第五章 (6)
フジナミにまた会いに行きます
ソフィアとケント、ショウタの3名はフジナミの家の前に立っていた。昨晩、ソフィアがルミコに産業技術研究所が開発している内容を打ち明けたのだった。
「え? 宇宙船のことなんて聞いたことがないわ。パパがそんな計画に関与しているなんて聞かされていない……」ルミコは驚いていた。
「もう一度、フジナミさんにお話を伺いたいんだけど頼んでもらえる?」
「わかりました。真相を知りたいから私も同席します」
ルミコが早速、フジナミの時間を確保してくれた。揉めるかもしれないので、巻き込まれないようにとケントはエミリーを連れてこなかった。変わらず落ち着いた雰囲気の応接室に通された3名の前には、フジナミ、両脇にルミコと秘書ナカエが腰かけていた。ナカエが秘密をばらしたことは伏せていたので、彼は澄ました落ち着いた顔でおとなしく座っていた。ショウタはこの男も食わせ者だなと思い、心の中で笑っていた。
「ルミコから聞きましたよ。コンフォス財団が地球を脱出する宇宙船を計画し、産業技術研究所で開発しているという噂が出ているそうで」
「はい。信頼できる筋からその情報を入手しました」とソフィアが答えた。
「私はそのようなことは聞いたことがないですなあ。その噂は誰からの情報ですか?」
「情報元は残念ながら私にも守秘義務があるので答えられません。フジナミさんはその計画をお認めにならないのですね?」
「そんな話を聞いたことがないからしょうがないでしょう。あなたこそ嘘の情報に惑わされているのではないのですか?」
「ここに証拠があります。これはコンフォス財団の会議の議事録です。ここにはっきりと宇宙船開発を研究所で実施することが書かれています」ソフィアは1枚の書類をフジナミに差し出した。フジナミはしばらくその書類に目を通した。しかし彼の表情に特に変化は見られなかった。逆に隣の秘書ナカエが書類を覗いている表情が引きつって緊張していた。
「これは偽造されたものじゃないですか? 私はこんな議事録を見たことがありません。書類なんていくらでも作れますからね」フジナミの顔は平然としていた。ソフィアは続けた。
「私はこの書類も信頼できる筋から手に入れました。偽造されたものではありません。その日時に確かに会議があったことは、他のメンバーの招集の連絡などから裏付けが取れています」
「日時が合っていたとしても議事録の内容が正しいとは限らないのではないですか?」
「あくまでしらばくれるのですね?」とソフィアが訊いた。
「失礼な。私は嘘をついていないですよ」知らないふりをするフジナミにソフィアの追及は続いた。
「私は宇宙船の件を聞いてとても納得がいきました。コンフォス財団の富裕層のメンバーが巨額の私財を投じて実行することに十分な価値のある計画だと思いました。それであなた方やその子孫は滅びる地球を捨て、延命することができる。そこに希望を見出すのは庶民である私にも納得ができます」
「また何を勝手に想像を膨らませているんですか。自分で妄想をするのは勝手だが、それを娘にも吹聴するとは迷惑です」
「じゃあ、あの巨額な資金で何をされているんですか?」
「だからそれは極秘なのでお答えできません」
「そうやってお隠しになるから疑念が生まれるんです」
「それはそっちが勝手にそう思っているだけでしょう?以前からお話しているようにコンフォス財団と産業技術研究所の運営は我々の私財で行っている。法を犯さない限り内密に何をしようが自由です。私たちの資産は人のお恵みによってもたらせたものではない。自分たちの才能と努力によって築いたものです。ご存じと思いますが私は若いときに化学の研究に誠心誠意、真剣に取り組み、研究や実験を重ねた。そしてその過程で人類を悩ませてきた難病を治療できる薬剤の重要な発見をしたんだ。私が27歳のときです。それまでに私は多くの失敗もしたし、苦労もした。そのときは研究費を調達するのにも苦労し節約しながら研究を行っていた。その実験の最中に私はきっかけを掴んだんだ。そしてそのきかっけを多くの検証実験を繰り返し薬剤の実用性を証明し、臨床実験も行い、努力を重ねた。そしてその結果、薬剤は正式な医療薬として承認された。それが35歳のときです。ただ薬剤の実用化だけでは事業としては成り立たない。その後も多くの努力をし、事業を軌道に乗せ、成長させ、今の事業がある。そうやって造り上げた私の個人的資産を何に活用しようが私の勝手だ。外野からとやかく言われる筋合いはない。変な風に憶測され騒がれるのは迷惑なんです」
「もちろんフジナミさんとその事業には大きな敬意を持っています。しかし計画を隠すのは何かやましいことがあるからではないのですか?」
「やましいことなど何もない。コンフォス財団は団員によって自分達の信念のもとに活動を行っている。それが他に知られて盗まれたくない高度な技術であるから秘密を守っているだけだ」
「お父さん、宇宙に行くという計画はないのね?」ルミコの問いにフジナミは少し答えが遅れた。
「それはない」そう言い切ったフジナミの隣で苦虫を噛み潰したような表情をしていたナカエが急に顔をフジナミに振り向けた。
「これ以上、隠さないでください。コンフォス財団は産業技術研究所で宇宙船を建造している。それは自分達で地球から脱出するためだ。私がこの人たちに全てを告白したんです!」大声を上げたナカエの顔は真っ赤になっていた。
「ナカエ君、急に何を言い出すんだ」
「社長、あなたは私を宇宙船に乗せると以前、約束してくれました。私はそれを糧にあなたにお仕えしてきた。しかしこの前、それができなくなったとあなたはおっしゃった。それで私は踏ん切りが付いたんです。もうこれ以上、社長の元では働けないと。私は今まで忠実にあなたに従い働いてきた。でももう懲り懲りなんです、あなたのわがままに付き合うのは」
「そうか君だったんだな、秘密を漏らしたのは。そんな信用できない奴はトットと出て行ってくれ」
「パパ、ナカエさんが言うように宇宙船を作っているの?」ルミコが悲痛な声で訊いた。
「そんなことはない。ナカエ君も嘘を言っているんだ」
「ホントです。コンフォス財団の書類も私が渡しました」
「でたらめを言うんじゃない」ナカエの反論にフジナミの顔も紅潮していた。
「なぜコンフォス財団は嘘をついたり、隠そうとするのですか?」ソフィアの追及にフジナミは反論した。
「嘘はついていない。秘密を守るのは盗む者が出たり、金持ちは勝手だとひがむ者が出るからだ。スポーツ選手にスーパースターや活躍する選手がいるのに対し、レギュラーにもなれない選手、脱落する選手がいる。それは実力の結果だ。脱落者がひがむのはお門違いなんだ」
いきり立つフジナミの隣でルミコが涙を流していた。
ナカエの裏切りに慌てるフジナミ




