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不完全選択(ダメ出し未来予報)  作者: シエスタ


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12/15

第12話 期待が、なくなる前に

朝。


教室に入る。


……視線は、昨日よりさらに薄い。


――ピロン。


【失敗予報:今日は、効きすぎます】


……効きすぎるって何だよ。


席に着く。


ひなたが、ちらっとこっちを見る。


でも、すぐ前を向く。


……話しかけてこない。


――ピロン。


【失敗予報:この静けさ、安心ではありません】


……分かってる。


一時間目。


特に何も起きない。


二時間目。


それでも何も起きない。


……おかしい。


俺が何かしなくても、世界が回ってる。


――ピロン。


【失敗予報:今、油断すると反動が来ます】


……反動。


チャイム。


ホームルーム。


担任が入ってくる。


「連絡」


来た。


「来週の校内イベントの係、まだ決まってないクラスが多い」


……係。


「このクラスもだ」


担任は、黒板に書き始める。


「司会」

「準備」

「片付け」

「誘導」


……地味に重い。


担任が言う。


「今日決めるぞ」


教室が、わずかにざわつく。


「じゃあ、まず司会」


担任が黒板を叩く。


「誰かやるか?」



沈黙。



沈黙。



――ピロン。


【失敗予報:この沈黙、長引くと空気が腐ります】


……腐る。


誰も手を挙げない。


担任が笑ってごまかす。


「ま、いきなりは難しいか」


黒板にチョークで丸を描く。


「じゃあ推薦で」


来た。


「誰か、適任いるか?」


教室が、ゆっくり俺を見る。


名指しじゃない。


でも、流れが俺に寄る。


――ピロン。


【失敗予報:ここで目を逸らすと、逃げた扱いです】


……逃げてない。


参加しないだけだ。


隣の席の男子が、小声で言った。


「早坂とか・・・」


別の声。


「いや、最近そんな感じじゃなくね?」


……最近そんな感じ。


俺は、手を挙げない。


口も開かない。


沈黙。


――ピロン。


【失敗予報:今、黙ると後悔します】


……は?


後悔?


俺が?


誰が?


何に?


担任が首を傾げる。


「誰もいないなら、くじにするぞ」


ざわっ。


「えー」


「だる」


「運ゲーかよ」


……運ゲー。


その言葉が、妙に刺さる。


だって。


俺の能力も、ほぼ運ゲーだ。


失敗だけ通知。


成功は、知らない。


――ピロン。


【失敗予報:くじにすると、空気が悪くなります】


……空気、悪くなるよな。


俺は、息を吸った。


……言うのか?


言えば、参加になる。


言わなければ、後悔?


――ピロン。


【失敗予報:これは、あなたの想定外です】


……想定外。


しおりの言葉が、脳内で響く。


日常のどうでもいい判断で間違えろ。


取り繕うな。


言い訳するな。


……でも。


くじで揉めるのは、どうでもよくない。


ひなたが、手を挙げかけて止まる。


一瞬、俺を見る。


……期待してるんじゃない。


頼ってるんでもない。


ただ。


「前なら、早坂が何か言ってた」


そういう記憶が残ってるだけだ。


――ピロン。


【失敗予報:あなたが黙ると、誰かが“あなたのせい”にします】


……最悪。


担任が箱を出す。


割り箸を入れ始める。


「じゃあ、くじな」


ざわざわ。


「短いの引いたら司会な」


笑いが起きる。


でも、それは笑いじゃない。


逃げ道のない笑いだ。


――ピロン。


【失敗予報:今、止めれば揉めません】


……止めれば。


俺は、机の端を握った。


止める?


参加しないんじゃなかったのか?


でも。


止めなくていい揉め事って、何だ?


揉めてもいい日常って、何だ?


……分からない。


「先生」


声が出た。


教室が静まる。


担任が俺を見る。


「どうした、早坂」


――ピロン。


【失敗予報:言い切ると、役割が戻ります】


……言い切るな。


「・・・くじじゃなくて」


口に出す前の間。


「立候補、もう一回だけ聞きません?」


担任が眉を上げる。


「もう一回?」


「はい」


俺は視線を落としたまま続ける。


「くじだと、ちょっと・・・空気が悪くなりそうです」


担任は、少し考える。


「・・・確かにな」


教室が、小さく息を吐く。


「じゃあ、司会」


担任が言い直す。


「誰か、やってくれる人」


沈黙。


……変わらない。


――ピロン。


【失敗予報:結局、同じ場所に戻ります】


……だよな。


ひなたが手を挙げた。


「じゃ、私やる」


ざわっ。


「まじ?」


「ひなた強」


担任が助かった顔をする。


「朝倉、ありがとう」


ひなたは、さらっと言った。


「別に」


そして、俺を見ない。


見ないまま、続ける。


「でもさ」


ひなたの声が少し低い。


「誰もやらないの、空気悪いし」


教室が、静まる。


……空気悪い。


それを言うのは、ひなただ。


いつも明るい人間が言うと、重い。


担任が慌てて笑う。


「まあまあ」


「次、準備係」


担任が進める。


「誰か」


今度は数人が手を挙げる。


……決まる。


意外と決まる。


俺が何もしなくても。


なのに。


胸が軽くならない。


――ピロン。


【失敗予報:今、安心すると後で刺さります】


……刺さる。


ホームルームが終わる。


休み時間。


男子が俺の机に来る。


「早坂」


「何」


「さっきさ」


言い方が、柔らかい。


でも、柔らかいのが怖い。


「助かった」


……助かった。


「くじ、めんどかったし」


「ありがと」


言って、去っていく。


――ピロン。


【失敗予報:今の“ありがとう”、後で裏返ります】


……裏返る。


ひなたが、また少し遅れて来る。


「こういち」


「何?」


ひなたは、笑ってない。


「さっき」


言葉を選んでいる。


「別に責めたいわけじゃないんだけど」


またそれ。


「なんで、最後だけ言ったの?」


……最後だけ。


俺は、答えに詰まる。


――ピロン。


【失敗予報:ここで理由を説明すると、また期待が高まります】


……だよな。


「たまたま」


ひなたが眉をひそめる。


「たまたま?」


「うん」


「じゃあさ」


ひなたは、静かに言った。


「たまたまじゃないと、言わないの?」


……来た。


この苛立ち。


この距離。


期待がなくなった、その下にあるもの。


「早坂なら何とかする」


それが消えた瞬間に出てくる。


「なんで何とかしないの?」


という不満。


――ピロン。


【失敗予報:今、黙ると関係がずれます】


……ずれる。


俺は息を吐いた。


……戦略が、効いてる。


でも。


効き方が、嫌だ。


期待が減る。


代わりに、苛立ちが増える。


……想定してたか?


「分からない」


俺は言った。


「俺も、分からない」


ひなたは、少しだけ目を見開く。


「そっか」


それだけ言って、自分の席に戻った。


――ピロン。


【失敗予報:今の“そっか”、軽くありません】


……軽くないよな。


放課後の廊下。


しおりが隣に並ぶ。


「今日のホームルーム」


「見てた?」


「ええ」


しおりは、少しだけ迷う顔をした。


……迷う顔?


「早坂くん」


「何」


しおりは、いつもの調子で言いかけて止まる。


一拍。


「・・・苛立ちが出ましたね」


「出たな」


「想定してました?」


「してない」


俺は即答した。


しおりが、視線を落とす。


「・・・私も」


珍しい。


しおりが言葉を選んでいる。


――ピロン。


【失敗予報:この沈黙、今は必要です】


……珍しく役に立つ。


しおりが、ようやく言った。


「期待がなくなると、

“楽になる”、と思っていました」


「でも」


しおりは、苦く笑う。


「楽になる前に、不満が出る」


……そうだ。


俺は、胸の奥のざわつきを確かめる。


今日、俺は正解を避けた。


でも、正解を避けても、誰かの感情は避けられない。


――ピロン。


【失敗予報:あなたの戦略は、万能ではありません】


……知ってる。


「なあ、しおり」


「はい」


「これさ」


「続けられると思う?」


しおりは、即答しない。


珍しく、考えている。


「・・・続けるしかないと思います」


「でも」


しおりは、はっきり言った。


「次は、もっと目に見える反応が来ます」


――ピロン。


【失敗予報:はい】


……だろうな。


帰り道。


夕方。


影が長い。


……今日の失敗は、静かじゃなかった。


誰も怒鳴らなかった。


誰も爆発しなかった。


でも。


確かに、空気が一段冷えた。


俺は、歩きながら考える。


……俺は、参加しない。


でも。


参加しないって、誰かを黙らせることじゃない。


誰かの苛立ちを、消すことでもない。


じゃあ。


俺は、何を守ろうとしてる?


――ピロン。


【失敗予報:今その問いを放置すると、後で苦しくなります】


……分かってる。


でも。


今は、答えが出ない。


――――――――――

第12話 了

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