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第四章群れの争いと死肉のハゲワシ

ヌーに転生して、一ヶ月くらい経った時。

群れと共に行動してら草原の草を咀嚼して、食べてひたすら進んでいた。

草の味もすっかり慣れて今では、食べる事を厭わなかった。

しかし、ただひたすら殺風景な草原を走ったり、立ち止まったり、歩いたりする日々。

ハイエナには、追い掛けられる事は、たたあったが別に自分にとって脅威になる事は、あまりなかった。

群れ全体の頭数があまりにも多いので捕まる事がないのだと思った。

しかし、何か退屈だ。何か刺激が欲しい。

ハイエナには、勝てないので自分の力を見せつけるのは、難しい…。

勝てる動物はいないのだろうか…。

逃げているだけじゃなくて、何か血が滾るような衝動が欲しい。

ヤクザだった頃の刺激が欲しい。

今は、刺激が足りない…。

村尾は、いつしか心の中で自分の力で相手を捩じ伏せたい支配力に駆られた。

すると、草原の上に病気で苦しんで横たわっているシマウマがいた。

“ブゥゥ…ブゥゥ…“

乱れた呼吸を繰り返して、小刻みに体を振るわせていた。

体を震わせて激しく苦しんでいる。

村尾は、その様子をぼんやりと見ていた。

助けようか…。しかし、助ける事は出来ない…。

この大自然で厳しい弱肉強食の世界で助けると言う言葉は、通用しない。

しかし、このシマウマを見ていると、村尾は、ある事を思い出してしまった。

そう。村尾が可愛がっていた組の若頭の今井だ。

村尾の右腕的存在で数少ない心を許す男。

今井は、二十代くらいで村尾は、情熱のある活気がある男だと認めた。

若いがハングリー精神があり、今時の若者と違い芯が強いと感じた男だ。

今井は、組のシノギの利益、他の組織との巧みな話術で縄張りを広げていった。

村尾は、今井のヤクザとしての素質に惚れ込み、二十代で若頭に抜擢した。

しかし、対立組織との抗争で今井は、銃弾に倒れた。

村尾は、病院のベットで横たわる今井の手を握りしめた。

顔は青ざめて、肌は、血色が悪く目は、虚ろに少し開かれていた。

無残な姿を見て、村尾は、胸が引き裂かれる思いだった。

俺の可愛い息子同然の男を殺しやがって…。

村尾は、そう思うと、激しい怒りに駆り立てられた。

村尾の豪胆で粗野な性格がさらに増して、狂気と残忍な性格へと変貌した時だった。

その今井と息絶えた姿と病気で苦しむシマウマの姿が重なり合った。

しかし、そのシマウマに構っている暇もない。

群れのヌーは、構わず前へと進み続ける。

村尾は、群れの後を追い掛けた。

しばらく走ったり歩いたり、立ち止まったりしながら草を噛み千切って、咀嚼して食べていると、シマウマの荒々しい鳴き声が聞こえてきた。

“ヒィィーンブルルルルシュシュ!“

村尾は、辺りを見渡すと、群れに混じるシマウマがまたオス同士で争いを始めた。

激しく首や体全体でぶつかり合い、足で蹴り合う。

大地に打撃音がこだました。

群れのヌーをかき乱していき、ヌーを次々と体当たりしていく。

村尾は、シマウマがかき乱して争いをする様子に怒りを覚えた。

ふざけた事しやがって…。ぶっとばしてやる…。

村尾は、激しい怒りに駆られて、争いをするシマウマにツノを向けて突進した。

シマウマは、村尾が突進すると、素早く俊敏に避けた。

しかし、村尾は、シマウマの横腹目掛けてツノで突き刺した。

シマウマが悲鳴を上げた。

皮膚を突き破り、肉を貫通した。

血が吹き出た。

“ヒィヒィィィーン!“

シマウマが悲鳴のような鳴き声を上げた。

しかし、シマウマは、激しく怒り狂ったのか村尾目掛けて反撃するように激しく後ろ足で蹴り付けた。

激しい打撃音がこだました。

群れのヌーは、ちらりと見るが気にする素振りは、見せず前へとゆっくりと進んで草を歯で千切って咀嚼して、辺りを見渡すだけだった。

それでも村尾は、自分だけで気性の荒々しいオスのシマウマに立ち向かっていた。

しかし、シマウマに取り囲まれて、前足と後ろ足で激しく蹴り上げた。

村尾は、地面に倒れた。

シマウマは、それでも容姿なく踏みつけていった。

うわ!止めろ!止めろ!

村尾は、心の中で叫んだ。

“モォォォー!“

村尾か鳴き声を上げた。

ヌー独特の鳴き声が周囲に全体に響き渡り、サバンナの大地を揺らした。

すると、別の動物の鳴き声が響き渡った。

ヌーではない。迫力があり、声に怒気が篭っている。

すると、ヌーの群れの前列辺りが乱れている。

村尾を取り囲んでいるシマウマ達は、慌てて離れた。

“モゥオォォォー!“

アフリカスイギュウの鳴き声だ。

アフリカスイギュウの群れがヌーの群れを蹴散らしている。群れは、五十頭以上いた。

大きな黒い体にどっしりとしたツノを生やしている。

ヌーの群れが邪魔なのだろうか。

アフリカスイギュウの群れは、立派なツノでヌーの群れをひっくり返すように投げ飛ばして、太い足で踏み付けた。

アフリカスイギュウの群れに踏み付けられて、ヌー達は、地面に倒れた。

アフリカスイギュウの五百キロ近い全体重が掛かり、内臓を圧迫されて、踏み付けられヌー達は、息絶えた。

村尾は、アフリカスイギュウ荒々しい行動に驚いてしまった。

村尾は、アフリカスイギュウの圧倒的迫力に屈してしまった。

くそ…。あんなのに勝てる訳がない…。

絶対に無理だ…。ちくしょう…。

何であんなに怒っていやがる…。

村尾は、悔しそうに愚痴を溢しながら逃げていた。

アフリカスイギュウは、ヌーの群れに突進して来た。

頭数は、ヌーの方が数が多いが、破壊力は、アフリカスイギュウの方が上だ。

ヌーの群れは、アフリカスイギュウの群れから避けながら逃げて行った。

群れに混じるシマウマ達は、いち早くアフリカスイギュウから離れて行った。

怖い物知らずの村尾でもさすがにアフリカスイギュウに挑む勇気はなかった。

人間通しなら誰でも立ち向かったのにな。サバンナでは、勝手が違い過ぎる。猛者がたくさんいる。

ヌーの村尾では、圧倒的に体格差が劣る。

下手に立ち向かえば、怪我をして動けなくなる。最悪の場合死ぬ事だってある。

村尾は、もう逃げるしかなかった。

群れは、アフリカスイギュウを振り切り逃げ切った。

村尾は、立ち止まって呼吸を整えた。

“ウー…ゴルゥゥ…“

低い声を出して呼吸を整えた。

人間の時とは違い、呼吸を整えるのが難しかった。

村尾は、安堵して、立ち止まると、また、ヌーの群れを追いかける影の集団が見えた。

ハイエナだった。

しかも、今度は、四十頭以上引き連れた群れだった。

ヌーの群れが激しく恐怖で揺らぎ出した。

サバンナの空気が一瞬で凍り付いた。

ヌーの群れは、慌てて逃げて行った。

しかし、ハイエナは、しつこい。

逃げても逃げても追いかけて来る。

村尾は、ハイエナに捕まらないように無我夢中で逃げた。

ハイエナは、ヌーの群れを取り囲むように追いかけて来た。

ハイエナ三頭でヌーの足首を噛んで地面に倒して、尻から噛み付いて皮膚を食い破り、生きたまま食べ始めた。

しかし、ヌーの群れは、構わず自分の事優先で逃げて行く。

ハイエナの群れは、ヌーを次々と狩っていき、皮膚を食い破り、肉と内臓を引きずり出し貪った。何日も餌にありつけていなかったかのように。

大量の血がサバンナの草原を赤く染めた。

村尾は、その残酷な様子を目を背けて、走って行った。

何で食いやがる…。ハイエナ共は…。

ハイエナにもまだ勝てない…。無理だ…。

村尾は、絶望した様子でただひたすら逃げた。

ハイエナから追いかけられ、群れと共に逃げて一時間が経ってようやく振り切った。

村尾は、逃げ切った安堵よりもすっかり疲弊していた。必死に走って逃げた影響で嘔吐してしまった。胃液が混じった草が草原の上に付着した。

四足の足や体全体が重苦しかった。

地面に倒れるように座り込んだ。

群れのヌー達もようやく落ち着いて静かに佇んでいた。

その光景を見ると、村尾は、自然と自分も落ち着いていた。

すると、村尾は、高校生の時に付き合っていた彼女の事を思い出した。

喧嘩に明け暮れ、同級生からも恐れられていた村尾の事を気遣い気にかけてくれていた同じクラスの生徒だった彼女。

きっかけは、彼女が街でチンピラに絡まれている時に村尾がチンピラに立ち向かい、袋叩きにされながらも彼女を助けた事があった。

皆から恐れられていた村尾だが、実際弱い者いじめはせず、ただ自分には歯向かうような相手とばかり喧嘩していたのだ。それ以来、彼女は、村尾は、根は、優しいのだと思うようになった。

村尾に少しでもお礼をしようと、ご飯を届けてあげたり、図書館で勉強を教えたりした。

村尾もそんな彼女にいつしか惚れ込んでしまった。

彼女は、いつも村尾にもう喧嘩しないで、相手も傷付くからと言っていた。

しかし、村尾は、俺に逆らう奴は、倒すだけだと彼女の話しに耳を傾けず、自分の意思を押し通していた。

そんな彼女も村尾の学生間の喧嘩を超えて、怪しい組織に出入りするようになり、自分もそれに加担する事にする事になるかもしれないと思い離れて行った。

村尾は、今振り返ると、あの時もっと彼女の言う事を聞いて、心を入れ直しておけば良かったと後悔が残っていた。

大好きだったなあの子…。あの時…喧嘩何て辞めておけば…。もしかしたら彼女と幸せな人生を送っていたかも知れないな…。

ちくしょう…。ヤクザになんかにならなければ良かった。

村尾は、悔しそうに呟いた。

すると、少し離れた所でハゲワシが死肉を集っていた。

ハゲワシは、シマウマの死骸を集っていた。

死骸は、骨と僅かな血肉しかなかった。

村尾は、ハゲワシが死肉を貪る姿を見て怒りが湧いた。

死肉何て貪りやがって…。卑怯者が…。ちゃんと獲物を獲らず食べやがって…。許せない…。こいつなら今の俺でも勝てるかも知れない…。こいつは、俺が始末してやる。

今は、刺激が欲しい。

ヤクザの組長だった時の血が全身を騒ぎ立てのと、ハイエナとアフリカスイギュウに立ち向かえない怒りをハゲワシに向けていた。

村尾は、立ち上がって、ハゲワシの集る場所に突進して、体当たりした。

黒い羽毛が宙に舞った。

“グワース!グワグワース!“

ハゲワシの悲鳴の鳴き声が大地に響き渡った。

しかし、ハゲワシも負けず嘴で噛み付いてきた。

一瞬鋭い痛みを感じた村尾は、怯まずツノでハゲワシを突き刺した。

村尾の体全体が赤黒い血と黒い羽毛でべったりと糊付けされたようにくっ付いた。

初めて、サバンナで獲物を仕留めた。食べる為ではない。昔のように喧嘩で相手を打ち負かしたかったのかもしれない…。

喧嘩の後には、ハゲワシの無残な死骸とシマウマの死骸が共に残っただけだった。

村尾がハゲワシを始末する様子は、ヌーの群れは、ぼんやりとした様子で見ていたが気にせず前を向いて進み始めた。村尾もそれに続いた。

まだまだ倒してやる…。そして、邪魔な奴は、俺がこの手で倒してやる…。

村尾は、そう強気だった口調で呟いて、走って行った。

“ブルルルゥゥゥゥー!ビュウゥゥゥーン!ゴゴゴゴゴォォォー!“

激しい風が村尾の周辺に吹き荒れた。

その風は、何かの逆鱗に触れたかのような勢いのある風速だった。

ヌーの群れは、激しい風が吹き荒れているのでざわ付き始めた。

“何だ!何だ!動きにくい!“

村尾は、心の中で叫んだ。

“モォォォォォォー!“

村尾は、懇願するように青々とした空に向かって鳴き声を上げた。

すると、風は、静かに止んだ。

あの逆鱗のような激しい風は、一体何だったのか…?

村尾には、分からなかった。

村尾は、体を激しく揺さぶって体に付いたハゲワシの羽毛を地面に落とした。


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