第七章 (5)
再びモッキンです
その日の夜、また皆がモッキンに集まっていた。エミリーはサンザムと話がしたいと店を出て、目の前にある街路樹に手を添え寄り添うように立っていた。ショウタはいつものように少し遠目にエミリーの様子を見守った。エミリーの放つオレンジ色の光と同期するようにショウタの胸のペンダントが震えた。
「サンザム、今日はひどい攻撃があったけど大丈夫?」エミリーが話かけるとバリトンの響く声で返答があった。
「全く人間はひどいことをする。前線にいる多くの仲間がケガをした。死んだものは出ていないが大きなダメージを受けた仲間もいる」
「悪知恵が働く人がいるのよ。あんな薬剤があるなんて私は知らなかったわ」
「ふん、そんな悪賢い奴らに負ける訳にはいかない」
「まだ戦う気?これ以上戦ったらもっとケガをする者や死ぬ者も出るかもしれないわよ」
「簡単に引き下がるはずがないだろう」
「どうする気?」
「見てのお楽しみさ。勝算はある」
「無理しないで」エミリーの願いの言葉で会話は終わった。
エミリーとショウタが店内に戻ってしばらくするとアイラもやってきた。
「よう、来た、来た」カズユキが嬉しそうに声を張り上げて手招きした。
「どうだった、ホーンと会ってきたんだろ?」アイラが隣に座るとカズユキが訊いた。
「ああ会った。怒っていたよ、人間を許せないって。彼の仲間もだいぶ死んだらしい」
「そうか」カズユキの相槌にアイラが続けた。
「でも彼は諦めないって。巻き返しを図るって言っていた」
「どんな手で?」とカズユキが訊いた。
「それは教えてくれなかった」
「そうですか、虫たちも諦めていないんですね」エミリーが話に入り込んできた。
「植物も諦めてないの?」アイラの問いにエミリーとショウタがうなずいた。
「衝突は何も生まない。ケガをしたり、死者を増やすだけだ。どうにか休戦させなければ」とケントが言うとカズユキが叫ぶように訴えた。
「死んだりケガをしているのは植物や虫たちだけです。人間にケガ人は出ていない。あの薬剤散布を止めさせるべきだ」
「あの装甲車の後ろにパイプがつながっていたよね。そしてパイプを追っかけてよく見ると後方で大きなタンク車がつながっていたんだ。多分、あのタンクの中に薬剤があってパイプを通して装甲車に薬剤を供給している。あのパイプの途中を切っちゃえば薬剤散布を止められるんじゃない?」とショウタが提案した。
「でもパイプはたくさんあったよ。あれを全部、切断するのは至難の業だよ」カズユキが難色を示した。
「おそらくタンク車一両には少量の薬剤しか入っていない。タンク車も装甲車も産業技術研究所から出てきた。ということは産業技術研究所に薬剤を貯蔵しているところがあるはずだ。そこを阻止した方が早い」ケントの冷静な分析にショウタも納得がいった。
「産業技術研究所に忍び込みましょうか?」とショウタが言うとケントもカズユキも黙ってうなずいた。
そこへソフィアとユキエが店に入ってきた。
「やったわよ。リミエルト教団がコンフォス財団と産業技術研究所の実態を書いて、信者にばらまいてくれるって」ソフィアの嬉々とした言葉にユキエが続けた。
「リミエルト教団の幹部と話ができたのよ。ソフィアさんが今までの取材結果を事細かに説明したら納得して、彼らのメディアで報道すると言ってくれたの」
「それだけじゃないの。反対のデモもするって。自分だけよければいいっていうコンフォス財団の身勝手な企みに怒っていたわ」
「もうネットでは騒ぎになっていますよ」端末を覗きながらカズユキが言った。
「ホントだ。すごい炎上している」釣られて自分の端末を叩いたマリアが声を上げた。
「ソフィアさんの言う通りでしたね。リミエルト教団には影響力がある」ショウタは教団の意外な実力に感心した。
「でも『リミエルト教団の言うことなど信じられない』『デマだ』という声もありますね」マリアが指を素早く動かし、端末の画面をスクロールしていた。
「いいわよ、それでも。騒ぎが大きくなる方がいい」ソフィアはネットの反論には意を介さずという態度だった。
「早速、明日、産業技術研究所に向かってデモ行進するって連絡があったわよ」
「面白くなってきたわ」ユキエの報告にソフィアはしてやったりと満足そうな表情を浮かべていた。
新興宗教は期待できるのか?




