第59話 信じる理由
ポーチの中にお金、裁縫セット、ぬいぐるみ用の布を数枚詰め込んで、
残りはジャミラさんに預かってもらった。
「じゃあ、お願いしますね」
「任せておいて。しっかり管理しておくからね。
楽しんでらっしゃい」
「はい!」
イエロードラゴンに会いに行くのだから、嬉しいのは間違いなかった。
元気よく答えるとジャミラさんが微笑む。
「それじゃあサハルと合流してきなさい。
しっかり目的のことを話しておくのよ?」
「わかりました!」
『そりゃあ、話すだろうけどよ……。
あの兄ちゃん放棄とかしねぇか?』
『ハーッハッハッハッ!知らなーい!
だが、お金は払ったからな!なんだかんだ言って続投するだろう!』
ローブの両ポケットに入っているラディウス達の声を聞き流しながら、
改めてジャミラさんにお礼を言う。
「ジャミラさん、本当にありがとうございました。
帰りにまた寄りますね!」
「ええ。待ってるわ。気をつけてね、小さな旅人さん」
ジャミラさんに手を振って店を出た。
外は変わらず熱気でモワモワしていたけど、着替えたローブとシャツのおかげなのか思ったより暑くない。
容赦なく照らしてくる日差しに目を覆いながら呟く。
「サハルさんを探さないといけないね」
『その辺うろついてるって言ってたよな……』
「お!?アレではないか!?」
右ポケットでアルゲオがモゾモゾと動いた。
「え!?どこ!?」
『あそこだ!噴水の所!』
アルゲオに言われるまま視線を向けると——
サハルさんが3人の美人に取り囲まれていた。
彼女達はどこか恥ずかしそうに話しているのに、サハルさんは答えるのもダルそうにしている。
私は思わず声を漏らす。
「わぁ、サハルさん大人気……」
『でも行くんだろ?またせてるんだしよ』
『確かにな!走って突っ込むか!?』
「そんな失礼なことしないよ」
アルゲオの意見を退けた。
だけど、あの状況は近づきにくい。
そもそも、私は人が話している時に割り込むのは得意じゃない。
「頑張って近づこう……」
一歩ずつゆっくりサハルさんに近づいていると、
私に気づいた彼が手を上げて立ち上がる。
「おう、ようやく終わったか」
「は、はい。お待たせしました……」
女性達の痛い視線を浴びながら答えた。
その中の1人が明らかに私を睨みながら声を上げる。
「え?付き添いってこの子の?」
「さっきから言ってるだろ。俺は護衛という仕事があるんだから、食事には行けねぇってな」
「断っちゃってよ」
「無理だ。報酬は受け取っているからな」
サハルさんがきっぱり答えても女性達は引き下がらない。
自分達より私みたいな子どもを優先するのが気に入らないみたいだった。
サハルさんは道を塞ぐように立っている女性達の間をすり抜けるようにして、私の前に来た。
「さぁ、行こうか。お嬢ちゃん」
「え?でも……」
私は不安になって彼の後ろにいる女性達に目を向ける。
彼女達は納得していない顔でこちらを見つめていた。
すると、サハルさんが振り返って声をかける。
「この仕事が終わったら誘いに乗ってやるよ。
それまでいい子にして待ってな」
「は、はいっ!」
さっきまでの不機嫌な顔はどこへ行ったのか、女性達が頬を赤くしてしどろもどろに答える。
サハルさんは小さくため息を吐くと、私に囁いた。
「ほら、今のうちに行くぞ」
「はい……」
色々考えていても仕方がないので、後ろを振り返らずにサハルさんについていった。
それからしばらく歩いて、町の端っこに来た。
人通りが少なく、すぐ側には石造りの大きな門が建っている。
サハルさんは転がっている石に腰掛けると、目を閉じて大きなため息を吐いた。
「はぁ……。めんどくさかった……」
「それにしては、場慣れしてましたよね」
「そりゃあ、ああいうことはしょっちゅうだからな。
困ったもんだぜ全く……」
サハルさんが再びため息を吐いて腕を組んだ。
改めて見ると、女性達が放っておかないのもわかる気がした。
頭の布からはみ出している黒髪は艶があるし、目は切れ長。
それに肌も日焼けしていて頼りになりそうな雰囲気を醸し出している。
すると、また右ポケットでアルゲオが動いた。
『おぉ、顔が整っているというのも大変だな……』
『俺達には縁のねぇ話だな……。
それはそうとお前、言うんだろ?』
ラディウスに言われてハッとした。
今までのことですっかり頭の隅に追いやられていたけど、サハルさんに本当の目的を話さなければならない。
ちょうど周りに人も居ないし、今がチャンスだ。
私は息を吸い込むと、サハルさんに一歩近づいた。
「あの、サハルさん。話があるんですけど……」
「ん?何だ?」
サハルさんはうっすらと片目を開けたけど、私の顔を見ると両目を開けて姿勢を正した。
どうやらただ事ではないと思ったらしい。
「最初に目的を聞かれた時に、観光って答えましたよね?」
「ああ、そうだな」
「それ、実は嘘で……。
私、本当はイエロードラゴンに会いに来たんです!」
「………………」
サハルさんが真剣な顔つきのまま黙り込んだ。
会話が途切れて、しばらくの間見つめあっていた。
やがて、サハルさんがため息を吐きながら口を開く。
「やっぱりか。ワケありだとは思ってたが……」
「嘘をついていてごめんなさい。
それと、もし嫌だったら案内はやめてもらっても大丈夫なので……」
「嫌ってのは?具体的に俺が何を嫌がると思ったんだ?」
「え?」
予想外の質問に、言葉を失った。
目的が観光からイエロードラゴンに会うことに変わったのに、怒らないのだろうか。
ポケットの中のラディウス達が小さく体を揺らす。
『なにこの人、やっぱり怖っ!』
『怖いっつーか、何っつーか……』
「それは……目的が変わったからで……」
「目的?お嬢ちゃんを案内するってことは何も変わってねぇが?」
瞬きを繰り返す私を、サハルさんは表情を変えずにジッと見つめてくる。
怒られているわけじゃないのに、彼の目をまっすぐ見れなくなってきた。
『確かにそうだな……。この兄ちゃん、最初から案内としか言ってねぇ』
『まさか最初からこうなることがわかっていたの!?怖っ!?』
アルゲオがさっきから怖いを連発しているのはスルーするとして、ラディウスの言葉に小さく頷く。
続けて引き受けてくれるのだろうか。
確認することにした。
「サハルさん……もしかして、案内を続けてくれるんですか?」
「ああ。俺はそのつもりだぜ?
まぁ、お嬢ちゃんがどうしても取り消したいっつうんなら、止めねぇけどな」
「い、いえ!案内をお願いします!」
事実を伝えたことでサハルさんの信頼を失ったのなら、案内を断ろうとは思っていた
勢いよく頭を下げると、サハルさんが笑い声を漏らす。
「ハハッ、了解。
とりあえず頭上げな。これからについて話さなきゃならないからな。
イエロードラゴンに会うんだろ?」
ゆっくりと顔を上げると、サハルさんのどこか楽しそうな顔が目に映る。
「あの……信じてくれるんですか?」
「だってお嬢ちゃん、さっき嘘ついていてごめんなさいって謝ったろ?
もう嘘をつく理由が考えられねぇからな。まだあるんなら今のうちに言えよ?」
「も、もうないです!」
慌てて答えた私を見てサハルさんが吹き出した。




