第3話 その能力、見えてませんよね?
昼休み。
俺は、静かにパンを食べていた。
静かに、だ。
とても静かに。
なぜなら――
――ピロン。
【失敗予報:今立ち上がると、机に膝を強打します】
……だから立たない。
――ピロン。
【失敗予報:今パンを落とすと、ひなたに拾われます】
……それは失敗じゃなくないか?
――ピロン。
【失敗予報:その考え方は危険です】
……何基準だよ。
俺はパンを机に置いた。
この能力、
もはや俺の行動を逐一レビューしてくる
超うるさい未来上司だ。
「こういち、今日購買行かないの?」
朝倉ひなたが、いつもの調子で聞いてくる。
――ピロン。
【失敗予報:一緒に行くと、アイスを奢らされます】
「行かない」
即答。
「え!? 珍し!」
――ピロン。
【失敗予報:理由を聞かれます】
「聞くな」
「聞くよ!?」
……もうダメだ。
「混んでるから」
――ピロン。
【失敗予報:嘘ではありませんが、印象は薄いです】
……印象とか今どうでもいい。
ひなたは不満そうに頬を膨らませた。
「今日のこういち、ほんと変」
「今日は“今日の俺”が変なんだ」
「なにそれ哲学?」
――ピロン。
【失敗予報:その返し、理解されません】
……知ってた。
俺は視線を逸らし、
教室の隅で本を読んでいる白石しおりを見た。
落ち着いている。
いつも通り。
……だが。
――ピロン。
【失敗予報:今、目が合います】
……え。
一拍遅れて、目が合った。
しおりは、少し首を傾げる。
「何かありました?」
「な、何も」
――ピロン。
【失敗予報:その否定、三秒遅いです】
……三秒も考えてない。
しおりは、じっと俺を見た。
笑わない。
茶化さない。
ただ、観察する目。
「早坂くん」
「はい」
反射で返事をした。
――ピロン。
【失敗予報:敬語は距離を生みます】
……しまった。
「どうした?」
言い直す。
しおりは、少し考えてから言った。
「さっきから、行動が……
選択肢を確認しているみたいに見えます」
……心臓が一拍、止まった。
「例えば?」
俺は慎重に聞き返す。
しおりは指を折った。
「立ち上がろうとして、やめた」
「パンを持ち上げて、戻した」
「ひなたさんの誘いを、異様に即断で断った」
――ピロン。
【失敗予報:ここで動揺すると、バレます】
……落ち着け。
「・・・そんなわけないだろ」
笑おうとした。
――ピロン。
【失敗予報:その笑い、引きつります】
……やめた。
結果、無表情。
「……」
「……」
しおりの視線が、さらに鋭くなる。
「否定しないんですね」
「否定しただろ」
「言葉では。でも、動きが否定してません」
――ピロン。
【失敗予報:この人、鋭いです】
……評価ありがとう。
そのとき。
――ガタン!
クラス後方で、誰かが椅子を倒した。
男子が、転びそうになっている。
――ピロン。
【失敗予報:助けに行くと、一緒に転びます】
「待て!!」
俺は思わず叫んだ。
次の瞬間、
その男子は一人で盛大に転んだ。
「うわっ!」
教室がざわつく。
「何今の!?」
視線が、俺に集まる。
「・・・なんで止めた?」
誰かが言った。
俺は、口を開き――
――ピロン。
【失敗予報:正直に話すと、日常が終わります】
……それは困る。
「勘」
短く答えた。
沈黙。
しおりが、静かに息を吐いた。
「・・・やっぱり」
「やっぱりって何だよ」
彼女は、はっきり言った。
「早坂くん。
あなた、
“失敗する未来”だけ見えてませんか?」
教室の空気が、
一段、静かになった。
……ああ。
これは――
――ピロン。
【失敗予報:一人で抱えるのは、もう無理です】
……だろうな。
俺は、苦笑した。
――――――――――
第3話 了




