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第三章生への死守

ヌーに転生してからどのくらい経っただろうか。

一週間は、経った。

もう、ヌーの体になれてきた。

草原の草を咀嚼して、群れの後に付いて行く。

尿と糞は、周囲のサバンナの自然の景色からさらけ出すようにそのまま行っていた。

ヌーの体なので抵抗はないがやはりヤクザの組長だった村尾にとっては屈辱的な行為だ。

しかし、慣れてくると、平気になっていた。

夜、立ったまま直立で寝て、朝になったら群れに付いていく。

どこまで草原を走り抜けば良いのだろうか。

一体群れは、どこを目指しているのだろうか。

村尾は、殺風景な草原を走るヌーの群れの後にただ単に流れに従うように付いて行った。

群れに混じるシマウマの群れがシマウマ同士で激しい喧嘩を繰り広げていた。

オス同士がメスを巡って喧嘩をしているのだろうか。

村尾は、その様子をぼんやりとした様子で見ていた。

しかも、シマウマは、群れて進むヌーの激しく体当たりしている。

“モォォー!“

ヌーは、シマウマに体当たりされて鳴き声を上げた。

村尾は、その様子を見てシマウマが目障りだった。

前世だった頃のヤクザの記憶が蘇ってきた。

邪魔な奴は、消すだけ。目障りの奴も消すだけ。

ヤクザの時は、その事だけを思って自分に従わない奴や敵意を向ける奴らは、徹底的に殺していた。

しかし、今は、言葉も話せぬヌーになってしまった。

どうすれば良いのだろうか…。

この先、ヌーくんなって何もないただの草原の上を行く群れにただひたすら付いて行くしかないのだろうか。

そう思うと、村尾は、気が遠くなった。

人間に再び生まれ変わる事は、出来るのだろうか。

村尾は、ふと思った。

しかし、そんな事絶対にないと思った。

もう、ヌーとして生まれ変わってしまい、大勢の群れと共に行動していくしかないのか。

人間として生まれ変われないと思うと、村尾は、深く絶望してしまった。

今日は、日差しの照りが強い。

喉が乾いた。

村尾は、水溜まりを探そうとふと辺りを見渡した。

すると、後ろから甲高いキャン!キャン!と言う鳴き声が響き渡った。

その鳴き声と共に場の群れの空気が一瞬で凍り付いた。

シマウマとヌーの群れが慌てて警戒するように辺りを見渡した。

すると、褐色の体毛に覆われたハイエナが三十匹以上群れで走ってヌーとシマウマの群れを追いかけた。

村尾は、この時初めて肉食獣に襲われる恐怖…。そして、命が脅かされる脅威の危機に直面した。

前世の時に車内にいた時に銃殺されたのは、一瞬だったので命の危機に直面する感じはあまり感じなかった。

ヤクザの組長だった時も自分の強さを信じて力で相手を捩じ伏せていた。

しかし、ヌーになった今草食獣で追われる立場になった今、人間だった時の腕力や凶器の刃物や拳銃もない。ツノしか武器がない自分は、逃げるしかなかった。

しかもハイエナの群れの多さに立ち向かうのは、あまりに無謀だった。

ハイエナの噛む力は、強いと聞いた事がある。骨を噛み砕くくらい強靭だとテレビで見た事がある。

テレビでハイエナがシマウマやヌーを狩る映像を見た事がある。

生きたまま食らって、内蔵を引き摺り出すシーンは、目を覆いたくなるくらい残酷だった。

今そのハイエナが現実に追いかけている。

村尾は、背筋が凍り付いた。

命が脅威にさらされている。

ハイエナに喰われたくない。

村尾は、無我夢中で走っていった。

群れ全体、ハイエナが追いかけて来た途端に混乱するようにざわめき出した。

バタバタバタバタ!と激しい蹄で走る音がサバンナの大地に響き渡った。

ハイエナは、群れ全体をかき乱すようにヌー一頭の後ろ足を噛んで捕まえて、生きたまま牙で皮膚を食い破り、肉を齧り付いた。

血が噴き出し、赤黒い内臓が地面に溢れた。

細長い腸もはみ出ていた。

ヌ一の悲鳴が響き渡った。

村尾もヌ一が生きたままハイエナに喰われて、苦しんでいる姿を無視して、逃げていった。

ヌ一は、仲間意識はない。他のヌーが襲われていても助けず自分優先に行動している。

ハイエナは、ヌーを一頭狩ると、別のヌーを襲っていった。

村尾は、ひたすら逃げた。

逃げてやる。ハイエナごときに喰われてたまるか…。

絶対に生きてやる…。生き抜いてやる…。

元ヤクザの組長がハイエナごときに喰われてたまるか…。

村尾り、自身を付けるように強く呟いて、前足と後ろ足を蹴り上げるように走って行った。

ヌーの群れが激しく蹴り上げて逃げて行くので、サバンナの大地に砂が吹き上がっていた。シマウマもヌーの群れの真ん中付近で走って行った。

村尾は、駆け抜けるように走って逃げた。

口の中が激しい渇きに襲われた。

乾きを潤す為に舌を激しく動かして唾液の促進を促した。

ハイエナの群れから逃げていると、いつのまにか夕暮れになっていた。

ハイエナの群れから逃げ切った。

ヌーの群れの動きは、止まった。

村尾は、綺麗な夕暮れの朱に染まる太陽を見た。

綺麗だ…。

村尾は、夕暮れの太陽を見ると、少し感慨深くなった。

中学生の時、喧嘩に明け暮れて、父に怒られた記憶…。 

その時、家出をして、一人で菓子パンを買って、一人で食べながら寂しげに夕暮れの太陽を見た時。

その思い出がふと蘇った。

あの時に戻りたいな…。

村尾は、ふと懐かしげに呟いた。

もう、ヌーになった。

人間として、戻る事は、絶対にないと改めて実感した。

もう、ヌーとして生きるしかないのだ。

あぁ…、周りから恐れられて、ヤクザの組長として力で相手を捩じ伏せて権力を振りかざしていたのに今は、肉食獣から終われる羽目になっている。

くそ…。何でヌーに転生してしまった…。

村尾は、そう悔しそうに呟いた。

周りのヌーは、夕暮れの太陽の朱色の明かりに照らされて、静かにサバンナの大地を歩いていた。

生きられるだろうか…。

村尾は、ふと心配そうに呟いた。

“ヒュゥー、ヒュゥゥゥー…“

すると、静かで穏やかな風が吹いた。

その風は、恐怖心で混乱している群れ全体を落ち着かせる様に感じた。

村尾は、その風のお陰で少し落ち着きを取り戻した。

翌日、群れと行動を共にしていると、シマウマ同士の喧嘩が激化していた。

ヌーの群れ全体をかき乱すように暴れて逃げ回り、他のヌーにぶつかりながら後ろ足で蹴り合っていた。

ヌーは、動きが鈍いのかシマウマの瞬発な動きに押されていた。

シマウマ達は、草原の上で激しく動き回って蹴り合って喧嘩をしていた。

サバンナの大地がいつしかシマウマの喧騒に包まれていた。

村尾は、それを見て、シマウマが目障りだった。

ちょこまか走り回りやがって…。目障りだぜ…。

静かにしてくれよ…。いつ肉食獣が襲いかかって来るか分からないのに…。

静かにしてくれ…。今は、静かにしたいからよ…。

村尾は、そう声を震わせて怒りを必死に抑えていた。

すると、ヤクザだった時の血が騒ぎ立てた。

こいつ…、目障りだ…。

せっかくのんびりしているのに邪魔しやがって…。

村尾は、シマウマにいつしか敵意を向けた。

そして、争いをしているシマウマにツノを向けて、突進した。

シマウマの皮膚がツノに突き刺さった。

皮膚がツノに食い込み肉を貫通した。

血が噴き出した。

“ヒィィーン!“

シマウマが悲鳴を上げた。

しかし、シマウマは、村尾に敵意を向けて、激しく後ろ足で蹴り上げた。

村尾は、地面に倒された。

しかし、諦めずツノで応戦した。

他のシマウマが村尾を囲んで蹴り上げようとした。

しかし、村尾は、交わして、取り囲むシマウマを追い払った。

シマウマは、余計な体力を使うのは、無駄だと判断したのか村尾のいる場から離れた。

ヌーの群れは、その様子を一緒だけちらりと振り返って立ち止まったが気にする素振りをせず前へと歩き続けた。

村尾は、喧嘩をするシマウマを追い払うと、勝ち誇ったように嬉しく思った。

ふん。邪魔者は、許さない。

村尾は、そう強気で呟いたり

群れと移動をしていると、大きな池が見えた。

池では、他のヌーの群れが水を飲んでいた。

喉が渇いていた。

群れは、池の周りに集まって水を飲み始めた。

村尾は、群れに混じって水を飲み始めた。

すると、池に大きな鼠色の影が映し出された。

振り返ると、大きなアフリカゾウが池に入ろうとした。

村尾は、アフリカゾウの圧倒的な大きさに怯んで慌ててその場から離れた。

ヌーの群れもアフリカゾウが現れるとら慌てて逃げて行った。

“パーオーン!“

アフリカゾウが威嚇するような雄叫びを上げて、池の中に入って大きな体を浸した。

池は、アフリカゾウの独占になった。

大きくて、長い鼻で池の水を掬って、口に入れて飲んでいた。

鼻から水を出して、顔に浴びせていた。

もう、池は、アフリカゾウのオアシスになっていた。

アフリカゾウの群れ以外を近付かせないような圧倒的なオーラが漂っていた。

村尾は、その様子を悔しそうな様子で見ていた。

力があれば…。もっと力があれば、あいつらと立ち向かえるのに…。ヌーじゃアフリカゾウには、勝てない…。

村尾は、自分の無力さに落胆した。

ヌーの群れは、アフリカゾウが池の中に入った途端に前へと動き出した。

村尾も群れに付いて行った。

村尾は、悔しさを必死で抑えて、諦めて群れと共に行動した。

群れと行動していると、いつのまにか村尾の体も疲弊していた。

アフリカゾウが現れた池から悔しい気持ちから全力で走って逃げてしまい、いつしか体力を大幅に削ってしまった。

どうしたら良い?一体いつまで自分は、ヌーとして生きていかないといけない。

人間に生まれ変わる事は、出来るのだろうか。

そんな事を寂しげに思ってしまった。

しかし、ただ草原を歩くだけ。一体、ヌーの群れは、何でサバンナの大地を走っているのだろうか。

そういえば、草原の草や水源が進む事に増えている気がする。進まないと、水源がないのだろうか。

引き返せば、群れから孤立して、草や水もない状態になるし、肉食獣に襲われる危険性も高くなる。

もう、ヌーとして生きるしかない…。

草と水を求めてひたすら前進するしかない。

村尾は、そう思い、ヌーとして生きる事を受け入れた。

そんな時だった。

ヌーの群れに混じる一匹のジャッカルを見つけた。

ジャッカルは、ヌーを襲う訳でもなく、足を鼻で突き、軽く噛み付いて動きの邪魔をして楽しんでいた。

村尾は、その様子を見て目障りに思えた。

姑息で卑劣な奴だ。堂々と戦えば良いものを…。邪魔ばかりして群れの動きが悪くなったらどうする?責任取れるのか…?この野郎…?ジャッカルなら勝てる…。ハイエナに比べたら余裕で勝てるな…。

村尾は、そう心の中で激しい怒りを抑えたように呟いた。

そして、一匹のジャッカルを追い掛けた。

ジャッカルは、村尾に気が付くと、慌てて逃げて行った。

しかし、村尾は、それでもジャッカルを執拗に追い掛けた。

そして、ジャッカルは、執拗に村尾に追いかけて、怯えた様子で逃げていた。

しかし、村尾は、ジャッカルを追いかけて、狙いを定めると、ツノで横腹を突き刺した。

皮膚を突き破り、肉を貫通した。

心臓を貫いた感覚がツノに伝わった。

灰色がかかった体毛が赤い血に染まり真っ赤になった。

ジャッカルは、ブルブルと痙攣を起こして、息絶えた。

“ブユゥゥゥーン!“

すると、少し激しい風が吐き荒れた。

その風は、前へと前進させるような追い風の様だった。

そして、村尾は、ジャッカルを仕留めると、群れへと戻った。

群れから遅れをとったが直ぐに追いついた。

もう、これで邪魔者は、いなくなる。

そう村尾は、呟いて安堵した。

しかし、村尾は、サバンナのさらに戦いに巻き込まれていくのであった。

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