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第九章 (7)

エミリーとサンザムがぶつかろうとしています

 エミリーとサンザムが火花を散らし一触即発の状態だった。ショウタがオレンジの光と緑の光がぶつかると思ったそのときだった。頭上にキーンというエンジンが回るような音が聞こえた。その人工的な音は自然が奏でる美しい歌を切り裂き大きくなっていった。頭上を見上げると一つの機体が降下してきていた。空の明るさをさえぎる大きな黒い機影。それは人が搭乗できる大型のドローンだった。そのドローンはゆっくりと降下し、奥の駐車場に着陸した。横たわった大きな機体から複数の人影が降りエネルギー棟に向かい歩いてきた。その先頭を歩いているのは年配の女性だった。短くまとめて輝く銀髪、物を射抜くように前をまっすぐ見る鋭い眼、颯爽としなやかに歩くその姿は女性ながらに美しい狼のようだった。

「理事長……」吊るし上げられた研究所長の下で慌てていたリキヤが叫んだ。その狼のような女性は草木をよけてエネルギー棟の正面まで歩いて来た。

「植物と会話をできる人ってどのお方?」

「私ができます」兄のエドモンドが前にしゃしゃり出てアピールした。

「植物に伝えて。私はコンフォス財団の総責任者である理事長のバンナよ。コンフォス財団はあなた方を宇宙船に乗せる用意がある。細かいことは後で調整させてもらうとして、まずは攻撃を中止して欲しいと」エドモンドは理事長の言葉をそのままサンザムに伝えた。数回のやり取りの後、サンザムは緑色の光を納め、植物は攻撃姿勢を解いた。

「吊るされた人々も降ろしてちょうだい」理事長の言葉に従い人間モビールになっていた人々も降ろされた。蔓が急に緩んだので人によっては高いところから落とされ尻もちをついて悲鳴を上げた。研究所長も降ろされ理事長の横に落下した。腰をさすりながら起き上がった研究所長が理事長に向かって訊いた。

「バンナ理事長。本当によろしいんですか?植物どもを宇宙船に乗せるとおっしゃって?」

「植物たちの主張はある意味正しいわ。我々は間違っていたのかもしれない。今まで地球から飛び出すことに意識が集中していた。しかし宇宙に出てから長きに渡って生き続けるためには他の生命と協力した方がいい」理事長の声は高く澄んでよく通りショウタの耳にとって聴き心地がよかった。

「はあ……」ため息を漏らす研究所長を前に理事長は続けた。

「母なる地球が育んだ生命には全て理由がありお互いに関わりをもっている。それをないがしろにしていた。宇宙に出てからもその関わりを維持した方がいい。宇宙に小さい地球を作るように多くの生命でバランスを取るべきだと思うの。それがひいては人類の延命にもつながる。まだコンフォス財団内では正式に議決されていないけど、私がどうにかする。反対するメンバーも出るかもしれないけど私が押し切るわ。このまま戦い続けたらお互い破滅するだけでしょ」

「わかりました」研究所長はまだ腑に落ちていないようだった。

「研究所長、あなたは頑張ったわ。コンフォス財団の指示に忠実に従いどうにか植物を退け、研究所を死守しようとした。真面目さがあなたの取り柄だからね。ご苦労様」

「お褒めの言葉をありがとうございます」研究所長が理事長に向かって頭を下げた。その従順な態度は決してショウタ達の前では見せなかったものだった。理事長はショウタ達の列まで歩み寄り頭を下げて挨拶をした。

「自己紹介をしていなかったわね。私はバンナ。コンフォス財団の総責任者である理事長です。あなた方が植物や虫に対抗してエネルギー棟を守ってくれたのね。ありがとうございます。あなた方が守ってくれなかったら私の到着前に核融合炉が爆発していたかもしれないわね。感謝するわ」

「ここにいるエミリーさんが勇気を出して守ってくれたんです。この娘がいなければ私たちは何もできず、何も行動を起こせなかったでしょう」ケントがエミリーの肩を抱きながら理事長に紹介した。

「あなたがエミリーさんね。報告は聞いています。あなた方の種族のおかげで植物と会話ができたと。植物と会話し、共に喜びを分かち合うとは素晴らしい方々ね。本当にありがとう」

「理事長、これからどうなさいます」研究所長が問うと理事長が答えた。

「植物や虫たちと交渉し詳細を調整する必要があるわ。またデモ隊とも話す必要があるわね。どちらにしろ、もう日が暮れかけているから明日からね。植物と話すために引き続き協力をお願いするわ」理事長がエドモンドに語りかけた。

「わかりました」エドモンドは大きくうなずいた。

「虫たちとの通訳は私ができます」アイラが前に出てくると理事長は笑って、よろしくとうなずいた。

「しかし生命の力って凄まじいわね。この騒ぎでまざまざと見せつけられたわ。これが太陽と地球が長い年月をかけて育んでくれたものなのね。この生命力を残したいわね」理事長が見つめる先には巨大な赤い丸い太陽が地平に沈みかけていた。その光は、あたり一面を真っ赤に染め、皆の影を長く伸ばしていた。




理事長の登場で争いは止まりました

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