三年生-5
ついに実習当日になった。
私たちの事前学習でまとめた紙は先生たちから庶民の割には出来がいいと評価してもらい、フランメとリンダはいつもの調子を取り戻していた。
学校から外出届を受理してもらい、使い魔に乗ってシリウス鉱山に向かう。
私の使い魔は雪狼シュネールーのビアンカだ。
学校からは少し遠い場所にあるシリウス鉱山までビアンカは嫌そうな顔をせず乗せてくれた。ありがとうと頭を撫でると、嬉しそうに手を舐めてくれた。
「ようこそ、お嬢さん方」
早速ガタイのいい男の人が出迎えてくれた。
燃えるような赤髪がススに汚れて赤黒くなっている。
フランメの髪色は父親似なんだな。
「この鉱山を管理しているアンドレ・リュミヌーです。何もない所ですが、ぜひ色々見て周ってください」
「はじめまして。こちらこそよろしくお願いします」
リリーとゲイルと頭を下げる。
「いやぁ、娘を魔法学校に行かせたときはリンダちゃん以外に友達ができるかどうか心配していたんですが、三人みたいな可愛い友達ができていて父として嬉しい限りです。これからも仲良くしてやってください」
頭に手を置き白い歯を見せるアンドレさんは、正直フランメの父とは思えないほど優しい。
何でこの父親からああいう娘が生まれたのだろうか。
「お父さん、無理して来なくていいから。早く部屋に戻って」
「はは、相変わらず怖い娘だ」
「心配してるのよ!」
フランメがアンドレさんの背中をぐいぐい押して家の中に消えていった。あのー、私たちはどうすれば。
「こんにちは」
今度は茶色い髪の綺麗な女の人が出てきた。
「フランメがごめんなさいね。客人を置いていくなんて良くないわ。あなたたちこっちへいらっしゃい」
部屋に案内してあげる。とまるで女神のような微笑みを向けられた。
おそらくこの人がフランメのお母さんだ。この世界にはこんなに綺麗な人がいるだなんて。目が焼ける。
フランメのお母さんに促され、私たちはお家にお邪魔した。
「わあ、すごく広い……」
「広いだけで何もないわよ」
「あ。フランメ」
私の家の五倍はある部屋の広さに驚いていると、フランメがため息をつきながら帰ってきた。
「あら戻ってきたの。じゃあフランメ、お友達を部屋にご案内してあげて」
「言われなくてもわかってる。あなたたち着いてきて」
両親がいるとフランメの雰囲気がいつもと違って面白い。
私もお母さんに会いたいなぁ。お父さんはどっちでもいいや。
*
ここよ、と入れられた部屋はやはり広々としていた。
「ルッサーレは男子だから廊下で寝てね」
「は!? 何で俺だけ」
「冗談よ〜」
「つまんねぇ冗談つくなよ」
フランメが手をひらひら振っておどけている。
部屋に荷物を運んで、もうすぐ昼食の時間ということでその手伝いをしに向かった。
リンダには専用の食器があった。
お風呂にも入らせてもらい、明日からいよいよ実習だと天蓋付きのお姫様のようなベッドで眠りについた。
「おはよう」
「ふわぁ〜。おはよ〜」
朝日が昇り、小鳥の囀りで目を覚ます。
ゲイルはまだ寝ていたので足で蹴っておいた。
「おはようございます」
「あら、おはよう。よく眠れた?」
下に降りていくと女神様が優しく微笑んでくれた。朝から眩しい。
「あれ、アンドレさんは?」
「アンドレは今日は病院に行っているの。ちょっと肺の調子が良くなくてね」
肺の調子。事前学習のときに本で読んだことだ。
実習前の徹夜の成果が、今ここで試される。確か本にはこう書いてあった。
ーーー魔鉱肺:魔力を帯びた鉱石の粉塵が肺に吸着し、肺の中で勝手に魔力を放出して組織を徐々に焼き焦がしていく病気。鉱山での作業で魔鉱石の微細な粉塵を吸い込むことで、呼吸器を害する者が多い。進行すれば息切れが激しくなり、最悪の場合は命を落とす。ーーー
「……早く良くなるといいですね」
「ええ、ありがとう」
フランメのお母さんもきっとこの事は知っているはず。
下手に頑張ってくださいとか言えない。
彼女はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、今日から実習でしょう? 頑張ってね。と温かい言葉をかけてくれた。
ゴツゴツとした岩肌が露出するシリウス鉱山の入り口。
私たちはフランメから目の細かい布を渡された。
軽装な私たちとは違い、フランメは大きい鞄を背負っている。
「鉱山の中じゃ防御壁は張れないから、この布を口に巻いておいて」
フランメに言われるがまま布を巻き付ける。これで不審者の完成だ。
「良い? 絶対にその布は外さない事! 私より前に行かない事! これを守って行動して」
「「はーい」」
「よろしい。じゃあ行くわよ!」
フランメの先導の元、私たちはシリウス鉱山へと足を踏み入れた。
私たちはランプの薄明かりを頼りに、ひんやりとした坑道の奥へと進んでいった。壁のあちこちで、魔力を帯びた鉱石が怪しく、美しく、青白い光を放っている。
しばらく歩くと、採掘地に着いた。
「これが、ルビー。あそこにあるのがエメラルドの鉱石よ」
フランメが指をさしてくれる場所には、黒い石しか見えなかった。
「フランメ、これが本当にルビーなの?」
「はぁ、これだから何も知らない平民は嫌いなのよ」
「あなたも平民だけどね」
「うるさいわね。鉱石は最初から売り物みたいに輝いているわけではないの。傷付かないように慎重に採掘して、鉱石が本当の姿を見せてくれるまで磨き続けるのよ」
「へぇー。でも、それってすごく大変じゃない?」
「当たり前よ。でも、輝かせるためにはそれくらいの苦労は苦労じゃないわ。どんなに小さくて価値のないような石でも、磨き続ければ必ず自分だけの輝きを持てるのよ」
フランメの横顔はいつもの学校で見る意地悪く歪んだ顔ではない。
まるで宝石のようにキラキラと輝いていた。
「フランメ、あなた今すごくかっこいいわ」
「っは!? 何言ってるのあなた」
リリーがそう言うとフランメは顔をほのかに赤くした。
「照れちゃって〜」
「そ、そんなわけないでしょ!? リンダ早く行きましょ」
フランメは赤くなった頬を両手で押さえながら奥へ駆けてしまった。リンダもその後を追いかける。
「なーんだ。結構可愛いとこあるじゃん」
ゲイルが鉱山内の石ころを蹴る。
三人でニマニマしながら鉱山内を歩いた。




