第六章死闘の川渡り
朝露がまだ地平線に滲む頃、ヌーの群れは、動き始めた。
数千の踵が地を打っていた。
村尾は、草を噛むたびに、鼻の奥で湿った匂いが広がっていた。
草を食べる事は、慣れていたがこの独特な土のような味と時々繊維が歯に絡むのが面倒だった。
しかし、そんな事気にしていられない。
生きる為には、草を食べるしかない。
しかし、サバンナの草も有限ではない。
ヌーやシマウマの群れが草を食べるごとに減ってきていた。
群れは、サバンナの大地を進んで草を捜し求めていた。
そして、いよいよ群れが移動する中での最終関門の壁が立ちはだかった。
群れの前には、幅の広い激しい濁流の流れの河川に辿り着いた。
河川には、ワニの背が水面を裂いて群れが川を渡るのを待ち望んでいる様だった。
“ブフォッ…ブフォッ”
ヌー達の鼻息は、低く、重く険しい様子が動作で見て取れた。
その音が波のように広がり、群れ全体が一つの意志を持った巨大な生き物に変わっていく。
村尾は、濁った河川で泳ぐワニ達を怯えた様子で見ていた。
ワニだ…。川に渡らないといけないのか。引き返した方が良いのか?でも、引き返しても群れから孤立するだけだ。しかも、新鮮な草も生えていない。
河川に泳ぐワニの中に飛び込んで泳いで、川岸を超えて、向こうのサバンナの大地にたどり着かないといけないのか。
村尾は、激しく葛藤していた。
ヌー達の蹄がぬかるみに沈む。
“ブフォォォォー!”
一頭が群れ全体に合図を示すようにけたたましく鳴いた。
群れ全体が反応した。
鼻息、咀嚼音、踏みしめる音、それが渾然一体となり、大地の太鼓のような音を響かせた。
土煙が立ち上り、熱と恐怖が混じり合って、まるで世界そのものが呼吸しているようだった。
群れは、一斉に川岸を降りて、濁流の激しい濁った河川を渡っていった。
水面に飛び込み、水飛沫を上げて、前足と後ろ足で激しく水中を蹴り上げて渡って行った。
途中で他のヌーや河川の岩にぶつかり、死ぬヌー達もいた。
濁流で川に流されるヌー達。
さらにワニの顎が音を立てて閉じる。
骨が“ゴリュ!”と砕ける音が不気味に響き渡った。
ヌーの叫びが河川付近に響き渡った。
村尾は、川を渡らずに河川を渡ったヌー、怯えて立ち尽くすヌー、群れに踏みつけられるヌー、押し流されるヌー、ワニに喰われるヌーを愕然とした様子で見ていた。
渡りたくない…。ワニに喰われる何て嫌だ…。
絶対に渡りたくない…。
村尾は、立ち尽くしていた。
空では、ハゲワシが円を描き、まだ死んでないヌー達の死体を待っている。
すると、遠くでジャッカルの笑い声がした。
乾いた風がその声を運び、村尾の心を刺す。
その笑い声が見下されていると思い、ヤクザの組長だった時の血が騒ぎ立てた。
渡ってやる!
村尾は、心の中で強く叫んだ。
そして、濁流の中に飛び込んだ。
水面に血が広がっていた。
流れは、かなり早く前足と後ろ足を大きく振って泳いでいた。
岩や群れとぶつかった衝撃で水面に浮かぶヌーを潜り抜けた。
群れにぶつかり合いながら向こうの川岸へと渡っていった。
しかし、河川を泳ぐワニ達が口を大きく開けて泳いで追いかけていた。
村尾が川岸に辿り着き、上がろうとした時ワニが後ろ足に噛み付いた。
後ろ足に激しい痛みが襲われた。
振り払おうとしたがなかなか離れない。
その瞬間、心臓が一瞬で凍り付いた。
やばい…死ぬ…。ここで終わりだ…。
村尾は、激しい恐怖心に駆り立てられて、絶望した様子で声を震わせて呟いた。
すると、一頭のヌーが村尾の後ろ足を噛んでいるワニにツノを向けて突進した。
ワニは、村尾の後ろ足を離して、ヌーの首元に齧り付いた。
そして、ヌーは、ワニに水面の中に引きずり込まれた。
え!そんな!ちょっと!
村尾は、慌てたように叫ぶように心の中で呟いた。
しかし、水面の中に入ってヌーを助ける事何て出来ない。
河川には、ワニが獲物を待ち構えているかのように泳いでいる。
無理だ…。仕方がない…。
しかし、何であのヌーは、自分の事を助けてくれたのだろうか。
ヌーには、仲間意識はない。
他のヌーが肉食獣に襲われていても助けようとはせず逃げるだけだ。
ヌーが群れるのは、自分の生存本能を上げる為に群れているだけだ。
しかし、あのヌーは、もしかして、仲間意識はあったのだろうか。全てのヌーに仲間意識はない訳ではないのだろうか。
もしかして、ヌーには、仲間意識は心の奥底であるのだろうか。
村尾は、ぼんやりとワニが泳ぎヌーの死体が浮く河川を見ていた。
ワニが鷲尾にいる川岸に近付いて来た。
村尾は、慌てて川岸を上がって、陸地に着いた。
村尾は、ヌーに助けられて申し訳ない気持になったが構わずに前へと進んだ。
やっぱりこの厳しくて過酷なサバンナを生き抜くには、群れ全体で戦わないといけないのか。
しかし、どうやって群れを動かしたら良い…?
ヤクザの組長だった時にように群れで戦っていくには、どうしたら良い…?
村尾は、心の中で問い詰めた。
“ヒューゥゥー…”
すると、静かな風が吹き荒れた。
その風は、息絶えたヌー達を弔うような風に感じた。
村尾は、ヌーの血に染まった河川を眺めて、群れと共にサバンナの大地の果てへと前
朝露がまだ地平線に滲む頃、ヌーの群れは、動き始めた。
数千の踵が地を打っていた。
村尾は、草を噛むたびに、鼻の奥で湿った匂いが広がっていた。
草を食べる事は、慣れていたがこの独特な土のような味と時々繊維が歯に絡むのが面倒だった。
しかし、そんな事気にしていられない。
生きる為には、草を食べるしかない。
しかし、サバンナの草も有限ではない。
ヌーやシマウマの群れが草を食べるごとに減ってきていた。
群れは、サバンナの大地を進んで草を捜し求めていた。
そして、いよいよ群れが移動する中での最終関門の壁が立ちはだかった。
群れの前には、幅の広い激しい濁流の流れの河川に辿り着いた。
河川には、ワニの背が水面を裂いて群れが川を渡るのを待ち望んでいる様だった。
“ブフォッ…ブフォッ”
ヌー達の鼻息は、低く、重く険しい様子が動作で見て取れた。
その音が波のように広がり、群れ全体が一つの意志を持った巨大な生き物に変わっていく。
村尾は、濁った河川で泳ぐワニ達を怯えた様子で見ていた。
ワニだ…。川に渡らないといけないのか。引き返した方が良いのか?でも、引き返しても群れから孤立するだけだ。しかも、新鮮な草も生えていない。
河川に泳ぐワニの中に飛び込んで泳いで、川岸を超えて、向こうのサバンナの大地にたどり着かないといけないのか。
村尾は、激しく葛藤していた。
ヌー達の蹄がぬかるみに沈む。
“ブフォォォォー!”
一頭が群れ全体に合図を示すようにけたたましく鳴いた。
群れ全体が反応した。
鼻息、咀嚼音、踏みしめる音、それが渾然一体となり、大地の太鼓のような音を響かせた。
土煙が立ち上り、熱と恐怖が混じり合って、まるで世界そのものが呼吸しているようだった。
群れは、一斉に川岸を降りて、濁流の激しい濁った河川を渡っていった。
水面に飛び込み、水飛沫を上げて、前足と後ろ足で激しく水中を蹴り上げて渡って行った。
途中で他のヌーや河川の岩にぶつかり、死ぬヌー達もいた。
濁流で川に流されるヌー達。
さらにワニの顎が音を立てて閉じる。
骨が“ゴリュ!”と砕ける音が不気味に響き渡った。
ヌーの叫びが河川付近に響き渡った。
村尾は、川を渡らずに河川を渡ったヌー、怯えて立ち尽くすヌー、群れに踏みつけられるヌー、押し流されるヌー、ワニに喰われるヌーを愕然とした様子で見ていた。
渡りたくない…。ワニに喰われる何て嫌だ…。
絶対に渡りたくない…。
村尾は、立ち尽くしていた。
空では、ハゲワシが円を描き、まだ死んでないヌー達の死体を待っている。
すると、遠くでジャッカルの笑い声がした。
乾いた風がその声を運び、村尾の心を刺す。
その笑い声が見下されていると思い、ヤクザの組長だった時の血が騒ぎ立てた。
渡ってやる!
村尾は、心の中で強く叫んだ。
そして、濁流の中に飛び込んだ。
水面に血が広がっていた。
流れは、かなり早く前足と後ろ足を大きく振って泳いでいた。
岩や群れとぶつかった衝撃で水面に浮かぶヌーを潜り抜けた。
群れにぶつかり合いながら向こうの川岸へと渡っていった。
しかし、河川を泳ぐワニ達が口を大きく開けて泳いで追いかけていた。
村尾が川岸に辿り着き、上がろうとした時ワニが後ろ足に噛み付いた。
後ろ足に激しい痛みが襲われた。
振り払おうとしたがなかなか離れない。
その瞬間、心臓が一瞬で凍り付いた。
やばい…死ぬ…。ここで終わりだ…。
村尾は、激しい恐怖心に駆り立てられて、絶望した様子で声を震わせて呟いた。
すると、一頭のヌーが村尾の後ろ足を噛んでいるワニにツノを向けて突進した。
ワニは、村尾の後ろ足を離して、ヌーの首元に齧り付いた。
そして、ヌーは、ワニに水面の中に引きずり込まれた。
え!そんな!ちょっと!
村尾は、慌てたように叫ぶように心の中で呟いた。
しかし、水面の中に入ってヌーを助ける事何て出来ない。
河川には、ワニが獲物を待ち構えているかのように泳いでいる。
無理だ…。仕方がない…。
しかし、何であのヌーは、自分の事を助けてくれたのだろうか。
ヌーには、仲間意識はない。
他のヌーが肉食獣に襲われていても助けようとはせず逃げるだけだ。
ヌーが群れるのは、自分の生存本能を上げる為に群れているだけだ。
しかし、あのヌーは、もしかして、仲間意識はあったのだろうか。全てのヌーに仲間意識はない訳ではないのだろうか。
もしかして、ヌーには、仲間意識は心の奥底であるのだろうか。
村尾は、ぼんやりとワニが泳ぎヌーの死体が浮く河川を見ていた。
ワニが鷲尾にいる川岸に近付いて来た。
村尾は、慌てて川岸を上がって、陸地に着いた。
村尾は、ヌーに助けられて申し訳ない気持になったが構わずに前へと進んだ。
やっぱりこの厳しくて過酷なサバンナを生き抜くには、群れ全体で戦わないといけないのか。
しかし、どうやって群れを動かしたら良い…?
ヤクザの組長だった時にように群れで戦っていくには、どうしたら良い…?
村尾は、心の中で問い詰めた。
“ヒューゥゥー…”
すると、静かな風が吹き荒れた。
その風は、息絶えたヌー達を弔うような風に感じた。
村尾は、ヌーの血に染まった河川を眺めて、群れと共にサバンナの大地の果てへと前進した。




