第13話 代わりに、失うもの
朝。
教室に入る。
……昨日より、少し距離がある。
誰も露骨には見ない。
でも、
近づいてもこない。
――ピロン。
【失敗予報:今日は、効率が落ちます】
……効率。
一時間目。
グループワーク。
机を動かす。
四人一組。
自然と、俺は端になる。
……別に、いい。
慣れてきた。
先生が言う。
「十分でまとめて、代表が発表な」
ざわっと動き出す。
俺の班。
誰も役割を決めない。
……前なら。
俺が、さっと割り振ってた。
今日は。
何も言わない。
沈黙。
沈黙。
――ピロン。
【失敗予報:このままだと、時間が足りません】
……だろうな。
一人が、恐る恐る言う。
「えっと・・・誰か、まとめ役やる?」
視線が泳ぐ。
誰も即答しない。
……来る。
この空気。
俺が何か言うのを、
待ってる空気。
――ピロン。
【失敗予報:今、口を出せば楽になります】
……楽。
確かに。
一言で済む。
でも。
俺は、ノートを見たまま言った。
「誰でもいいと思う」
一瞬、空気が止まる。
「いや、それは・・・」
別の人が困った顔をする。
「誰でもいい、が一番困るんだけど」
……正直だ。
――ピロン。
【失敗予報:不満が蓄積しています】
……蓄積。
結局。
少し強めの子が言った。
「じゃ、私やるから」
「まとめも発表も」
……助かった。
でも。
その言い方は、
前向きじゃなかった。
作業が始まる。
でも、遅い。
意見が被る。
整理されない。
……前なら。
頭の中で、
最短ルートが見えてた。
でも、
それを言わない。
――ピロン。
【失敗予報:評価が下がります】
……知ってる。
チャイム。
時間切れ。
発表。
内容は、悪くない。
でも、まとまりがない。
先生が首を傾げる。
「・・・少し散らかってるな」
視線が、俺の方をかすめる。
名指しじゃない。
でも、分かる。
――ピロン。
【失敗予報:今の視線、ログが残ります】
……ログ。
休み時間。
班の一人が言う。
「正直さ」
前置き付き。
「早坂がまとめてくれたら、
もっと早かったと思う」
……来た。
「責めてるわけじゃないけど」
その言葉が、一番きつい。
――ピロン。
【失敗予報:反論すると、関係が悪化します】
……反論しない。
「そうかもな」
それだけ言った。
相手は、少し気まずそうに笑う。
「まあ、次はさ」
……次。
次は、元に戻る?
楽になる?
――ピロン。
【失敗予報:戻れば、評価は回復します】
……回復。
魅力的な言葉だ。
昼休みの廊下。
ひなたが、並んで歩く。
「ねえ」
「何?」
「今日のグループ」
来ると思ってた。
「やりづらかった?」
ひなたは、言葉を選んでいる。
「・・・ちょっと」
「前は、助かってたから」
助かってた。
それは、
俺が便利だった、ってことだ。
――ピロン。
【失敗予報:ここで説明すると、期待が戻ります】
……戻る。
戻れば、楽だ。
「ごめん」
俺は、それだけ言った。
ひなたは足を止める。
「謝られると、困るんだけど」
「じゃあ、どうすればいいの?」
……どうすれば。
俺も知りたい。
――ピロン。
【失敗予報:正解は提示されません】
……だろうな。
放課後。
教室。
しおりが、少し遅れて来る。
「今日の様子」
「見てた?」
「ええ」
しおりは、言葉を選ぶ。
……助言、来るか?
来ない。
「・・・代償が、出始めましたね」
「はっきりな」
「はい」
しおりは、頷くだけ。
「止める?」
俺は、半分冗談で聞いた。
「前に戻れば、評価も、空気も」
楽になる。
しおりは、答えない。
視線を、外す。
――ピロン。
【失敗予報:これは、あなたが決めることです】
……分かってる。
俺は、椅子にもたれる。
……便利じゃない人になる。
それって。
思ってたより、
ずっと居心地が悪い。
誰にも怒られない。
でも、
確実に失っていく。
信頼、期待、役割。
――ピロン。
【失敗予報:損失は、今後も続きます】
……続くか。
帰り道。
夕方。
影が、長い。
……戻れば、楽。
それは、嘘じゃない。
でも、戻ったら。
また、選ばされる。
また、責められる。
それが、一番嫌だ。
――ピロン。
【失敗予報:今の判断、評価は下がります】
……それでいい。
俺は、歩く。
楽じゃない方へ。
便利じゃない方へ。
理由は、
まだ言葉にできない。
でも。
戻らないことだけは、
決めていた。
――――――――――
第13話 了




