第60話 砂の道のはじまり
「それにしてもイエロードラゴンねぇ……。別名ケルブアの守護龍」
「え?守護龍なんですか!?」
ドラゴンが良い印象を持たれているなんて初耳だった。
思わずサハルさんに近づくと、彼が肩をすくめる。
「ああ。ケルブアの中心にある神殿で、民を見守ってくれてるって言われてるぜ。毎日司祭達が供物を捧げてるとかなんとか」
『黃は随分良い扱い受けてるんだな……』
『いいなー!羨ましい!』
ラディウス達の動きが激しくなった。
私は慌てて服の上から両手で押さえながら、顔に出さないように話を続ける。
「そ、そうなんですね」
「だが、どう近づく?神聖な場所だから簡単には立ち入りできねぇぞ?」
そこまで言われてふと考える。
ラディウスもアルゲオも住処は見張りなんていない山奥だった。
ドラゴンの住処が管理されているなんて初めてだった。
「お金払っても入れないんですか?」
「観光地じゃねぇんだぞ。関係者以外入れるとは思えねぇな」
サハルさんが苦笑した。
それからゆっくり立ち上がると私に背中を向ける。
「さて、こうなりゃのんびりしてられねぇ。
ここから神殿まで早くて5日はかかると思っときな。
それに途中の町にも寄るからな」
「はーい。よろしくお願いします」
ゼフィカにいるだけでも十分暑いけど、まだ我慢できる。
朗らかに答えた私を見て、サハルさんがほくそ笑んだ。
「途中で音を上げるなよ?」
サハルさんは町を出る前に露店で水袋を買い、私も言われるまま買った。
そのまま軽食も済ませて準備万端だ。
「さぁて、行くか。
少しでも体調悪くなったら言えよ。手遅れになっちゃ困るからな」
「はーい」
私は元気に返事をして、ゼフィカを後にした。
出発して10分ほど経った。
私達は陽射しを遮るものが全くない、辺り一面砂だらけのところを歩いていた。
ゼフィカとは比べ物にならないぐらい暑くて、一歩進む度に額から汗が流れる。
すっかり黙り込んでしまった私を見て、サハルさんが小さく笑った。
「おいおい、もう限界か?」
「いえ……暑いだけです……」
「そうかそうか。無理するなよー」
明らかにからかっているサハルさん。
そんな彼も顔に汗は浮かんでいるみたいだけど、全く疲れた様子ではない。
早くも経験の違いを見せつけられた。
『俺達も暑いんだが……』
『顔だけ出しちゃダメー?溶けそうなんだけど!』
すぐ前にサハルさんがいるので会話ができない。
だから私はポケットの上から軽く2人を撫でた。
『あー、無理だよなそうだよな。そもそも兄ちゃんが居るから話せねぇもんな』
『それはそれでツライな。我等も自由に動けないし……』
アルゲオがため息を吐いた。
その時、サハルさんが振り向いたので思わず肩が跳ねた。
「な、何か……?」
「いや……。こまめに水飲んどけよって言おうと思ったんだが……そんなに驚くか?」
「振り向かれると思ってなかったので。
ほら、サハルさん、カッコいいですし」
「お嬢ちゃんまでそれ言うかよ……」
さっき女性に囲まれていたことを思い出したのか、サハルさんが眉をしかめる。
『でも事実じゃねぇか』
『そうだそうだー!さっき女の人達にキャーキャー言われてたじゃん!我、しっかり聞いちゃったもんねー!』
まさかラディウス達にまで話題にされているとも知らず、サハルさんが乾いた笑いを漏らした。
「まぁ、俺も少しは自覚してるけどよ……。鬱陶しい以外の何物でもねぇんだが」
「そうなんですか?なんか勿体ないというか……」
旅をしながら商人をしているからだろうか。女性の扱いには慣れているみたいだったので、恋愛には積極的だと思っていた。
「そういうお嬢ちゃんはどうなんだよ?年齢的に仲のいい異性とか居るんじゃねぇのか?」
「うーん、どうでしょう……」
そう答えながら昔の記憶を呼び起こす。
家の付き合いで年の近い異性と過ごしたことはあるけど、恋愛まで発展しなかった。
そしてラディウス達と会ってからは、なおさらそういう機会は減ってしまっていた。
「居ないですね……」
「居ないのかよ!?そっちの方が意外だぜ……」
サハルさんはそう言うと私と並んで歩き始めた。
砂だらけなので先導する必要がないと判断したのだろう。
心強いけど、ラディウス達とは話せないので複雑な気分になった。
「そうなんですよね。私も驚いてはいるんですけど……」
「そもそもお嬢ちゃんは何者なんだ?今のところドラゴン好きってことしかわかってねぇんだが」
「あれ、話してませんでしたっけ?」
「聞いてねぇな」
とりあえず私は中流貴族であることと、改めてドラゴンに会うために旅をしていることを伝えた。
サハルさんはずっとオレンジ色の目を丸くして話を聞いていた。
「は、はぁ……。思ったより高貴な出自なんだな……お嬢ちゃん……」
「中流ですよ?真ん中ですよ?」
「それでも貴族ってことには変わりねぇんだよ。
へー、貴族ねぇ……」
サハルさんが意味深に言ったのを聞いて、またお金を要求されるのではないかと身構える。
「まだお金要ります?」
「要らねぇよ。既に貰ったしな。それに相手によって吹っかける金額が違うとかそんな真似しねぇよ、俺は」
『意外としっかりしてるよな、この兄ちゃん』
『我、心が貧しいとか言ったけど訂正しよ……』
私が背筋を伸ばしたのと同時に、ラディウス達は
サハルさんへの評価を変えたみたいだった。




