三年生-8
シリウス鉱山から出ると、ゲイルが息を切らしてこちらに走ってくれていた。
「ゲイル!」
「お、お前ら……大丈夫だったか……」
ぜぇぜぇと膝に手をついて苦しそうである。魔法を使えば良いのに、わざわざ走ってきてくれたのか。
「うん、大丈夫。ゲイル、アンドレさんは戻ってきてるかわかる?」
「ああ。戻ってきてるよ。俺が運んだ鉱夫の人を預かってもらったから」
それならば話は早い。私たちは家へと戻った。
「お父さん、大変よ! これを見て」
フランメは家に飛び込んで早々アンドレさんに先ほど手に入れた手紙を突きつけた。
アンドレさんは手紙に目を走らせると、怒りの表情が露わになる。
「何だこれは! いったい誰がこんなことを……!」
ゲイルも手紙を覗き込み、ペッと唾を吐く。
「道理で魔力の流れが腐ってたわけだ。こんな紙よく見つけたな。……で、これからどうする?」
私はフランメ、リンダ、そしてリリーと顔を見合わせ、力強く頷いた。
「このままじゃ安心して学校に帰れない。こんな酷いことをした犯人を見つける!」
「ええ、私の実家に泥を塗った奴よ、絶対にタダじゃおかないわ!」
フランメが炎のように目を燃え上がらせ、リンダも「私もやるわ!」と後に続く。
「君たち……気持ちは嬉しいが……」
「お父さんはいいの? カウルスたちを酷い目に合わせようとしたヤツをほっておいて。私たちが現場を見たのよ。私たちが解決する責任があるわ!」
「フランメ……」
アンドレさんが私たちの顔を見渡し、大きく大きく息を吐いた。
「ーーわかった。全員で協力して犯人を見つけよう。ただし、絶対に危険なことはするな」
君たちもね。とアンドレさんは私たち四人に釘を刺した。
「わかりました! ありがとうございます!」
私たちは頭を下げた。
*
解決するにしたって、まず何から始めたら良いんだろう。
部屋で考えあぐねていると、ドン! と私のすぐ横に分厚い本が何冊も置かれた。思わず飛び退く。
「ゲイル、この本何?」
「推理小説だよ! これ読んで世界の探偵がどんな調査をやってるか学ぼうぜ」
「あんたそんな呑気な方法でやろうってーー」
「ほら、リナはこれ読め」
問答無用でゲイルに分厚い本を渡された。……まぁ考えて何も出ないよりかはいいか。……良いのか?
本の題名はクロロメキアンナの退屈。有名な私立探偵のアンナが日々持ち込まれる様々な事件を解決する話だ。
ため息をつきながら、私は渋々ページをめくった。
クロロメキアンナの退屈の第三章。それは、ある大富豪が所有する美しい織物工場で、職人たちが次々と謎の咳に倒れる事件だった。
「……あれ?」
なんだか今の私たちの置かれている状況と似ている。
アンナは、工場の主が「最新の換気設備を導入した」と主張しているにもかかわらず、なぜ病人が増えるのかを怪しんでいた。アンナが目をつけたのは、工場の帳簿。そこには、高価な換気用魔具の購入履歴が並んでいた。しかし――。
「『書類の上にだけ存在する幻の魔具』……」
続きには、工場主が書類を偽造して設備投資の予算を横領し、実際には古い魔道具を使い回して粉塵を撒き散らしていたと書かれていた。
物語のアンナはこう締めくくっていた。
――『悪党は常に、最も金がかかり、かつ目に見えにくい部分の手を抜く。現場を見るな。彼らが隠したがる金と書類の流れを見ろ』と。
……金と書類か。
今日はもう夜遅いから、明日の朝にアンドレさんに聞くことにしよう。




