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二年生-4

ロゼ様たちの圧倒的な魔力と冷たい言葉の余韻が残る、その日の夜。

木漏れ日寮の食堂の片隅で、私、リリー、ゲイルの三人は、夕食の温かいジャガイモのスープを前に集まっていた。

昼間の彼の言葉が頭から離れない。


『君たちも、そこにいるセレネーレたちと同じ平民なんだよ』


リュミヌーたちだけでなく、自分たちをも一括りに下と切り捨てたあの赤い目を思い出し、スプーンを握る手に思わず力が入る。


「……あーあ、せっかくバルトの鼻をあかしてモテ期到来かと思ったのにさ。公爵サマにあんな空気出されたら、全部持っていかれちゃうよなあ」


ゲイルがわざとらしく大きなため息をつき、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回した。

彼なりのこの重苦しい空気を変えようとする気遣いなのだろう。


「平民だからって何よ!」


どん! とリリーが机を叩いた。スープが揺れて少しこぼれる。


「リュミヌーたちの顔が真っ青になったのはスカッとしたけど、私たちまでどんぐりの背比べ扱い? だったら見せてやろうじゃない。そのどんぐりが、あいつらの頭を飛び越えるくらい大きな木になるところをね!」

「リリー……」


リリーの力強い言葉にが頭に響く。

そうだ。ロゼ様は冷たかったけれど、自分たちの魔法が絶対に届かないとは言わなかった。『どこまで足掻けるか見せてもらう』と言ったのだ。

要するに頑張って僕たちのところまで来てね応援してるよということだ。

本人からしたらそんな意味で言ってんじゃねえよと言われそうだが、分からないものは明るい方向で捉えるのが吉である。


「そうだね。私、あんな風に言われたままで終わらせたくない。絶対に見返してやる!」


二人にそう言うと、ゲイルがニカッと白い歯を見せて笑った。


「リナも言うようになったな。よし、そうと決まれば、まずは明日からの特訓だな。俺の風で、リナの氷を弾丸みたいに飛ばす合体技とかどう?」

「いいわねそれ」


食堂の片隅に、昼間の暗い雰囲気はもう微塵もない。


「じゃ、俺たちの輝かしい下克上の第一歩に一一」


ゲイルが木製のスープカップを掲げる。私とリリーも、笑顔で自分のカップを合わせた。


「「「乾杯!!」」」


コツン、と温かい音が響く。

世界が定めた人権や身分がどれほど高くて冷たい壁だろうと、私たちなら、きっと笑いながら乗り越えていける。私は胸の奥で、静かに、けれど熱く燃え上がる氷型の魔力を心地よく感じていた。




木漏れ日寮の食堂から「乾杯!」という賑やかな声が聞こえてくる頃。


それとは対照的に、静寂に包まれた夜の図書室ーーその最奥にある、王族と最高位貴族しか立ち入りを許されない禁書庫に、ガイルの姿はあった。

燭台の淡い炎が、彼の黒髪と冷徹な黒い瞳を激しく照らし出す。

ガイルは、革表紙がボロボロに擦り切れた古文書をめくり、あるページで指を止めた。

そこには、ロスカ王国の建国神話と共に、過去に数例しか存在しない氷型の魔法使いについての記録が、掠れた文字で刻まれていた。


「……やはり、間違いない」


ガイルの低い声が、静かな室内に溶けるように響く。

彼の脳裏に浮かぶのは、昼間の訓練場で、圧倒的な身分の壁を前にしてもなお、強い光を失わなかったリナの瞳だ。


「セイレーン……。東の最果てに逃げ延びた、没落した最初の氷の一族の生き残りか」


この国において、魔法型は人権であり、王族の雷型や公爵家の火型は支配者の証とされてきた。しかし、歴史の裏に葬られた真実がある。かつて王族すらも恐れ、その絶対的な力で国を二分したとされる伝説の血筋。それが氷型を宿すセイレーンの血だ。偶然か、セレネーレと名字が似ている。

ガイルの指先から、鋭い青白い雷の火花が小さく爆ぜる。



フィンはおもちゃのような氷と言ったが、あの純度、そして平民でありながら二年の独学であそこまでの魔法を放つ才能。もし力を完全に自分のものにしたら、この国の人権の秩序そのものを凍りつかせかねない。



ガイルは古文書を静かに閉じると、窓の外、リナたちが暮らす木漏れ日寮方角へと視線を向けた。

その黒い瞳の奥にあるのは、敵意か、それとも。


「面白い。せいぜい牙を研ぐといい、セレネーレ」


闇の中に、ガイルの不敵な独り言だけが冷たく残された。

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