第57話 新たな装い
サハルさんは慣れた手つきで露天をたたむと、大きなバックパックに詰め込んで背負った。
私はその間に腕に抱えていた上着からラディウス達を出して、右手に持った。
上着を革袋に詰め終えたところで、サハルさんが私に向き直る。
「さぁ、お嬢ちゃんは何しに来たんだ?観光か?」
「そ、そうです。観光です……」
いきなり尋ねられて、つい言葉が詰まってしまった。
本当の目的はイエロードラゴンに会うこと。
だけど知り合ったばかりの、しかも胡散臭そうなサハルさんに言えるはずがない。
私の返事を聞いたサハルさんは訝しげに目を細くして、顔を近づけてくる。
「ふーん。まぁお嬢ちゃんがそう言うんなら……」
「本当ですよ!」
ヤケになって返すと、サハルさんはケラケラと笑った。
『コイツ性格悪いな……』
『ハーッハッハッ!!意外と侮れんなこの男!』
アルゲオはいつも通り豪快に笑っているけど、侮れないのは確かだと思う。
目的はまだ話したくないので、話題を変えることにした。
「ところでサハルさん、ここって服屋さんありますか?
汗だくになるって船長さんから聞いて……」
「ああ。ちょうど顔見知りが服屋やっててさ。
連れてってやろうか?」
「いいんで——」
言いかけて止まる。
もしかしたらまたお金を要求されるかもしれない。
私の様子をみていたサハルさんは不思議そうに首を傾げた。
「ん?なんで全部言わないんだ?」
「また「銅貨5枚な?」とか言いません?」
「おいおい、そこまで守銭奴じゃないぜ。
ちゃんと案内料に含まれてるから安心しな」
呆れたように肩をすくめるサハルさん。
そんな態度を取られても、初対面でお金を要求してきたんだから警戒されても仕方がないと思う。
「じゃあお願いします……」
「了解。
そうそう、もちろん服屋ではちゃんと取引してもらうからな」
「わかってます!」
サハルさんの後ろをついていくと、家が立ち並ぶ通りの1軒の扉を開けた。
「おーい、ジャミラ!」
サハルさんが呼びかけると、店の奥から薄い黒髪にピンク色の薄いレースを羽織った女性が姿を現す。
「あら、いらっしゃい。サハル。
珍しいわね」
「俺が買いに来たんじゃないぜ。
後ろのお嬢ちゃんだ。観光なんだとよ」
「まあ、そうだったの。
あなた、こちらにいらっしゃいな」
ふいに呼ばれて、おそるおそるジャミラさんに近づいた。
香水をつけているようで、ツンとした甘い香りが鼻をくすぐる。
『なんだ、この、甘ったるい匂いは……』
『えー!?果実みたいな匂い、我好き!』
ラディウス達も匂いの好みは分かれるみたいだ。
私はうっかり反応しないように注意して、ジャミラさんに挨拶をする。
「こ、こんにちは。
あの、私この大陸初めてで……」
「そうでしょうね。外出用のローブでいいかしら?」
「は、はい……。あ。できればローブの下に着る服もあると嬉しいです。
今着ている服を汗だくにしたくなくて……」
すでに汗が染み出してきている服の裾をつまみながら言う。
「わかったわ。いくつか持ってくるから、左側の更衣室に入って待っててちょうだい。あ、まだカーテンは開けてていいからね」
「わかりました」
ジャミラさんは微笑むとすぐに棚に向かった。
私はその間に更衣室に入って荷物とラディウス達を絨毯の上に置く。
するとジャミラさんがサハルさんに向かって叫んだ。
「ほら、女の子が着替えるんだから男は出てってなさい!」
『えっ!?これ我等も外出なきゃいけない!?』
『なワケあるか!そもそも俺達が動いたら大変なことになんだよ!』
「ラディウス達はできるなら目を閉じておいて。難しいなら下を向いてて」
『はーい』
小声で話しかけるとアルゲオが荷物の影で小さく飛び跳ねた。
「はいはい。じゃあ俺はこの付近をうろついてるから、
終わったら声かけてくれよ」
サハルさんは明らかに適当な返事をして、店を出ていってしまった。
ジャミラさんは片手にハンガーを数本持ったまま、腰に手を当ててため息をつく。
「まったくもう!デリカシーがないんだから」
「……サハルさんとジャミラさんって仲がいいんですね」
私がそう言うとジャミラさんが歩み寄ってくる。
「そうね。でもとっても仲良しってわけじゃないわ。
友達まではいかないけど、頼れる仲間って感じかしら。
とりあえずローブを3着持ってきたわよ。どれがいいかしら?」
見せてくれたのは、紺と白と黒の3色。
どれも長袖で思っていたより生地が分厚い。
「てっきり半袖かと思いました……」
「ゼフィカは海に近くて涼しいから、半袖や薄着でも大丈夫なの。
だけどあなたは観光でしょう?大陸の中の方まで行くのなら長袖必須よ」
「そうなんですか?」
「ええ。大陸の内側に行くほど暑くなるの。薄い生地だったら日差しが貫通しちゃうわ。
それに砂漠は昼よりも夜の方が危険なのよ」
次々と入ってくる新しい情報に、私は言葉を失った。
そんな私を見てジャミラさんは微笑ましそうに見つめてくる。
「驚いた?内側は町どころか植物も少ないの。
だから夜になると一気に気温が下がるのよ」
『何それ怖っ!!』
『まるで魔物みてぇだな』
「昼は暑くて夜は寒いってことですよね……」
ラディウス達の会話を耳に入れながら言うと、ジャミラさんは頷いた。
「そう。だから長袖必須なの。色は決まった?」
「うーん……」
顎に手を当てて悩む。
白はブラウア大陸で着たので、黒か紺がいい。
すると、私の心の中を読んだかのようにアルゲオが叫ぶ。
『我は黒が良いと思うぞ!カッコいいし!』
『俺はどっちでもいい……。早く決めてくれ』
紺は私の髪色に似ているし、アルゲオの意見を取り入れることにした。
「黒にしようと思います」
『わーい!我の意見取り入れてくれた!』
『思ったより早かったじゃねぇか』
「黒ね!良いと思うわ。じゃあ次は下の服ね」
『まだあったのかよ……』
ラディウスが大きなため息を吐く。
ジャミラさんは私に黒いローブを渡すと、再び売り場に戻っていった。




