第55話 ケルブア大陸へ
ブラウア大陸とケルブア大陸の中間に来た頃。
極寒の風が嘘のように、穏やかな温かい風が吹き始めた。
「暑い……」
私は素早く着ていた上着を脱いで、濃い緑色のドレス1枚になった。
額にじんわりと汗が浮かんでいた。
すると私の様子を見ていたのか、船の先にいたアルノー船長が近寄ってくる。モコモコした防寒具に身を包んでいたのに、もう半袖になっていた。
「そりゃあそんな防寒着じゃ暑いだろう。
ケルブアは砂漠地帯だからな!」
「砂漠……」
以前、家庭教師のロイヤーさんから教えてもらったことがある。
「世界にはいろいろな気候があります。年中寒い土地もあれば、砂が多い乾燥している土地、夜がない土地等もあるのですよ」と。
「じゃあ砂しかないんですか?」
「ガッハッハ!ちょっと違うな!
砂ばかりなのは確かだが、ちゃんと人が生活しているし、
水が湧いてるところもあるって話だぜ」
「そうなんですね」
人が生活していると聞いて少し安心した。
だけど船長さんはどこか怪訝そうに私の全身を眺めている。
「だが、その様子じゃまた着るもの揃えないといけないんじゃねぇのか?」
「これじゃダメですか?」
今着ているドレスの裾を軽く引っ張った。
防寒具と違って生地は薄いし、今も風が直接肌に当たっている。
だけど、私の言葉を聞いた船長さんは首をひねって唸った。
「うーん、生地は薄そうだがなぁ……。
まぁ、汗だくになっていいんならそれでもいいんじゃねぇか」
「汗だくは困るかも……」
気に入っている服なので、汗だくにはしたくない。
即答すると船長さんが豪快に笑った。
「ガッハッハ!なら、買い揃えなきゃな!
今向かってる街――ゼフィカは露天がたくさんあるからよ!」
「ゼフィカ……。なんかカッコいい名前ですね」
「おう、なんかカッコいいよな!
じゃあ俺は戻るから、お前さんはゆっくりしとけよ」
そう言って船長さんは持ち場に戻ってしまった。
「ゼフィカかぁ……。ちょっと楽しみだね」
腕に抱えた上着の左右のポケットに入っているラディウス達に声をかけたけど、反応はなかった。
やがて、黄色い大陸が見えてきた。
奥の方にうっすらと背の高い建物も見える。
なんとなく風を受けた私は思わず目を押さえた。
「痛いっ!?」
「はははっ。このあたりの風は砂が入ってるからな。
そのまま受けたら痛いぜ?」
近くにいた船員さんが笑いながら言う。
彼は透明の眼鏡のようなものを装着していた。
目に涙を溜めながら尋ねる。
「それ、何ですか?」
「ゴーグルっていうんだ。
この辺渡るなら必須アイテムだな。
悪いが俺達の分しかないから、お嬢ちゃんは風を受けないように気をつけなよ」
「もう遅いです……」
「悪い悪い!砂を取るタオルぐらいしか渡せねぇな、ほら」
船員さんはそう言って白い濡れタオルを差し出した。
前もって準備していたらしく、少し冷たい。
「ありがとうございます」
「船降りるときに返してくれたらいいからな」
船員さんは笑顔で言うと、どこかに行ってしまった。
早速タオルで目を軽く拭いてから、持っている上着のポケットを見る。
ラディウス達がさっきからピクリとも動かないからだ。
「二人共大丈夫?」
小声で話しかけると、数回ポケットが動いた。
『大丈夫、なわけ、ねぇだろ……』
『船、揺れすぎ……こわい……』
ラディウスはいつも通り不機嫌そうな声。
アルゲオは聞き取れるギリギリの小さな声。
二人共、船酔い。
「噓でしょ……」
思わずため息が出てしまった。
アルゲオなんて船に乗る前はあんなにはしゃいでいたのに、すっかり元気をなくしてしまっている。
「船降りたら休憩しようね」
私の言葉にポケットが1回だけ返事をするように動いた。




