三年生-11
「ただいまー」
お、リリーたちが帰ってきた。
「おかえりー。早速見て欲しいものがあるんだけどいい?」
アンドレさんから借りた手帳と焼け焦げた紙を見せた。
「どう?」
「若者の目で見ても難しいわね」
「目がしょぼしょぼしてきた……」
ゲイルが目を擦る。何でお前はスカートを履いているんだ。
私の表情を見て察したのか、「聞かないでくれ」と真面目な顔で言われた。別にそう言う趣味だとしても親友だから安心して。
「聞き込みはどうだった?」
「色々聞けたわよ。手はアカギレだらけだけど」
どんなことを聞けたのか詳しく教えてもらおうとしたとき、遠慮がちに扉をノックされた。
扉を開けると、そこにはフランメのお母さんがいた。
「お話の最中にごめんなさいね。お使いを頼まれてほしいんだけど、いいかしら?」
女神様のお願いなら何なりと。
*
「東通りってここよね」
「あ、あったよ」
私とリリーは薬草屋の前に来ていた。女神様のお願いは、アンドレさんが飲んでいる薬を代わりに取りに行って欲しいということだった。今は色々と大変でそこに人手を割けないのだと眉を下げて申し訳なさそうに言われた。
領内一の薬師が営んでいる店らしいが、あまりのボロボロ具合に若干引く。木漏れ日寮みたいだ。
薄暗い店内に足を踏み入れると、がらんがらんとベルの音が鳴った。乾燥したハーブの強い香りが鼻を突く。カウンターの奥で熱心に調合をしていた店主がノソノソとした動きで私たちの方へ来た。
「あ? 誰だお前ら」
怖い。
領内一の薬師じゃなくて領内一の不良の間違いなんじゃないか。
……いや、怖いとか言ってる場合じゃないぞリナ。相手も同じ人間だ。
「アンドレ・リュミヌーさんの薬を受け取りに来ました」
「アンドレの? お前ら使用人か」
「違います。私たち、実習でアンドレさんのお家でお世話になってるんです」
店主が片眉を上げる。
「どこから来たんだ?」
「ロスカ魔法学校です」
そう答えると、店主の眉がぴくりと動いた。
「……帰れ。俺はその学校が大っ嫌いなんだよ」
「何でですか」
思わずムッとする。
「いい思い出がない。他の奴に受け取りに来てもらえ」
「無理です。今人手が足りないので」
「何でもするので薬ください。代金は支払えます」
「ほう。じゃあ、ココロニ草を採ってきてもらおうか。鉱山の奥にしか生えていないんだが、生憎足がこんなんでね」
店主が右足に手を置く、それは木製の義足だった。
彼はどうだ、できっこないだろうと言いたげな表情であったが、私たちにとっては何の問題もなかった。
「はい、任せてください」
リリーが外に出て地面に向かって指を鳴らすと、当たり一面に植物が生えた。店主は調合する手を止めて口を大きく開けた。
「……お前、やるな」
「ちゃんと勉強しているので」
彼は深い溜息をついた。
「ココロニ草は判別しやすい特徴が一切ない。専門家でも見間違うことがよくあるモノを、なぜガキが咲かせられる」
「将来薬屋になる予定のリリー・ラズベリーです。以後、お見知り置きを」
リリーが膝を折って令嬢のように挨拶をした。
店主はしばらくポカーンとしつつも、薬を渡してくれた。
*
無事女神様に薬を渡して、私たちは部屋に戻った。
シリウス鉱山は国内最多の鉱石量を誇っている。その鉱山の生産が悪いと国も良くないと判断したのか、明日に騎士団が来て調査をしてくれるそうだ。
領主も来てくれるらしい。
アンドレさんの手帳に書かれていた名前を思い出す。
アルベルト・フォーン伯爵。
ロスカ王国貴族記にて、この国にいる全ての貴族の家系図を見ることができる。
フォーン伯爵はこの地域で権力を持っていた貴族の子孫で、今も領主として残り続けている。
どんな人なんだろう。




