第4話 その能力、共有すると死にます
放課後。
俺は、白石しおりに呼び止められていた。
教室の外。
人通り、そこそこ。
逃げ場、なし。
……嫌な予感しかしない。
「少し、話せますか」
穏やかな声。
だが、目が笑ってない。
……この人、確信してる。
「ここで立ち止まると、色々終わる気がする」
――ピロン。
【失敗予報:今逃げると、翌日もっと面倒になります】
……くそ。
「分かった」
俺は観念して、廊下の端に寄った。
沈黙。
一秒。
二秒。
……先に喋ったら負けな気がする。
――ピロン。
【失敗予報:この沈黙、相手に主導権を渡します】
……もう渡してるだろ。
しおりが口を開いた。
「確認です」
確認って言葉がもう怖い。
「あなた、“選ぶ前に失敗が分かる”んですね」
……直球すぎないか。
「そんな能力、あるわけないだろ」
――ピロン。
【失敗予報:否定が弱いです】
……知ってる。
「でも、もしあったら?」
しおりは、逃がさない。
「もし、ですよ」
「もし、ですか」
……仮定の話ならセーフ。
多分。
「仮に、ですよ」
俺は指を立てた。
「失敗だけ分かる能力があったとする」
「成功は分からない」
「正解も分からない」
「ダメな選択だけ、事前に警告される」
しおりは、黙って聞いている。
「それってさ」
俺は笑った。
つもりだった。
「めちゃくちゃ地味じゃないですか?」
――ピロン。
【失敗予報:その笑い、必死さが出ています】
……やめろ。
しおりは、少し考えてから言った。
「地味ですね。でも」
「危険です」
……来た。
「どういう意味?」
しおりは、指を折る。
「一つ。
その人は、“失敗しなかった人”になります」
「それ、良くない?」
「良くありません」
即答だった。
「失敗しない人は、
周囲から“有能”に見えます」
「でも本人は、
なぜ成功したか分からない」
……あ。
「二つ。
周囲は、その人に判断を委ね始めます」
……ああ。
「三つ。
失敗した人間は、
“なぜ止めなかった”と責められます」
……待て。
「四つ」
まだあるのか。
「その能力者は、
“言わなかった失敗”を、
全部背負うことになります」
背中が、冷えた。
……それ、もう俺じゃん。
「例えば」
しおりは、さっき転んだ男子の方を見る。
「あなたが止めなかったら?」
「もし大怪我していたら?」
「周囲は言います」
彼女は、静かに再現した。
「“知ってたんじゃないの?”」
……それは。
――ピロン。
【失敗予報:ここで黙ると、図星扱いされます】
「・・・まだ、仮定の話だろ」
声が少し、掠れた。
しおりは頷いた。
「はい。仮定です」
だが、続ける。
「でも、その能力が本物なら」
「共有した瞬間に、性質が変わります」
「変わる?」
「ええ」
しおりは、はっきり言った。
「それは“便利な能力”じゃない」
「“責任発生装置”です」
……ネーミング最悪だな。
「周囲は、
選ばなくなります」
「“あなたが止めなかった”を基準にします」
……やめろ。
「つまり」
しおりは、最後にこう言った。
「その能力、
一人で使っても地獄」
「みんなで使ったら、
もっと地獄です」
沈黙。
廊下の向こうで、
ひなたの笑い声が聞こえる。
……あいつに知られたら。
――ピロン。
【失敗予報:朝倉さんに話すと、三日以内に拡散します】
……だろうな。
「だから」
しおりは、少しだけ声を落とした。
「お願いがあります」
「何」
「誰にも言わないでください」
……おや。
「意外だな」
「え?」
「広めた方が、便利だろ」
――ピロン。
【失敗予報:ここで強がると、信用を失います】
……正直にいくか。
「・・・怖いんだ」
俺は言った。
「この能力、
使えば使うほど、
“選ばなかった責任”が増える」
しおりは、黙って聞いている。
「だからさ」
俺は苦笑した。
「今はまだ、
俺一人が失敗すればいい」
沈黙。
しおりは、少しだけ笑った。
「それが一番、危ない考え方ですね」
「知ってる」
――ピロン。
【失敗予報:でも、今はそれしか選べません】
……だよな。
そのとき。
「こーういちー!」
ひなたが、廊下を走ってきた。
最悪のタイミング。
「何してんのー?」
――ピロン。
【失敗予報:ここで変な間が空くと、怪しまれます】
「・・・雑談」
「・・・雑談」が、限界だった。
ひなたは、俺としおりを見比べる。
「へー。
珍しい組み合わせ」
――ピロン。
【失敗予報:このまま立ち話を続けると、
変な噂が立ちます】
……社会的に死ぬな、それ。
「じゃ、帰ろうぜ」
俺は即断した。
ひなたは目を丸くする。
「え、購買は?」
――ピロン。
【失敗予報:行くと寄り道します】
「今日は直帰」
「珍しっ」
しおりが、静かに言った。
「早坂くん」
「何」
「選ばない、という選択も」
「誰かを巻き込みますよ」
……それは。
――ピロン。
【失敗予報:でも、今は聞かなくていい】
俺は、歩き出した。
……分かってる。
この能力、
使えば使うほど、
“社会”が絡んでくる。
失敗を避けるだけじゃ、
済まなくなる。
それでも――
……今日も俺は、
選ばない、という選択だけは、
まだ、選べなかった。
――――――――――
第4話 了




