第五章 (5)
また飲み屋 モッキンです
その日の夜、カズユキが薄汚れた服装をした男をモッキンに連れてきた。
「あれ、おまえは……」ショウタは見覚えのあるその男を見て、名前を思い出そうとしたが出てこなかった。
「アイラだ」男が名乗った。
「そうそう虫男の……」名前を思い出したショウタが叫んだ。
「俺は虫男ではない。ただ虫が好きなだけだ。相変わらずお前は失礼な奴だな」
「まあまあ、ケンカをしないで」カズユキが二人の間に入ってなだめた。
「カズユキ、今日はどうしてまたこいつと一緒なの」とショウタはカズユキの顔を見た。
「こいつではない。アイラという名前がちゃんとあるんだ」ムッとふくれっ面をしているアイラを横目にカズユキが答えた。
「この前出会ってから、どうも気になっちゃって。再び北の森に探しに行ったら会えたんだ。それからお互い連絡を取り合って、そうしたら案の定、気が合っちゃって、お互いの話が弾む、弾む。そして今日はここに連れてきた」
「ははあ、植物と虫、対象は違うけど、お互い生き物オタクだもんな」ショウタは同じ眼つきをしている二人を見ながら苦笑いした。周りの常連客も見慣れないアイラが気になって仕方がないようで、ショウタ達の会話に聞き耳を立てていた。その雰囲気に気づいたカズユキが皆にアイラを紹介した。
「こいつ、アイラと言って僕の友達です。この前、エミリーちゃんと森の奥に入ったとき知り合ったんですよ。アイラは虫に詳しいんです」
「お邪魔します」アイラがペコリと頭を下げた。無精ひげを生やした顔と薄汚れた服装が気になるのかソフィアとユキエが怪訝な表情をしていた。カズユキとアイラはエミリーの隣に腰をかけた。やっと名前を覚えたショウタが声を上げた。
「アイラ、ところでどこ出身なの?あまり街には似合わない格好をしているけど」
「俺は大陸のアーリサスから来た」
「アーリサスってイーグサンドの隣じゃないですか。私はイーグサンドから来ました」エミリーが明るい声で言った。
「そうなんだってな。カズユキから話は聞いた」大陸から来たためか、アイラの言葉には独特のイントネーションがあった。
「びっくりするなよ。エミリーちゃんが草木と話せるみたいに、アイラは虫と会話ができるんだ」カズユキの言葉にモッキン中の人がアイラを驚きの目で見た。
「あんまり、ばらすな。それは内密にしているんだから」アイラが口の前に人差し指を立てながらカズユキに文句を言った。
「虫って、どんな虫とも会話できるの?例えば蟻とかカブトムシとか?」興味津々で興奮したショウタがたずねた。
「どんな虫とも会話ができる訳ではない。高度な社会性を持った種類だけだ。特にアーリサスにはそういう種類がたくさんいる。その中には蜂やバッタ、それにカナブンのような甲虫の仲間もいる」
「へえ、すごいなあ。そんな高度な虫をカリハでは見たことないな」ショウタは感心しながら生ビールをあおった。
「ここにも種類は少ないが社会生活を送り会話ができる虫はいる。虫の世界も普通の人が思うより進化しているんだ」
「そうなんだ。知らなかった。ところでなんでカリハに来たの?」アイラに俄然興味を持ったショウタとアイラの問答は続いた。
「アーリサスの虫がこっちに来ているからだ」
「なんでまた?」
「植物と同じさ。虫も産業技術研究所を目指している」
「え、じゃあ虫も宇宙船のことを知っているということ?」
「ああ、知っている。植物と虫だけでなく、鳥も魚も気づいている。逆に知らないのは蚊帳の外の人間位だ」
「え、そうだったの」
「人間同士はお互いの心を読めないから隠し事をしやすい。虫や植物は狭いところにも侵入でき、お互いの交信も盛んだ。一種のテレパシーのような能力を持っている。その能力を使って地球全体で情報が行き交っている」
「知らないのは俺たちだけだったんだ。人類も舐められたものだな」ショウタは嘆きながら生ビールのお代わりをした。
「ところで虫は産業技術研究所に対して何をしようとしているんですか?」エミリーの問いかけにアイラは答えた。
「それは俺にもまだわからない。ただ植物とは交流を始めているようだ」
虫も動き出していました。。




