第九章 (3)
研究所を包囲した植物たち。研究所はどうするのでしょうか?
「研究所は包囲された。研究所の中へ入るのも時間の問題だな」ショウタは植物の攻勢と美しさに興奮していた。
「でも塀が高いから乗り越えるのは大変じゃない?」マリアがカズユキの方を向きながら訊いた。
「いえ、あの高さは植物にとって大した高さじゃないですよ」とカズユキが答えた。
「虫は難なく上空を飛び越えますしね」アイラが追い打ちをかけた。
「でもあの塀の土台は地下の奥深くまで続いていると聞いています。上を防御されたら今までのように地下を潜って侵入するのは難しいかもしれません」研究所に勤めていたタケヒコの言葉にショウタは少し心配になった。
「それにしても草木や虫の適応力のスピードはすごい。うちの社員にも欲しいなあ」とリョウヘイが口を開いた。いつのまにかリョウヘイは何気なくマリアの隣に立っていた。しかしマリアはリョウヘイの言葉には反応していなかった。無視されるリョウヘイの姿に横でトウヤがくすくすと笑っていた。
「しかし研究所もまだ黙っていないだろう」植物の攻勢に興奮している皆を尻目にケントは変わらず冷静に戦況を観察していた。
それからしばらく双方に動きがなく静かな時間が続いた。頬にかすかに感じるそよ風と鳥のさえずりの音しか聞こえない静けさは却って不気味だった。次は研究所付近での攻防になることを見越しショウタ達は丘を下りて塀のそばまで近寄ることにした。
「デモは警察をよけて研究所の南側に回ったわ。私もそれに付いて行ってる。ユキエさんも一緒よ。デモの勢いは止まらない感じ。金持ちのエゴにみんなの怒りが爆発している」ソフィアが電話で伝えてきた。
「南側は塀が脆弱なのでデモ隊は研究所に突入しちゃうかもしれませんね」とタケヒコが言うとケントも続けて言った。
「人数も多いからデモ隊が横に広がると警察や消防では抑えきれないかもしれない」
ショウタ達は研究所の北西側、正門まで300m程の距離まで近づいた。研究所の塀を横目に、目の前には草木の絨毯が広がっていた。しばらく静寂が続いていたときエミリーが遠くを見るように頭を上げた。
「来たわ」エミリーの視線を追って遠くを眺めると背の高い木々が揺れながら近づいてきているのが見えた。木々の姿は見る見る大きくなり、しばらくするとそこに多くな木が並ぶ新たな森ができ上った。目の前に絨毯のような草原が広がり、その先に緑豊かな森が続く。あっという間に出来上がった草木が織りなす広大な風景はさらに美しさと力強さを増したとショウタは感じた。
「森の中に虫もたくさん来ていますよ」アイラがつぶやいた。
時計が午後3時を回ったときギィギィと大きな音が聞こえ出した。その鉄がこすれ合うような耳障りで不快な音は研究所の塀の向こう側から聞こえてきていた。
「研究所も動き出したな」とケントがつぶやくと塀の裏手に巨大な鉄塔のようなものが頭を出した。クレーン車の先端のような形をしたその鉄塔はぐんぐん伸び、50m程の高さにまでなった。鉄塔の頂上には大きな大砲のような物体が赤い太陽の光を反射して光っていた。
「またヤバそうな物のお出ましだな」とショウタがつぶやいた瞬間、大砲の先端から白い閃光が走った。あまりに眩しく一瞬のできごとだったので何が起きたかショウタは咄嗟には判断できなかった。眩しさにくらんだ目が直ると閃光の先の草が燃えているのが見えた。その後、大砲は首をゆっくりと横に振りながら何度となく光を発した。光は白く細く一直線の光線となって進み、その先端で植物を貫き、焼き殺した。焼かれた草木は真っ赤な炎を上げ悶え苦しむようにうねり、そして黒い灰になっていった。光線は最初、手前の草を狙っていたが、大砲が徐々に角度を上げ、奥の森の木々をも突き刺し、焼いていった。白い光線の照射は容赦なく繰り返され研究所の前の丘は一面火の海と化した。燃え盛る炎の熱気を全身に感じながら、地獄でも、火の海はここまでひどくないのではないかとショウタは思った。
「なんてむごい!」エミリーが身を乗り出し大きく口を開け叫んだ。
「おいおい、炎が塹壕の向こうまで広がってデモ隊や警察の方にも飛び火しているぞ」そばにある岩の上に登って遠くを見ていたカズユキが言った。
「産業技術研究所は自分達のためなら人に被害が及んでもいいと思っているんだな」とショウタが言うとポケットの端末が振動した。ソフィアからのコールだった。
「こっちに植物や虫が押し寄せている。もう研究所の塀を突破したわ」ソフィアの大きな叫び声にショウタは驚いた。
「え?裏をかいたのか?」ショウタの横でカズユキが言った。
「そういえばここにはサンザムの姿が見えない。もしかしてこうなることを予想していたのか」
植物たちは裏に回っていました




