第五章 (4)
ショウタがエミリーと再び公園へ
頭の上には大きなお日様が赤色に輝いていた。新緑で輝く森の公園の芝生の上にはショウタとエミリー二人の影が並び、奥の森に歩を進めていた。
「なんで皆、自分勝手なんでしょうね。各自が他人のことを思いやれば争いなんておきないのに」エミリーがいらだっている気持ちがショウタには痛いほどよくわかった。
「そうだよね。わがままな奴ばっかりだよな。ところでお父さん、お兄さんから連絡は来たの?」
「いいえ、何も来てないです」
「全く研究所長は約束を守らないし。信用できないな。宇宙に脱出するのは別に構わないし勝手にすればと思う。でも最低、約束は守って欲しいよね。植物の乗せて欲しいという要望がわかっているなら、乗せてあげればいいのに。そうすれば植物の怒りも納まるし、お父さん、お兄さんも解放されて全てが解決する。そんなに宇宙船には余裕がないのかな?」
「結局、財団と研究所次第ですよね。ただなんでサンザムや草木たちもあんなに気性が激しいんだろう。衝突しないでもっと冷静であればいいのに。ホントにみんな思いやりに欠けている」
森の枝葉がそよ風になびいていた。その枝葉によって赤い強い日差しも遮られて森の中は涼しかった。枝葉の間には多くの鳥がいるようで、何個もの可愛らしいさえずりが重なりあって聞こえた。
「ちょっと話してみます」そう言ってエミリーは一本の大きな木に歩み寄り、その幹に手を添えた。またショウタにはエミリーの腕からオレンジ色の光が出ているのが見えた。胸の上のペンダントに震えを感じショウタはペンダントを右の手平で包むように握った。すると今回は話している言葉が聴きとれた。
「私は悲しい。なぜ皆ぶつかるの? 争うの?」エミリーの透き通るような声だった。
「そんなに悲しまないで。あなたが悲しむと私も悲しくなる」木が答えているようだった。
「悲しまないで」さえずりと同じような可愛らしい鳥の声も聞こえた。
「ありがとう。あなたたちの優しさに触れると少しホッとする」とエミリーが礼を言った。
「悲しまないで」低い声は別の木が声をかけているようだった。
「セルジュにつないでもらえる。セルジュと話したい」
「セルジュね。少し待って。つないでみる」エミリーの声に低い声が答えた。そのまま静かに時間が過ぎた。静かながら奥の方で気持ちが和らぐ音楽が鳴っているように感じた。
「エミリー 私だ」
「セルジュ! そこにいるのね」エミリーが喜びの声を上げた。
「ああ、私はここにいる」
「サンザムという菊の花が言うことを聞かないの。人とぶつかっている」
「ああ、こちらにも騒ぎは伝わっているよ」
「どうにかサンザムを止めて。街に入り込んで住んでいる人を苦しめている」
「それは人間にも問題があるんだろ」
「そうだけど、一部の勝手な人がいけないの。人間の方もどうにかするから、まずは衝突を止めて」
「サンザムは立派なリーダーだ。仲間たちのことを考えている。しかし彼は若い。若さゆえにときとして激しすぎることがある」
「サンザムと仲間たちの気持ちは理解できるわ。でも衝突しても何も生まれない。相手も意固地になってさらにこじれてしまうわ。今、必要なことはお互いの妥協点を見出すことよ。そのためには衝突を止めて話し合うべきだと思うの」
「衝突、争いはいつの日もあった。相手とのギャップが深く、歩み寄れないことが分かると怒りが起こり、憎しみが増しぶつかってしまう。争いは何も生まずお互いに損害が発生するだけなのにな。しかし争いがなくなることはなかった」
「でもどうにか衝突を止めて欲しいの。確かに人間に自分勝手なところはある。でもそれは一部の人よ。街の住民には関係ない。せめて街を襲うのを止めて欲しいの」
「わかった。私からサンザムに語りかけてみる。エミリーの強い気持ちを伝え、争いをやめるように説得してみる」
「ありがとう、セルジュ」
「エミリーの願いだ。私なりに尽力してみる。ただ言わなければならないことは、私がどう動こうが世の中のことは既に定まっているということだ。時というのは流れではない。地図のようなものだ。既に定まっているんだ。そして我々はその地図を歩かされている。しかし我々には時の地図が見えない。だから自らの思いを諦める必要はない。個々の生き物は自分の思う方向に動けばよい。しかし、たとえ自分の意志で行動したとしても、結局、その結果は既に定まっている、それが真理だ」
「セルジュ、あなたには未来が見える?サンザムや私たちの未来が?」
「残念ながら私にも未来は見えない。一万年も長く生きてきたとしても、時の地図は見えないのだ」
セルジュの低い声はショウタにずしりと響き、体全体が打ち震えた。それは今まで感じたことのない力、絶大な生命のパワーだった。エミリーのオレンジ色の光は今まで以上に強く輝いていた。
セルジュのパワーでどうにかなるのか?




