第九章 (2)
研究所にも新たな動きが。。。
「いつもと違う装備をしている車がある。あれは薬剤の噴霧器ではないな」とケントが気が付いた。その装備は銃のような形をしていたが運転席より前に飛び出した先端が少し太くなっていた。
「危ない、逃げて!」エミリーが突然大きい叫びを上げた。その叫びから間髪入れず銃から炎が噴き出した。その炎は真っすぐ直線状に伸び塹壕の向こう岸の植物を焼いた。
「火炎放射器だ。ここは街じゃないから植物を焼き尽くす気だな」とカズユキが言った。何本もの火炎放射器が左右に首を振り、槍のように鋭い炎を吐き出して植物を焼き払っていった。しかし生きている植物は水分を多く含むためか、くすぶるように燃えるだけで高い炎は立ち上がらなかった。燃えた草木の後ろの植物の列は後ずさりを始めた。
「なかなか炎には太刀打ちできないかもな」ショウタがつぶやくとケントが言った。
「このままでは終わらないのが彼らだ」
「来ますよ」とアイラが言うと遠方の上空にまた黒い雲のような塊が舞い上がった。数十個の分散した雲は見る見る近づき塹壕の上空まで来た。それはバッタや甲虫などの虫の大群だった。装甲車は火炎放射器を上空に向けて虫にめがけて炎を吹き出した。しかし直線上の炎を虫が上手に除けるので虫の雲を焼き尽くすことはできなかった。炎を除けた虫は急降下し装甲車にまとわりついた。虫は車の背中に立っていた火炎放射器の操縦者を襲い、窓ガラスも覆いつくした。装甲車は走り回ることでどうにか虫を振り払おうとしたが、しつこくまとわりつく虫を落とすことは叶わなかった。他の装甲車が殺虫剤と思われる薬剤を噴射した。しかしあまりにも多くの虫が襲ってきたので、全ての虫を駆除することはできなかった。虫に押された装甲車の隊列は後退を始めた。そのとき地鳴りのような低い音が響き渡った。以前にも聞いたグォグォという腹の底を突き上げるような音。
「来ましたね」エミリーがささやくと地面からニョキニョキと蔓が生えだした。
「塹壕の下をくぐって来たんだな」とカズユキが言った。またたくまに何十本もの蔓が地面から顔を出した。危険を察知したのか装甲車はスピードを上げて引き返そうとした。しかし蔓は装甲車の行き先にも現れ車を下から突き上げた。突き上げを食らった装甲車が何台もその場で横転した。横転した車に蔓が覆うようにぐるぐると絡みついた。走行不能になって諦めたのか、車のドアを開けて乗員が飛び出してきた。逃げ惑う乗員に容赦なく虫の大群が襲い掛かった。乗員たちは虫に覆われながら必死に研究所に向かって走って逃げた。乗員の悲痛な叫びが丘陵中に響き渡った。ショウタはこんなに多くの人の悲鳴を今まで聞いたことがなかった。
塹壕の手前側には転倒した装甲車の隊列が蔓に覆われ横たわった。それはまるで朽ち果てた古代の廃墟のようだった。装甲車の前線が崩壊すると草木が塹壕を飛び越えて研究所に向かって押し寄せた。幅が5mもない塹壕の溝など植物にとって越えるのは容易だった。枝や根を伸ばしたり動かしたりしながら、跨ぐもの、這っていくもの、様々な姿勢で植物は塹壕を乗り越えていった。しばらくすると研究所から塹壕まで広がる丘は草木で覆われ緑色の絨毯を敷き詰めたようになった。草木の種類により色調が微妙に異なり、緑の波のような模様が描かれ美しかった。
植物達は塹壕を越えました。さてこれからどうなる?




