珍しい。
私たちがキラキラした目で見つめているとその視線に気づいて手を振ってくれた。かっこいい。
「あなたたちは? 事件の第一発見者だと聞いたんだけど」
「実習で来たんです」
「そうなの。運が悪かったわね」
どこで異変を感じたのか、発見した時の現場はどんな状態だったかを聞かれた。
私たちが想像していた騎士とは随分印象が違う。
「あの、お姉さんのお名前は?」
「エレーナ・モーレンソンよ」
「エっ、エレーナ……!?」
「何か気づいたことがあったら教えてね」
エレーナ・モーレンソン。その名前を聞いて反応しない平民はいない。
その人は平民として初めて地方ではなく王都の騎士団に配属されたとんでもなくすごい人だ。
私たち女の子の憧れの的でもある、身分の壁を壊した生ける伝説だ。
そんな人がこの事件を担当してくれるなら絶対解決間違いなし。
「おや、たくさん人がいらっしゃいますね」
その時扉が開き、仕立ての良いローブをまとったいかにも優しそうな中年の男性が入ってきた。
聞かなくてもてもわかる。この土地の領主、アルベルト・フォーン伯爵だ。
その表情は慈愛に満ちており、一見すると本当に聖人のようだ。
彼が領主かと隣にいたリリーと目を合わせようとすると、彼女の顔がひどく強張っているのに気づいた。
大きく目を見開いて、アルベルト伯爵を食い入るように見つめている。
「アルベルト様……!」
アンドレさんが立ち上がり深く頭を下げた。
「アルベルト様……申し訳ございません。すべては私の不徳の致すところ。これほどの減産、弁明の余地もございません……」
「頭を上げてください。自然のものですから、そういう時もありますよ」
二人の会話を聞いていると袖を引っ張られた。隣のリリーが表情を変えないまま伯爵を見ている。
彼女のその並ならぬ様子に心臓がドクンと跳ね上がった。
「あとは彼と話すので、皆さんはご退席願えますか?」
伯爵が眉を下げて言った。
この場にいる中で一番身分が高いのは彼だ。聞かないわけにはいかない。
扉の前で騎士の人たちは護衛のため待機して、私たちは部屋に戻った。
「リリー、さっきのどうしたの?」
そう尋ねるとリリーは視線を床に落とした。
「あのね、いきなりこんなこと言っても信じないと思うんだけど……」
いつもの彼女らしくない、自信のない姿だ。
「犯人はあの人よ」
「はあ!?」
フランメが信じられないとばかりに声を上げた。
私も驚きである。
「ありえないわよ! あんなに優しい人がそんなことするなんて!」
「でも絶対そうよ」
「じゃあ証拠はあるわけ?」
「それは……ないけど」
「ほらそうじゃない。何でそんな嘘つくのよ!」
フランメがリリーの肩を掴み何回も揺らす。
嘘と言われたリリーがぴくりと体を揺らした。
「嘘なんかついてないわ。そんなくだらない嘘つくわけないでしょ」
「顔を見ただけで犯人かなんてわかるはずないじゃない!」
「勘でそう思ったのよ」
「何よ勘って。そんな見栄張らないで!」
「そんなんじゃないわ! 私は事件を解決しようとーー」
「あんたに関係ないでしょ!」
フランメのその言葉は、リリーの逆鱗に触れたようだった。
「何よその言い草! 私たちがあなたたちの為にどれだけ苦労したか知ってる? ゲイルなんてスカート穿かされたんだからね!」
「俺巻き込むのやめてくれねえ?」
うるさいわよルッサーレ! とフランメに怒鳴られゲイルはしゅんと頭を下げた。その姿は飼い主に怒られた子犬と重なるものがある。
二人の言い争いはどんどん白熱していった。
「大体未来予知の使い手でもないくせに! いつもいつも斜めから見たような態度が気に入らなかったのよ!」
「何よそれ。どうせ私が未来予知できても信じないくせに!」
「そんなん当たり前でしょう? 私の方が偉いのよ! 身分だって上なんだから!」
「同じ平民じゃない! 何言ってんのよ」
「そんな汚れた服しか着れない人間と同じにしないで!」
「私だって好きで着てるわけじゃないわ! 自分のことを自分でどうにかできない人間が、そんな偉そうな口聞かないでよ!」
二人が肩を切らしてお互いを見つめあう。フランメはその状態に耐えられなかったのか、部屋から飛び出してしまった。
部屋の中に重苦しい沈黙が流れる。
リリーも泣きそうな顔でフランメの出た扉を見つめる。
追いかけてくる。と部屋を静かに出ていった。




