表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不完全選択(ダメ出し未来予報)  作者: シエスタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/15

第9話 選ばせる側は、姿を見せない

朝。


教室に入った瞬間、分かった。


……今日は、何かが違う。


ざわついている。

でも、昨日までの“責め”とは少し違う。


――ピロン。


【失敗予報:今日は、直接は責められません】


……珍しい。


席に着く。


誰も、俺を見ない。


正確には――

見てるけど、話しかけてこない。


沈黙。


――ピロン。


【失敗予報:この空気、無関心ではありません】


……だよな。


朝倉ひなたが、前を向いたまま言った。


「今日さ」


独り言みたいな声。


「体育、どうするんだろうね」


……どうするって、誰が?


「先生が決めるんじゃね」


俺は、できるだけ普通に返した。


――ピロン。


【失敗予報:今の返し、安心されます】


……安心?


ひなたは、少しだけ笑った。


「だよね」


「先生だもんね」


……その言い方。


どこか、引っかかった。


チャイム。


授業開始。


一時間目は、数学。


板書。

問題演習。


……平和だ。


――ピロン。


【失敗予報:この平和、長くは続きません】


……分かってる。


二時間目。


担任が、教室に入ってきた。


「今日は連絡事項がある」


来た。


「昨日の体育の件だが」


……来た。


「軽い怪我が出た」

「だが、大事には至っていない」


教室が、少しだけざわつく。


「そこでだ」


担任は、言った。


「今後は、危険が予想される場合」

「事前に、周囲で声をかけ合うこと」


……周囲。


「誰かが気づいたら」

「早めに共有する」


……共有。


――ピロン。


【失敗予報:これ、あなた向けです】


……ですよね。


担任は、俺を見ない。


名指しもしない。


だが。


全員が、俺を見ている。


……ああ。


これだ。


責められてない。


でも――


役割を与えられている。


「じゃ、早坂」


担任が、突然言った。


心臓が、跳ねた。


「はい」


「お前は、どう思う?」


……来た。


――ピロン。


【失敗予報:ここで意見を言うと、公式化されます】


……公式化。


「・・・どう、とは」


時間稼ぎ。


担任は、穏やかに言った。


「昨日の状況を見て」

「気づいたことはないか?」


……罠だ。


正解を言えば、

役割になる。


黙れば、

無責任になる。


――ピロン。


【失敗予報:どちらも、逃げではありません】


……は?


「・・・特に、ありません」


俺は、そう答えた。


担任は、少し考えてから頷いた。


「そうか」


それだけ。


拍子抜け。


だが。


――ピロン。


【失敗予報:今の返答、記録されました】


……記録?

何に?

誰に?


授業は、続いた。


だが、頭に入らない。


……おかしい。


誰も、

「俺が悪い」とは言ってない。


なのに。


「俺が関わる前提」で、

話が進んでいる。


昼休み。


俺は、廊下を歩いていた。


白石しおりが、隣に並ぶ。


「気づきました?」


「何を?」


「今日、誰もあなたを責めていない」


……確かに。


「でも」


しおりは、続ける。


「全員が、あなたを前提に動いています」


……前提。


「責める段階は、終わったんです」


俺は、立ち止まった。


「終わった?」


「ええ」


しおりは、淡々と言う。


「次は、“使う”段階です」


――ピロン。


【失敗予報:この段階、引き返せません】


……使う。


「誰が?」


俺が聞くと、

しおりは首を振った。


「誰でもありません」


「じゃあ、何が?」


しおりは、少しだけ視線を落とした。


「仕組みです」


……仕組み。


「昨日までは」

「あなたを責める“人”がいました」


「でも今日は違う」


「ルールが、先に決まっています」


――ピロン。


【失敗予報:個人攻撃より、厄介です】


……知ってる。


「先生も」

「クラスも」

「誰も、あなたに命令していない」


「でも」


しおりは、静かに言った。


「あなたが“気づく人”である前提で」

「全員が、安心しています」


……安心。


「つまり」


俺は、言葉を繋ぐ。


「俺が黙ってても」

「俺が責任を持つ前提になってる?」


「そうです」


即答だった。


「あなたが止めなくても」

「“止めなかったあなた”が想定されている」


……最悪だ。


――ピロン。


【失敗予報:これが“選ばせる構造”です】


……出た。


「なあ」


俺は、拳を握った。


「その構造ってさ」


「誰が作ったんだよ」


しおりは、首を振る。


「誰も作っていません」


「え?」


「便利だから、できただけです」


……便利。


「責任の所在を」

「一人に寄せられる」


「安心できます」


「楽です」


――ピロン。


【失敗予報:ここ、怒りが湧きます】


……湧くよ。


「じゃあさ」


俺は、低く言った。


「その“仕組み”は」


「どこにいるんだよ」


しおりは、少しだけ微笑った。


「いません」


……は?


「選ばせる側は、姿を見せないんです」


「全員が、無自覚に使います」


――ピロン。


【失敗予報:敵が見えません】


……クソゲーか。


俺は、天井を見上げた。


……なるほど。


だから、責められなくなった。


もう、俺を殴る必要がない。


勝手に、俺が“考える側”になる。


それが、この構造。


「なあ」


俺は、息を吐いた。


「これさ」


「俺が拒否したら、どうなる?」


しおりは、即答しなかった。




「・・・拒否は、できます」


「でも」


「拒否した理由を説明し続けることになります」


……永遠に?


――ピロン。


【失敗予報:はい】


……地獄。


「じゃあ」


俺は、苦笑した。


「黙ってても、使われる」


「拒否しても、説明を求められる」


「使ったら、責任を背負う」


「使わなくても、背負う」


「完璧だな」


――ピロン。


【失敗予報:逃げ道が、ありません】


……いや。


俺は、ふと立ち止まった。


……一つだけ。


まだ、触れてない場所がある。


「なあ、しおり」


「何ですか?」


「この構造って」


「学校だけの話か?」


しおりは、少しだけ目を見開いた。


――ピロン。


【失敗予報:いい問いです】


……来た。


「いいえ」


しおりは、はっきり言った。


「これは」


「社会の縮図です」


……だよな。


俺は、笑った。


……見えてきた。


敵は、人じゃない。


能力でもない。


「選ばせることを、当然にする空気」


それ自体だ。


……だったら。


俺が次に考えるべきは――


どうやって“参加しないか”だ。


――ピロン。


【失敗予報:次のフェーズです】


……了解。


俺は、歩き出した。


……もう、選ばされる気はない。


でも。


“参加しない”って、どうやるんだ?


――――――――――

第9話 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ