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第九章 (6)

核融合炉のあるエネルギー棟の前へ

 高さ3mはあるような高い塀の上にぐるぐる巻きの鉄条網。その頑強な柵に守られた白い建物がエネルギー棟だった。大きさは工場棟よりは二回り程小さく、常に整備されているのか綺麗な白い壁で覆われた窓のない立方体の堅牢な建物だった。柵の間にある入口の扉の前には『関係者以外立入禁止』と書かれた大きな看板が掲げられていた。エミリーはその看板の前に草木の侵入を防ぐべく仁王立ちになった。ショウタ達はエミリーの横に並ぶように立ち、目の前に広がる草木を見つめた。ショウタは自分も兵士のように吊るし上げを食らうのではないかと恐怖を感じていた。しかしエミリーはそんな恐れを微塵も感じていないのか凛とした表情で草木を睨んでいた。エミリーの体が再びオレンジ色の光を放ちだし、ショウタの胸のペンダントも震えた。

「この建物はダメ。ここを壊したら破滅するわ。人間だけでなくあなた達も死んでしまうのよ。破壊は何も産まない」とエミリーの声が鋭く響いた。その声にサンザムが答えた。

「エミリー、そこをどけ。お前を傷つけたくない。聞く耳を持たない人間を改心させるには脅すしかないのだ。そのために我々はその建物を占拠する。もしこれでも人間が言うことを聞かない場合は我々はここで死んでも構わない。いずれ死ぬ身、それが少し早まるだけだ」

「止めろ。破滅の道を選ぶな。お前らの力を既に人間達は思い知ったはずだ。時間をかけて話せば歩み寄れる。あせるな」セルジュの声だった。

「うるさい!爺さんは黙っていろ。私には私のやり方がある」サンザムが叫んだとき一台の装甲車が草木を踏みつぶしながら突っ込んできた。その車はケントの目の前に停まりドアが開いた。そこから降りてきたのは研究所長とリキヤ、後ろにはエミリーの父兄ライアン、エドモンドもいた。

「ありがとうございます。草木を止めてくれて。その行動に感謝します」研究所長はエミリーに頭を下げた。

「あいつらに言いなさい。ここには絶対に侵入させないと」研究所長はエドモンドに向かって強い口調で命令した。エドモンドの声がショウタのペンダントを震わせた。

「止まれ。我々は絶対におまえらをこのエネルギー棟に侵入させない」

「何を言う。お前らを押しのけるのはたやすい。どうやって我々を阻止できると言うのだ」そのサンザムのメッセージをエドモンドが小さな声で研究所長に伝えた。それを聞いた研究所長は右手を掲げ前へ振り下ろした。後方から車のエンジンの音が響き装甲車の隊列が研究所長の来た道を進んできた。装甲車の背中の火炎照射器から火が噴き左右の草木を焼き払った。

「全く懲りないやつらだ」そのサンザムの声と同時に左右の草木の蔓が頭をもたげ装甲車の隊列に絡みつき進行を阻止した。蔓がうごめく波はショウタ達のそばまで及び研究所長に絡みついた。

「何をするんだ。お前ら、止めろ!エドモンド、こいつらを止めろ!」研究所長の声にエドモンドは慌てていた。

「止めろ!研究所長に何をする気だ」エドモンドの声が虚しくペンダントを震わせた。

「宇宙船に我々を乗せろ。植物や虫だけでなく全ての地球生命体を一緒に乗せるんだ」サンザムのバリトンボイスが響いた。その響きは大きくケントやソフィアにも届いていた。5m位の高さに吊るし上げられた研究所長が手足をばたつかせていた。それはまるで宇宙遊泳をする宇宙飛行士のような姿だった。ただ表情は遊泳を楽しむ笑顔ではなく、悔しさと苦しさに歪んでいた。

「私に言っても無駄だ。私には何もできない。私には何も権限がないんだ」研究所長が喘ぐような絶叫を上げた。その叫びは広く響き渡った。

「こうなったら攻めるのみ」サンザムの声が聞こえると目の前の植物の蔓や枝葉が押し寄せてきた。奥にはそびえ立つサンザムの姿も見えた。サンザムの体から人の腕のような枝が何本も飛び出し、うねるように動いていた。その姿は歴史の教科書で見た千手観音像のようだなとショウタは思った。植物は蔓をくねらせショウタ達が並ぶ列に迫ってきた。エミリーは両手を大きく横に広げ植物を阻止するように立っていた。

「ダメよ。ここは絶対に通さないわ」エミリーの体から放たれるオレンジ色の光が見る見る強くなった。その光は大きく広がりショウタ達の列も包み込みエネルギー棟の前に連なる長く大きなオレンジ色の光の壁となった。迫る植物の蔓はその光を恐れているのか、光に触れることができず光の壁の前で身をよじるようにうごめいていた。そのとき地面が揺れた。ショウタが地震かと思った瞬間に目の前の地面が横に裂け、緑の葉と共に太い木が何本も生えてきた。

「この葉は……クスの木だ!」カズユキが叫んだ。

「セルジュ!あなたなの」エミリーが叫ぶと野太い声がペンダントを震わせた。

「私の子供たちだ」セルジュの声だった。

「サンザム!止めろ。破滅の道は絶対に許さん。人の造った愚かな機械を暴走させてはいかん」セルジュがそう叫ぶとクスの木たちが枝を上へ横へと広げ大きな壁となって植物の侵攻の防波堤になった。クスの木もエミリーと同じくオレンジ色の強い光を発した。空の上には無数の鳥がエネルギー棟を守るように輪をかいて飛翔していた。

「セルジュ、エミリー、そこをどけ!我々がそこを占拠し人間に言うことを聞かせる」とバリトンボイスで響き渡るサンザムの主張にエミリーが大声で叫んだ。

「ダメよ!力でぶつかっても何も産まないの。これ以上進ませない」

「我々、地球生命の新たな一歩のためだ。そこをどけ」サンザムの叫びが大きく響いた。

歌が聞こえた。ゆるやかなリズムと美しいメロディ。多くの高音、低音が重なるハーモニー。大地の底から響き地球全体が歌っているようだった。どんなオーケストラよりも大きな響き、クラシック、JAZZ、ロック、POPS、HIPHOP、民族音楽、どんな音楽とも異なる美しいメロディと旋律。躍動するリズム、ショウタは心の底から打ち震え、体が宙に浮遊しているような不思議な感覚を覚えた。

「何が起こっているの?」ソフィアは口を半分開いて呆然としていた。

「植物が歌っているんだよ」とカズユキが言うとアイラが付け加えた。

「虫も歌っていますよ」

「地球生命の歌声だ」ケントが遠くを見つめる眼差しは何かを感じとっていた。サンザムの枝葉が孔雀の羽のように広がり大きな円になった。その枝葉は歌声に合うように前後に揺れエミリーのオレンジ色の光に対抗するように緑色に強く光っていた。

「エミリー、我々を通せ!」サンザムの声は極大に達した。


エミリーとサンザムが衝突しようとしています

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