第九章 (5)
自信に満ちた研究所長です
「あらあら、こんなところに入ってきちゃだめですよって言ったじゃないですか。今日は気の強いご婦人とお嬢ちゃんもご一緒ですね。それに小汚い草や虫も連れてきている」笑顔の研究所長が相変わらず嫌味な口調で言った。
「植物や虫は俺たちが連れてきたんじゃない。彼らは自分の意志でここに来たんだ」ショウタがいてもたってもいられず大声で叫んだ。
「はて、何の御用でしょうか?」
「とぼけるなよ。あんた達が作っている宇宙船に乗るためだよ」
「宇宙船?そんなもの知りませんねえ」と相変わらずとぼける研究所長にショウタは噛みついた。
「俺はこの目で見た。あそこの工場の中に大きな船体があった」
「たとえ宇宙船があったとしても、なぜ植物や虫を乗せなければならないのですか?」
「この地球で生まれた同じ命じゃないか。なぜ自分達だけで行こうとする」ショウタの叫びは止まらなかった。
「乗れる人数には限りがあるんだ。乗せたくても無理なんだよ」研究所長の後ろに兄のエドモンドがいた。
「お兄ちゃん!何を言っているのかわかっているの?」エミリーもたまらず声を上げた。
「これ以上話してもらちがあきません。お話合いは終了です。ここから離れた方がいいですよ。怪我しますよ」そう言うと研究所長は掲げた右手を前に振り降ろしGoサインを出した。研究所の兵士が一斉に広場の中央にそびえるサンザムに向かって突撃していった。ある者は火炎放射器で草木を焼き払おうとし、ある者はチェーンソーを振りかざし切り刻もうとした。しかしそれは徒労だった。研究所の建物に火が及ぶのを恐れ火炎放射は細々としかできず、チェーンソーで切れる枝の量などたかがしれていた。広場に顔を出していた植物は兵隊の物量以上の蔓や枝を伸ばし、脚をすくい取って兵士を転ばせ、慌てている兵士に絡みついてその動きを封じ込めた。虫も負けてはいなかった。バッタや蜂、蛾、カナブンなどの群れが一斉に兵士に襲いかかった。小さい体ながら虫の大きな群れに襲われると人間の持っている兵器では太刀打ちができず兵士はその場に崩れ落ちた。
「ぎゃー。止めてくれ」大きな声が背後から聞こえたのでショウタは振り向いた。そこには蔓に絡まれた一人の兵士の体が宙づりにされていた。その体は見る見る吊るし上げられ、あっという間に5m程の高さになった。兵士はばたばたと手足や体を動かしていたが、がんじがらめに絡まった蔓はほどけず逃げることは叶わなかった。広場中に散りばめられた兵士の宙づり。それはあたかも生きた人間でできたモビールのようだった。
前線の悲惨な状況を見て、後方に並んでいた兵士が慌てて後ろに走り逃げだした。そんな逃げる兵士に対しても植物は容赦なかった。枝の先々から黒い種の弾丸を飛ばし兵士を倒していった。種の威力は強力で兵士は血を流してその場に崩れ落ちた。
「やめてぇ。怪我をさせてはだめよ」エミリーがサンザムに向かって叫んだ。しかしその声も虚しく植物や虫の攻撃は止まらなかった。兵士の隊列を押しのけ枝葉は広がり石畳やベンチを覆いつくし広場は一面緑色になった。その上に吊るし上げられた兵士のモビールが点在する奇妙な風景。まるで現代美術のオブジェみたいだなとショウタは思った。広場を越えた植物は工場棟の合間をくぐるように北に進んだ。虫の群れも植物に続いて飛んで行った。
「まずい。北側にはエネルギー棟があります。もしそこにある小型核融合炉が破壊されれば大爆発が起こって、カリハの街なんて吹っ飛んじゃいますよ」とタケヒコが言うとケントが気が付いたように目を大きく開いた。
「植物は核融合炉の存在を知っているんだ。そしてそこを標的にしている」
「だめよ!」と叫びながらエミリーが血相を変え植物を追うように走り出した。
「エミリーちゃん、危ないよ。行っちゃだめだ!」とケントがエミリーの行く手をふさごうとしたが彼女はその手を押しのけて北に走った。
「俺も行ってきます」ショウタはエミリーを追いかけ、ケント、カズユキ、アイラ、タケヒコも続いて走り出した。
「決定的チャンスよ。私も行くわ」とソフィアも追いかけた。
「おいおい、争いに巻き込まれるぞ。爆発したら死んじゃうよ」リョウヘイ、トウヤにマリア、ユキエは恐怖で身が縮んで動けなかった。
ショウタたちは核融合炉へ




