表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/51

第七章 (4)

研究所の攻撃が始まります

 それはまるで軍隊のようだった。研究所の門から数十台の装甲車のような重厚な車両が隊列をなして出発した。その車の窓ガラスやボディは金網や鉄板でしっかり防護され、背中には何かを噴射する放水銃のような機材が装備されていた。

エミリーが「植物は1週間の休戦の約束は破っていない。虫が攻撃を開始し、一部の植物が虫に操られているだけだ」と訴えても、やはり産業技術研究所は信じなかった。

「あなた方は植物に騙されたのですよ。あんな奴らは信用ならない。植物にしろ虫にしろ、侵略してくるものは撃退するに限ります」そう言うと研究所長は市長、警察署長、消防署長を連れて会議室を出て行った。会議室に置き去りにされたショウタ達が30分ほど後に目にしたのが車両の行進だった。その行進を市長、警察署長、消防署長も研究所長の横に並んで眺めていた。

「全くバカにしているわ。市長たちだけにいいところを見せて。もう私たちには用がないってことね」ソフィアは目を大きく開き頬を紅潮させ、怒りをあらわにしていた。

「せめて帰るのは市長の車に乗せてもらいましょう」市長たちが研究所の建物の前から車で帰ろうとしているのを見て慌ててソフィアが皆を引き連れて出口に急いだ。


産業技術研究所から3km程北西に進んだ丘の麓に植物は迫っていた。そこは街中でも有数な高級住宅街だった。森の公園の木々が作る城壁を避けて植物は北へ回り道をし、この住宅街を抜けて研究所へ向かおうとしていた。ショウタ達は丘の稜線の上に立ち住宅街を眼下に眺めていた。ソフィアは新興宗教リミエルト教団に会いに行くと言って一人離れて街の方に向かった。

「ルミコちゃんの家もすぐそこですね。あそこもほっとけば植物に飲み込まれそうだ」装甲車の隊列はまるでフジナミの邸宅を守るように、その先に横に並び進行する植物まで残り300m程の距離に対峙していた。

「ここにいたかあ」カズユキが麓から駆け上がりながら現れた。隣には虫を愛するアイラがいた。相変わらず薄汚い服を着て無精ひげが口の周りを覆っていた。

「アイラも連れてきちゃったよ」カズユキが苦笑いした。

「二人は仲いいな」とショウタがからかうとカズユキが苦笑いをした。

「虫も相当来ているな」ケントも虫の気配を感じているようだった。

「あそこの木はキナガムシがコントロールしている。この先には他の虫の多くの群れが迫っている」アイラは虫の動向を掴んでいるようだった。

「彼らにも誰かリーダーがいるの?」とショウタが訊いた。

「いるよ。ホーンという蜂の親玉が皆を扇動している。ホーンは大陸の中央高原に棲む種族で高度な社会生活を営んでいる。3日前に俺はホーンに会った。体長が1mはある大きな雄の蜂だ。大陸に残してきた彼の種族も宇宙に行かせたいと言っていた。彼らも地球を飛び出し新たな暮らす場所を探したいと考えている。彼らの意志は強い。止めるのは簡単じゃない」

「皆、この地球を見放そうとしているのね」アイラの言葉にエミリーが悲しそうな表情をして口を開いた。

「見放すのではない。新たな場所へ旅立とうとしているんだ」アイラはエミリーに反論した。

「まあそれぞれの考えがある。問題は、こそこそ隠れて限られた人だけで脱出しようとしていることだ。同じ思いの生命がいるのにそれを無視している」ケントはコンフォス財団と産業技術研究所に対して怒りをあらわにした。そのとき、装甲車の背中に装備された放水銃の銃口が動き出し仰角を上げた。そして一斉に白い液体を植物に向けて噴き出した。液体は一面に白い煙幕のように広がり、植物に降りかかった、すぐには植物に何も反応がなかったが10分程経つと蔓や枝がのたうち回るように動き出した。それは単なる動きではなく、見るからにもがき苦しんでいた。

「あの液体は何かの薬剤だな。強烈な除草剤のようなものかもしれない」カズユキが植物の様子を睨みながら言った。

「ひどい、草木が悲鳴を上げているわ」エミリーが身を乗り出して叫んだ。のたうち回っている枝葉はその場で萎れるように枯れ落ちていった。葉が茶色に変色し生気を急激に失う様は目に見えない炎に植物が焼かれているようだった。そして残りの蔓や枝葉が後退を始めた。住宅の壁や屋根の上を這いながら後ろに下がる音がゾワゾワと気味悪く周囲に響いた。

「虫もやられているな。あの薬剤に殺虫成分も入っているようだ」とアイラがつぶやいた。後退する植物に詰め寄るように装甲車がじりじりと前進した。

「あそこに研究所長がいる。市長たちも一緒だ」双眼鏡で右手の方を見ているカズユキが言った。

「貸して」ショウタはカズユキの双眼鏡を横取りして覗いた。装甲車の隊列の数百メートル後ろに一回り小型で装甲の厚い車が停まっていた。そのフロント窓の奥に研究所長の顔が見え横には市長、後ろに警察署長、消防署著の顔もあった。研究所長は装甲車が植物を後退させていることが嬉しいのか、明るい笑顔を浮かべていた。

「全く、得意げな顔をして、いけすかないな」ショウタの研究所長に対する嫌悪感がさらに増した。

 そのときだった。背後の空の上の方からモーターが唸るような音が聞こえた。ショウタが後ろを見上げると遠方の空に多くの小さな黒い点がこちらに向かい飛行しているのが見えた。ショウタは正体を見極めるため双眼鏡を掲げ覗いた。それは多くの小型のドローンが飛ぶ編隊だった。その編隊は見る見る近づきプロペラの唸る音を響かせながらショウタ達の頭上を高速で通過していった。

「研究所も色んな武器を持っているんだな。これじゃただの研究施設ではなくて軍隊じゃないか」ショウタの中にどんどん研究所に対する嫌悪感が増していった。ドローンの編隊は装甲車の隊列を越えると植物に向かって降下しまた何か液体を噴霧した。機体が小さいので住宅の間の狭い隙間をかいくぐって装甲車の噴射では当たらない陰の植物にも液体を吹きかけているようだった。

「むごい。むごすぎる!命を何だと思っているの!」エミリーが大きな声で叫ぶ中、薬剤の散布は前進する装甲車から、空の上のドローンから容赦なく植物に降り注いだ。薬剤を浴びた草木は萎れ、動いている植物ももがきながらずるずると後退していった。研究所の執拗な攻撃は日暮れ前まで続き、植物は2km程後退した。

「植物や虫はこれで諦めるようなことはないだろうな」とケントがつぶやいた。目の前には大きな太陽が作る夕焼けで燃えているように真っ赤に染められた住宅街が広がっていた。



さて植物と虫はどうするのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ