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一年生-4

「一昨日、全員の魔法型が判別儀式によって確定した。よって、今日からの午後は、一部『魔法型別の合同授業』とする」


先生のその言葉に、教室が少しざわついた。

この学校では、普段の教室とは別に、同じ魔法型を持つ者が学年の壁を越えて集まり、その属性を極める授業が存在するのだ。


「火型は第一訓練場へ。水型は西の噴水広場へ……」


先生が次々と行き先を発表していく。

侯爵家のカーラ嬢が火型として立ち上がり、同じく火型のロゼ様の元へ嬉しそうに駆け寄った。火型の女の子たちはみんな彼を囲って教室を出ていった。


「風型は……第三庭園か。リナ、リリー、寂しいけど俺は一足先に行ってくるぜ」


ゲイルがウィンクをして教室を出ていく。


「私たちはどこかしらね」


リリーが緑の瞳を瞬かせながら呟く。

学年に三割いる平民たちも、多くは土型や水型などの一般的な型だ。しかし、私の氷型とリリーの花型は、学年全体で見ても前例がないほど珍しい。


「氷型のリナ、花型のリリー。お前たち二人はーー」


教師の視線が、教室の端に座る私たちに注がれる。やめろ恥ずかしいから見るんじゃない。

周囲の貴族たちも、興味深そうに耳を澄ませた。

特に、教室の最奥に座るガイル王子は、黒髪の間から黒い瞳をしく光らせ、私たちの反応をじっと見つめていた。


「お前たち2人は、第一庭園の奥にある植物・冷気合同施設へ向かえ。そこには他の教室の生徒たちも集まっている」


ロウガルド先生の言葉にホッと胸をなでおろした。ロゼ様やガイル王子のような、息が詰まるほどの威圧感を持つ貴族たちとは、ひとまず別の場所で授業を受けられるのだ。

奥の席から王子がじっとこちらを見つめているのを感じながらも、急いで教室を後にした。


きらびやかな本校舎を抜け、緑豊かな第一庭園のさらに奥へと進むと、そこには温室のような建物があった。

扉を開けると、そこにはたくさんの生徒たちが集まってガヤガヤと賑やかな声をあげていた。彼らが着ているのは、仕立ての良いドレスや紳士服ではなく、私たちと同じような服一一つまり、全員が別の教室の平民の生徒たちだった。


「みんなー!」


手を振って駆け寄ると、みんなも顔を輝かせて出迎えてくれた。


「あれ? 君たち、見かけない顔だね。何組から来たの?」


気さくに声をかけてくれたのは、短髪の元気そうな平民の女子生徒だった。胸のバッチの色から三年生ということがわかる。つまり先輩だ。周りの先輩たちも、興味津々で集まってくる。


「はじめまして、リナ・セレネーレです。こっちはリリー・ラズベリー。一組から来ました」


そう答えた、その瞬間。


「え......?  えええええっ!? 一組っ!?」


声をかけてくれた先輩だけでなく、周囲にいた平民の生徒全員が、まるで幽霊でも見たかのように一斉に飛び退いた。温室が一瞬で静まり返る。


「ちょっと、あんたたち本気!? そこって、王族や公爵家のロゼ様がいる、あの教室でしょ!?」

「はい、そうですけど……」

「信じられない……! 平民はみんな平民専用の教室に分けられてるはずなのよ。一組なんて、上位貴族の中でも一握りしか入れないとんでもないところなのに……!」


先輩たちガタガタと震えながら私たちの手をつかんだ。


「なんで平民のあんたたちがそんな化け物の巣窟みたいな教室に入れられてるの? 生きて朝を迎えられてるだけでも奇跡だと思うわ」


なぜそんなところに私たちは入れられたんだ。








一方その頃。リナたちと別れて風型の集まる第三庭園へと向かったゲイルは、いつも通り灰色髪の癖毛をなびかせながら、軽い足取りで歩いていた。

鼻歌交じりに庭園へ足を踏み入れたゲイルだったが、そこで思わぬ光景を目にする。


「……あれ?あそこにいるのって」


生垣の向こう、水型の授業が行われている西の噴水広場が見えた。そこには、五つある教室のいずれかに所属しているはずの、街出身の平民ーーリンダの姿があった。

リンダは貴族の生徒たちに必死に媚びを売ろうと、美しい水の魔法で噴水の水を操って見せている。しかし、貴族の生徒たちは彼女をあからさまに無視するか、小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。

少し離れた第一訓練場の入り口では、同じく街出身のフランメが火型の魔力を激しく燃え立たせていたが、やはり貴族たちからは冷淡に遠巻きにされている。


「......あいつらも別の教室で、それなりに苦労してんだな」


ゲイルはフンと鼻を鳴らした。

フランメやリンダは、自分たち地方出身の平民を見下して貴族側につこうとしていたが、

結局のところ貴族から見れば同じ平民として扱われているのが現実だった。


「おーい、そこの新入生! ぼさっとしないで早く並びなさい!」

「おっと、はーい!」


先生に呼ばれ、ゲイルは慌てて集団へと加わった。

この授業は学年合同のため、他の教室の平民生徒たちもたくさん混ざっている。ゲイルはさっそく、隣にいた男子生徒に声をかけた。


「やっほー! 俺は一組のゲイル! よろしくな!」

「えっ……一組って......!?」


男子生徒はひっくり返りそうなほど目を見開いた。


「お前、平民なのにまじかよ!? 嘘だろ、あの教室、今年は魔力特化枠として国の上層部が直接指名した人間しか入れないはずだぞ!」

「え? 魔力特化枠? 何それ?」


ゲイルが首を傾げると、男子は声を潜めて言った。


「俺の親父が学校に多額の資金をやってるから聞いたんだよ。一組は特別で、王族や公爵家のような『最高峰の魔力』を持つ者か、あるいは『前例のない異質な魔力』を持つ者だけを集めた特殊な教室なんだって。平民が混ざるなんて有り得ないはずなのに……」

「前例のない、異質な魔力……」


ゲイルの脳に、リリーの花型、そしてリナの氷型が浮かんだ。


(......なるほど。リナたちのあの珍しい魔法型、国の上層部(カミサマ)には最初からバレてたってわけか。それで、俺たちの実力を見るために、あの貴族の化け物たちと同じ檻にぶち込んだんだ。でも、俺は普通の風型なのになんで俺まで?)


「おいゲイル! お喋りしてないで、まずは風でこの的を射抜いてみろ!」

「ひえっ、はーい! 任せてくださーい!」


ゲイルはおどけて見せたが、その奥にある瞳は、冷静に事態を把握していた。

自分たちが狙われている。それも、学校のいじめなんて可愛いものじゃない。国そのものが、リナたちの力に目を光らせているのだ。


授業が終わり、夕方。

ゲイルは掴んだ特大の情報をリナたちに伝えるため、大急ぎで木漏れ日寮へと走り出した。

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