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終章

争いは終わりました

「ユキエさん、搭乗の申込みはしたんですか?」いつもと変わらず常連で賑わうモッキンで、ショウタはつまみをつついていたユキエに声をかけた。

「したわよ。でも応募が殺到しているんでしょ。抽選で当たるのか、当たったとしてもいつ乗れるかわかんないわよ。ショウタちゃんは申し込まないの?」

「僕はいいですよ。地球が好きですから。ここでのんびり暮らします。リョウヘイさんたちはどうするんですか?」カウンターの中央でこれもいつものように仲良く並んでいるリョウヘイとトウヤに訊いた。

「俺も行かないよ。息子夫婦は子供を連れて乗りたいらしいけど」リョウヘイに続いて日本酒をちびちびやっていたトウヤも同調した。

「俺もいいや。もういい年だし、わざわざ狭い宇宙船に乗って危険な宇宙に行きたくないよ」


 バンナ理事長の英断で停戦が成し遂げられてからことは急展開した。植物、虫、他の全ての生物が宇宙船の搭乗の対象になり、人間もコンフォス財団の団員だけでなく一般の人も乗れることになった。全員が搭乗できるスペースはないので、最終的な搭乗者は抽選か厳正な選定作業に拠るのだが、その変化は未来に不安を覚える者にとって希望の灯りとなった。全ての地球生命のためという名目で、宇宙船プロジェクトはコンフォス財団の主導から国家連合の政府主導に移管され、宇宙船は1号機以降も可能な限り多く建造することが決まった。エミリーの兄エドモンドは2号機に恋人と搭乗するとのことだった。エミリーと父ライアンは地球に残る道を選びタテリカの里に帰った。

「ケントさんも行かないんでしょ?」

「俺が行くわけないでしょ」リョウヘイの問いにケントは調理で忙しいので顔も向けずに当たり前じゃないという口調で答えた。

「ルミコちゃんはどうすんの?お父さんは出資者だから優先枠で乗れるんでしょ?」ユキエが芸人ハヤトと仲睦まじく談笑しているルミコに話を振った。

「私も行かないですよ。お父さんにも行かないって言いました」

「お父さん、よく許してくれたね」

「許してくれてはないですよ。でも行かないんです。ハヤトも売れ出したし。ハヤトと二人で暮らしていきます」

「ネットで見たよ、ハヤト君の動画。再生数が跳ね上がっているじゃない。売れてよかったね」ショウタが言うとルミコは自慢げに答えた。

「ハヤトには素質あるって前から言ってたでしょ。ようやく世間がついてきたのよ」鼻高々なルミコの隣でハヤトは黙って苦笑いをしていた。ハヤトはずっとルミコには頭が上がらないんだろうなとショウタは心の中で笑った。

「ショウタちゃん、最近ソフィアには会った?」とユキエが聞いてきた。

「いや、三か月程前に会ったきりですよ。今やソフィアさんも売れっ子だから」事件の後、ソフィアはコンフォス財団と研究所による宇宙船開発とカリハの街で起きた一連の出来事を「小さな街の宇宙船」というタイトルのノンフィクションとして出版し、その本は世界中でベストセラーになっていた。ただソフィアはエミリーたちのプライバシーを守るために彼女やタテリカの里のことには触れなかった。ショウタはソフィアのその配慮が嬉しかった。数か月前に会ったときソフィアは宇宙に出ると言っていた。自分にはない彼女の旺盛なチャレンジ精神にショウタは圧倒された。ショウタにも前向きに挑む気持ちはあったが、それは宇宙に向かってではなく地球の大地の上で何かしたいと考えていた。カズユキとアイラも地球に残って植物や虫たちと暮らしていくと言っていた。太陽と地球と、ここに生きる生命と育んできた9億年の人類の歴史の道を引き続きこの大地の上で踏ん張って歩むことがショウタにとって意義のあることだった。

「1号機が飛び立つのは1週間後ね」ユキエが焼酎のコップを片手に呟いた。


 エミリーはセルジュの根元に腰かけていた。お昼過ぎの居心地のいい気候。太陽が赤く燃えて少し暑かったが、セルジュが大きく広げてくれている枝葉のお蔭で日射しは和らぎ、木陰を吹き抜ける静かなそよ風がエミリーの心を爽やかにした。

「宇宙船の1号機が飛び立ったよ」ショウタの声がエミリーの胸のペンダントに響いた。

「今、俺の頭上をゆっくりと上昇している。巨大な機体だ。あんな大きな物が空を飛んで地球から宇宙に出られるなんて、技術者の俺でも信じられない。少し不思議な気持ちになる」

「これでよかったんですね」エミリーはショウタに確認を取るように言った。

「うん」ショウタは囁くような声で答えた。

「ショウタさんはいつタテリカの里に来てくれるんですか?」

「来年の春には行きたいと思っているよ」ショウタの答えにエミリーは文句を言った。

「もう、ずいぶん遅いんですね。年内に会いたいです」

「そう言っている間に宇宙船はもう豆粒より小さくなっちゃったよ」ショウタの言葉にエミリーは微笑んだ。


                                    了


地球はまだ生き続けます。今までご愛読をありがとうございました。

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