第14話 選ばない人は、例外になれない
朝。
教室に入る。
……空気が、整っている。
昨日までのざらつきがない。
嫌な予感。
――ピロン。
【失敗予報:今日は、個人の問題ではありません】
……来た。
ホームルーム。
担任が、プリントを配る。
「今週から、少し運用を変える」
運用。
その言葉が、冷たい。
「係やグループ作業での混乱が出てる」
混乱。
誰のせい、とは言わない。
「だから」
担任は、淡々と続ける。
「決定事項は、
その場にいる全員の合意とする」
「異議がない場合は、同意とみなす」
……みなす。
――ピロン。
【失敗予報:不参加は、同意として扱われます】
……そう来たか。
「発言しない=反対しない、ではない」
担任は、そう前置きした。
「でも、進行上、そう扱う」
進行上、効率上、仕方ない。
だから余計に逃げられない。
「質問あるか?」
誰も手を挙げない。
……俺も、挙げない。
――ピロン。
【失敗予報:今の沈黙、履歴に残ります】
……履歴。
一時間目。
またグループ。
昨日と同じ顔。
同じ机。
先生が言う。
「代表は、立候補で」
「いなければ、前回と同じ人」
前回。
固定化。
――ピロン。
【失敗予報:例外は、認められません】
……例外。
誰も手を挙げない。
沈黙。
昨日より、短い。
強めの子が、また言う。
「私でいいよ」
空気が、決まる。
速い。
――ピロン。
【失敗予報:決定、完了しました】
……完了。
作業が進む。
速い。
効率的。
昨日より、ずっと。
俺は、何もしていない。
なのに。
――ピロン。
【失敗予報:あなたは、決定に参加しました】
……は?
参加?
「ちょっと、これどうする?」
誰かが聞く。
判断が必要な場面。
俺は、黙る。
――ピロン。
【失敗予報:沈黙=同意】
……同意?
別の人が言う。
「じゃ、これでいこう」
話が進む。
止まらない。
誰も、俺を見ない。
――ピロン。
【失敗予報:責任は、共有されます】
……共有。
便利な言葉だ。
誰も悪くない。
誰も逃げられない。
チャイム。
発表。
問題なく終わる。
評価も、悪くない。
先生が言う。
「スムーズだったな」
一瞬、俺を見る。
すぐ、逸らす。
――ピロン。
【失敗予報:あなたは、問題ではありません】
……問題じゃない。
でも。
自由でもない。
休み時間。
ひなたが、少し離れた場所で話している。
俺を、見ない。
見ないけど、避けてはいない。
……距離。
――ピロン。
【失敗予報:関係は、再定義されました】
……再定義。
放課後の廊下。
しおりが、並ぶ。
「今日の運用、
どう思いました?」
珍しい聞き方。
「・・・逃げ道、塞がれたな」
しおりは、頷く。
「個人の姿勢は、
制度に吸収されました」
吸収。
「参加しない、という立場が
成立しなくなりました」
――ピロン。
【失敗予報:回避不能】
……だよな。
「どうする?」
俺は、聞いた。
珍しく。
しおりは、首を振る。
「これは・・・」
「個人で、
どうにかできる段階ではありません」
……限界。
その言葉が、静かに刺さる。
――ピロン。
【失敗予報:助言は、ありません】
……ない、ってことか。
帰り道。
夕方。
影が、やけに整っている。
世界が、うまく回っている。
俺が、何もしなくても。
――ピロン。
【失敗予報:あなたは、選ばされています】
……選ばされてる。
参加しない。
判断しない。
それでも。
決定に、組み込まれる。
責任から、外れられない。
――ピロン。
【失敗予報:次は、最終フェーズです】
……最終。
来たな。
構造が、ちゃんと俺を見た。
見たうえで、無視した。
それで十分だと言わんばかりに。
……逃げ場は、ない。
――――――――――
第14話 了




